単純性骨嚢腫（たんじゅんせいこつのうしゅ）

単純性骨嚢腫（たんじゅんせいこつのうしゅ）（Simple Bone Cyst, SBC）とは、骨の内部に液体がたまる嚢胞様の変化を引き起こす良性の病変です。

多くの場合、小児から青年期にかけて発症しますが、大人になってから見つかるケースもあります。

肩周辺の上腕骨や大腿骨周辺に生じやすく、骨の変形や骨折を引き起こす危険性があるため、早めに原因や症状を把握しておくことが重要です。

良性で生命を脅かす疾患ではなく、早期に対処すれば大きな後遺症を残さず改善すると考えられており、保存療法から手術療法までさまざまな治療方法があります。

単純性骨嚢腫の病型

単純性骨嚢腫（たんじゅんせいこつのうしゅ）は、成長板（成長線）との位置関係に基づき、活動性（active）と静止性（latent）に分類されます。

活動性（active）	・嚢腫が成長板から5mm未満の距離に位置 ・骨の成長と共に嚢腫も拡大しやすい ・骨が弱く骨折リスクが高い
静止性（latent）	・成長板から離れて骨幹部に位置 ・成長と共に嚢腫が骨幹部へと遠ざかり縮小・停止傾向を示すタイプ

単純性骨嚢腫の症状

単純性骨嚢腫（たんじゅんせいこつのうしゅ）は、骨の中に液体がたまっていても自覚症状を伴わないケースが少なくありません。

しかし、嚢胞が大きくなり骨の壁が薄くなると、痛みや不快感が生じやすくなります。

骨折を起こすリスクが上昇しているにもかかわらず、普段は痛みがほとんどないため、見落としやすい点に注意が必要です。

痛みの特徴と部位

上腕骨や大腿骨など、比較的大きな骨に発生しやすいため、動かしたときにうずくような痛みを感じる場合があります。

痛みは活動量が多いときに増す傾向があり、安静にしていると軽減します。

骨折リスクと症状

単純性骨嚢腫で最も警戒したいのが骨折です。骨内部がもろくなると、軽微な外傷や運動でも骨折するリスクが高まります。

骨折時には突然の強い痛みとともに腫れや変形が起こるため、すぐに整形外科を受診しましょう。

診察でX線やMRIなどの検査を行い、単純性骨嚢腫による病的骨折とわかるケースも珍しくありません。

症状が進行した場合の注意点

成長期に嚢胞が大きくなると、骨の変形や短縮、関節の可動域制限が生じる可能性があります。

成人後は骨の成長がほぼ止まるため、嚢胞が拡大しにくい一方、慢性的な痛みや骨粗鬆状態への移行が危惧される場合もあります。

どの年齢層でも、定期的な検査で経過をチェックすることが重要です。

単純性骨嚢腫の原因

単純性骨嚢腫（たんじゅんせいこつのうしゅ）の原因は完全には解明されていませんが、有力な仮説は静脈還流のうっ滞による骨内圧の上昇です。

血流障害

骨のある領域への血流が低下すると、局所の酸素分圧が低下し、骨組織の吸収がすすんで空洞が形成されると考えられています。

その部分で骨組織の形成が不完全となり、液体がたまって嚢胞化する可能性があります。

外傷による骨内部の損傷

骨折や打撲など、外部からの衝撃が原因で骨内部に空洞が生じるケースがあります。

その空洞に体液がたまって嚢胞化し、単純性骨嚢腫となる可能性があります。

ただし、明らかに大きな骨折を経験しなくても単純性骨嚢腫が見つかる場合もあり、外傷だけが直接の原因ではないとする見解が多数です。

成長期との関連性

単純性骨嚢腫の発症ピークは10～20歳前後であり、骨の急速な成長が影響していると考えられます。

骨端線付近で骨形成が活発に行われる時期に、局所的なトラブルが起こると嚢胞化する可能性があります。

単純性骨嚢腫の検査・チェック方法

単純性骨嚢腫（たんじゅんせいこつのうしゅ）を正確に診断するためには、画像検査を中心とした複数の方法を組み合わせる必要があります。

X線検査

X線検査では骨の状態を把握し、嚢胞の存在や大きさ、骨皮質の薄さなどを確認します。

単純性骨嚢腫は、骨の内部に透けたような空洞が映るのが特徴です。

病的骨折が起こっていれば、骨折線を視認しやすいほか、嚢腫内にみられるfallen fragment signが見られる場合もあります。

MRI検査

X線だけでは嚢胞内部の状態や周辺組織との境界が明確にわからない場合に、MRI検査を行います。

軟部組織や骨髄内の異常を見分けやすいため、腫瘍との鑑別や、血管・神経の侵襲がないかどうかの確認に適しています。

CTスキャン

X線で確認しにくい骨の細部や嚢胞の壁の状態を把握したいときは、CTスキャンが有用です。

CTスキャンは断層画像を重ねて立体的に構築するため、手術適応の判断や嚢胞の正確な位置確認など、より詳細なデータを得たい場合に行います。

病理検査（穿刺吸引や生検）

単純性骨嚢腫の確定診断や腫瘍との鑑別のために、病理検査を行うケースもあります。

病理検査とは、骨に穿刺針を入れて内部の液体や組織片を取り出し、顕微鏡で評価する検査です。

嚢胞内に黄褐色透明の液体が貯留し、内壁は線維性組織で覆われています。

壁内部には泡沫細胞、巨細胞などが見られるケースがありますが、上皮細胞による被覆はなく、明らかな腫瘍性細胞は認めません。

単純性骨嚢腫の治療方法と治療薬、リハビリテーション、治療期間

単純性骨嚢腫（たんじゅんせいこつのうしゅ）の治療方針は、患者の年齢、症状の有無、嚢胞の大きさ、骨折のリスクなどを考慮して決めます。

経過観察を主体とする治療から、手術療法を含む積極的な治療まで、幅広い選択肢があります。

治療目標は、病的骨折の予防と骨強度の回復です。

治療方法	適応例	内容	メリット・デメリット
経過観察	小さく症状がない場合	定期的な画像検査と診察	侵襲はないが骨折リスクがある場合は注意
穿刺・注入療法	中程度の大きさ、骨折リスク中等度	嚢胞内の液体を排出後、薬剤や骨移植材を注入	回復が早い反面、再発の可能性がある
外科的手術	骨折リスクが高い、大きな嚢胞	嚢胞の掻爬・骨移植・内固定など	確実性は高いが、体への負担は大きい
保存療法（装具など）	体力的に手術が難しいケースや軽症例	ギプスや装具で患部を固定	日常生活に制限が出るおそれがある

穿刺・注入療法

嚢胞内の液体を針で抜き、その空間に骨髄液や骨移植材、ステロイド剤などを注入する方法です。

骨移植材は、周辺の骨と馴染むことで嚢胞部位の骨再生を促します。

ステロイド剤は嚢胞内圧を下げる効果が期待されますが、再発を防ぎきれるわけではなく、経過観察が必要です。

穿刺・注入療法は入院せずに外来で行うのが一般的ですが、部位や嚢胞の大きさによっては短期間の入院が必要です。

外科的手術

嚢胞が大きく骨折リスクが高いと判断した場合や、実際に病的骨折が起こっている場合は手術を検討します。

手術時間は嚢胞の大きさや場所によって異なり、1～3時間程度で終わるケースが多いです。

術後は数日から1週間程度の入院で経過を観察し、骨が安定するまでの間は松葉杖や装具を使って患部への負荷を減らします。

リハビリテーション

術後翌日からは、患部を安定させた状態で軽度のリハビリテーションを行います。

その後、可動域訓練や筋力トレーニングにより、段階的に負荷を高めていきます。

無理に負荷をかけると骨移植材が定着しにくくなるため、医師や理学療法士の指導を受けながら段階的に進めることが重要です。

治療期間の目安

単純性骨嚢腫の治療期間は個人差が大きいですが、手術を行う場合は社会復帰・スポーツ復帰までに2～6か月ほどかかります。

リハビリ期間は手術内容や年齢、骨の回復力によって変わります。

若年層ほど骨の再生が早い傾向があり、2～3か月程度で日常生活に支障なく戻れるケースが多いです。

一方、成人で大きな手術をした場合や、骨折が重度だった場合は4～6か月以上のリハビリ期間を要する可能性もあります。

経過観察を選ぶ場合は、1～3か月ごとに通院して状態を確認します。

自然消失や治癒に至るまで数年かかるケースも珍しくないため、長期的なフォローアップが重要です。

薬の副作用や治療のデメリット

単純性骨嚢腫の治療では、ステロイドなどの薬剤を注入する場合や、手術で麻酔や抗生物質を使用する場合があり、副作用を伴う点に注意が必要です。

ステロイド注入の副作用

穿刺・注入療法で用いられるステロイド剤は局所的に嚢胞内に入れるため、全身的な副作用は比較的少ないものの、まれに周辺組織へ影響する場合があります。

手術のデメリットやリスク

外科的手術は、症状を根本的に改善でき反面、侵襲が大きく体への負担も増えます。

また、麻酔や感染症のリスクも考慮しなければなりません。

保存療法のデメリット

保存療法（ギプス固定や装具）を選択する場合、日常生活で制限が生じやすくなります。

また、長期的に固定を続けると、筋力の低下や関節の硬化が起こるおそれがあります。

保険適用と治療費

多くの場合、X線やMRI、CTなどの画像検査、手術、入院費用などは医療保険の適用範囲に含まれます。

入院中の食事療法やリハビリテーションも、保険適用となるケースがほとんどです。

ただし、個室に入院する場合や、先進医療を選択する場合などは、別途費用が発生する可能性があります。

治療費の目安

治療方法	保険適用	入院の有無	自己負担費用の目安（3割負担）
経過観察	適用	必要なし	診察料と検査料のみ：数千円～1万円/回
穿刺・注入療法	適用	場合によっては日帰りも可	1万～3万円
掻爬術+骨移植	適用	数日～1週間程度入院	5万～15万円
大規模手術	適用	2週間以上の入院	10万～30万円

高額療養費制度の活用

手術や長期入院で医療費が高額となった場合に活用できるのが、高額療養費制度です。

所得に応じた上限額を超えた医療費は、後日払い戻しを受けられるため、経済的負担が軽減される可能性があります。

また、事前に限度額適用認定証を取得しておくと、病院での窓口支払いを抑えられます。

以上

参考文献

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