若年発症成人型糖尿病(MODY)

若年発症成人型糖尿病(MODY)

若年発症成人型糖尿病(MODY)(maturity onset diabetes of the young)とは、一般的な1型糖尿病や2型糖尿病とは異なる遺伝性の糖尿病の一種です。

MODYの発症には単一の遺伝子異常が関与しており、若年期(多くの場合25歳未満)で発症します。

ただし、症状が軽いケースでは見逃されることもあれば、2型糖尿病と誤って診断されてしまう場合も。

目次

発症成人型糖尿病(MODY)の病型

若年発症成人型糖尿病(MODY)は、複数の病型があります。

それぞれの病型は、異なる遺伝子の異常が関与しており、その特徴も多岐にわたります。

HNF4A (MODY1)

HNF4A遺伝子の異常によって引き起こされるMODY1は、インスリン分泌不全が主な特徴となっています。

HNF4Aは、肝臓や膵臓のβ細胞において重要な役割を担う転写因子をコードしている遺伝子です。

遺伝子特徴
HNF4Aインスリン分泌不全
転写因子肝臓や膵臓のβ細胞で重要な役割

GCK (MODY2)

GCK遺伝子の異常によるMODY2は、糖代謝の調節に関与するグルコキナーゼの機能不全が原因となっています。

グルコキナーゼは、膵臓のβ細胞や肝臓においてグルコースの代謝を促進する酵素として働く重要な物質です。

HNF1A (MODY3)

HNF1A遺伝子の異常が原因のMODY3は、インスリン分泌不全が主な特徴であり、最も頻度が高い病型とされています。

HNF1Aは、膵臓のβ細胞や腎臓、肝臓などで発現する転写因子をコードしている遺伝子です。

  • インスリン分泌不全が主な特徴
  • 最も頻度が高いMODYの病型
  • 膵臓のβ細胞、腎臓、肝臓などで発現する転写因子の異常

PDX1 (MODY4)

PDX1遺伝子の異常によるMODY4は、膵臓の発生や機能に関与する転写因子の機能不全が原因となっています。

遺伝子特徴
PDX1膵臓の発生や機能に関与する転写因子の異常
頻度非常にまれ

PDX1は、膵臓の発生過程や成熟したβ細胞の機能維持に不可欠な役割を果たす転写因子です。

HNF1B (MODY5)

HNF1B遺伝子の異常が原因のMODY5は、膵臓や腎臓の発生に関与する転写因子の機能不全が特徴となっています。

HNF1Bは、膵臓や腎臓の正常な発生と機能に重要な役割を担う転写因子をコードしている遺伝子です。

NEUROD1 (MODY6)

NEUROD1遺伝子の異常によるMODY6は、膵臓のβ細胞の分化や機能に関与する転写因子の機能不全が原因です。

NEUROD1は、膵臓のβ細胞の分化過程や成熟したβ細胞のインスリン分泌機能に重要な役割を果たす転写因子をコードしている遺伝子です。

若年発症成人型糖尿病(MODY)の症状

若年発症成人型糖尿病(MODY)は腎臓に影響を及ぼす疾患で、他の糖尿病とは異なる独特の症状を示すことがあります。

多尿と頻尿

MODYの患者さんは、血糖値の上昇に伴い尿量が増えることで、多尿や頻尿といった症状が現れるケースがあります。

症状特徴
多尿1日の尿量が2,000ml以上
頻尿排尿回数が日中8回以上、夜間1回以上

口渇と脱水

多尿の結果として、喉の渇きを強く感じ、脱水状態に陥ることがあります。

  • 口の渇き
  • 皮膚の乾燥
  • めまいや立ちくらみ
  • 脱力感

体重減少

MODYではインスリンが十分に働かないため、体重が減ってしまうこともあります。

体重減少の目安
3〜6ヶ月で5%以上の体重減少
6ヶ月以上で10%以上の体重減少

糖尿病性腎症

MODYが進んでいくと、糖尿病性腎症を引き起こす可能性があります。

現れる症状

  • たんぱく尿
  • 浮腫
  • 高血圧

若年発症成人型糖尿病(MODY)の原因

若年発症成人型糖尿病(MODY)は、腎疾患の一種で、原因は遺伝子の異常にあります。

単一遺伝子の異常が原因

MODYの主な原因は、単一の遺伝子の異常であることが明らかになっており、インスリンの分泌や作用に関わる遺伝子に変異が起こることで、MODYが発症すると考えられています。

遺伝子機能
HNF1Aインスリン分泌の調節
GCK血糖値の感知
HNF4Aインスリン分泌の調節
HNF1B膵臓の発生と機能の調節

常染色体優性遺伝の形式をとる

MODYは、常染色体優性遺伝の形式をとります。 片方の親からたった1つの異常遺伝子を受け継ぐだけで、発症する可能性があるということです。

そのため、MODYの家系では、複数の世代にわたってMODYが見られます。

遺伝子検査による診断が可能

MODYの診断には、遺伝子検査が役立ち、 既知のMODY関連遺伝子について、変異があるかどうかを調べることで、確定診断を下すことが可能です。

また、家族に疾患を持った方ががいる場合は、発症前の段階で遺伝子検査を受けることで、早期発見・早期治療につなげられることもあります。

検査方法特徴
遺伝子パネル検査複数の遺伝子を同時に検査できる
全エクソーム解析全ての遺伝子を網羅的に検査できる
全ゲノム解析ゲノム全体を詳細に検査できる
  • 遺伝子検査により、MODYの原因となる遺伝子変異を特定できる
  • 原因遺伝子が判明すれば、家系内の他の人の発症リスクを評価できる
  • 遺伝子型に基づいた個別化医療の実現が期待される

多因子の関与も示唆

一方で、MODYの発症には、遺伝因子だけでなく、環境因子も関与している可能性があり、 肥満や運動不足といった生活習慣が、遺伝的素因を持つ人の発症リスクを高めることが懸念されています。

若年発症成人型糖尿病(MODY)の検査・チェック方法

若年発症成人型糖尿病(MODY)の診断では、遺伝子検査や血糖値のモニタリング、腎機能の評価が中心となります。

遺伝子検査

MODYの診断において、遺伝子検査は欠かせません。

遺伝子関連する病型
HNF1AMODY3
GCKMODY2
HNF4AMODY1
HNF1BMODY5

遺伝子検査を行うことで、MODYの原因となっている遺伝子の変異を特定でき、 検査結果に基づいて、適切な経過観察の方針を決定します。

血糖値のモニタリング

MODYの患者さんにとって、血糖値の定期的なモニタリングは非常に大切です。 空腹時血糖値や食後血糖値を測定し、異常がないかチェックします。

必要に応じて、以下のような検査を行うことがあります。

  • 経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)
  • グリコアルブミン(GA)検査
  • グリコヘモグロビン(HbA1c)検査
検査項目正常値
空腹時血糖110mg/dL未満
HbA1c6.5%未満

腎機能の評価

MODYでは、腎機能の評価も欠かせません。 定期的な腎機能検査を行うことで、腎障害の進行状況を確認します。

  • 尿検査(尿蛋白、尿潜血など)
  • 血液検査(クレアチニン、尿素窒素など)
  • 腎臓エコー検査

若年発症成人型糖尿病(MODY)の治療方法と治療薬について

若年発症成人型糖尿病(MODY)の治療においては、生活習慣の改善、経口血糖降下薬、インスリン療法を患者さんの状態に応じて組み合わせることが何より大切です。

生活習慣の改善

MODYの治療では、まず生活習慣の改善が求められます。

項目内容
食事療法糖質制限、脂質制限、カロリー制限
運動療法定期的な有酸素運動、レジスタンス運動

経口血糖降下薬

生活習慣の改善だけでは血糖コントロールが不十分な場合、経口血糖降下薬が処方されます。

  • スルホニル尿素薬(SU薬)
  • 速効型インスリン分泌促進薬(グリニド薬)
  • ビグアナイド薬
  • チアゾリジン薬
  • αグルコシダーゼ阻害薬
  • DPP-4阻害薬
  • SGLT2阻害薬
薬剤名作用機序
スルホニル尿素薬インスリン分泌促進
ビグアナイド薬肝臓での糖新生抑制
αグルコシダーゼ阻害薬糖質吸収遅延

インスリン療法

経口血糖降下薬でも血糖コントロールが不十分な際には、インスリン療法が必要です。

インスリン製剤

  • 超速効型インスリン
  • 速効型インスリン
  • 中間型インスリン
  • 持効型インスリン
  • 混合型インスリン

若年発症成人型糖尿病(MODY)の治療期間と予後

若年発症成人型糖尿病(MODY)の治療期間と予後は、早期発見と治療によって大きく改善します。

MODYの治療期間

MODYの治療期間は、患者さんの状態や合併症の有無などによって異なります。 治療は生涯にわたって続ける必要がありますが、適切な治療を受けることで、健康的な生活を送ることが可能です。

MODYタイプ主な原因遺伝子治療法
MODY1HNF4Aスルホニル尿素薬、インスリン
MODY2GCK食事療法のみ
MODY3HNF1Aスルホニル尿素薬、インスリン

MODYの予後

MODYの予後は、早期発見と治療によって大きく違ってきます。

合併症の発症リスクを減らすためにも、定期的な検査と治療が大切です。

  • 食事療法や運動療法を継続する
  • 定期的な検査を受ける
  • 合併症の予防と早期発見に努める
  • 禁煙する

MODYと腎機能

MODYは腎機能低下を引き起こす可能性があるため、腎機能のモニタリングが欠かせません。 腎症の進行を防ぐために、血糖コントロールと血圧管理が重要で、また、腎保護作用のある薬剤の使用も検討されます。

腎症ステージGFR (mL/min/1.73m2)治療方針
ステージ190以上厳格な血糖・血圧管理
ステージ260-89腎保護作用のある薬剤の使用
ステージ330-59腎臓専門医との連携

薬の副作用や治療のデメリットについて

若年発症成人型糖尿病(MODY)の治療には副作用や課題が伴います。

薬物療法における副作用

MODYの治療に用いられる薬剤には、低血糖や消化器症状などの副作用が報告されています。

薬剤主な副作用
スルホニル尿素薬低血糖、体重増加
メトホルミン消化器症状(下痢、腹部不快感など)
チアゾリジン薬体重増加、浮腫

治療コストの負担

MODYの治療は長期間に及ぶことから、医療費の負担が大きくなりがちです。

  • 定期的な通院や検査
  • 薬剤費用
  • 合併症の治療費用

生活習慣の改善の難しさ

MODYの治療では、食事療法や運動療法などの生活習慣の改善が重要ですが、長期的に継続するのは簡単ではありません。

生活習慣の改善デメリット
食事療法制限が多く、食事の楽しみが減少
運動療法時間の確保が難しい、継続が困難

無理のない範囲で少しずつ改善を積み重ねていくことが肝心です。

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

治療費の概要

MODYの治療費は、患者さん一人ひとりの症状や合併症の有無、治療方針などによって大きく異なりますが、一般的には、以下のような費用が発生します。

項目費用の目安
診察費3,000円〜5,000円/回
検査費10,000円〜30,000円/回
薬剤費5,000円〜20,000円/月

公的医療保険の適用

MODYの治療費は、公的医療保険の対象で、健康保険や国民健康保険に加入している場合、自己負担額は一定の上限額までに抑えられます。

高額療養費制度を利用すると、さらに自己負担額を減らすことが可能です。

助成制度の活用

MODYの治療費負担を軽減するためのさまざまな助成制度が用意されています。

制度名概要
特定疾患治療研究事業指定難病の医療費の自己負担額を軽減
小児慢性特定疾病医療費助成18歳未満の患者の医療費を助成
自立支援医療(育成医療)18歳未満の患者の医療費の自己負担額を軽減

以上

参考文献

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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