ライソゾーム病とは、細胞内の不要物質を分解する器官(ライソゾーム)に何らかの先天的な酵素欠損や機能異常が生じることで、特定の代謝産物が身体のさまざまな組織に蓄積し、多彩な症状を引き起こす疾患の総称です。
これらの疾患群は遺伝性でありながら発症年齢や症状の現れ方に幅があるため、見過ごされてしまうケースや原因不明の症状として長く苦しんでいるケースも少なくありません。
特に幼少期に重篤な症状が現れるものから、成人期になって初めて診断されるものまで多様であり、治療に向けて正確な理解を深めることが大切です。
ライソゾーム病の病型
ライソゾーム病は複数の遺伝子異常を背景とし、原因酵素や蓄積される基質の違いによって多くの病型に分類されます。
体内のあらゆる臓器や細胞に影響を及ぼす可能性があるため、全身的な症状が出やすいものから、主に中枢神経系や骨格系が障害されるものまで多様です。
代表的なライソゾーム病
ゴーシェ病やファブリー病、ポンペ病、テイサックス病などがライソゾーム病の中でも広く知られている病型です。
ゴーシェ病は脾臓や骨、骨髄などに異常をきたし、貧血や骨痛を伴うケースが多く、ファブリー病では手足の痛みや血管奇形、腎臓障害などが目立ちます。
ポンペ病は心筋や骨格筋に蓄積物質がたまりやすい病型であり、心肥大や筋力低下が見られやすい一方、テイサックス病は中枢神経系への深刻な影響が出て、早期発症型では幼少期に運動機能が急速に失われる傾向があります。
病型分類のポイント
ライソゾーム病に分類される個々の疾患は、欠損または機能が低下している酵素の種類や、蓄積する物質(基質)の種類によって区分されます。
さらに、同じ病名でも遺伝子変異のパターンや残存酵素活性の差が大きいため、症状の軽重や発症時期にも個人差が大きいのが特徴です。
- 同じ疾患名でも乳児期に重篤化する型と成人期に軽度症状で発見される型がある
- 複数の遺伝子変異が同じ病型を引き起こすことがある
- 病型によっては親族内での発症例が確認されている
テーブルを用いて代表的なライソゾーム病を整理すると、原因酵素や蓄積物質、主な合併症の違いが分かりやすくなります。
代表的なライソゾーム病の分類
病名 | 欠損酵素 | 蓄積物質 | 主な症状や特徴 |
---|---|---|---|
ゴーシェ病 | グルコセレブロシダーゼ | グルコシルセラミド | 脾腫、骨の痛み、貧血、成長障害 |
ファブリー病 | α-ガラクトシダーゼA | グロボトリアオシルセラミド | 四肢末端痛、皮膚血管奇形、腎機能低下 |
ポンペ病 | 酸性α-グルコシダーゼ | グリコーゲン | 心肥大、骨格筋の筋力低下、呼吸不全 |
テイサックス病 | ヘキソサミニダーゼA | GM2ガングリオシド | 中枢神経退行、視力喪失、運動機能消失 |
ニーマンピック病 | スフィンゴミエリナーゼ | スフィンゴミエリン | 肝脾腫、肺症状、中枢神経症状(型による) |
病型の把握が重要な理由
ライソゾーム病はどの病型に分類されるかで進行速度や合併症、治療の選択肢が異なるため、診断時に詳細な型を特定することが治療戦略の策定において重要です。
酵素補充療法や基質合成抑制療法などは、個々の病型や残存酵素活性によって効果が変動する可能性があるため、慎重な検討が欠かせません。
進行度の個人差と定期的な評価
同じ型のライソゾーム病であっても、遺伝子変異のバリエーションや環境要因、個体差によって進行度や発現症状が大きく異なることがあるので、定期的な検査や臨床的観察を行い、治療の必要性や方針を見直す姿勢が大切です。
幼児期に症状が顕在化する病型では、早期介入が合併症のリスクを軽減できる場合があるため、診断された病型をしっかり把握しつつ経過観察をします。
ライソゾーム病の症状
ライソゾーム病の症状は非常に多様であり、病型ごとの特異的な症状と、全身的にみられる一般的な症状に分けて理解すると整理しやすくなります。
初期はわずかな兆候でも、進行に伴って複数の臓器や組織に機能障害が広がっていく可能性があるため、早期発見と適切な治療が鍵です。
全身症状
ライソゾーム病の多くは、成長障害や発達の遅れ、臓器肥大(肝臓や脾臓)などの全身症状を起こすことがあり、また、血液検査上の異常や、骨格の奇形、筋力低下、関節の硬化などが生じ、日常生活に支障をきたす場合も考えられます。
胃腸症状や呼吸器症状が表に出る病型もあるため、体全体を総合的に評価することが必要です。
- 発熱や感染症に対する抵抗力の低下
- 骨の痛みや変形
- 筋肉の疲労感や脱力
- 腹部の膨満感や食欲低下
このような全身症状は、他の疾患でもみられるため、特にライソゾーム病を疑う決め手がないまま見逃されがちですが、複数の臓器にわたる影響が同時期に現れた場合は、ライソゾーム病の可能性を考慮して検査を受けることが重要です。
神経系・中枢神経症状
テイサックス病やニーマンピック病の一部、ゴーシェ病の神経型などでは、中枢神経系への影響が深刻となる場合があります。
認知機能の後退や運動障害、けいれん、視力・聴力の低下などが進行性に現れ、幼児期から神経学的な変化がはっきりと出るケースもあります。発語や歩行の獲得が遅れるなど、発達段階で目立つ症状が生じたときには、専門的な検査が必要です。
心臓・循環器への影響
ポンペ病では心筋にグリコーゲンが蓄積することで心肥大を起こし、重症の場合は乳児期に心不全や呼吸不全を招くこともあります。
ファブリー病では血管壁の肥厚により循環器合併症のリスクが上昇し、脳卒中や心筋梗塞を若年で発症する可能性があります。
こうしたライソゾーム病による循環器への影響は、日常生活を大きく制限しかねないため、専門医の指導のもとで心機能を定期的にチェックする体制が重要です。
骨・関節・運動機能の異常
ゴーシェ病などで顕著にみられる骨への影響は、骨折リスクの上昇や骨の痛み、長管骨の変形などを通じて生活の質を低下させる要因になります。
さらに、関節の可動域が狭くなるなどの運動機能障害も生じるため、理学療法や作業療法といったリハビリテーションが必要となるケースがあります。
症状が現れやすい部位と代表的な異常
身体部位 | 代表的な異常 | 影響例 |
---|---|---|
脳・中枢神経 | 発達後退、けいれん、知的障害など | 学習や日常生活に大きな支障 |
心臓・循環器 | 心肥大、心不全、血管障害 | 倦怠感、動悸、重度の場合は生命の危機 |
骨・関節 | 骨痛、骨変形、関節可動域の制限 | 移動困難、骨折リスク上昇 |
肝臓・脾臓 | 肝肥大、脾肥大 | 体のだるさ、貧血、易感染性 |
腎臓 | 腎機能低下、高血圧 | 蛋白尿、末期腎不全への進行 |
皮膚・末端 | 発疹や血管奇形、四肢痛 | 皮膚トラブル、手足のしびれや激痛 |
上記のように、ライソゾーム病の症状は多岐にわたり、病型によって強く現れる部位も異なるので、疑わしい症状が複数重なるときには、なるべく早く受診して検査を受けることが望ましいです。
原因
ライソゾーム病の原因は、多くの場合、特定の酵素を作り出す遺伝子に変異が起こり、酵素の活性が著しく低下または欠損してしまうことにあります。
ライソゾーム内で行われる分解機能が破綻し、本来分解されるべき物質が細胞内に蓄積することで、さまざまな臓器や組織に支障が生じます。
遺伝子変異の仕組み
ライソゾーム病のほとんどは常染色体劣性遺伝やX染色体連鎖などの形態をとり、両親から受け継がれた遺伝子変異の組み合わせによって発症リスクが決まります。
常染色体劣性遺伝の場合、保因者(片方の遺伝子だけに変異があるが健康)の両親から変異遺伝子を受け継ぐと、子どもが罹患者になる可能性が出てきます。
ファブリー病などの一部疾患はX染色体連鎖性であり、男性が重症化しやすい一方、女性は保因者として比較的軽度の症状や無症状にとどまることも多々です。
- 常染色体劣性遺伝では父母双方が保因者のとき、子が罹患者となる確率は25%
- X連鎖性の病気では男性は変異を受け継いだ場合に発症しやすい
酵素活性の低下と基質の蓄積
ライソゾーム病の本質は、ある特定の分解酵素が十分に働かないことによって、通常ならばライソゾーム内で分解されるはずの物質が蓄積してしまうことにあります。
ゴーシェ病であればグルコシルセラミド、ファブリー病であればグロボトリアオシルセラミドといったように、各疾患で蓄積する基質が異なり、その蓄積物質が身体のどの組織に強く影響を及ぼすかによって臨床像が変わります。
酵素活性のレベルと症状の関係
酵素活性が残る割合 | 症状の出現傾向 | 例 |
---|---|---|
0~数% | 重度の症状が幼少期から急速に進行する | テイサックス病の早期発症型など |
数%~10%前後 | 少し遅れて発症し、進行が比較的ゆるやかになる | ゴーシェ病の慢性型など |
10%~20%前後 | 比較的軽症で、成人になるまで診断されないこともある | 軽度のファブリー病、ゴーシェ病など |
20%以上 | 無症状または極めて軽度で、気づかないケースもある | 遺伝子変異はあるが発症しない保因者 |
同じ遺伝子変異を抱えていても、酵素活性のわずかな差によって発症年齢や症状の重さに大きな開きが生じる可能性があるので、遺伝子検査や酵素活性測定による詳細な診断が重要です。
遺伝相談の必要性
ライソゾーム病は家族性に発生しやすい側面を持つため、罹患者や保因者が判明した場合には、将来の妊娠や出産の計画、また家族内の発症リスクを評価する目的で遺伝カウンセリングが必要になることがあります。
特にX連鎖性の疾患では、女性保因者から生まれた男児に発症リスクが集中しやすいため、適切な遺伝情報の共有が大切です。
- ライソゾーム病は家族性発症を起こす疾患が多数
- 保因者であっても発症する可能性があるX連鎖性疾患も存在
- 発症リスクを正しく理解し、早期検査や治療を視野に入れる必要がある
ライソゾーム病の原因は遺伝子変異と酵素の働きの低下であり、それが基盤となって多様な臨床症状が出現します。原因を正しく把握することは、診断方法や治療方針、家族計画までを含めた広い視野での対策を考えるうえで非常に重要です。
ライソゾーム病の検査・チェック方法
ライソゾーム病は症状が多岐にわたる一方で、初期段階では軽微な異常しか認められず、他の疾患と区別しづらいです。
特定の臓器や系統に特徴的な症状が組み合わさる場合には、迅速に検査を行うことで早期発見や早期治療につなげることが期待できます。
酵素活性測定
臨床的にライソゾーム病を疑うきっかけとなった症状がある場合、最も直接的な検査として、該当する酵素の活性測定を血液や細胞で行います。
ゴーシェ病ならグルコセレブロシダーゼ、ファブリー病ならα-ガラクトシダーゼAなど、病型ごとに測定対象の酵素が異なるため、症状や遺伝子検査の下調べによって検査内容が決まります。
- 血液や白血球、皮膚線維芽細胞などから活性を測定
- 酵素活性が極端に低い場合、ライソゾーム病の強い可能性がある
酵素活性測定は診断の要ですが、測定環境や検体の取り扱いによって数値が変動することもあるため、複数回の測定が必要となる場合もあります。
遺伝子検査
近年は遺伝子解析技術が向上し、ライソゾーム病の原因遺伝子を直接解析して変異の有無を確認できるようになっています。
特に症状が典型的でない場合や、家族内発症が疑われるケースでの保因者確認、複数の病型が鑑別に入るような場合などに、遺伝子検査を行う意義は大きいです。
ただし、遺伝子検査で変異が確認されても、症状がどの程度出るかを一概に予測しにくいケースもあり、臨床検査との総合判断が大切です。
酵素活性測定と遺伝子検査の比較
検査方法 | メリット | デメリット |
---|---|---|
酵素活性測定 | 直接的に酵素不足を確認できる | 計測精度が検体条件に左右され、病型によっては複数測定が必要 |
遺伝子検査 | 病因遺伝子の変異を特定可能で、保因者確認にも有用 | 変異の種類だけで症状の重さを確定的に予測できない場合もある |
画像検査や臨床検査
肝臓や脾臓の肥大を確認するために腹部エコーを行う、骨の変形を確認するためにX線やMRIを撮影する、心肥大や心不全の兆候を捉えるために心エコーを実施するなど、画像検査によって身体内部の異常を可視化する方法も広く用いられています。
また、血液検査や尿検査によって、貧血の有無、腎機能や肝機能の低下などをチェックしながら、ライソゾーム病の合併症を推定することが可能です。
ライソゾーム病が疑われる際に行われる補助的な検査
- 血液検査(貧血、肝機能、腎機能、炎症マーカーなど)
- 尿検査(蛋白尿や糖尿などの有無)
- X線検査(骨変形や骨密度低下などの評価)
- MRI検査(脳や筋肉、臓器の構造的異常を把握)
- 心エコー検査(心肥大や弁異常、心機能低下の有無)
病型の確定と専門医の連携
ライソゾーム病の検査は、結果が判明するまでに時間を要する場合があり、また病型を最終的に確定するにあたって複数の診療科が関わるケースも珍しくありません。
特に神経症状が主体の場合は神経内科や小児科、骨格異常や運動障害が目立つ場合は整形外科、心臓や腎臓の合併症が疑われる場合は循環器内科や腎臓内科と連携しながら総合的に診断を進めることが望ましいです。
ライソゾーム病診断時に関わる可能性のある診療科
診療科 | 主に担当する症状や合併症 | 具体例 |
---|---|---|
小児科 | 幼児期発症型、発達の遅れ、成長障害など | 低身長、運動発達遅延 |
神経内科 | 中枢神経系の退行や運動障害、認知機能障害など | けいれん、認知機能低下、歩行困難 |
循環器内科 | 心肥大、心不全、血管障害 | 狭心症、心筋梗塞、心エコー評価 |
整形外科 | 骨変形、関節可動域の制限、骨痛など | 骨折リスク管理、リハビリテーション |
腎臓内科 | 腎機能低下、蛋白尿、血圧異常 | 透析の必要性評価、腎生検など |
ライソゾーム病の検査や診断には多角的なアプローチが求められ、確定診断までには複数のステップを踏む必要があるため、早期の受診と専門医との連携が大切です。
治療方法と治療薬について
ライソゾーム病の治療は、酵素補充療法や基質合成抑制療法など、近年大きく進歩してきました。
病型によって適用可能な治療法が異なるものの、適切なタイミングで治療を開始することで、症状の進行を緩和したり合併症を抑えたりする効果が期待できます。
酵素補充療法(ERT)
酵素補充療法は、欠損または機能が低下している酵素を外部から静脈注射などによって補充することで、蓄積している基質の分解を促すアプローチです。
ゴーシェ病やファブリー病、ポンペ病など複数のライソゾーム病で実用化されており、病型ごとに適合する酵素製剤が開発されていて定期的な点滴投与が必要ですが、臓器機能の維持や合併症の軽減に有用とされています。
- ERTは通常、1~2週間に1回程度の静脈点滴が主流
- 長期的な継続が欠かせない場合が多い
代表的な酵素補充療法薬と適応疾患
治療薬名 | 適応疾患 | 主な効果 |
---|---|---|
イミグルセラーゼ(ゴーシェ病) | ゴーシェ病 | 肝脾腫改善、骨症状の軽減 |
アガルシダーゼβ(ファブリー病) | ファブリー病 | 腎機能維持、心血管合併症の抑制 |
アルグルコシダーゼα(ポンペ病) | ポンペ病 | 筋力低下や心臓肥大の進行抑制 |
基質合成抑制療法
基質合成抑制療法は、蓄積される物質の合成を抑える薬剤を投与することで、異常代謝産物の量を抑制し、臓器障害を減らす考え方にもとづいています。
ゴーシェ病の一部やニーマンピック病C型などで対象となる場合があり、酵素補充療法と併用することでさらなる治療効果を目指すこともあります。
ただし、副作用として消化器症状などが生じる可能性があるため、医師と相談しながら開始のタイミングや投与量を検討することが必要です。
症状対症療法
ライソゾーム病の中には、中枢神経の機能障害や骨格系の重度の変形など、酵素補充療法だけでは十分に改善しきれない症状があります。
そこで、リハビリテーションや整形外科的手術、理学療法、補助具の使用などを組み合わせ、症状の緩和や生活の質を向上させる取り組みが行われます。
- 関節可動域の維持を目的としたリハビリ
- 骨折予防に向けた骨強度の評価と薬剤検討
- 呼吸リハビリや人工呼吸器の導入検討
主なサポート的治療と目的
治療法・サポート | 目的 | 適用が考えられる症状 |
---|---|---|
理学療法・作業療法 | 関節や筋力の維持、生活動作向上 | 骨変形、筋力低下、関節可動域制限など |
呼吸リハビリ | 呼吸筋の補助、肺の換気改善 | 呼吸機能低下、心肺合併症のリスクがある場合 |
整形外科的手術 | 変形の矯正、痛みや骨折予防 | 重度の骨変形や股関節変形など |
補助具の活用 | 自立度の向上 | 歩行や座位保持が難しいケース |
治療開始のタイミング
症状が軽度のうちから治療を開始することで、臓器障害の進行を遅らせ、将来的な合併症のリスクを下げる効果が期待できます。
一方で、発症年齢や症状の進行速度に大きな個人差があるため、「どの段階で治療をスタートさせるか」は主治医との話し合いによって慎重に決める必要があります。
また、幼少期に病型が判明した場合でも、成長やライフステージの変化に応じて治療内容を見直すケースが多いため、定期的な再評価が欠かせません。
治療開始のタイミングを検討するうえで重視される要素
- 臨床症状の有無や重症度
- 臓器機能検査や画像検査の結果
- 家族歴や遺伝子検査によるリスク評価
- 患者本人の生活の質や希望
酵素補充療法や基質合成抑制療法を軸に、必要に応じてリハビリテーションや対症療法を組み合わせることで、ライソゾーム病の治療は多方面から患者さんをサポートする形です。
ライソゾーム病の治療期間
ライソゾーム病は先天的な遺伝子変異が原因であり、根本的に酵素の働きを正常化するのが難しい疾患群のため、現状では一部の症例を除き、長期にわたる治療と経過観察を続ける姿勢が必要です。
長期継続が求められる治療
酵素補充療法(ERT)は投与を中断すると、体内の酵素活性がまた低下し始めるため、週1回や2週間に1回の点滴を長期間継続する必要があります。
特に幼少期から治療を開始した場合、成長や生活環境の変化に合わせて薬剤量や投与間隔を調整していくことも多いです。
また、基質合成抑制療法においても、内服薬を決められたスケジュールで飲み続ける必要があり、症状のコントロール状態を定期的に評価しながら、休薬や減薬の判断がなされるか検討します。
病型ごとの治療期間の差
ゴーシェ病やファブリー病、ポンペ病など、それぞれの病型で治療開始時期や進行速度が異なるため、治療期間にも大きな個人差があります。
乳児期に重症型が発症する場合は生涯にわたって治療を継続することが想定され、成人期になってから発症する軽症型の場合は治療頻度をやや抑えた形でコントロール可能なケースもあります。
病型と治療期間の大まかなイメージ
病型 | 発症時期 | 治療継続の目安 | 進行状況 |
---|---|---|---|
重症型ゴーシェ病 | 幼児期~学童期 | 生涯にわたり定期的なERTが必要 | 骨症状や臓器障害の管理が必須 |
軽症型ファブリー病 | 思春期~成人期 | 症状が出現次第ERTや基質合成抑制 | 腎機能や心血管合併症を定期管理 |
ポンペ病 | 乳児期~成人期 | 乳児型は生涯にわたりERTが主流 | 心肥大や筋力低下が進行しやすい |
ライフステージごとの課題
幼児期や学童期は身体成長が著しい時期のため、投薬やリハビリが身体的・心理的負担になりやすいという面があります。
一方で、成人期になると仕事や家庭の事情で定期的な通院が難しくなるなど、長期にわたる治療継続にはさまざまなハードルがあるので、その時々のライフステージに合わせた治療計画の見直しやサポート体制の構築が大切です。
定期的な経過観察と治療方針の更新
ライソゾーム病は、時間の経過とともに症状や合併症が変化する可能性があるため、治療の効果をモニタリングしながら必要に応じて方針を変えていく柔軟性が求められます。
定期検査で臓器機能や酵素活性を評価し、良好な状態を保てているかをチェックすることが長期安定のポイントです。
- 治療効果が十分に得られていないと判断した場合は追加検査や薬の変更
- 症状がコントロールされていれば、投与間隔やリハビリ頻度の調整を検討
- 合併症予防のため、関連診療科との連携による総合的なアプローチ
このように、ライソゾーム病は一度の治療で完全に克服するのが難しい場合が多く、長期療養の視点をもって治療に臨むことが重要となります。
副作用や治療のデメリットについて
ライソゾーム病の治療には酵素補充療法や基質合成抑制療法が中心となりますが、どんな治療にも副作用やデメリットがあり、理解しながら上手に対処することが治療継続のカギになります。
症状の緩和や進行抑制が期待できる一方で、生涯にわたる投与や通院の負担を感じる方もいるため、医師やスタッフとよく相談することが大切です。
酵素補充療法の副作用
酵素製剤を静脈注射によって体内に入れるとき、一部の患者さんでは過敏反応やアレルギー反応のような症状が出ることがあります。
軽度であれば点滴速度を調整しながら続行できる場合もありますが、発疹や呼吸困難など重い症状が出たときは薬の投与を一時停止して経過を観察し、薬剤変更や前投薬(ステロイドや抗ヒスタミン剤など)の検討を行うことがあります。
- 発熱、悪寒、吐き気などのインフュージョンリアクション
- 注射部位の腫れや痛み
- 重症のアナフィラキシー反応(まれに発生)
酵素補充療法時に注意すべき主な副作用と対応
副作用 | 具体的症状 | 対応策 |
---|---|---|
インフュージョンリアクション | 発熱、悪寒、じんましんなど | 点滴速度の調整、前投薬の使用 |
注射部位の炎症 | 赤み、腫れ、痛み | 冷却や軟膏塗布、感染兆候の観察 |
アナフィラキシー反応 | 血圧低下、呼吸困難 | 速やかな薬剤中止、救急処置の準備 |
基質合成抑制療法の副作用
基質合成抑制療法で使用される薬は、腸管や神経への影響を及ぼしやすいものもあります。腹痛や下痢、めまい、頭痛などが起こる可能性があるため、日常生活に支障をきたすほど症状が強い場合は医師に相談してください。
副作用を最小限に抑える工夫
ライソゾーム病の治療において、薬そのものの副作用を完全に回避することは難しいですが、事前投薬や点滴速度のコントロールなどで症状の重さを軽減できる可能性があります。
また、リハビリテーションや生活習慣の改善も含めて総合的にケアすることで、身体機能の維持や合併症予防を図りながら、副作用の影響を少しでも低減することが望まれます。
行われる取り組み
- 副作用が出やすい時間帯や体調を把握し、スケジュールを調整する
- こまめに医療スタッフに体調を報告し、投薬量や方法を見直す
- リハビリや睡眠管理を徹底し、身体全体のコンディションを整える
副作用やデメリットに対して十分な情報を持ち、実際に起きた場合の対処法を理解しておくことで、万が一のトラブル時にも落ち着いて対応しやすいです。
ライソゾーム病の保険適用と治療費
以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。
保険適用範囲
基本的にライソゾーム病の治療薬として承認された酵素補充療法薬や基質合成抑制薬は保険診療の対象となるため、自己負担割合(通常は3割負担など)で利用できます。
- 酵素補充療法(点滴)
- 基質合成抑制薬の内服
- 画像検査や血液検査
- リハビリテーション(必要に応じて)
治療費の目安
酵素補充療法薬は薬剤自体が高額になることが多く、例えばゴーシェ病に使われる酵素製剤の場合、1回の点滴で数十万円以上の薬剤費がかかるケースもありますが、保険適用後は自己負担3割であればその3割分が目安です。
実際には投与量や頻度が患者ごとに異なるため、月々の費用に差が生じます。
ライソゾーム病治療における費用
治療内容 | おおよその費用 | 負担割合 |
---|---|---|
酵素補充療法(1回分) | 数十万円程度 | 保険適用3割負担で数万円前後 |
基質合成抑制薬(1カ月分) | 数万円~10万円程度 | 保険適用3割負担で数万円以下 |
検査費用(血液・画像など) | 数千円~数万円 | 保険適用3割負担でさらに低額化 |
上記はあくまでも概算であり、実際には病型、体重、薬の用量などで大きく変動し、また、投与スケジュールも週1回から2週に1回、あるいは月1回程度とさまざまです。
通院頻度と追加費用
酵素補充療法では定期的に通院して点滴を受ける必要があるため、交通費や宿泊費がかかる場合もあります。特に小児患者の場合は、保護者が仕事を休むなど間接的なコストも見過ごせません。
さらに、副作用や合併症の疑いがある際には追加の検査や診察が必要となるため、治療全体の費用は患者個々の経過によって異なるのが実情です。
以上
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