高浸透圧高血糖症候群(HHS)

高浸透圧高血糖症候群(HHS)

高浸透圧高血糖症候群(HHS)(hyperosmolar hyperglycemic state)とは、2型糖尿病の患者さんに起こる深刻な合併症のひとつです。

血糖値が通常よりもはるかに高くなり、体の中の水分が急激に失われることで重度の脱水状態になります。

体の感染症や普段飲んでいる薬の影響などがきっかけとなって発症し、そのままにしておくと命に関わるような危険な状態にまで進行します。

目次

高浸透圧高血糖症候群(HHS)の症状

高浸透圧高血糖症候群(HHS)は血糖値が異常に高くなることで体の水分が極端に失われ、進行すると脳や神経にも症状が出ます。

初期症

HHSの初めの段階では、次のような症状が現れます。

  • ひどい喉の渇き
  • トイレに行く回数が増える
  • 目がかすんで見えにくくなる
  • 体がだるくてしんどい
  • 肌がカサカサして乾燥する

こういった症状は血液の中の糖分が増えすぎて、体の水分が減ってきていることを教えてくれるサインです。

進行した症状

症状がもっと悪くなると、さらに深刻な兆候が出てきます。

症状どんな様子か
意識がぼんやりするちょっとボーっとする程度から、完全に意識を失うまで様々
水分不足の症状皮膚をつまんでも戻りが遅い、目が落ち窪んで見える
熱が出る体の中で感染症が起きている可能性がある

体の中の塩分やミネラルのバランスが崩れて、脳の働きにまで影響が及んでいることを示しています。

神経の症状

HHSになると、神経にも症状が出てきます。

神経の症状どんな特徴があるか
けいれん体全体や体の一部がびくびくと震える
体が動かなくなる一時的に手足を自由に動かせなくなる
言葉がうまく話せない発音がおかしくなったり、言葉が出てこなくなったりする

脳の中の水分バランス、塩分やミネラルの量が変わることで起こります。

心臓や血管の症状

HHSは心臓や血管にも大きな影響を与えます。

  • 心臓の鼓動が異常に速くなる
  • 血圧が下がってしまう
  • 心臓の鼓動が不規則になる

このような症状は、体の中の水分が足りなくなり心臓に無理な負担がかかっていることを表しています。

お腹の調子

お腹の不調もよく見られる症状です。

症状どんな感じか
吐き気や嘔吐体の中の塩分やミネラルのバランスが崩れることで起こる
お腹が痛くなる水分不足で腸に十分な血液が行かなくなる可能性がある
食欲がなくなる体全体の調子が悪くなっていることを反映している

高浸透圧高血糖症候群(HHS)の原因

高浸透圧高血糖症候群(HHS)は、深刻なインスリン不足と体内の水分喪失が引き金となって起こります。

インスリン不足

インスリンは体内の血糖値を正しく保つうえで欠かせないホルモンです。

HHSではインスリンの働きが著しく弱まるか、まったく機能しなくなることで血液中の糖分が異常に増加し、体の中の浸透圧が上がり、さまざまな代謝の乱れが生じます。

インスリン不足の影響体への作用
血糖値の急激な上昇高い浸透圧状態
肝臓のグリコーゲン分解が活発に血糖値がさらに上昇
脂肪の分解が進むケトン体が作られる

水分が失われていくメカニズム

HHSを発症すると血糖値が非常に高くなるため、腎臓がろ過できる限界を超えて尿中に糖が出てしまい、体内の水分と電解質が大量に失われ、深刻な脱水状態に陥るのです。

水分が失われると血液が濃くなり、浸透圧が高まる悪循環に陥ります。

  • 高い血糖値による浸透圧利尿
  • 体内の水分や電解質が過剰に失われる
  • 血液の濃縮が進行する
  • 体内を巡る血液量が減少する

発症のきっかけとなる要因

HHSが起こる背景は、感染症、脳卒中や心臓発作などの重い病気、ステロイド薬の使用、利尿薬の服用です。

このような要因はストレスに関連するホルモンの分泌を促し、インスリンが効きにくくなることで血糖値の管理を難しくします。

発症のきっかけHHSへの影響
感染症体の代謝が活発になる
脳卒中ストレス反応が起きる
心臓発作インスリンが効きにくくなる
薬の影響血糖値が上がる

高齢者の方々に見られる特徴

年を重ねると喉の渇きを感じにくくなるため十分な水分を取ることが難しくなり、また、腎臓の働きも弱くなるため、体内の水分バランスが崩れやすくなります。

高齢者の特徴HHSのリスクへの影響
喉の渇きを感じにくい水分不足になりやすい
腎臓の機能が低下体内環境の調整が難しい
認知機能の衰え早い段階で気づきにくい

高浸透圧高血糖症候群(HHS)の検査・チェック方法

高浸透圧高血糖症候群(HHS)を早く見つけて対処するには、血液検査や体の状態を詳しく調べることでどのくらい深刻かを見極めることが重要です。

血液検査

HHSを診断するためには体の中の水分が極端に足りないことや、体内の物質のバランスが大きく崩れているのを知るために、血液検査が必要です。

検査項目健康な人の値HHSの人の特徴
血糖値70-110 mg/dL600 mg/dL以上になることも
血清ナトリウム135-145 mEq/L通常より高くなる
血清浸透圧285-295 mOsm/kg320 mOsm/kg以上になる

尿検査

尿検査もHHSを見つけるのに役立ちます。

  • ケトン体:普通はないか、あってもごくわずか
  • 比重:高くなる(体の水分が足りていないサイン)
  • 糖:強く反応する

尿検査の結果から、体の中の水分バランスや、糖分がどのように処理されているかがわかります。

体の様子

体の状態を調べることも大切です。

確認することHHSの人の特徴
皮膚のはり弱くなっている(水分不足のサイン)
口の中カラカラに乾いている
へこんで見える
血圧低くなったり、立ち上がると急に下がったりする

神経の働き

HHSになると意識がぼんやりしてしまうこともあるので、次のようなチェックが行われます。

  • Glasgow Coma Scale(GCS)で、どのくらい意識がはっきりしているかを調べる
  • 目の瞳孔が光に反応するかを確認する
  • 体を自由に動かせるかどうかを調べる

これらの検査をすることで、脳の働きにどのくらい影響が出ているかを判断します。

画像検査

他の病気がないかを確かめるために、画像検査が行われることもあります。

検査目的
胸のレントゲン肺炎などの感染症が起きていないかを調べる
頭のCT検査脳が腫れていないか、脳梗塞が起きていないかを確認する
お腹のCT検査腸に十分な血液が行き渡っているか、膵臓に異常がないかを調べる

高浸透圧高血糖症候群(HHS)の治療方法と治療薬、治療期間

高浸透圧高血糖症候群(HHS)の治療は一刻を争い、素早く集中的な対応が必要です。

治療の目標は体内の水分を補い、血液中の糖分を正常な範囲に戻し、体内のミネラルのバランスを整え、HHSを起こした元々の病気を治すことです。

点滴による水分補給

HHSを発症された方は体内の水分が著しく失われた状態にあるため、点滴による水分補給が治療の第一歩です。

点滴の種類目的点滴を行う期間
生理食塩水血液量の回復24時間から48時間
塩分濃度が薄い食塩水血液中のナトリウム濃度の調整状態に応じて24時間から72時間

点滴の量は患者さんの状態に合わせて細かく調整されますが、最初の24時間は積極的に行われます。体内の水分が回復するにつれて、血液中の糖分の濃度も少しずつ下がっていきます。

インスリンを使った治療

血液中の糖分を正常な範囲に戻すには、インスリンを使った治療が欠かせません。即効性のあるインスリンを点滴で継続的に投与します。

  • 最初に投与する量:体重1kgあたり0.1単位を1時間かけて
  • 血糖値を下げる速さ:1時間あたり50-70mg/dLを目指す
  • 血糖値が200-250mg/dLまで下がったら、ブドウ糖液も一緒に使う
  • インスリンを投与する期間:血糖値が安定するまで(通常48時間から72時間)

血液中の糖分が下がるだけでなく、水分やミネラルが細胞の中に入りやすくなります。

体内のミネラルバランスの調整

HHSでは体内のミネラルバランスが崩れているので、カリウム、ナトリウム、リンの調整が重要です。

ミネラル調整の方法調整にかかる時間
カリウム血液中の濃度を見ながら補充24時間から48時間
ナトリウム血液中の濃度の変化のスピードに注意48時間から72時間
リン血液中の濃度が非常に低い時に補充状態に応じて24時間から48時間

ミネラルの濃度が急に変わると心臓や神経に悪い影響を与えるので、頻繁に血液検査を行いチェックします。

HHSを引き起こした元の病気の治療

HHSが起こる背景には何か引き金となる病気があり、感染症、心臓の病気、脳卒中がよく見られます。

元となった病気の治療も同時に行うことが、HHSの再発を防ぎ、全身の状態を良くすることにつながります。

引き金となる病気治療の例おおよその治療期間
感染症抗生物質の投与1週間から2週間
心筋梗塞血栓を溶かす薬の使用急性期は数日、その後数週間
脳卒中血圧の管理とリハビリテーション急性期は数日、リハビリは数ヶ月

治療にかかる時間と回復後の経過観察

HHSの急性期の治療は、集中治療室で1週間から2週間ほど行われ、その後、一般病棟での管理を経て退院となりますが、入院全体の期間は2週間から1ヶ月になることが多いです。

退院した後も、血糖値の管理や合併症が出ていないかどうか、定期的に病院に通って診てもらう必要があります。

薬の副作用や治療のデメリットについて

高浸透圧高血糖症候群(HHS)の治療は命を救うためにとても大切な過程ですが、同時に副作用や好ましくない影響が出ることがあります。

インスリン治療で起こりうる副作用

HHS治療の中心となるインスリン治療では、ときに次のような副作用が出ます。

副作用症状
血糖値が下がりすぎる頭がぼーっとする、冷や汗が出る、意識がもうろうとする
体重が増えてしまうインスリンを使いすぎると起こることがある
アレルギー反応赤い発疹やかゆみが出たり、まれに息苦しくなったりする

副作用はインスリンの量を調整したり、こまめに体の状態をチェックしたりすることで、できるだけ抑えられます。

点滴で水分を補う治療のリスク

たくさんの水分を点滴で急に入れると、体の中の水分バランスが急に変わってしまいます。

  • 肺に水がたまってしまう
  • 心臓の働きが悪くなる
  • 体の中の塩分バランスが崩れる(ナトリウムが薄まりすぎてしまう)
  • 手足がむくむ

お年寄りの方や心臓に病気がある人は、注意が必要です。

体の中の塩分やミネラルを調整する難しさ

体の中の塩分やミネラルのバランスを急に変えると、合併症を起こすことがあります。

塩分やミネラルの種類調整する時に気をつけること
カリウム心臓の鼓動が乱れたり、最悪の場合、心臓が止まったりする
ナトリウム脳の一部が傷ついてしまうことがある
リン血液中のリンが少なくなりすぎて、筋肉の力が弱くなる

長い目で見た治療の影響

HHSの治療が終わった後も、長期的に影響が残ります。

  • インスリンを打ち続けなければいけない状態が続く
  • 血糖値が下がりすぎる症状が何度も起こる
  • 腎臓の働きが悪くなる
  • 頭の働きが鈍くなる

影響をできるだけ小さくするためには、治療が終わった後も定期的に病院に通い、体の状態をチェックしてもらうことが大切です。

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

保険適用の範囲

HHSの治療にかかる多くの医療行為は、健康保険の適用対象です。これには入院費、検査費、投薬費などが含まれます。

入院費用の内訳

HHSの治療では、1週間から2週間程度の入院が必要です。

項目概算費用(1日あたり)
入院基本料(集中治療室)90,000円~120,000円
入院基本料(一般病棟)20,000円~40,000円

検査・治療にかかる費用

HHSの診断と経過観察には頻繁な血液検査や尿検査が実施され、また、インスリン療法や輸液療法も行われます。

  • 血液検査(1回あたり):5,000円~10,000円
  • 尿検査(1回あたり):1,000円~3,000円
  • インスリン療法(1日あたり):3,000円~5,000円
  • 輸液療法(1日あたり):5,000円~10,000円

薬剤費

HHSの治療には、インスリンをはじめとする薬剤が使用されます。

薬剤名概算費用(1日あたり)
インスリン製剤1,000円~3,000円
電解質補正薬500円~2,000円
抗生物質(感染症合併時)2,000円~10,000円

以上

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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