脂質異常症(高脂血症)

脂質異常症(高脂血症)

脂質異常症(高脂血症)(dyslipidemia)とは、血液中のコレステロールや中性脂肪などの脂質が基準値を超えて増加している、あるいは減少している症状です。

脂質異常症によって血管内壁に余分な脂質が次第に堆積していき、血管が硬くなる動脈硬化という深刻な状態を起こします。

日本人の3分の1以上が脂質異常症の診断基準に該当し、特に40代以降の方々に顕著に見られる生活習慣病です。

動脈硬化が進行してしまうと、狭心症や心筋梗塞といった命に関わる重篤な心臓病、さらには脳梗塞などの深刻な合併症を引き起こすリスクが高まります。

目次

脂質異常症(高脂血症)の症状

脂質異常症は初期段階ではほとんど自覚症状が現れないものの、長期間放置すると動脈硬化を起こし、合併症を起こす可能性があります。

初期症状と特徴的な身体所見

脂質異常症の初期段階において、体感できる症状はきわめて少ないことが特徴的です。

眼瞼黄色腫(がんけんおうしょくしゅ)と呼ばれる、まぶたの周辺に黄色い脂肪の塊が形成されることがあり、これは身体所見の一つです。

また、アキレス腱の肥厚が見られる場合もあり、これは家族性高コレステロール血症を示唆します。

手のひらや肘、膝などの関節部周辺に黄色い隆起(黄色腫)が現れることもあります。

部位主な症状特徴
眼瞼黄色腫まぶた周辺の黄色い塊
アキレス腱腱の肥厚触診で確認可能
関節部黄色腫手のひら、肘、膝に出現

進行に伴う血管への影響と自覚症状

血管内に脂質が蓄積されていく過程では、血管壁の肥厚や硬化が徐々に進行していき、血管の弾力性が失われ、血液の流れが悪くなっていきます。

血管の状態が悪化すると、めまいや頭痛、耳鳴りといった症状を自覚することがあり、このような症状は、脳への血流が十分に確保できなくなっていることを示唆する可能性があるため、軽視せずに対応することが大切です。

四肢の血流が低下すると、手足の冷えや痺れ、疲れやすさといった症状が起き、下肢の症状は歩行時の痛みとして自覚され、間欠性跛行として知られています。

合併症としての心血管系への影響

動脈硬化が進行すると、狭心症や心筋梗塞といった重篤な合併症を起こす危険性が高まります。

狭心症の特徴的な症状は、胸部の締め付けられるような痛みや圧迫感で、運動時や精神的なストレス時に現れやすく、安静にすると改善することが多いです。

心筋梗塞の場合は、より強い胸痛が持続的に生じ、冷や汗や吐き気を伴うことが少なくありません。

合併症主な症状特徴的な性質
狭心症胸痛・圧迫感一過性で安静時に改善
心筋梗塞持続的な強い胸痛冷や汗・吐き気を伴う
脳梗塞片麻痺・言語障害突発的に発症

全身への影響と注意すべき症状

脂質異常症が進行すると、以下のような全身性の症状が現れます。

  • 易疲労感や集中力の低下
  • 記憶力の減退
  • 視力の低下や目の疲れやすさ
  • 皮膚の乾燥や肌荒れ
  • むくみや体重増加

動脈硬化に伴う脳血管系の症状

脳血管系への影響も見逃せない問題で、血管の狭窄や閉塞により、一過性脳虚血発作(TIA)や脳梗塞といった深刻な状態を起こすことがあります。

一過性脳虚血発作では、突然の手足のしびれや脱力、言語障害といった症状が見られますが、24時間以内に症状が消失します。

ただし、このような症状は、脳梗塞の前駆症状となる可能性が高く、見過ごすことはできません。

脳梗塞を発症すると、突然の片側の手足の麻痺や言語障害、視野障害などの症状が現れます。

脂質異常症(高脂血症)の原因

脂質異常症(高脂血症)は、遺伝子の特徴と、日々の生活習慣が組み合わさって起きる複雑な代謝疾患です。

遺伝子が関係する発症の仕組み

遺伝子に特定の変化があると、血液中の脂質をうまく処理できなくなり、特にLDLコレステロールを回収する受け皿となるLDLレセプターの遺伝子や、脂質を運ぶ役割を持つアポリポタンパクの遺伝子に問題があると、血液中の脂質バランスが崩れやすくなります。

家族性高コレステロール血症では、親から子へと受け継がれる遺伝子の特徴により、血液中のコレステロールをうまく処理できません。

遺伝性脂質異常症の種類異常のある遺伝子どのくらいの人が発症するか
家族性高コレステロール血症LDLレセプター500人に1人
家族性複合型高脂血症USF1100人に1人
家族性III型高脂血症アポE5000人に1人

生活習慣が引き起こすリスク

脂質異常症の多くは、毎日の生活習慣が大きく関係していることが、さまざまな研究でわかってきました。

脂っこい食事の取りすぎや、体を動かす機会が少ないことによってお腹の周りに脂肪が蓄積されると、血液中の脂質バランスが大きく乱れてしまいます。

さらに、タバコを吸うことやお酒の飲みすぎも、血液中の脂質の量に悪い影響を与える生活習慣です。

生活習慣が原因となる脂質異常症の主な要因

  • カロリーや脂肪が多い食事を食べすぎる
  • 運動不足で基礎代謝が低下する
  • 喫煙により血管の内側が傷つく
  • 過度の飲酒で肝臓に負担がかかる
  • 不規則な生活でホルモンのバランスが崩れる

心の健康と環境からの影響

現代社会で避けられないストレスは、副腎皮質から分泌されるホルモンの量を変化させることで、体内の脂質代謝に大きな影響を及します。

長期間ストレスを感じ続けると、コルチゾールなどのストレスに関係するホルモンが多く出続けてしまい、脂質の代謝が正常に働かなくなりやすい状態に陥ります。

ストレスの種類代謝への影響悪影響の程度
心理的なストレスコルチゾール増加高い
睡眠が足りないインスリンが効きにくい中程度
運動のしすぎ炎症を起こす物質の増加低め

他の病気との深い関係

糖尿病や甲状腺機能が低下する病気など、別の病気が原因となって二次的に脂質異常症が起きることがあります。

特に2型糖尿病を患っている方の場合、インスリンというホルモンが効きにくくなることで脂質の代謝異常が起こりやすく、中性脂肪が増えたりHDLコレステロール(善玉コレステロール)が減ったりすることが多いです。

腎臓の働きが悪くなる慢性腎臓病や、肝臓の機能が低下する病気なども、体内の脂質代謝に重大な影響を与える要因になります。

脂質異常症(高脂血症)の検査・チェック方法

脂質異常症の診断には、血液検査による脂質の測定が不可欠で、総コレステロール、LDLコレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪などの数値を総合的に評価することが重要です。

基本的な血液検査項目と基準値

血液検査では、まず空腹時採血による脂質プロファイルの確認を行い、採血は通常、12時間以上の絶食状態で実施します。

総コレステロールは、血液中の全てのコレステロール量を示す数値で、140~219mg/dLが基準範囲で、基準を上回る状態が続くと、動脈硬化のリスクが高まります。

LDLコレステロールは、悪玉コレステロールと呼ばれ、動脈硬化を促進する要因となることから、60~139mg/dLの範囲内に収まっていることが理想的です。

HDLコレステロールは善玉コレステロールとして知られ、40mg/dL以上であることが大切で、値が低いと、動脈硬化の予防効果が十分に得られない可能性があります。

検査項目基準値判定基準
総コレステロール140~219mg/dL220mg/dL以上で高値
LDLコレステロール60~139mg/dL140mg/dL以上で高値
HDLコレステロール40mg/dL以上40mg/dL未満で低値
中性脂肪30~149mg/dL150mg/dL以上で高値

精密検査と追加検査項目

脂質異常症が疑われる際には、より詳細な評価のための追加検査が実施されることがあります。

  • アポリポタンパク質の測定 脂質代謝の詳細な評価に役立ち、特にアポ蛋白A-Iとアポ蛋白Bの比率は、動脈硬化の進行度を評価する上で参考になる。
  • 度LDLコレステロールの測定 動脈硬化のリスクをより正確に評価するための指標で、LDLコレステロールの質的な評価が可能。
  • 酸化LDLの測定は、動脈硬化の進行度を評価する新しい指標で、この値が高いほど、血管壁への脂質沈着が進んでいる可能性がある。

画像診断による血管評価

血管の状態を評価するために、以下のような画像検査が実施されます。

  • 頸動脈エコー検査
  • 血管内皮機能検査
  • 脈波伝播速度測定
  • CT血管造影検査
  • 心臓超音波検査

定期的な健康診断とセルフチェック

定期的な健康診断での脂質検査は、疾患の早期発見において有用です。

健診の種類検査頻度主な検査項目
特定健診年1回脂質検査、血圧測定
人間ドック年1回推奨総合的な検査
職場健診年1~2回基本的な検査

脂質異常症(高脂血症)の治療方法と治療薬、治療期間

脂質異常症の治療は、生活習慣の改善を基本としながら、必要に応じて薬物療法を組み合わせ、長期的な経過観察が重要です。

活習慣改善による基本的な治療アプローチ

生活習慣の改善は脂質異常症治療の基礎となり、食事療法と運動療法を組み合わせることで、血中脂質値の改善が期待できます。

食事療法では、総カロリー摂取量の調整に加えて、飽和脂肪酸の摂取を控えめにし、不飽和脂肪酸を適度に摂取することが望ましいです。

コレステロールの摂取量は1日200mg以下に抑えることが推奨されており、目標を達成するためには食品の選び方や調理方法の工夫が必要になります。

運動療法は有酸素運動を中心に、週3回以上、1回30分以上の運動を継続します。

改善項目目標値推奨される方法
総カロリー標準体重×25-30kcal食事量の調整
コレステロール摂取200mg/日以下食材の選択
運動量週3回以上×30分有酸素運動

薬物療法の種類と特徴

薬物療法は、生活習慣の改善だけでは十分な効果が得られない際に検討されます。

スタチン系薬剤は、LDLコレステロールを低下させる効果が高く、脂質異常症治療の第一選択薬で、肝臓でのコレステロール合成を抑制する作用を持っています。

フィブラート系薬剤は、中性脂肪を低下させる効果があり、高中性脂肪血症の患者さんに使用されることが多いです。

エゼチミブは、小腸でのコレステロール吸収を抑制する薬剤で、スタチン系薬剤との併用により、より強力なLDLコレステロール低下効果が期待できます。

服用する際の注意・

  • 決められた時間に確実に服用する
  • 自己判断での中止や用量調整を避ける
  • 定期的な血液検査を受ける
  • 副作用の症状に注意を払う
  • 他の薬剤との相互作用に留意する

治療期間と経過観察

脂質異常症の治療は長期的な継続が必要で、治始後、通常3-6ヶ月程度で効果判定を行い、結果に基づいて治療内容の見直しが行われます。

治療段階評価時期確認項目
初期評価治療開始3ヶ月後脂質プロファイル
中間評価6ヶ月後治療効果と副作用
定期評価3-6ヶ月ごと継続的なモニタリング

新しい治療薬と治療法の展望

近年、PCSK9阻害薬という新しいタイプの治療薬が開発され、従来の治療薬では十分な効果が得られなかった患者さんの治療選択肢が広がっています。

PCSK9阻害薬は、2週間に1回または4週間に1回の皮下注射で投与され、LDLコレステロールを大幅に改善することが可能です。

治療効果のモニタリングと目標値

治療効果の判定には、定期的な血液検査による脂質プロファイルの評価が欠かせません。特にLDLコレステロール値は、患者さんの心血管リスクに応じて設定された目標値を目指して治療を進めることが必要です。

HDLコレステロール値の改善も治療の重要な目標の一つで、運動療法や禁煙指導などを通じて増加を図ります。

中性脂肪値は、食後の上昇を考慮し、空腹時の値を指標として用い、150mg/dL未満を目標として治療が行われます。

薬の副作用や治療のデメリットについて

脂質異常症の治療薬には、筋肉への影響や肝機能障害などの副作用があり、また生活習慣の改善に伴う身体的・時間的な負担など、様々なデメリットがあります。

スタチン系薬剤の副作用

スタチン系薬剤は、コレステロール合成を抑制する効果が高い薬剤として広く使用されていますが、筋肉への影響が重要な副作用です。

筋肉の痛みや脱力感を感じる方が一定数おり、特に高齢者や腎機能が低下している患者さんでは、より注意深い観察が必要となってきます。

副作用の種類発現頻度初期症状
筋肉の痛み5-10%だるさ、筋肉痛
肝機能障害1-5%食欲不振、疲労感
消化器症状3-7%胃部不快感、下痢

フィブラート系薬剤による影響

フィブラート系薬剤は、主に中性脂肪を低下させる目的で処方されますが、腎臓への負担が指摘されています。

腎機能が低下している患者さんでは、血中の薬物濃度が上昇しやすく、横紋筋融解症という深刻な副作用が起こることがあり、胆石の形成リスクが高まります。

注意が必要な副作用

  • 腎機能の悪化
  • 筋肉の障害
  • 胆石症の発症
  • 消化器系の不快感
  • 肝酵素値の上昇

陰イオン交換樹脂の使用に関する課題

陰イオン交換樹脂は、腸管でコレステロールの吸収を阻害する薬剤ですが、服用時の不快感が強いことが特徴です。

粉末タイプの薬剤では、口当たりや飲みにくさが問題となり、長期的な服用継続が困難になるケースが少なくありません。

服用時の問題点発生頻度対処方法の例
飲みにくさ60-70%食事と一緒に服用
便秘30-40%水分摂取を増やす
吐き気20-30%分割服用を検討

エゼチミブ製剤使用時の注意点

コレステロールの吸収を抑制するエゼチミブ製剤は、比較的副作用が少ないとされていますが、下痢や腹痛などの消化器症状が現れることがあります。

また、他の脂質異常症治療薬と併用した際に、相互作用による副作用が増強されることが多いです。

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

診断時の検査費用

採血による血液検査は保険適用となり、脂質検査の基本項目(総コレステロール、HDL・LDLコレステロール、中性脂肪)の自己負担額は400~600円程度です。

より詳細な検査が必要な際は、アポリポタンパク検査などの特殊検査が追加されることがあり、この場合は1,000~1,500円程度の追加費用が発生します。

画像診断として頸動脈エコー検査を実施する時は、2,000~3,000円程度の自己負担です。

検査項目自己負担額(3割負担の場合)検査頻度
基本脂質検査400~600円3-6ヶ月ごと
特殊脂質検査1,000~1,500円必要時
頸動脈エコー2,000~3,000円年1-2回

一般的な投薬治療の費用

スタチン系薬剤を処方された場合、1ヶ月あたりの自己負担額は以下のようになります。

  • 先発医薬品 3,000~5,000円
  • ジェネリック医薬品 1,500~2,500円
  • 処方日数による調剤料 500~1,000円
  • 薬剤情報提供料 100~200円

特殊な治療薬による治療費

新薬を使用する場合の治療費

治療薬の種類月額自己負担(3割負担)投与方法
PCSK9阻害薬15,000~20,000円注射/月2回
EPA製剤3,500~4,500円内服/毎日
エゼチミブ2,500~3,500円内服/毎日

以上

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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