ムコ多糖症(MPS)とは、遺伝子の変異によって特定の酵素の活性が低下し、体内にある糖鎖(グリコサミノグリカン)が適切に分解されにくくなることで、全身の臓器や組織に多彩な症状を引き起こす疾患の総称です。
代表的には骨格の変形、成長の遅れ、臓器の肥大、視力や聴力の低下、心臓や呼吸器の問題などが挙げられ、病型によって重症度や症状の現れ方が異なります。
現在は酵素補充療法などの医療的アプローチによって症状の緩和を目指す治療が行われていますが、治療やケアには長期的な視点が必要です。
ムコ多糖症(MPS)の病型
ムコ多糖症(MPS)には複数の病型が存在し、それぞれ異なる酵素の欠損や活性低下によって引き起こされ、病型によって症状の強さや進行速度に差があり、早期にどの型であるかを特定することが大切です。
代表的な病型と分類の考え方
ムコ多糖症では欠損する酵素の種類によって型分けを行い、欠損する酵素によって体内に蓄積するグリコサミノグリカンが変化し、多様な臓器症状へとつながります。
たとえば、ヘパラン硫酸やデルマタン硫酸が過剰に蓄積した場合と、ケラタン硫酸やコンドロイチン硫酸が蓄積した場合では症状のパターンが異なります。
MPS各型の概要
ムコ多糖症にはいくつかの型がありますが、その中でも有名なものにI型(ハーラー症候群)、II型(ハンタ症候群)、III型(サンフィリッポ症候群)などが挙げられます。
I型は比較的重症になりやすい傾向があり、II型はX連鎖劣性遺伝を介するので主に男性に多く、III型は中枢神経系症状が顕著になりやすいことが特徴です。
病型がもたらす進行度と合併症
病型によって発症年齢や進行速度が異なり、合併症のリスクにも差があります。心臓や呼吸器に影響が現れた場合、日常生活に大きな支障が出る可能性があるため、できるだけ早期に対応を行うことが重要です。
病型の確認に役立つ表
実際の病型を理解するため、以下の表で主なムコ多糖症の型と、欠損酵素や蓄積するグリコサミノグリカンなどをまとめてみます。
病型 | 欠損酵素 | 蓄積するグリコサミノグリカン | 主な特徴 |
---|---|---|---|
MPS I型 | α-L-イズロニダーゼ | ヘパラン硫酸、デルマタン硫酸 | 骨格変形、角膜混濁 |
MPS II型 | イズロン硫酸スルファターゼ | ヘパラン硫酸、デルマタン硫酸 | 男児に多い、中枢神経症状 |
MPS III型 | ヘパラン硫酸分解酵素群(4種類) | ヘパラン硫酸 | 中枢神経症状が顕著 |
MPS IV型 | ガラクトース-6-硫酸硫酸化酵素など | ケラタン硫酸 | 骨格系症状が強い |
MPS VI型 | アリールスルファターゼB | デルマタン硫酸 | 骨格変形、成長障害 |
MPS VII型 | β-グルクロニダーゼ | ヘパラン硫酸、デルマタン硫酸 | 症状は多様 |
病型は遺伝子検査や酵素活性測定によって特定し、家族歴がある場合は、幼少期から注意深く観察することが重要です。
ムコ多糖症(MPS)の病型のポイント
- 欠損酵素の種類によって分類し、蓄積するグリコサミノグリカンが異なる
- 遺伝形式や症状の出現パターンに特徴がある
- 症状の進行速度や重症度に違いがある
- 早期に病型を特定すると治療方針を立てやすい
多方面に及ぶ症状との関連を踏まえ、医師と相談しながら治療計画を立てることが大切です。
ムコ多糖症(MPS)の症状
ムコ多糖症は骨格、臓器、感覚器、そして中枢神経など多岐にわたる症状を起こし、病型ごとに特徴が変化し、一人ひとりで症状の程度も異なります。
身体的特徴
身体的な症状として特徴的なのは、顔貌の変化や手足の変形で、いわゆる粗な顔貌と呼ばれる特徴が出現する場合があり、鼻が低くなる、舌が大きくなるなどの傾向が見られます。
さらに手足の関節が硬くなることが多く、関節可動域が狭まって生活の動作がしにくくなることもあります。
成長障害
成長が遅れることが顕著な子どもが多く、身長や体重が同年齢の平均より明らかに低い場合があり、成長板に影響を及ぼすほか、骨の形成自体が障害されるケースもあり、骨格系の異常を複数伴うことがあります。
感覚器への影響
聴力や視力の低下が生じることがあり、特に中耳炎を繰り返し起こしやすくなったり、角膜が混濁することで視界が悪くなったりする場合があります。
視覚や聴覚の障害はコミュニケーションにも影響を及ぼす可能性があるため、早めの対策が必要です。
内臓機能の障害
肝臓や脾臓、心臓などにグリコサミノグリカンが蓄積すると、これらの臓器が肥大し心疾患や呼吸障害が起こることもあり、活動量や生活の質を大きく左右します。
気道が狭まりやすくなることもあるため、睡眠時無呼吸などの呼吸障害につながる可能性があります。
ムコ多糖症が引き起こしやすい主な症状
分類 | 主な症状 | 病型との関連例 |
---|---|---|
骨格・身体的特徴 | 低身長、粗な顔貌、関節硬直、骨の変形など | MPS I型、MPS II型、MPS IV型など |
感覚器障害 | 角膜混濁、難聴、視力低下 | MPS I型、MPS II型、MPS VI型など |
内臓機能 | 肝脾肥大、心機能障害、気道狭窄、呼吸障害 | 多くの病型で確認可能 |
中枢神経 | 知的障害、行動異常、運動発達の遅れ | MPS III型、MPS II型の一部など |
症状の組み合わせは多種多様で、同じ病型でも個人差が大きいため、早期から継続的に検査や診察を受けながら、体や生活の状態に合わせたケアを行うことが重要です。
症状の特徴
- 骨格と身体的特徴に異常が出る
- 成長障害が起こりやすい
- 聴力や視力に問題が生じる
- 肝臓や心臓など内臓に負担がかかる
- 中枢神経が影響を受ける場合がある
本人や家族が自覚する症状だけでなく、客観的な検査によるフォローも欠かせません。医療機関と協力しながら、小さな変化に気づけるよう意識するとよいでしょう。
原因
ムコ多糖症の原因は遺伝子変異による酵素の欠損や活性低下であり、体内で不要になったグリコサミノグリカンの分解が上手く進まないことが発端です。
遺伝子変異と酵素活性の関係
ムコ多糖症では特定の遺伝子に異常があることで、該当する酵素を正常に作れなかったり、酵素が十分に機能しなかったりします。
酵素活性が弱いと、細胞内のリソソーム(不要物を分解する小器官)で糖鎖が処理できず、結果的に細胞内にグリコサミノグリカンが蓄積します。
遺伝形式の多様性
ムコ多糖症の多くは常染色体劣性遺伝ですが、II型(ハンタ症候群)はX連鎖劣性遺伝で、X連鎖劣性の場合は男性に症状が顕著に出やすいことが特徴です。
家族内発生の有無や遺伝カウンセリングの結果を踏まえて、発症リスクを検討することがあります。
蓄積する糖鎖の種類
前述のように、ムコ多糖症の病型によって蓄積しやすい糖鎖が異なり、例えばヘパラン硫酸、デルマタン硫酸、ケラタン硫酸、コンドロイチン硫酸などが代表例です。
これらの糖鎖が骨・臓器・関節・中枢神経などに蓄積していくため、全身症状が現れやすくなります。
遺伝的背景を理解するために
代表的なムコ多糖症の遺伝子座や遺伝形式を概観しますが、同じ病型でも複数の遺伝子変異が報告されていることがあるため、大まかな目安と考えてください。
病型 | 遺伝子座(例) | 遺伝形式 | 性差の特徴 |
---|---|---|---|
MPS I型 | IDUA遺伝子 | 常染色体劣性遺伝 | 男女ともに発症可能 |
MPS II型 | IDS遺伝子 | X連鎖劣性遺伝 | 男性に症状顕著 |
MPS III型 | SGSH、NAGLUなど複数 | 常染色体劣性遺伝 | 男女ともに発症可能 |
MPS IV型 | GALNS、GLB1など | 常染色体劣性遺伝 | 男女ともに発症可能 |
MPS VI型 | ARSB遺伝子 | 常染色体劣性遺伝 | 男女ともに発症可能 |
MPS VII型 | GUSB遺伝子 | 常染色体劣性遺伝 | 男女ともに発症可能 |
原因となる酵素や遺伝子の特定は、正しい診断の第一歩です。出生前診断を行うケースもありますが、発症の有無や重症度を正確に予測できるわけではないので、その後のフォローが欠かせません。
原因
- 遺伝子変異による酵素活性低下や欠損
- グリコサミノグリカンの分解不全
- 常染色体劣性遺伝あるいはX連鎖劣性遺伝が関与
- 複数のグリコサミノグリカン蓄積による全身性の症状
原因を知ると、家族内発症やリスク評価がしやすくなるだけでなく、早期治療や症状緩和の選択肢を検討しやすくなります。
ムコ多糖症(MPS)の検査・チェック方法
ムコ多糖症では症状の多様性から、さまざまな視点で検査を組み合わせて診断を行うことが一般的で、疑わしい症状がある場合、まずは生化学的検査や遺伝子検査などを検討することが多いです。
酵素活性測定
血液や白血球、線維芽細胞などを採取して、特定の酵素がどの程度機能しているかを測定し、欠損あるいは機能低下が確認できれば、ムコ多糖症の診断につながりやすくなります。
正確な酵素活性評価は、どの病型に当てはまるのかを判断するうえで重要です。
グリコサミノグリカン定量検査
尿や血液などに含まれるグリコサミノグリカンを定量し、特定の糖鎖が異常に高くなっているかをチェックし、異常値が見られる場合、酵素活性測定や遺伝子検査を合わせて総合的に評価します。
遺伝子検査
酵素活性測定の結果を踏まえて、疑われる遺伝子の変異を直接調べる場合があり、家族内発症リスクや出生前診断など、より詳しい情報を得たいときに選択することが多いです。
画像検査や感覚機能の評価
レントゲンやMRI、CTなどを使い、骨格や臓器の状態を調べ、また、難聴や視覚異常の程度を把握するために、オージオメトリ(聴力検査)や視力検査を行うこともあります。
中枢神経系の症状が疑われる場合は、頭部MRI検査によって脳の構造的変化を観察する方法も検討されます。
ムコ多糖症の診断に用いる主な検査項目
検査項目 | 目的 | 特徴 |
---|---|---|
酵素活性測定 | 欠損酵素の機能を直接確認 | 病型特定の決め手になることが多い |
グリコサミノグリカン定量検査 | 尿・血液中の糖鎖濃度を測定 | スクリーニング的に利用する場合がある |
遺伝子検査 | 変異箇所の特定 | 家族内リスクや出生前診断の検討材料 |
画像検査(X線、MRI、CT など) | 骨格・臓器・脳などの構造異常を確認 | 症状の進行度合いや手術の検討に用いやすい |
聴力・視力検査 | 感覚器の機能低下を調べる | こまめに受けると経過把握に役立つ |
検査の組み合わせ方は患者の症状や年齢によって変わり、複数の専門科が連携して総合的に診断する体制が大切です。
検査の流れ
- 症状や家族歴からムコ多糖症の疑いを抱く
- グリコサミノグリカンの定量検査や酵素活性測定を行う
- 結果に応じて遺伝子検査を追加する
- 画像検査や感覚機能検査で身体全体の状態を把握する
早期診断によって治療開始のタイミングが早まることが期待でき、気になる症状がある場合は、迷わず医療機関に相談し、必要な検査を受けることが望ましいです。
治療方法と治療薬について
ムコ多糖症の治療には、主に酵素補充療法や造血幹細胞移植などが検討対象で、病型や年齢、症状の重症度によって治療計画が異なり、複数のアプローチを組み合わせる場合も多いです。
酵素補充療法
体内で不足している酵素を製剤として投与し、グリコサミノグリカンを分解する力を補強し、点滴や注射などで定期的に酵素製剤を投与します。
骨格や中枢神経系への効果には限界がある場合がありますが、心臓や呼吸器機能、肝臓の状態を保つうえで大きな役割を果たすケースが多いです。
造血幹細胞移植
骨髄移植や臍帯血移植によって、正常な酵素を持つドナーの造血幹細胞を移植する方法です。
体内で新しく作られる血球が正常な酵素を分泌し、一部の臓器や組織に効果を与える可能性がありますが、ドナーが見つかるかどうかや、移植に伴うリスクなどを慎重に考慮する必要があります。
薬物療法の補助
酵素補充療法や造血幹細胞移植だけで完結しない症状がある場合、その他の薬物療法でサポートすることがあり、例えば、呼吸器症状を緩和する薬や、関節や骨の問題に対応する薬を組み合わせます。
理学療法や外科的手術
関節が硬くなっている場合や、骨格変形が重度な場合は、理学療法やリハビリテーション、さらに外科的手術を組み合わせることで、生活の質を向上させる取り組みも行われます。
呼吸器の安定を図るために気道確保の手術を考慮する場合もあります。
代表的な治療アプローチと特徴
治療方法 | 特徴 | 適応 |
---|---|---|
酵素補充療法 | 不足酵素を点滴などで定期投与 | MPS I型、II型、VI型など |
造血幹細胞移植 | 正常酵素を産生する造血幹細胞を移植 | MPS I型など、一部に有効 |
薬物補助療法 | 症状ごとに薬を使って対処 | 呼吸器、心臓、骨格の症状 |
理学療法・リハビリ | 関節の可動域維持や筋力強化を目指す | 関節硬直や運動発達の遅れ |
外科的手術 | 骨格変形・気道狭窄・心臓疾患などへの外科治療 | 病状が重度化している場合 |
一つの治療法だけで十分な効果を得られない場合もあるため、長期的なプランを立てながら必要に応じて多方面の治療を組み合わせることが大切です。
治療法の特徴
- 酵素補充療法は定期的な点滴が必要になる
- 造血幹細胞移植はドナー探しや移植時のリスクを考慮する
- 呼吸器や心臓への症状には個別の薬物療法が有効な場合がある
- リハビリや外科的アプローチによる生活の質向上も重要
病型や年齢によって最適な治療戦略が異なるため、専門医との相談が欠かせません。
ムコ多糖症(MPS)の治療期間
ムコ多糖症の治療期間は、基本的に長期にわたり、酵素補充療法を続ける場合、定期的な点滴を生涯にわたって行うケースが少なくありません。造血幹細胞移植を実施した場合でも、移植後の経過観察や補助療法が必要になります。
長期治療の重要性
ムコ多糖症は原因遺伝子の変異が根本にあるため、短期間の治療で完治に至るケースは限定的です。病状の進行を遅らせたり、症状を緩和したりしながら、生活の質を高めることを目標にする必要があります。
成長期に合わせたプラン
子どもの場合、成長期に合わせて骨格や関節、内臓の変化も進んでいき、思春期前後にはホルモンバランスの影響も受けやすいため、その時期に適した治療やリハビリが重要です。
通学や進学などライフステージの変化に応じて治療計画を見直します。
成人期以降の継続治療
成人期以降も定期的なフォローが大切で、酵素補充療法を継続する場合は、注射や点滴のスケジュールを仕事や家庭の都合に合わせて調整する必要があります。
骨格や内臓の状態を把握するために画像検査などを定期的に実施することが奨励されています。
治療期間と生活のバランス
長期的な治療スケジュールを考えるとき、生活や教育、仕事との両立が大きな課題になり、自己管理や家族、医療チームのサポートが不可欠ですが、本人の意向を尊重しながら治療計画を柔軟に変えていく姿勢が大切です。
治療期間に関わる主なポイント
視点 | 具体例 | 備考 |
---|---|---|
治療の継続性 | 酵素補充療法の定期点滴、移植後のフォローアップ | 生涯にわたる通院が必要になるケース多い |
ライフステージ別 | 幼少期の発達支援、学齢期の学習サポート、成人期の就労など | 社会生活との両立が課題 |
合併症の監視 | 心臓検査、呼吸器検査、骨格評価 | 定期検査で症状悪化を早期に発見 |
治療スケジュール調整 | 点滴や外科的手術のタイミング、リハビリの頻度 | 個々の状態に合わせた柔軟な対応が必要 |
症状の進行度合いや治療効果は人によって異なるため、長期にわたる経過観察と治療計画の見直しが要になります。家族やケアチームと協力し、身体の状態だけでなく精神面や社会的環境も考慮しながら治療を続けましょう。
治療期間に関わる要点
- 症状緩和や進行抑制を目的に生涯治療を考慮する
- 成長期や加齢による身体の変化に対応する
- 合併症の監視と予防を続ける
- 生活の質を高めながら治療と両立する
副作用や治療のデメリットについて
ムコ多糖症の治療に使う酵素補充療法や造血幹細胞移植には、メリットと同時に副作用やデメリットがあるので、治療を始める前には十分に理解し、納得のいく治療選択を行うことが大切です。
酵素補充療法に伴う副作用
酵素製剤を投与するときにアレルギー反応を起こすケースがあり、点滴中にじんましんや発疹、発熱などが生じる可能性があるため、投与時には医療スタッフが注意深く観察する体制が必要になります。
また、長期間にわたって点滴を繰り返すことで、血管に負担がかかることも懸念点です。
造血幹細胞移植のリスク
造血幹細胞移植には移植片対宿主病(GVHD)や感染症、拒絶反応などのリスクがあり、また、移植のための前処置として高用量の化学療法や放射線療法を行う場合があり、副作用も身体に大きな負担をかけます。
ドナーが見つからない場合には、移植自体が難しい状況になります。
治療効果の限界と未解決課題
酵素補充療法では、投与した酵素が体内の全組織へ行き渡るわけではありません。特に中枢神経系への作用には限界があり、脳や神経の症状を完全に防ぐことが難しい面があります。
造血幹細胞移植でも骨格や関節、脳などの症状を十分に抑制できないケースがあるため、合併症のリスクは残ります。
副作用・デメリットを軽減する取り組み
副作用を軽減するために、投与時に前投薬を行ったり、副作用の兆候を早期に発見して対処したりする工夫があります。
移植を行う場合も、専門の医療機関で慎重に事前検査や術後管理を行うことで、感染や拒絶反応のリスクを下げることが重要です。
代表的な治療の副作用やデメリット
治療手段 | 副作用・デメリット | 改善策・対処例 |
---|---|---|
酵素補充療法 | アレルギー反応、点滴による血管負担 | 投与速度の調整、前投薬、投与中の経過観察 |
造血幹細胞移植 | 移植片対宿主病、感染症リスク、拒絶反応 | 免疫抑制剤の使用、ドナー適合検査の徹底、専門医の管理 |
外科的手術 | 手術侵襲、術後合併症リスク | 術前術後の管理徹底、合併症予防の薬物治療 |
薬物補助療法 | 投薬量や使用期間に伴う副作用の可能性 | 定期的な血液検査、症状や副作用のモニタリング |
副作用やデメリットがあるからといって治療をあきらめる必要はなく、医師と連携しながら対策を講じることが大切です。
副作用や治療のデメリットに対する注意点
- 酵素補充療法でアナフィラキシーなどのアレルギー反応が出る可能性
- 造血幹細胞移植での感染症、拒絶反応、GVHDなどの危険性
- 薬物療法の副作用や投与スケジュールの負担
- 骨格や中枢神経の症状に対しては十分な改善が得られない場合がある
ムコ多糖症(MPS)の保険適用と治療費
以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。
治療費の目安
酵素補充療法の場合薬価が高い傾向にあるため、1回の投与で数十万円以上になるケースもあり、3割負担であっても月に数万円から十数万円ほどの支払いが発生する可能性があります。
造血幹細胞移植を受ける場合は、入院やドナー検査などに伴う費用も加わり、治療期間や病状によって金額が変わります。
各種検査費用
酵素活性測定やグリコサミノグリカン定量検査、遺伝子検査などは専門的な検査ですが、保険適用になっているものも多いです。
検査の種類や回数に応じて負担額は増えますが、数千円から数万円程度で行うケースが一般的で、画像検査(レントゲン、MRI、CTなど)も検査回数や使用する機器に応じて費用が変動します。
フォローアップ診察の費用
ムコ多糖症では定期的な診察や検査が必要になり、診察料や検査の種類により月ごとや年ごとの出費がかさむことがあります。
治療費の目安
項目 | 概算費用(保険適用後・3割負担と仮定) | 備考 |
---|---|---|
酵素補充療法(1回) | 数万円~十数万円程度 | 体重や病型、薬剤によって大きく変化 |
造血幹細胞移植(入院含む) | 数十万円以上 | 入院期間やドナー検査費用、術後管理で変わる |
酵素活性測定 | 数千円~数万円 | 検査機関や検査内容によって変動 |
画像検査(MRI、CTなど) | 数千円~数万円 | 撮影部位、回数、医療機関の設備によって差がある |
診察料・定期フォロー | 数百円~数千円/回 | 医師の専門性や診察時間、検査の有無で増減 |
ムコ多糖症の治療費は総じて高額になる傾向があります。複数の検査と治療を継続する必要があるため、費用面も含めて医療機関とよく相談し、自分に合った計画を立てましょう。
費用に関する留意点
- 酵素補充療法は薬価が高いので月数万円~十数万円の自己負担になる場合がある
- 造血幹細胞移植では入院費用や移植準備費用がかかる
- 検査費用は保険適用で数千円~数万円程度の場合が多い
- 長期的な治療や定期検査で通院費が重なることもある
治療効果だけでなく、費用面も踏まえて総合的に治療方針を検討していくことが大切です。
以上
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