腎臓提供(ドナー)のリスクとは?手術や提供後の健康について

腎臓提供(ドナー)のリスクとは?手術や提供後の健康について

腎臓の機能が低下した方へ、ご自身の腎臓の一つを提供する生体腎移植は、多くの患者さんの希望となる医療です。もし、大切な家族やパートナーのために腎臓提供(ドナー)を考えているのであれば、その決断は非常に尊いものです。

しかし同時に、ご自身の体への影響や手術のリスク、提供後の生活について、多くの疑問や不安を感じることでしょう。腎臓を提供するという大きな決断を下す前に、その全体像を正しく理解し、ご自身が納得することが何よりも重要です。

この記事では、腎臓提供に伴う医学的なリスク、手術の流れ、提供後の長期的な健康管理について、解説していきます。

目次

腎臓提供(ドナー)とは?基本的な知識

腎臓提供を考える第一歩として、まずは生体腎移植の基本的な仕組みや、どのような人がドナーになれるのかを知ることから始まります。ドナー候補者自身の純粋な意思が、すべての前提となる大切な事柄です。

生体腎移植の概要

生体腎移植は、末期腎不全の患者さんに対して、健康な方(ドナー)から提供された腎臓の一つを移植する治療法です。

人の腎臓は左右に一つずつ、合計二つありますが、一つでも正常に機能していれば、健康を維持することに支障はほとんどなく、この医学的な事実に基づいて、生体腎移植は成り立っています。

提供された腎臓がレシピエント(移植を受ける方)の体内で機能し始めると、透析治療から離脱し、食事制限の緩和や体調の改善など、生活の質(QOL)が大きく向上する可能性があります。

ドナーからレシピエントへ、命をつなぐ医療です。

ドナーになれる人(親族・非親族)

かつては、腎臓提供は親子や兄弟姉妹といった血縁の近い親族間に限られていましたが、医学の進歩により、現在では配偶者間での提供も広く行われています。

さらに、ABO血液型が異なっていても、特別な処置を行うことで移植が可能になりました。法律や倫理指針では、ドナーは原則として親族(6親等以内の血族、3親等以内の姻族)と定められています。

友人や知人など、親族以外からの提供は、非常に厳格な倫理的審査を経て、純粋な善意からの提供であることが確認された場合に限り、例外的に認められることがあります。いずれの場合も、ドナー自身の健康が最優先されることが大原則です。

ドナーの対象範囲

対象者具体例備考
親族(血族)両親、子、兄弟姉妹、祖父母、叔父・叔母、いとこ など6親等以内が原則です。
親族(姻族)配偶者、配偶者の両親・兄弟姉妹 など3親等以内が原則です。
非親族友人、知人 など非常にまれで、厳格な審査が必要です。

ドナーの自発的な意思の確認

腎臓提供において最も重要視されるのが、ドナー自身の自発的で固い意思です。誰かに強制されたり、精神的なプレッシャーを感じていたりする状態での提供は、決してあってはなりません。

医療機関では、精神科医や臨床心理士、医療ソーシャルワーカーなど、多くの専門家がドナー候補者と面談し、意思が本当に本人の自由なものであるかを確認します。

レシピエントを助けたいという気持ちは尊いものですが、同時にご自身の人生や体について考え、納得した上で最終的な判断をすることが大切です。

  • 純粋な提供意思
  • 精神的な安定
  • 提供内容の十分な理解
  • 周囲からの強制がないこと
  • 見返りを求めていないこと

腎臓提供(ドナー)になるための条件と検査

ドナーになるためには、ご自身の健康状態が良好であることが絶対条件です。

レシピエントを救うために、ドナーが健康を損なうことがあっては本末転倒なので、手術の前に心身の両面にわたる厳格な検査を行い、ドナーとしての適格性を慎重に判断します。

医学的な適応基準

ドナーになるための医学的な条件は、提供後のドナーの安全を確保するために細かく定められています。一般的に、年齢は20歳以上70歳以下程度が目安とされますが、健康状態によってはこの限りではありません。

悪性腫瘍(がん)や活動性のある感染症、自分自身の腎機能の低下、コントロールが難しい糖尿病や高血圧などがある場合は、原則としてドナーになることはできません。

また、肥満は手術のリスクを高めるため、適正な体重管理が必要で、基準はドナーの体を守るためのものです。

ドナーの主な医学的条件

項目一般的な基準
年齢20歳以上70歳前後
腎機能正常範囲内であること
健康状態悪性腫瘍、重い心臓病、活動性の感染症がないこと
血糖・血圧糖尿病や高血圧がコントロールされている、またはないこと

精神的な評価の重要性

身体的な健康と同様に、精神的な健康状態もドナーの重要な条件です。腎臓提供は、ドナーの心にも大きな影響を与える可能性があります。

手術への不安、提供後のレシピエントの経過に対する責任感、ご自身の体調の変化への戸惑いなど、様々な心理的ストレスに直面することも考えられます。

精神科医や臨床心理士との面談を通じて、ドナー候補者が精神的に安定しているか、提供の意思決定の背景に心理的な問題が隠れていないかなどを丁寧に評価します。

これは、ドナーが後悔することなく、提供後の人生を健やかに歩んでいくために大事な支援です。

具体的な検査内容とスケジュール

ドナーとしての適格性を調べるためには、多岐にわたる検査を段階的に行い、最初は外来での血液検査や尿検査から始まり、問題がなければ心電図、胸部X線、腹部超音波検査など、より詳しい検査へと進みます。

特に腎臓の形や機能、血管の走行を正確に把握するための腹部CT検査は重要です。検査は、ドナーの安全を確保すると同時に、移植手術の成功率を高めるためにも役立ちます。

すべての検査には数週間から数ヶ月を要することが一般的で、その間、医師やコーディネーターから何度も説明を受け、疑問点を解消する機会を持ちます。

腎臓ドナーの術前検査項目例

検査の種類主な目的
血液・尿検査腎機能、肝機能、感染症の有無、貧血などを調べます。
画像検査(CT・超音波)腎臓の形、大きさ、血管の位置などを詳細に確認します。
循環器系検査(心電図など)手術に耐えられる心臓の機能があるかを評価します。

腎臓提供手術の流れと入院期間

すべての検査を終え、最終的にドナーとなることが決まると、次はいよいよ手術に向けた準備が始まります。手術がどのように行われ、どれくらいの期間入院が必要になるのか、流れを知ることで、安心して手術に臨むことができます。

手術前の準備

手術の数日前から入院し、最終的な健康状態のチェックや麻酔科医からの説明などを受け、この時期は、心身ともにリラックスして過ごすことが大切です。

手術前には、感染症予防のために禁煙をしたり、服用中の薬があれば医師の指示に従って調整したりする必要があります。血液を固まりにくくする薬などを飲んでいる場合は、事前の申し出が重要です。

手術前夜は指定された時間以降の飲食ができなくなり、当日は万全の体調で手術室に向かいます。

  • 禁煙・禁酒
  • 常用薬の調整
  • 十分な睡眠
  • 感染予防

手術方法の種類(腹腔鏡下手術・開腹手術)

腎臓を摘出する手術には、主に腹腔鏡下手術(ふくくうきょうかしゅじゅつ)と開腹手術の二つの方法があり、現在、多くの施設で標準的に行われているのは、体への負担が少ない腹腔鏡下手術です。

この方法は、お腹に数ヶ所小さな穴を開け、そこからカメラや手術器具を挿入して腎臓を摘出します。傷が小さく、術後の痛みが軽度で、回復が早いのが大きな利点です。

血管の走行が複雑な場合や癒着が予想される場合には、安全性を最優先し、お腹を直接切開する開腹手術を選択することもあります。どちらの方法を選択するかは、ドナーの体の状態を総合的に判断して決定します。

腹腔鏡下手術と開腹手術の比較

項目腹腔鏡下手術開腹手術
傷の大きさ小さい(数ヶ所)大きい(1ヶ所)
術後の痛み比較的少ない比較的大きい
回復までの期間短い長い

標準的な入院期間と退院までの道のり

腹腔鏡下手術の場合、手術後の入院期間は、おおむね7日から10日程度が一般的です。手術翌日には、ベッドから起き上がって歩く練習を始めるのですが、早期に体を動かすことは、合併症の予防や回復の促進につながります。

食事も、腸の動きが戻り次第、水分から始まり、徐々に通常の食事へと戻していきます。入院中は、痛み止めを使いながら、無理のない範囲で活動量を増やしていき、傷の状態や体調に問題がなければ、医師の許可を得て退院となります。

退院後すぐに手術前と同じ生活に戻れるわけではなく、自宅での療養期間も必要です。社会復帰までの期間は、仕事の内容にもよりますが、デスクワークなら術後3〜4週間、肉体労働なら6〜8週間程度が目安です。

手術に伴う短期的なリスクと合併症

腎臓提供の手術は安全性が高いものですが、リスクがゼロではありません。手術直後から退院後にかけて起こりうる体の変化や合併症について、あらかじめ知っておくことは、万が一の際に落ち着いて対処するために役立ちます。

一般的な外科手術としてのリスク

全身麻酔をかけて行う手術には、共通の合併症が起こる可能性があり、手術による出血が予想より多くなることや、手術した傷口から細菌が入って感染を起こすことなどです。

また、長時間同じ体勢でいることによって、足の静脈に血の塊(血栓)ができ、それが肺に飛んで肺塞栓症という重篤な状態を引き起こす可能性もごくまれにあります。

肺塞栓症を防ぐために、術後は弾性ストッキングを着用したり、早期に歩行訓練を開始したりします。リスクはどの外科手術にも伴うものですが、発生頻度は非常に低いです。

腎臓摘出術特有の合併症

腎臓を摘出する手術に特有の合併症としては、腎臓の周囲にある他の臓器(腸、脾臓、膵臓など)を傷つけてしまう可能性が挙げられ、左側の腎臓を摘出する場合、脾臓を傷つけるリスクがわずかに高まります。

また、手術後に腸の動きが一時的に麻痺する腸閉塞(イレウス)を起こしたり、傷口の下にリンパ液が溜まったりすることもあります。

合併症の多くは、適切な処置によって回復し、手術を担当する医師は、これらのリスクを熟知しており、細心の注意を払って手術を行います。

手術の短期的な合併症の例

合併症の種類主な症状
出血貧血、血圧低下
創部感染発熱、傷口の赤みや腫れ、痛み
腸閉塞腹痛、嘔吐、お腹の張り

痛みや術後の回復について

手術後、最も気になることの一つが痛みでしょう。腹腔鏡下手術は傷が小さいため、開腹手術に比べて痛みは軽い傾向にあります。術後は、痛みを和らげるための鎮痛剤を点滴や内服で適切に使用し、できるだけ快適に過ごせるようにします。

痛みは回復とともに徐々に和らいでいきますが、数週間から数ヶ月程度、傷口の違和感やつっぱり感が続くこともあります。回復のスピードには個人差があるため、焦らず、ご自身のペースで体力を戻していくことが大切です。

退院直後は疲れやすさを感じることも多いため、十分な休息を取るように心がけてください。

腎臓提供後の長期的な健康への影響

ドナーの方が最も心配されるのは、腎臓が一つになった後のご自身の将来の健康かもしれません。一つの腎臓で、これまでと変わらない生活を送れるのか。高血圧や腎不全のリスクは上がらないのか。

ここでは、長期的な視点での健康への影響について、現在分かっている医学的知見をもとに説明します。

残った腎臓の機能変化

腎臓を一つ提供すると、残った腎臓がその分を補おうとして、少し大きく発達し、より活発に働くようになり、代償性肥大・機能亢進と呼びます。

ドナーの全体的な腎機能は、提供前の約70〜80%程度に維持されることが一般的で、二つの腎臓で行っていた仕事の大部分を一つの腎臓でこなせるようになるのです。

このレベルの腎機能があれば、日常生活に支障が出ることはまずありません。ただし、残った腎臓に過度な負担をかけないよう、健康管理が重要になってきます。

高血圧やタンパク尿のリスク

いくつかの研究報告によると、腎臓を提供した人は、年齢や性別が同じ一般の人と比べて、将来的に高血圧を発症したり、尿の中に微量のタンパクが漏れ出したりするリスクがわずかに高まる可能性が示されています。

これは、残った一つの腎臓が頑張って働いていることによる影響と考えられていますが、その差は決して大きいものではなく、定期的な検診で早期に発見し、適切な生活習慣の改善や治療を行えば、深刻な問題に発展することはまれです。

塩分の摂りすぎに注意し、適度な運動を続けるといった自己管理が、リスクの軽減につながります。

一般人口との長期リスク比較

健康指標腎臓ドナー
高血圧の発症わずかに高い可能性
タンパク尿の発症わずかに高い可能性
末期腎不全非常にまれ(一般よりわずかに高い)

腎不全になる可能性は?

ドナーになる方が最も恐れるのは、提供した後にご自身の残った腎臓が悪くなり、将来腎不全になって透析や移植が必要になるのではないか、という点でしょう。結論から言うと、その可能性は極めて低いと考えられています。

ドナーになれるのは、もともと腎臓が丈夫で健康な方だけなので、提供後に腎不全に至るリスクは一般の人々と比べて非常に低い水準にあります。ただし、ゼロではありません。

もし将来、ドナー自身が腎移植を必要とする事態になった場合には、日本臓器移植ネットワークにおいて、優先的に腎臓移植を受けられるように配慮される制度があります。これは、ドナーの善意に社会全体で応えるための仕組みです。

提供後の生活で心がけることと定期検診

腎臓提供という大きな役割を終えた後も、ドナーの健康的な生活は続きます。残った大切な腎臓を生涯にわたって守っていくために、日々の生活の中で少しだけ意識すべき点と、定期的な健康チェックがとても重要です。

食生活や運動に関する注意点

提供後の食生活で、厳しい食事制限は基本的に必要ありません。バランスの取れた食事を腹八分目で楽しむことが基本です。ただし、残った腎臓への負担を軽くするために、塩分の過剰摂取は避けるように心がけましょう。

高血圧の予防にもつながります。また、十分な水分を摂ることも大切です。運動に関しても、手術の傷が完全に癒えれば、特に制限はありません。

ウォーキングや水泳などの適度な有酸素運動は、体重管理や血圧コントロールに役立ち、推奨されます。ただし、腎臓がある脇腹を強打する可能性のある激しいコンタクトスポーツ(ラグビーや格闘技など)は、慎重に考える必要があります。

  • 塩分を控える
  • タンパク質を摂りすぎない
  • 十分な水分補給
  • 適度な運動の継続

定期検診の目的と頻度

腎臓提供後は、生涯にわたって定期的に健康診断を受けることが強く推奨されます。これは、ドナーの健康を守るための非常に重要な約束事です。

検診の目的は、残った腎臓の機能(血液検査でのクレアチニン値など)や、尿タンパクの有無、血圧などをチェックし、何か問題が起きていないかを早期に発見することです。

通常、提供後1年間は数回、その後は年に1回のペースで、移植手術を行った病院や近くの医療機関で検診を受けます。

提供後の定期検診スケジュール例

時期主な検査項目
術後1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、1年血液検査、尿検査、血圧測定
術後2年目以降年に1回、同様の検査

妊娠・出産を考えている場合

女性のドナーにとって、提供後の妊娠や出産は大きな関心事でしょう。腎臓を一つ提供した後でも、多くの方が問題なく妊娠・出産をしています。

ただし、腎臓が一つであることから、妊娠中は腎臓への負担が通常よりも大きくなる可能性があるため、妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病などのリスクが、一般の妊婦さんより少し高くなることが知られています。

妊娠を希望する場合は、事前に移植医や産婦人科医に相談し、計画的に妊娠することが望ましいです。妊娠期間中は、腎臓内科と産婦人科が連携し、通常よりもきめ細かな健康管理を行います。

精神的・社会的なサポート体制の重要性

腎臓提供は、身体的な側面だけでなく、ドナーの心理面や社会生活にも影響を与えます。決断の過程から手術、そして提供後の生活に至るまで、様々な専門家や周囲の人々の支えがドナーの安心につながります。

移植コーディネーターの役割

移植医療において、移植コーディネーターは非常に重要な役割を担います。

コーディネーターは、ドナーとレシピエント、そして医療チームの間に立ち、医学的な情報の提供、検査スケジュールの調整、さまざまな手続きの支援など、移植全体の潤滑油のような存在です。

ドナーにとっては、医師には直接聞きにくいような些細な疑問や、個人的な不安などを気軽に相談できる心強いパートナーとなります。

ドナーの意思決定のプロセスから、退院後の生活のフォローアップまで、長期にわたって寄り添い、サポートを提供します。

  • 医学情報の提供
  • スケジュール調整
  • 精神的サポート
  • 各種手続きの案内

家族や周囲の理解と協力

腎臓提供は、ドナー一人の決断で完結するものではありません。手術やその後の療養には、家族の協力が大事です。

入院中の身の回りの世話や、退院後の家事の分担、体調を気遣う言葉かけなど、家族のサポートはドナーの身体的・精神的な回復を大きく助けます。

また、職場の上司や同僚に事前に事情を説明し、理解を得ておくことも、スムーズな社会復帰のためには重要です。周囲の人々がドナーの置かれた状況を正しく理解し、温かく見守ることが、ドナーが安心して療養に専念できる環境を作ります。

経済的な負担と公的支援

生体腎移植において、ドナーの検査や手術、入院にかかる費用は、レシピエントの医療費(保険診療)に含まれるので、ドナー自身が直接、高額な医療費を支払う必要はありません。

しかし、仕事を休む間の収入の減少や、通院のための交通費などは自己負担となる場合があり、経済的な負担を軽減するために、いくつかの公的支援制度が利用できる可能性があります。

レシピエントが身体障害者手帳を取得している場合、ドナーも医療費助成の対象となることがあります。詳細については、病院の医療ソーシャルワーカーや市区町村の窓口に相談することで、利用可能な制度について情報を得ることができます。

利用できる可能性のある公的支援

制度名内容相談窓口
自立支援医療(腎臓機能障害)レシピエントの医療費自己負担を軽減します。(ドナーの費用も含まれる)市区町村の障害福祉担当課
身体障害者手帳レシピエントが対象。様々な福祉サービスの基盤となります。市区町村の障害福祉担当課
傷病手当金健康保険の被保険者が病気やケガで仕事を休んだ場合に支給されます。加入している健康保険組合

腎臓提供(ドナー)に関するよくある質問

最後に、腎臓提供を検討されている方からよく寄せられる質問と回答をまとめました。ここまで読んでこられた中での疑問や、まだ解消されていない不安について、解決のヒントになれば幸いです。

腎臓提供のための入院や手術の費用は自己負担ですか?

ドナーになるための検査、手術、入院に関する医療費は、すべてレシピエント(腎臓を受け取る側)の医療保険でカバーされるため、ドナーの方が直接医療費を負担することはありません。

ただし、病院までの交通費や、仕事を休む間の給与補償などについては自己負担となります。一部、健康保険組合から傷病手当金が支給される場合がありますので、勤務先にご確認ください。

手術後、体力は元に戻りますか?スポーツはできますか?

回復すれば体力は元に戻り、多くの方が手術前と同じように仕事や日常生活を送っています。スポーツに関しても、傷が完全に治癒すればほとんどのものが可能です。

ウォーキングやジョギング、水泳などは健康維持のためにも推奨されます。

ただし、お腹を強く打つ可能性のあるコンタクトスポーツ(柔道、空手、ラグビーなど)については、残った腎臓を守る観点から、始める前や再開する前に主治医に相談することをお勧めします。

腎臓を一つ提供した後、自分の親族が腎不全になったら、もう提供できませんか?

腎臓提供は生涯に一度しかできません。もし、ご自身の親族の中に将来腎臓病を発症する可能性のある方が複数いる場合などは、誰に提供するのか、ご家族でよく話し合うことが重要です。

また、ご自身が提供した後に、別の家族が腎臓を必要とする状況になった場合のことも含めて、総合的に判断することが求められます。

もし将来、自分の残った腎臓の機能が悪くなったらどうなりますか?

ドナーになれる方はもともと腎臓が健康なため、可能性は極めて低いです。

ただし、万が一、将来的にご自身の腎機能が悪化し、腎移植が必要になった場合には、日本臓器移植ネットワークに献腎移植希望者として登録する際に、優先的に移植を受けられる制度上の配慮があります。

これは、善意で腎臓を提供してくださったドナーの方への、社会的な救済措置として設けられています。

以上

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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