メンケス病(Menkes病)

メンケス病(Menkes病)

メンケス病(Menkes病)とは、銅の代謝異常によって起きる先天性疾患の一つであり、遺伝子の変異を背景とすることから、早期に発症して多様な神経学的症状や身体的特徴を示します。

成長段階における体や脳の発達に影響が及ぶため、適切な検査と治療を見極めながら、合併症を予防しつつ経過を観察することが大切です。

目次

メンケス病(Menkes病)の病型

メンケス病には、遺伝子変異の程度や発症年齢の違いにより複数の病型があり、それぞれの病型で臨床像や症状の進行度に差異がみられます。

典型型と軽症型の概要

典型的なメンケス病では、乳児期から神経症状や成長障害が著しく、皮膚や毛髪に特徴が出る場合が多いです。

一方で、軽症型にあたる場合は、症状の進行スピードが緩やかになり、ある程度まで自力で日常生活を送ることができるケースも報告されています。

ただし、軽症型といっても合併症を全く伴わないわけではなく、経過観察を続けることが必要です。

典型型と軽症型の特徴

分類発症時期主な特徴進行度
典型型生後早期~数か月以内神経症状やけいれん、毛髪異常など比較的急速
軽症型生後数か月以降~1歳前後主症状は同様だが重症度がやや低いゆるやか

亜型の存在

メンケス病の中には「亜型」と呼ばれる分類があり、発症時期や症状の特異性によってさらに細分化される場合があります。

亜型が示す症状は必ずしも定型的ではありませんが、MRIなどの画像検査によって脳の構造的異常や萎縮傾向が確認できることもあり、診断に役立ちます。

亜型の概略

  • 乳児期早期から症状が始まる亜型では、運動発達の遅れが顕著になりやすい。
  • 神経症状に加えて、全身の筋肉緊張度合いが不安定になり、けいれんの頻度が高いケースがある。
  • 成長にともなう骨格の発育にも影響が及び、骨折リスクなどが増すことがある。

亜型はいずれのタイプにも共通する症状を含むため、医師が総合的に診断を下す際に、遺伝子検査や血中銅濃度の推移を含めて慎重に判断していきます。

病型別に見る経過の違い

メンケス病の経過は病型によって異なり、典型型は発症初期から症状が目立つため、比較的早い段階から医療的ケアが必要です。軽症型や亜型の場合は初期症状が曖昧であることが多いため、確定診断を得るまでに時間がかかることもあります。

病型による進行の違い

  • 典型型では、生後数か月以内に筋緊張低下やけいれんなどが顕著になりやすい
  • 軽症型では、同じ症状でも発症のタイミングが遅れ、進行の度合いが低めになることがある
  • 亜型は初期の症状が限定的で、徐々に神経症状が出現するため、見落としに注意が必要

病型診断時の留意点

病型の判定を行うときは、遺伝子異常の部位や血中銅レベルの計測結果だけではなく、家族歴や発症傾向、発達上の問題などを総合的に考慮します。

遺伝子検査の精度向上により病型をより正確に予測できるようになってきましたが、症状の現れ方が個々によって異なることも多いため、最終的には実際の臨床経過を踏まえた判断が重要です。

病型診断で考慮される主な要素

要素具体例診断への影響
遺伝子検査ATP7A遺伝子変異の有無病型の推定や症状の出方の予測に活用
血中銅・セルロプラスミン量銅濃度や銅輸送蛋白の測定治療方針や薬剤選択の参考に
臨床症状運動発達遅滞、けいれんなど病型の早期判定や合併症予測に寄与
家族歴母系を中心とした遺伝パターン型の推測だけでなくリスク評価にも活用

症状

メンケス病の症状は、神経学的なものから外見上の特徴に至るまで多岐にわたります。成長に伴って症状の強度が変化することもあり、初期段階で気づきにくい場合があるため、保護者や周囲の人が乳幼児の発育状況をよく観察することが大切です。

神経症状の特徴

メンケス病で最も注目されるのは神経症状であり、具体的には筋緊張の低下やけいれん、運動発達の遅れなどが多くの患者さんで見られ、特に、運動機能の獲得が遅れることはわかりやすいサインの1つです。

乳児期における首のすわりや寝返りなどの成長段階が予定どおり進まない場合は、神経系に何らかの問題が潜んでいる可能性を考慮する必要があります。

また、けいれんに関しては発作の頻度やタイプが人によって異なり、筋肉がピクピクと小刻みに動くミオクローヌス型や、全身が強直・間代性痙攣を起こすタイプなどさまざまです。

代表的な神経症状

  • 筋緊張低下(フロッピーインファント)
  • けいれん・ミオクローヌス
  • 発育段階の遅れ(首すわり、寝返り、座位保持など)
  • 視覚や聴覚の反応の弱さ

神経系の異常は病型によって重症度が異なりますが、早期に適切なリハビリテーションや介入を行うことで、発達の後押しを期待できることがあります。

毛髪・皮膚の異常

メンケス病は、銅代謝の異常により毛髪が特徴的な状態になることでも知られ、髪の毛がチリチリと縮れたようになる「キンクヘア(kinky hair)」や、脱色したような淡い色合いになる場合があります。

これは毛髪組織に含まれる銅量が不十分になるためと考えられており、皮膚にも類似した変化が現れるケースがあります。

メンケス病における毛髪と皮膚の特徴

症状具体的特徴注意すべき点
キンクヘア髪が異常に縮れ、切れやすい外見上の変化だけでなく、毛根の形成にも影響あり
毛髪の脱色明るい色味になりやすい母親の髪色と比較して顕著に色が薄い場合は要観察
皮膚の弾力低下皮膚が乾燥しやすくなり、たるみやすい外傷などによる皮膚トラブルのリスク増大
爪の変形爪が薄く脆くなる日常生活でのケガに注意しやすい環境整備が大切

毛髪の特徴は病型によって程度が異なりますが、典型型ほど毛髪の変化が顕著です。皮膚の乾燥や弾力低下が進むと、皮膚トラブルのリスクが高まりやすいので、スキンケアによる保護も考えたほうがいい場面があります。

消化器症状

メンケス病は神経や外見だけでなく、消化器にも影響を与えることがあり、栄養吸収不良や便秘、体重増加の停滞などがみられやすく、成長や体力を維持するうえで障壁になる場合があります。

食欲不振が続くと、水分やカロリーが不足して脱水に陥る恐れもあるため、医師や栄養士と相談しながら、食事内容やサプリメントの使い方を工夫することが望ましいです。

消化器症状を軽減させるには、口からの摂取が難しい場合に経管栄養や胃ろうを検討することもあります。

骨格や関節への影響

銅の不足は、骨のコラーゲン形成にも関わるため、骨折や骨粗しょう症リスクの増大につながるケースがあり、また、関節の可動域が制限されてしまい、関節が固くなる拘縮の問題も発生しやすいとされています。

歩行や姿勢維持が難しい患児の場合は、定期的なリハビリテーションや装具の選択が重要となり、骨や関節に負担をかけすぎないケアが必要です。

骨格や関節に起こりやすい症状

症状主なリスク注意点
骨折の増加ちょっとした衝撃で骨折しやすい医師の指示を受けた安全な運動と補助具の利用が大切
骨粗しょう症骨密度が低下する栄養管理や適度な負荷運動がポイント
関節拘縮関節が固まって動きにくくなるリハビリやストレッチを適切に取り入れることが必要
変形性関節症骨格の不均衡から変形を起こしやすい歩行訓練や姿勢指導で負担を軽減

メンケス病(Menkes病)の原因

メンケス病は、主にX連鎖性劣性遺伝によって生じる銅輸送に関連する遺伝子の異常が原因です。銅は体内で多くの酵素の働きを支えるミネラルであり、その代謝や輸送が円滑に行われないと、さまざまな臓器に不都合が生じます。

性染色体であるX染色体に変異が起こるため、男児に多く発症しやすいという特徴もあります。

X連鎖性劣性遺伝の仕組み

X連鎖性劣性遺伝とは、X染色体上の遺伝子に変異がある場合に、男性(XY)のほうが症状を発現しやすくなる遺伝形式です。

女性(XX)は片方のX染色体に変異があっても、もう片方のX染色体が正常であれば症状が軽度になったり、発症しない場合があります。

家族内での発症パターンを追うと、多くの場合は母親が保因者(キャリア)であり、男性児が重症型を発症することが分かります。

家系内での発症率を考えるときのポイント

  • 母親がキャリアである場合、男児の約半数が病気の遺伝子を受け継ぐ
  • 女児は発症確率が低いが、キャリアになる可能性がある
  • キャリアの女性でも軽度の症状を示す場合がまれにある

X連鎖性遺伝では家族計画への影響が大きく、遺伝カウンセリングを受ける方も増えています。

ATP7A遺伝子の変異

メンケス病の主な原因遺伝子はATP7Aと呼ばれ、銅の細胞内輸送を調整する働きを持つタンパク質をコードしています。

この遺伝子に変異が生じると、銅が腸から適切に吸収されず、各組織への分配も阻害され、銅を必要とする酵素群の活性が低下し、神経系や皮膚、血管、骨などに悪影響が及ぶのです。

ATP7A遺伝子が正常に働くときと変異したときのイメージ

状態ATP7Aの機能体内銅レベル影響
正常銅を腸から吸収し、全身に供給適正に維持される酵素活性が安定し、身体機能が正常に保たれる
変異銅の吸収・輸送が阻害血中や組織内銅濃度が低下酵素不活性化が進み、神経・皮膚・骨など多方面で症状発現

ATP7A遺伝子の変異部位によって発症時期や症状の重さが異なることがあり、同じ家族内でも病型が異なる場合があります。これは一部のモザイク変異や、母系からのX染色体の組み合わせによる多様性に起因します。

銅不足がもたらす酵素機能の低下

銅は多くの酵素の構成要素になっており代表例はリシルオキシダーゼ、シトクロムCオキシダーゼ、ドーパミンβ-モノオキシダーゼなどです。

メンケス病においては、これらの酵素活性が低下することで、コラーゲン形成不全やエネルギー代謝の乱れ、神経伝達物質の産生異常などが起こり、骨や血管の脆弱化、神経症状の発現が見られるようになります。

酵素の機能低下が複数にわたり同時進行するため、症状の範囲が幅広く、一つ一つの原因を切り分けることが難しいケースが少なくありません。

母体の影響と環境要因

メンケス病は主として遺伝子変異が原因ですが、母体の栄養状態や他の環境要因が重なり合うと、症状の現れ方や進行速度に違いが出る可能性があります。

たとえば、妊娠中の母親の栄養状態が悪い場合、胎児の成長に影響が及びやすくなることも指摘されています。ただし、メンケス病自体はX染色体の変異によるものであり、後天的な要因だけでは発症を左右できません。

メンケス病(Menkes病)の検査・チェック方法

メンケス病の診断を確定するうえでは、血液検査や尿検査、遺伝子検査など、多角的なチェック方法が必要です。

症状に応じて、神経学的検査や画像検査を組み合わせることも多く、疾患の進行具合や合併症の有無を把握しながら治療方針を立てることが重要になります。

血中銅・セルロプラスミン量の測定

メンケス病では、血中銅濃度や銅を運ぶ役割を担うセルロプラスミンの量が低下する傾向があるため、初歩的なスクリーニングとして血液検査でこれらの値を測定し、メンケス病の可能性を評価します。

ただし、同じ銅欠乏でも栄養状態に起因する場合など他の要因も考えられるため、血液検査のみで確定診断とはなりません。

銅関連の検査項目

検査項目測定内容意味・目的
血中銅濃度血液中に含まれる銅の総量を測定銅欠乏の度合いや吸収状態を大まかに把握する
セルロプラスミン銅を輸送するタンパク質の濃度を測定銅がどの程度体内で活用できているかの目安

血中銅濃度やセルロプラスミン量が極端に低い場合は、さらに遺伝子検査や追加検査を進め、メンケス病かどうかの判定を行います。

遺伝子検査

メンケス病の原因遺伝子であるATP7Aに変異があるかどうかを調べる遺伝子検査は、診断の決め手として非常に重要で、血液や口腔粘膜からDNAを採取し、特定の変異の有無を確認します。

結果が判明するまでには数週間から数か月かかることがあり、検査費用も高額になる場合がありますが、確定診断が得られることで、早期の治療方針の策定や家族への遺伝カウンセリングが可能です。

遺伝子検査を検討するときのポイント

  • 血縁者に同様の疾患や症状がある場合は検査を早めに考える
  • 軽症型や亜型が疑われるときも、遺伝子検査で原因を特定できる
  • 結果を踏まえて、発症リスクがある他の家族も検査を受けるかどうか判断できる

神経学的検査と画像検査

メンケス病の症状に神経的な要素が多いため、脳波検査やMRI(磁気共鳴画像検査)、CTスキャンなどの画像検査も行われ、脳の萎縮や神経伝達における異常を捉え、けいれん発作や発達の遅れの原因をより詳しく把握します。

特にMRIでは、脳組織の萎縮や白質の変性を確認できることがあり、病型の見極めや合併症リスクの把握につながります。

神経学的検査を行う際によく取り入れられる項目

検査名目的把握できる情報
脳波検査けいれん発作の有無や脳の電気活動を評価特定の脳領域の興奮状態や発作パターン
MRI脳実質や構造の観察萎縮の程度や病変部位の特定
CT脳の断面画像を得る出血や大きな構造変化の有無
神経伝導検査末梢神経の伝導速度を測定筋力低下やしびれの原因部位を特定しやすくする

その他の補助的検査

メンケス病では、骨や関節、消化器系など多岐にわたる問題が生じる可能性があるため、必要に応じて補助的な検査も取り入れ、骨密度測定や関節のX線撮影で骨格状態を評価したり、消化器内視鏡で消化管の状態を確認することがあります。

補助的検査

  • 骨密度測定で骨粗しょう症や骨折リスクを評価
  • 腹部エコーや胃カメラで消化器の形態異常や炎症の有無を確認
  • 皮膚組織の顕微鏡検査で毛包などの異常を観察

治療方法と治療薬について

メンケス病の治療では、銅を適切に補給しながら、症状に応じた対症療法を組み合わせるアプローチが中心となります。

遺伝子異常そのものを修正する治療法は確立されておらず、早期発見と適切な治療によって症状の進行を緩やかにすることが大切です。

銅補給療法

メンケス病の治療の柱は、体内の銅レベルを上げるための銅補給療法です。

代表的な薬剤としては酢酸銅や硫酸銅などが挙げられ、経口摂取あるいは注射で投与し、、胃腸からの吸収が難しい例では静脈内投与を検討することがあります。

ただし、銅の投与量やタイミングを誤ると、銅の過剰症状が生じるリスクがあるため、定期的な血液検査で濃度をチェックしながら投与量を調整することが必要です。

治療手段投与方法メリットデメリット
経口銅剤錠剤・液剤を服用簡便かつ自宅で継続しやすい消化器症状がある場合、吸収が安定しないことがある
点滴・注射医療機関で静脈投与直接血中に入るため吸収が確実通院回数が増える、コスト負担が高くなることがある

特に治療開始の時期が早いほど、神経症状の進行を遅らせる可能性が高く、月齢や症状の程度を踏まえながら、治療計画を立てることが大事です。

対症療法(リハビリテーション・理学療法など)

銅補給だけでは改善しない症状に対しては、リハビリテーションや理学療法などの対症療法が重要です。

筋力低下や関節拘縮を軽減するために、理学療法士がストレッチや体位変換を指導し、痛みのコントロールや日常生活動作のサポートを行うことがあります。

言語療法士や作業療法士の協力を得て、摂食訓練やコミュニケーション能力の向上を図るケースも少なくありません。

リハビリテーションの主な狙い

  • 筋力と関節可動域の確保によるQOL(生活の質)向上
  • 摂食嚥下機能を助け、栄養状態を維持する
  • コミュニケーション手段の獲得を通じた社会参加の促進
  • 精神的ケアや家族の介護負担を軽減する

けいれん・神経症状へのアプローチ

メンケス病において、けいれんや筋緊張異常などの神経症状が強いときは、抗けいれん薬や筋弛緩薬を使用することがありますが、銅代謝に関連する根本的な問題があるため、薬剤の効果には個人差が大きいです。

発作の頻度や重症度を日々の記録で管理し、薬の効果と副作用のバランスを見極めながら処方を調整する必要があります。

また、痙性が強いケースではボツリヌス毒素を局所注射して筋肉の緊張を和らげる手段も検討されることがあります。

栄養・消化器系のサポート

銅補給以外にも、栄養面での補強が必要となる場合があり、食欲不振や消化機能の低下が認められるときは、医師や管理栄養士が栄養サポートを検討し、必要に応じて補助的な栄養剤やビタミン剤を活用します。

さらに、誤嚥リスクが高いケースでは、経管栄養や胃ろう造設を視野に入れることがありますが、メリットとデメリットを慎重に比較したうえで決定します。

栄養と消化器系サポート

サポート内容対象例利点課題
経管栄養経口摂取が困難な患者必要カロリーを安定供給チューブ管理の負担や感染リスク
胃ろう長期的に口からの摂取が難しい患者在宅で安定した栄養管理が可能手術とその後のケアが必要
ビタミン補給栄養バランスが偏る患者免疫力や組織修復力の向上過剰摂取による副作用に注意
消化酵素剤吸収障害を併発している患者消化不良を緩和効果の個人差が大きい

多面的な治療アプローチを組み合わせることで、メンケス病患者の生活の質や病状の改善を期待できます。

メンケス病(Menkes病)の治療期間

メンケス病の治療期間は、個々の病型や症状の程度、合併症の有無によって大きく変わります。

早期診断と治療を実施することで、症状の進行を和らげられる可能性があり、生活の質の向上に寄与する場合がありますが、基本的には長期にわたるフォローアップが必要です。

乳幼児期からの継続的フォロー

典型型のメンケス病では、乳児期からの発症が多いため、早い段階で専門医の治療を始める必要があります。

銅補給療法を始めるタイミングが遅れると、神経症状が急速に進む傾向があるため、疑わしい症状が見られたらすぐに医療機関を受診してください。

乳幼児期に始まった治療は学童期以降になっても継続するケースが多く、年齢や成長に合わせて投薬量やリハビリ方法を調整します。

乳幼児期の治療におけるポイント

  • 発作の有無や筋緊張の変化を細かく記録する
  • 体重や身長の増加具合をチェックし、栄養状態を把握する
  • 親や介護者がリハビリテーションの基本的な手技を習得する

学童期から思春期までの対応

メンケス病は成長とともに症状やケアの内容が変化するため、学童期や思春期に入ったあたりで治療方針を見直すことがあります。

たとえば、低年齢時には困難だったリハビリ訓練が、学童期に入って体が成長することでレベルを上げて実施できるようになり、成果が出やすいです。

一方で、思春期になるとホルモンバランスの変化や二次性徴による体格変化があり、新たな合併症リスク(骨粗しょう症の悪化など)が生じる可能性もあります。

学童期から思春期にかけての治療上の留意点

年齢帯特徴的な変化治療やサポートの要点
学童期体力や理解力が向上理学療法、作業療法を強化して自立度を上げる
思春期ホルモンバランスの影響による体格変化骨格の変形リスクに注意し、骨密度チェックを頻繁に行う
高校生以降社会生活への適応将来の進路を見据えた支援と生活リズムの整備

成人期以降の長期管理

軽症型や治療を受け続けた患者さんでは、成人期以降まで生存し、自立した生活を送る例もありますが、脊椎や骨格への負担、内臓機能への影響など、長期的に合併症が出現するリスクがあるため、定期検診は欠かせません。

リハビリテーションの継続や、筋力低下を予防する運動の導入などが、生活の質を維持するうえで効果的です。

成人期以降のケアで重視されるポイント

  • 運動習慣を取り入れ、骨や筋肉をできるだけ維持する
  • 神経症状の経過をモニターし、けいれん発作の有無を継続的に確認する
  • 栄養バランスに注意し、消化器症状を起こしにくい食事を工夫する

メンケス病は、一度治療を開始したら短期間で完了するものではなく、症状の進行に合わせて治療内容を細かく調整し続ける必要があり、家族や医療者との連携が大切です。

経過観察の頻度

経過観察の頻度は年齢や病型、症状の安定度合いに左右されますが、乳幼児期は月に1回から数か月に1回ほどのペースで通院し、血液検査や神経症状のチェックを行うことが多いです。

学童期以降は、症状が安定していれば半年に1回程度の通院でもよい場合がありますが、合併症や治療の副作用が疑われるときは頻度を上げることがあります。

年齢層別の通院と検査の目安

年齢層通院頻度の目安主な検査項目
乳幼児期月1回~3か月に1回血中銅濃度、骨格評価、神経症状の観察
学童期3か月~6か月に1回リハビリの評価、学校生活での支援状況確認
思春期~成人6か月~1年に1回ホルモン変化や骨密度、生活習慣のチェック

メンケス病(Menkes病)薬の副作用や治療のデメリットについて

メンケス病の治療には銅補給療法が大きく関わりますが、薬剤を使用する上での副作用リスクやデメリットもあり、また、長期的な治療を行う中で、家族や本人にとって負担となる点も少なくありません。

銅過剰のリスク

銅が不足している状態がメンケス病の特徴ではありますが、補給によって血中銅レベルが適正範囲を超えてしまうと、逆に銅過剰症状が出現する可能性があります。

銅過剰によって起こりうる主な症状は肝機能障害や胃腸障害、神経症状の悪化などであり、注意深いモニタリングが必要です。

銅過剰の可能性を示すサイン

  • 嘔吐や下痢など消化器症状の急激な悪化
  • 肝機能検査での数値異常(AST、ALTの上昇など)
  • 急な精神状態の変化や意識障害

通常は定期的な血液検査で銅濃度を確認しながら投与量を調整するため、過剰症が深刻化することはまれですが、投薬中はこれらの兆候を見逃さないようにすることが大切です。

抗けいれん薬などの副作用

けいれんを緩和するために使用する抗けいれん薬は、眠気やめまい、食欲不振などの副作用を起こす場合があります。

症状のコントロールと副作用のバランスを見極めることが必要で、薬剤の種類を変更したり、投与量を細かく調整したりすることがよく行われます。

また、筋弛緩薬を併用する際も、過度の筋力低下や呼吸抑制のリスクが少なからずあるため、家族や医療スタッフが注意深く観察することが重要です。

代表的な抗けいれん薬の副作用

薬剤種類想定される主な副作用特記事項
バルプロ酸眠気、体重増加、肝機能障害血液検査で肝機能を定期的にチェック
フェニトインめまい、歯肉増殖、発疹過剰投与で中枢神経症状が深刻化
カルバマゼピン眠気、めまい、低ナトリウム血症血中濃度モニタリングが不可欠
ベンゾジアゼピン系強い眠気、呼吸抑制短期的な使用になることが多い

リハビリテーションや介護の負担

長期的に続くリハビリテーションは、本人だけでなく家族にとっても大きな負担になることがあります。

呼吸機能の低下や関節の拘縮などがある場合は、1日を通して何度も体位変換やストレッチを行う必要が生じ、介護側の体力的・精神的負荷が高まります。

加えて、理学療法士や作業療法士の指導を受けるための通院が頻回になると、経済的な負担も考慮しなければなりません。

ただし、リハビリによるメリットはQOLの維持や向上につながるため、無理のない範囲で続けられる支援体制を模索することが大切です。

治療効果の個人差

メンケス病は遺伝子レベルでの異常が背景にあり、症状の出方や進行度合い、さらに治療への反応が人によって大きく異なります。

銅補給療法を早期に始めても、期待するほどの改善が見られないケースもあり、逆に比較的軽度の症状しか出現せず、対症療法中心でも安定した経過をたどる例もあります。

治療効果の個人差に影響を与える要因

要因具体的内容影響度合い
遺伝子変異のタイプATP7Aの変異部位・規模発症年齢や症状の重症度に直結
他の健康状態心臓や肺など他臓器の合併症治療選択の幅や安全性を左右
家族のサポート体制リハビリやケアの継続性治療効果を最大化するうえで重要
本人の体質薬剤への感受性の差副作用リスクや効果の出方に影響

メンケス病(Menkes病)の保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

銅補給療法の費用

銅補給療法で用いる薬剤は、酢酸銅や硫酸銅などいくつかの種類がありますが、いずれも保険適用の対象となることが多いです。

薬価は薬剤の形状(飲み薬・注射)や処方量によって異なり、1か月あたり数千円から数万円程度となります。

抗けいれん薬やリハビリテーションの費用

抗けいれん薬も複数の種類があり、薬価や用量によって金額は異なり、一般的にジェネリック医薬品もある薬剤が多く、処方の選択肢が広い点が特徴です。

リハビリテーションは保険適用内であれば、1回あたりの自己負担額が数百円から数千円になります。

治療にかかる主な費用項目

  • 銅補給剤(酢酸銅、硫酸銅など)の薬剤費
  • 抗けいれん薬(種類やジェネリックの有無で変動)
  • 画像検査(MRI、CTなど)や血液検査の費用
  • リハビリテーションの通院費

検査費

メンケス病の経過観察には、定期的な血液検査や画像検査が欠かせません。公的医療保険の適用範囲内であれば、検査費は自己負担割合に応じて支払う形になります。

検査項目保険適用後の自己負担目安備考
血液検査(銅・セルロプラスミン)数百円~数千円検査項目の数によって変動
MRI検査(頭部)数千円~1万円前後造影剤使用の有無で差が出る
CT検査数千円程度撮影部位と撮影範囲によって異なる
遺伝子検査数万円~(検査内容による)公的補助の有無で異なる場合がある

以上

参考文献

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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