ユーイング肉腫(Ewing sarcoma)とは、骨や軟部組織に発生する悪性腫瘍のひとつで、小児から若年成人に比較的多くみられる病気です。
白人に多く、アジア人やアフリカ人には少ない骨腫瘍になります。骨の周囲や髄腔内で腫瘍が増殖し、強い痛みや骨折などを起こす場合があります。
早期に専門的な医療機関で診断し、適切に治療を始めれば治療成績は向上する可能性があり、局所病変に限れば5年生存率は70~80%まで改善しています(転位がある場合の5年生存率は30%程度と低いです)。
治療には化学療法や放射線療法、手術療法などを組み合わせるケースが多く、長期の経過観察が必要です。
この記事の執筆者

臼井 大記(うすい だいき)
日本整形外科学会認定専門医
医療社団法人豊正会大垣中央病院 整形外科・麻酔科 担当医師
2009年に帝京大学医学部医学科卒業後、厚生中央病院に勤務。東京医大病院麻酔科に入局後、カンボジアSun International Clinicに従事し、ノースウェスタン大学にて学位取得(修士)。帰国後、岐阜大学附属病院、高山赤十字病院、岐阜総合医療センター、岐阜赤十字病院で整形外科医として勤務。2023年4月より大垣中央病院に入職、整形外科・麻酔科の担当医を務める。
ユーイング肉腫の病型
ユーイング肉腫は、ユーイング肉腫ファミリー腫瘍(ESFT)と総称されるグループに属します。
ESFTには骨から発生する古典的ユーイング肉腫のほか、骨外性ユーイング肉腫、胸壁原発のアスキン腫瘍、末梢性原始神経外胚葉性腫瘍(PNET)が含まれます。
これらは組織学的所見や免疫学的特徴が類似し、同一の特徴的融合遺伝子を共有するため同じ病態の腫瘍と考えられ、治療戦略もほぼ同じです。
臨床的には病期(初発時に腫瘍が原発部位に限局しているか、遠隔転移があるか)によって「局所型」と「転移型」に大きく分類し、治療戦略や予後の指標となります。
骨原発型|古典的ユーイング肉腫(Ewing sarcoma)
最も典型的なタイプ。四肢長管骨(大腿骨や上腕骨など)だけではなく、骨盤、肋骨などさまざまな骨で発生します。
骨外原発型|(Extraosseous Ewing sarcoma)
筋肉や脂肪、結合組織など軟部組織を原発巣とするユーイング肉腫です。
胸壁原発型|アスキン腫瘍(Askin tumor)
胸壁原発(肋骨・胸膜・肺門付近)に生じたユーイング肉腫を特に「アスキン腫瘍(Askin tumor)」と呼びます。
神経分化を示す小円形細胞腫瘍|末梢性PNET(pPNET)
神経外胚葉由来の腫瘍で、組織学的にはユーイング肉腫と非常に類似します。
ユーイング肉腫との違いは、光学顕微鏡レベルで若干神経分化を示唆するロゼット構造(Homer Wright rosettes など)がみられる場合がある点です。
ユーイング肉腫の症状
ユーイング肉腫の症状は、主に腫瘍の発生部位や大きさ、進行度によって変わります。
骨の内部に腫瘍がある場合と軟部組織に存在する場合では、痛みの感じ方や腫れ方が異なります。
初期症状の特徴
初期段階の症状は曖昧な場合もあり、整形外科的な病気と間違えられるケースも少なくありません。しかし、安静時でも持続する痛みや患部の軽い腫れなどが特徴がみられたら注意が必要です。
- 夜間や安静時でも持続する痛み
- 患部の軽い腫れや発赤
- 原因不明の発熱や倦怠感
- 持続的な疲労感や体重減少
痛みが夜中に強まる場合や、鎮痛薬を用いても改善しにくいときは、病院での検査が重要です。
痛みは断続的で「成長痛」やスポーツによる怪我と誤診される例も珍しくありません。
痛みの性質
痛みの特徴 | 意味合い |
---|---|
夜間痛 | 腫瘍の進行や骨膜刺激を示唆 |
持続痛 | 慢性的な炎症または腫瘍による圧迫を示唆 |
動作時の鋭い痛み | 関節や骨への負荷で腫瘍への刺激となる |
初期症状を軽視して放置すると、腫瘍が大きくなる過程で神経や血管への圧迫症状が出る可能性があります。早めの受診が症状の悪化を防ぐうえで重要です。
進行期の症状
ユーイング肉腫が進行すると腫瘍の大きさや周辺組織への浸潤が顕著になり、腫脹(腫れ)や変形などの症状が現れる人が多いです。
- 患部の腫脹や変形
- 骨の場合、骨折リスクの上昇
- 軟部組織の場合、神経や血管、筋肉への浸潤による運動障害
- 強い痛みに加えて日常生活動作の制限
進行期では症状が急速に悪化する場合があります。痛み止めだけでは対応が難しくなるケースもあり、治療介入が必要です。
進行期にみられる症状
進行期症状 | 詳細 | 対応策 |
---|---|---|
腫脹 | 目に見える腫れ、熱感 | 冷却療法、患部の安静 |
骨折 | 病的骨折(脆くなる) | ギプスや固定、手術療法の検討 |
神経圧迫 | しびれ、麻痺、筋力低下 | 神経症状を緩和する治療やリハビリ |
出血リスク | 腫瘍の壊死や潰瘍化による出血 | 薬剤コントロール、出血部位の止血処置 |
全身症状
ユーイング肉腫は悪性度の高い腫瘍で、全身症状を引き起こすときがあります。
化学療法を始める前や、転移がある場合には発熱や倦怠感、体重減少といった症状がとくに見られやすくなります。
- 長期にわたる微熱や高熱
- 倦怠感や食欲不振
- 体重減少
- 肝機能や腎機能の異常
がん特有の全身的な悪液質(体力低下など)を呈する場合もあり、症状管理と栄養状態の維持が重要です。
小児・若年者特有の症状
ユーイング肉腫は小児や10~20代の若年層に好発するため、成長痛やスポーツによる故障と紛らわしいケースがあります。
しかし、長期間にわたり続く痛みや発熱などのポイントに注目すると、早期発見につながる可能性があります。
- 成長痛にしては痛みが長期にわたり強く、夜間に増す
- 1週間以上の安静でも痛みが改善しない
- 痛みだけでなく発熱や倦怠感も伴う
小児や若年者の場合、本人が症状を言い出しにくいときもあるため、保護者や学校関係者の気づきが大切です。
ユーイング肉腫の原因
ユーイング肉腫の正確な原因はまだはっきり解明されていません。
しかし、遺伝子変異や環境要因、体質など複合的な要因が関係していると考える専門家もいます。
遺伝子の変化と融合遺伝子
ユーイング肉腫の多くで、EWSR1遺伝子と他の遺伝子(FLI1など)が融合する異常が見つかります。
これを融合遺伝子と呼び、腫瘍の悪性化に深く関与するとされています。
多くの専門家が、この融合遺伝子を診断の重要な手がかりとして扱っています。
- EWSR1-FLI1融合遺伝子が代表例
- 腫瘍細胞の増殖や浸潤を促す
- 特殊な分子標的療法の開発が研究中
- 骨や軟部組織に強い影響を及ぼす
融合遺伝子の有無を調べるために病理検査や遺伝子検査を行い、ユーイング肉腫の診断と治療方針の決定に役立てています。
放射線や化学物質との関連
白血病やほかの骨腫瘍と同様、放射線暴露や化学物質との関連を指摘する意見もあります。
しかし、ユーイング肉腫においては放射線被ばく歴が直接的に原因となるかどうかははっきり確立されていません。
生活環境での化学物質への暴露が発症に寄与する可能性も完全に否定されてはいないため、長期的な研究や症例検証が進められています。
遺伝的素因と家族歴
ユーイング肉腫の家族内発症例は非常にまれで、家族歴よりも偶発的な遺伝子異常が多いと考えられています。
若年者が発症する確率が相対的に高いため、成長過程における遺伝子変異や免疫系の未成熟状態なども関与していると考えられています。
明確な予防策は確立されていませんが、日頃の健康管理や定期検診などを心がけると、早期に異変を見つけるきっかけを得やすくなります。
ユーイング肉腫の検査・チェック方法
ユーイング肉腫の診断や病期の把握には多角的な検査が必要です。
単純レントゲンから始まり、MRIやCT、PET-CTなどの画像検査、さらには骨髄検査や病理検査を行います。
画像検査の役割
ユーイング肉腫は骨や軟部に腫瘍を形成するため、画像検査が極めて有用です。
複数の画像検査を組み合わせて、腫瘍の範囲や浸潤度、転移の有無などを評価します。
画像検査の特徴と目的
検査名 | 特徴 | 目的 |
---|---|---|
レントゲン | 骨の構造や骨膜反応を簡易的に把握 | ユーイング肉腫が疑われる初期スクリーニング |
CT | 骨破壊や臓器転移を断層画像で詳細に評価 | 手術範囲の検討、術前計画 |
MRI | 軟部や髄腔への広がり、神経・血管との関係を明確に可視化 | 手術や放射線照射範囲の決定 |
PET-CT | 腫瘍の代謝活性を見るので、転移や再発の評価に有用 | 全身スクリーニングと病期評価 |
複数の画像検査を組み合わせると、より正確に腫瘍の位置や広がりを把握できます。検査結果を元に治療方針を決めるため、画像診断が重要です。
病理検査・生検の重要性
検査 | 方法 |
---|---|
針生検 | 患部に細い針を刺して組織を採取する |
切開生検 | 小さく切開して組織の一部を切り取る |
迅速病理検査 | 手術中に断片組織を調べて確定診断につなげる |
画像検査だけではユーイング肉腫なのか、ほかの骨肉腫なのかを確定できない場合が多いです。
そこで腫瘍の一部を採取し、顕微鏡や遺伝子検査で確認する病理検査が決定的な役割を果たします。
- 腫瘍細胞の形態や特徴
- ユーイング肉腫特有の融合遺伝子の有無
- 悪性度合い(核分裂像など)
- 化学療法の反応性の予測
専門の病理医が細胞の特徴を評価し、医師が最終的な治療方針を決めていきます。
病理検査は組織を直接見るため、診断精度を高める鍵となります。
得られた組織を光学顕微鏡で観察するとともに、免疫組織化学染色(CD99陽性など)や融合遺伝子の有無を確認する分子遺伝学的検査を行います。
骨髄検査
ユーイング肉腫では、骨髄への転移が問題になる場合があります。全身的に広がるリスクがあると判断したときには骨髄検査を実施し、骨髄内に腫瘍細胞が存在しないかを確認します。
- 骨盤の腸骨などから骨髄を吸引して検査
- 造血細胞以外に腫瘍細胞が混在していないか観察
- 必要に応じて免疫染色や遺伝子解析を行う
骨髄への転移を認めた場合には治療戦略を再検討し、より強力な化学療法や造血幹細胞移植などを視野に入れる可能性があります。
血液検査や腫瘍マーカー
ユーイング肉腫には特異的な腫瘍マーカーが確立されていないのが実情です。
しかし、血液検査で炎症反応や腎・肝機能などのチェックは、患者さんの全身状態や治療効果の観察として有用です。
- CRPや白血球数の増加
- 貧血の有無
- LDH(乳酸脱水素酵素)の上昇(予後不良因子)
- 肝機能・腎機能障害の有無
血液検査で確認する主な項目
項目 | 意義 |
---|---|
CRP | 炎症反応の指標 |
WBC(白血球) | 感染症や免疫状態の把握 |
LDH | 細胞破壊や腫瘍負荷の目安 |
HGB(ヘモグロビン) | 貧血の有無、全身状態を推定 |
ALB(アルブミン) | 栄養状態の評価 |
血液検査の結果はあくまで参考指標ですが、治療中の副作用や感染症リスクを把握するうえで重要です。
ユーイング肉腫の治療方法と治療薬、リハビリテーション、治療期間
ユーイング肉腫は化学療法・手術・放射線療法などを組み合わせる集学的治療が重要です。
化学療法(抗がん剤治療)
タイミング | 目的 |
---|---|
術前化学療法 | 手術前に腫瘍を縮小して切除しやすくする |
術後化学療法 | 残存腫瘍や微小転移を抑制する |
転移がある場合 | 全身化学療法を強化して病巣コントロールを狙う |
ユーイング肉腫は化学療法に比較的反応しやすいがんといわれ、手術や放射線療法と組み合わせて相乗効果を狙います。
主要な薬剤としてドキソルビシン、ビンクリスチン、シクロホスファミドの3剤と、イホスファミド、エトポシドの2剤を交互に投与するVDC/IE療法を行います。
よく用いられる抗がん剤
薬剤名 | 作用機序 | 副作用 |
---|---|---|
ドキソルビシン | DNA合成阻害 | 心毒性、脱毛、骨髄抑制 |
ビンクリスチン | 細胞分裂阻害 | 神経障害、便秘 |
シクロホスファミド | DNA合成阻害 | 膀胱炎、骨髄抑制、脱毛 |
イホスファミド | DNA合成阻害 | 膀胱障害、骨髄抑制、嘔吐 |
エトポシド | トポイソメラーゼ阻害 | 骨髄抑制、脱毛、消化器症状 |
化学療法を行うサイクルは患者さんの全身状態や治療反応に応じて変更します。入院して点滴で行う場合や、外来通院で実施する場合もあります。
手術療法
手術は腫瘍を直接切除して根治を目指す治療手段です。切除範囲や再建法は腫瘍の位置や大きさ、骨や筋肉への浸潤程度によって決定します。
- 骨の切除と再建は、金属インプラントや自家骨移植を用いる
- 軟部腫瘍の切除は、周辺組織を含めて安全域を確保する
- 病変部位によっては機能温存が難しい場合もある
手術で可能な限り腫瘍を除去し(広範切除)、術後に再発リスクを低減するために化学療法や放射線療法を組み合わせるケースがあります。
手術技術の進歩により患肢の切断は以前より減少し、人工関節や自家骨移植を用いた患肢温存手術が多く行われるようになってきていますが、最終的な手術計画は医師が術前検査や腫瘍専門医との相談を踏まえて判断します。
放射線療法
ユーイング肉腫は放射線感受性があるため、局所制御を目的として放射線療法を併用するケースがあります。
骨盤などの切除が難しい部位や脊椎に近接する腫瘍などに対しては放射線を活用して腫瘍を縮小・消滅を狙います。
ただし、若年者の場合は骨の成長阻害などが起こるリスクもあり、慎重に適用を検討します。
放射線療法のメリット・デメリット
メリット | デメリット |
---|---|
切除不能や高リスク部位の腫瘍にもアプローチできる | 成長期の骨や軟部組織の発育に影響が出る可能性 |
局所再発を抑える効果が期待できる | 皮膚や周辺臓器への放射線障害 |
放射線科医や整形外科医と相談して、照射範囲や線量を決めながら実施します。
リハビリテーション
ユーイング肉腫の治療では骨や筋肉へのダメージが大きく、長期にわたってリハビリが必要になります。
- 術後の早期離床で廃用性萎縮を防ぐ
- ストレッチやマッサージで可動域を維持
- ウォーキングやプールでの有酸素運動で体力を回復
- 補装具や装具を活用して社会復帰を目指す
大腿骨や骨盤、脊椎など体の要となる部位を手術した場合はとくに、歩行訓練やバランス訓練、筋力強化などを計画的に行う必要があります。
リハビリ内容
リハビリ項目 | 内容 | 期待する効果 |
---|---|---|
可動域訓練 | 関節周りのストレッチ、関節ほぐし | 関節の固さを予防し、動きをなめらかにする |
筋力トレーニング | 自重やゴムバンドなどを使った筋力増強運動 | 筋力回復による姿勢改善や歩行安定 |
有酸素運動 | 早期からの歩行練習、プール歩行 | 体力維持・向上、血行促進 |
日常動作トレーニング | 着替えや階段昇降などの動作練習 | 生活の質(QOL)の向上 |
専門のリハビリスタッフと医師が連携し、個々の患者さんに適したリハビリ計画を立案します。
治療期間の目安
ユーイング肉腫の治療期間は、病期や腫瘍の大きさ、転移の有無などによって大きく左右されます。
治療法 | 期間の目安 |
---|---|
術前化学療法 | 数か月 |
手術 | 入院期間は約2~4週間程度が多い |
術後化学療法 | 数か月~1年程度 |
放射線療法 | 数週間~数か月の照射計画 |
リハビリ | 手術後から1年以上継続する場合あり |
治療の初期段階からリハビリを並行して行う例も多く、総合的に見ると治療開始から社会復帰まで1年以上を要するケースが一般的です。
薬の副作用や治療のデメリット
ユーイング肉腫で用いる化学療法や放射線療法、手術にはメリットがある一方で副作用やデメリットも存在します。
治療効果を高めるためには、リスクとメリットを十分に把握したうえで治療方針を立てることが大切です。
化学療法の副作用
副作用 | 特徴 |
---|---|
骨髄抑制 | 白血球や血小板、赤血球が減少し、感染症リスクや貧血、出血傾向が高まる |
消化器症状 | 悪心・嘔吐、食欲低下、下痢 |
脱毛 | 毛根へのダメージが原因 |
神経障害 | 痺れや筋力低下 |
化学療法薬は腫瘍細胞だけでなく、正常細胞にも影響を及ぼす場合があります。骨髄や消化管、毛根など分裂が盛んな組織がとくに影響を受けやすいです。
化学療法の副作用を軽減する工夫
副作用が出た場合でも対策を講じれば軽減が期待できます。主治医や看護師に遠慮なく相談しましょう。
工夫 | 具体的な方法 |
---|---|
制吐剤の使用 | 吐き気止めを併用してQOLを向上させる |
感染症対策 | マスク着用、手洗い・うがい、必要な場合の隔離など |
栄養サポート | 管理栄養士が食事内容をアドバイス |
休息とストレスケア | 十分な睡眠、心理的サポート |
放射線療法のデメリット
放射線療法は局所の腫瘍制御には効果がありますが、周辺組織への影響が避けられない場合があります。
デメリット | 説明 |
---|---|
皮膚障害 | 赤みやかゆみ、潰瘍化 |
骨成長障害 | 成長期の子どもでは骨や軟骨に影響が出る |
臓器障害 | 照射範囲に肺や腸、心臓などが含まれる場合 |
二次がんリスク | 長期的にみると、放射線照射部位に別のがんが発生する可能性が増えるという指摘もある |
照射範囲や線量を慎重に設定し、副作用を最小限に抑えるよう対処します。
手術のリスクと後遺症
- 機能温存手術でも運動制限が残る場合がある
- 広範囲切除では患部の大きな変形や欠損が起こる
- 義肢や補装具が必要になるケースもある
手術は直接腫瘍を除去するために有効ですが、機能的なデメリットが伴う場合があります。
例えば骨盤を大きく切除した場合は、歩行能力や排尿・排便機能に影響が出る可能性があります。また、手術創部の感染や出血、再発などのリスクも存在します。
手術前後で検討するデメリット
リスク・後遺症 | 内容 |
---|---|
感染・出血のリスク | 手術操作や切除面が広いほど増す |
骨や筋肉の欠損 | 再建手術や補装具の使用が必要 |
神経損傷 | しびれや麻痺、感覚障害が続く可能性 |
回復までの長期リハビリ | 筋力や可動域を取り戻すために時間が必要 |
手術のメリットと後遺症・リスクをしっかり理解したうえで、患者さん自身や家族が納得できる治療方針を選ぶのが重要です。
心理的負担と社会生活への影響
病気そのものだけでなく、治療期間が長くなるため学業や仕事への影響が大きくなる場合があります。
体力面だけでなく、経済面や家族関係にも負担が及ぶ点を考慮し、適切なサポート体制を整える必要があります。
- 学校や職場との連携
- 心理カウンセラーやソーシャルワーカーとの相談
- 医療費助成制度の利用
不安やストレスを抱えすぎると治療への意欲が低下し、生活の質も下がります。周囲の理解と支援を得ながら取り組むと、治療と社会生活の両立を図れます。
保険適用と治療費
以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。
ユーイング肉腫の治療は長期戦になりやすく、多くの検査や化学療法、手術や放射線療法、リハビリなどが必要です。
治療費は高額になりやすいため、保険の仕組みや公的支援制度を確認しておくと良いでしょう。
健康保険の適用範囲
健康保険によって、診察や検査、手術や入院などにかかる費用が一定の割合で負担軽減できます。通常は医療費の3割負担ですが、年齢や所得によってさらに負担割合が軽減できる制度があります。
また、未成年の場合や低所得者世帯の場合には1割または2割負担になるケースがあります。
- 検査費用(レントゲン、CT、MRI、血液検査など)
- 化学療法薬や点滴の費用
- 放射線治療費
- 手術費用と入院費用
- リハビリテーション費用
治療に使用する薬剤や装具によっては保険が適用されないものもあるため、主治医や医療機関の事務担当者に相談してください。
公的支援制度
高額療養費制度や小児慢性特定疾患、障害福祉サービスなど、病気や年齢、収入に応じて利用できる支援制度があります。
ユーイング肉腫のように長期治療を要する病気では、公的支援制度を活用すると家計の負担を軽減できます。
制度名 | 対象者 | 内容 |
---|---|---|
高額療養費制度 | 健康保険加入者全員 | 月々の医療費が自己負担限度額を超えた場合の補助 |
小児慢性特定疾患 | 18歳未満の児童で指定疾患 | 医療費助成、医療用品費の給付 |
医療費控除 | 所得税納税者で医療費負担が大きい人 | 所得税の軽減が期待できる |
公的制度の利用可否や手続き方法は住んでいる自治体や医療機関で異なりますので、詳しくはソーシャルワーカーなどに相談するとよいでしょう。
実際の治療費の目安
ユーイング肉腫の治療費は患者さんの病期や治療内容によって異なりますが、保険適用後でも入院や手術、化学療法を複数サイクル行うと、高額になる傾向があります。
例えば、化学療法を数か月にわたって行い、その間に手術と入院を数週間行うケースでは、保険適用後でもトータルで数十万円から100万円前後の自己負担が生じる可能性があります。
さらに、複数回の手術や長期入院、放射線療法を組み合わせると数百万円規模になる場合もあり、高額療養費制度や各種助成制度を活用しないと家計に大きな負担がかかります。
- 化学療法のサイクル(薬剤費・点滴費など)で1サイクルあたり数万円~数十万円程度の自己負担
- 手術費用(インプラント使用や再建術などを含む)で数十万円~100万円程度の自己負担
- 入院費用(ベッド代、食事代など)で1日あたり数千円~1万円前後
- 放射線療法(照射数や範囲により異なる)で数万円~数十万円程度の自己負担
治療費はかなり幅がありますが、主治医や病院の医療相談窓口、ソーシャルワーカーと相談しながら、保険や助成制度を最大限に利用すると良いでしょう。
治療費支払いの工夫と家族のサポート
長期にわたる治療費の支払いは患者さんや家族にとって大きな課題ですが、支援や工夫を活用すると、負担軽減につながります。
工夫 | 特徴 |
---|---|
分割払いの相談 | 医療機関や自治体によっては分割払いを認めている場合がある |
傷病手当金の活用 | 会社員の場合、就業が困難になったときに支給される制度 |
民間保険の確認 | がん保険や入院保険などをすでに契約している場合は、給付金の対象にならないか確認 |
治療は医師や看護師だけでなく、家族や地域社会と協力して取り組むものです。
経済的な問題や生活上の不安も含め、包括的にサポートできる体制を整えることが必要となります。
以上
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