脂肪酸代謝異常症

脂肪酸代謝異常症

脂肪酸代謝異常症とは、先天的な遺伝要因などによってエネルギーを生み出す大切な過程である脂肪酸の分解がうまく進まず、血液中や各組織に代謝産物が蓄積する疾患です。

主に幼少期に低血糖や嘔吐、けいれん発作などの症状がみられることが多いですが、病型や体質によっては成人になってから判明するケースもあります。

稀少疾患のひとつではありますが、症状の出方にばらつきがあり、検査技術の進歩によって診断される頻度が増えてきました。

典型的な症例だけでなく、多彩な症状が現れることもあるので、少しでも心配な点がある場合は情報を集めることが大切です。

目次

脂肪酸代謝異常症の病型

脂肪酸代謝異常症には、さまざまな酵素の欠損や活性低下に起因する病型があり、特徴によって症状や発症時期、合併症などが変化します。

脂肪酸をエネルギー源として利用するときには、体内のミトコンドリアで段階的に酸化(β酸化)が行われますが、この過程にかかわる複数の酵素のうち、どれが不足するかによって病型が異なります。

中鎖アシルCoA脱水素酵素欠損症(MCAD欠損症)

中鎖アシルCoA脱水素酵素欠損症は、脂肪酸代謝異常症の中でも比較的よく知られている病型で、生後数か月から幼児期にかけて低血糖やけいれんがみられやすく、ときに意識障害に至るケースもあります。

発熱や嘔吐など、体にストレスがかかったときに症状が表面化しやすいため、注意深い観察が重要です。この病型においては、早期に診断を行い食事療法や薬物管理を実施することで、日常生活における合併症リスクを抑制できます。

脂肪酸代謝異常症の病型

病型名(略称)欠損酵素発症時期や特徴
MCAD欠損症中鎖アシルCoA脱水素酵素幼児期に低血糖が起こりやすい
VLCAD欠損症極長鎖アシルCoA脱水素酵素心筋障害や筋症状がみられる
LCHAD欠損症長鎖3-ヒドロキシアシルCoA脱水素酵素肝機能障害や網膜変性を伴う場合がある
SCAD欠損症短鎖アシルCoA脱水素酵素新生児期のけいれんや神経症状が報告される

極長鎖アシルCoA脱水素酵素欠損症(VLCAD欠損症)

極長鎖アシルCoA脱水素酵素欠損症は、VLCAD(Very Long-Chain Acyl-CoA Dehydrogenase)の機能が低下または欠損することで生じ、極長鎖脂肪酸の代謝がうまく進まないため、重度の場合は心筋障害や筋力低下などが顕著です。

乳児期に発症すると急激に進行する心筋症を伴うリスクが高く、成人期にわかるケースでは運動時の筋痛や横紋筋融解症などを繰り返す場合があります。これらの症状を少しでも疑ったときには、専門医による詳しい検査を受けることが重要です。

長鎖3-ヒドロキシアシルCoA脱水素酵素欠損症(LCHAD欠損症)

長鎖3-ヒドロキシアシルCoA脱水素酵素が不足すると、血中や尿中に未分解の中間代謝産物が増えてしまい、肝機能障害、筋症状、低血糖などを招きます。

この病型はLCHAD(Long-Chain 3-Hydroxyacyl-CoA Dehydrogenase)とも呼ばれ、網膜変性や神経学的な異常があらわれる例も報告されています。

乳幼児期に症状が出る場合は急性に重症化しやすいため、発熱や嘔吐などが続くときには受診して検査することが大切です。

短鎖アシルCoA脱水素酵素欠損症(SCAD欠損症)

短鎖アシルCoA脱水素酵素欠損症は、脂肪酸代謝異常症のなかでも症状が軽度な場合が多いとされており、SCAD(Short-Chain Acyl-CoA Dehydrogenase)の活性が十分に機能しないために生じます。

症状は新生児期のけいれんや筋緊張の低下などで発覚することがありますが、成人期になるまで無症状だったという事例もみられます。検査数値が軽度に異常を示すだけの場合もあり、診断が遅れることがあるため注意が必要です。

疑いがある場合は詳細な遺伝子検査などを受けることで、早めの対策につなげることが望まれます。

日常生活で思い当たる症状

  • 低血糖やけいれん、意識障害を幼少期に経験した
  • 運動後に筋肉痛や脱力が起こりやすい
  • 嘔吐や下痢などで体力が落ちたときに体調不良が長引く
  • 肝機能障害や心筋症を指摘されたことがある

上のような経験がある場合は、脂肪酸代謝異常症を含めた代謝異常の検査を考慮してください。

脂肪酸代謝異常症の症状

脂肪酸代謝異常症の症状には個人差が大きく、同じ病型でもその程度や発症時期にばらつきがあります。初期症状を見落としてしまうと、突然の重症化を招く恐れもあるため、代表的な兆候を理解することが大切です。

低血糖による意識障害やけいれん

脂肪酸を上手に利用できない状態に陥ると、エネルギー源としてのグルコースを多く消費するため、血糖値が急激に下がりやすくなります。低血糖が進むと、ぼんやりした意識状態になったり、重症の場合はけいれん発作を起こすことがあります。

特に、哺乳量が減ったり絶食状態が続いたりする乳幼児で問題になりやすく、夜間や発熱時など、エネルギー需要の増大に体が追いつかなくなるタイミングで症状が表面化しやすいです。

低血糖時に観察されやすい症状

症状程度具体例
軽度落ち着きのなさ、冷や汗周囲の声かけに反応可能
中等度意識混濁、ふらつき自分で経口摂取が難しくなる
重度けいれん、昏睡救急対応が必要になる

筋症状や運動耐容能の低下

極長鎖脂肪酸や長鎖脂肪酸が代謝されにくい病型の場合、筋力低下や疲れやすさ、筋肉痛などが起こりやすいとされています。運動中や運動後にミオグロビン尿(濃い茶色の尿)が出たり、横紋筋融解症を引き起こすこともあります。

大人になってから初めて、この筋関連の症状をきっかけに診断される事例もあるため、運動時の異常な筋肉痛や極度の倦怠感がある場合は検査を検討してもよいでしょう。

嘔吐や食欲不振

体に感染症などのストレスがかかったときに嘔吐や下痢、食欲不振が続くと、脂肪酸代謝異常症をもつ人は短期間で血糖値が低下しやすく、脱水や電解質異常も重なって体調が急激に悪化します。

幼い子どもは自分で症状をうまく表現できない場合が多いため、保護者が普段と異なる元気のなさを感じたら、早めに医療機関でチェックすることが重要です。

肝機能障害や心筋症

LCHAD欠損症やVLCAD欠損症などの一部では、肝臓や心筋への負担が特に大きくなり、肝炎症状や心筋症を合併することがあります。急性の肝機能悪化や心不全を起こす前に症状を把握し、対処することで合併症による重篤なリスクを減らせます。

肝機能障害を疑わせる黄疸や倦怠感、また心筋に負担がかかる場合は動悸や胸の痛み、極度の疲労感に注意が必要です。

症状の現れ方

  • 食事の間隔が空いたときに、急に元気がなくなる
  • 軽い運動でも疲労が抜けにくい
  • 意識混濁や判断力の低下がみられる
  • 尿の色が濃すぎる、あるいは茶色っぽくなる

これらの症状が頻繁に起こる場合は、脂肪酸代謝異常症の可能性を含め、医師と相談しながら検査や経過観察を行います。

原因

脂肪酸代謝異常症は先天性の遺伝子変異が原因であることが多く、親からの遺伝によって生じます。ただし、遺伝子変異を受け継いでも実際に発症するかどうかは、変異の種類や個人差などによって左右されることもあります。

遺伝子の変異と発症メカニズム

脂肪酸代謝にかかわる酵素は、ひとつだけではなく、いくつもの酵素が連携しながらエネルギー産生を担っていて、酵素をコードする遺伝子に変異が生じると、酵素量の不足や機能低下を引き起こし、脂肪酸の分解がスムーズに進みません。

特定の遺伝子がホモ接合型変異(両親からそれぞれ変異遺伝子を受け継いだ状態)になると、より重度の症状が出るケースがあり、また、へテロ接合型であっても軽症や無症状の場合があるなど、多様性もみられます。

遺伝子変異のパターンと発症しやすさの関係

遺伝子変異の型発症の可能性
ホモ接合型両方の親から同じ変異遺伝子を継承重症化しやすい
複合ヘテロ接合型異なる変異を父母両方から受け継ぐ中等度〜重度の症状
単一ヘテロ接合型片方のみ変異遺伝子を保有無症状〜軽度症状が多い

代謝ストレスによる影響

基本的には体が脂肪酸をエネルギー源として必要としなければ、代謝酵素の欠損の影響は表面化しにくいですが、空腹や発熱、激しい運動、嘔吐などで体がストレスを受け、脂肪酸を活発に利用しようとするときに症状が顕在化します。

日頃は問題なく過ごしていても、インフルエンザや風邪の後に急に具合が悪くなって初めて病気が発見されることも珍しくありません。

環境要因と発症リスク

先天的な要因に加えて、食生活や生活環境、感染症などの後天的な要因が重なって発症リスクが上昇する場合があります。例えば、長時間の絶食や極端なダイエットを実行したときに、脂肪酸代謝の障害が顕著になることがあります。

生まれつきの遺伝的素因を有しているものの、栄養管理によって症状が出にくい状態を維持できる場合もあり、環境的な要素を整えることは重要です。

発症に気づきにくいケース

脂肪酸代謝異常症の一部は無症状のまま成人期を迎える場合があり、健康診断や妊娠時の血液検査で偶然見つかることがあります。幼少期に特に問題がなかったからといって、まったく発症リスクがないわけではありません。

中年以降に生活習慣病や他の疾患がきっかけとなって脂肪酸代謝異常症が認められる事例もあり、長期的な視点で体調や体質を把握しておくことが大切です。

自分や家族のなかで思い当たるきっかけがないか、振り返ってみると見つかることもあります。

  • 乳幼児期に軽度のけいれんや低血糖があったが原因不明だった
  • 運動部の活動中に意識を失うような強い疲労感に悩まされた
  • 風邪をひくと、ほかの人より回復に時間がかかる
  • 胃腸炎になるたびに重度の脱水になって入院を経験した

このようなエピソードがある場合、脂肪酸代謝異常症の素因が隠れている可能性があるため、精密検査を検討してください。

脂肪酸代謝異常症の検査・チェック方法

脂肪酸代謝異常症を見極めるには、血液検査や尿検査、遺伝子検査など、複数の方法を組み合わせて行うことが多いです。特に低血糖を示すタイミングやストレス時の代謝産物の変化を捉えることがポイントになります。

血液検査での代謝マーカー測定

血液検査では、血糖値だけでなく脂肪酸の中間代謝産物、アンモニア、ケトン体などのレベルを測定し、脂肪酸代謝異常症の場合、低血糖時にケトン体が十分に上昇しない「低ケトン性低血糖」を示すことが典型的です。

加えて、特定のアシルカルニチンの蓄積が確認される場合もあるので、定量検査によって代謝の異常パターンを推定できます。

血液検査でチェックされる主な項目

項目正常範囲の目安異常が示唆するもの
血糖値70〜100 mg/dL(空腹時)低血糖による代謝異常
ケトン体数十〜数百 μmol/L程度脂肪酸代謝が障害されていると上昇が乏しい
アシルカルニチン種類により基準値が異なる特定の鎖長で上昇があれば病型を推定

尿検査と有機酸分析

脂肪酸代謝異常症では、尿中にも特徴的な有機酸やアシルグリシンなどの代謝産物が増加することがあり、尿を採取して有機酸分析を行うと、特定のピークがみられるかどうかが判断材料になります。

この分析は専門的な機関で行うことが多いため、疑いがある患者は専門医への紹介で詳細な検査を受けることが一般的です。

遺伝子検査

確定診断には遺伝子検査が役立ち、血液や口腔粘膜などから採取したDNAを解析し、原因となる酵素をコードする遺伝子の変異を調べます。

家族内で同じ病型が疑われる場合は、早期の段階で遺伝子検査を行い、発症リスクを共有することが望ましいです。特に兄弟姉妹や親子間で同様の症状があるときには、積極的に遺伝子解析による確定診断を視野に入れるケースがあります。

遺伝子検査を行う目的

  • 病型の特定と重症化リスクの推定
  • 家族計画の参考とするための情報収集
  • 無症状保因者の把握
  • 将来的な治療薬開発や研究への協力

負荷試験や画像診断

場合によっては、断続的な断食や軽い運動負荷をかけたうえで血液検査を行い、エネルギー代謝がどのように変化するかを調べることがあります。

また、心臓や肝臓への負担を評価するために、エコー検査やMRIなどの画像診断を並行して行うケースもあります。負荷試験では、低血糖やけいれんを誘発するリスクがあり、医療スタッフの管理下で慎重に実施することが大切です。

検査の流れ

  1. 一般血液検査、尿検査で異常がみられる
  2. アシルカルニチンプロファイルや有機酸分析で病型を推定
  3. 遺伝子検査で原因遺伝子変異を確定
  4. 心臓や肝臓の状態を画像検査で把握

治療方法と治療薬について

脂肪酸代謝異常症の治療方法は、主に栄養管理や薬物療法を組み合わせて行い、病型や年齢、症状の重さによって治療戦略は変わりますが、いずれの場合も日常生活で血糖値を安定させる工夫をすることが重要です。

栄養管理と食事療法

血糖値を安定させるために、適切な栄養バランスを保つ食事が基本で、高炭水化物食や頻回の食事によって、脂肪酸に依存しすぎないエネルギー補給を行います。

極長鎖脂肪酸の摂取を控え、中鎖脂肪酸(MCTオイル)を利用しやすくする食事プランが有効な病型もあります。医師や管理栄養士の指導を受けながら、その人の代謝状況に合わせて具体的なレシピを考えるとよいでしょう。

食事療法で配慮したいポイント

  • 食事の間隔を空けすぎない(夜間の断食時間を短くするなど)
  • 中鎖脂肪酸(MCT)を含む油を活用する
  • 無理なダイエットや極端な絶食を避ける
  • 発熱時や感染症の際には炭水化物を補給しやすい流動食などを取り入れる

カルニチン補充療法

脂肪酸をミトコンドリアに運ぶ分子であるカルニチンが不足していると、脂肪酸代謝がさらに滞り、症状が悪化することがあるので、カルニチンサプリメントを服用し、カルニチンレベルを適正範囲に保つ治療が行われることがあります。

特に体内で長鎖脂肪酸の輸送がうまくいかない病型では、カルニチン補充が症状の予防や改善に役立つ場合があります。

カルニチン補充療法の目安

患者区分カルニチン用量(1日あたり)期待できる効果
幼児期10〜50 mg/kg低血糖の頻度低減、代謝産物の蓄積抑制
学童期〜成人500〜2000 mg程度運動時の筋症状軽減、エネルギー代謝の補助

MCTオイルを利用した治療

中鎖脂肪酸(MCT:Medium-Chain Triglycerides)は、長鎖脂肪酸に比べて分解経路が比較的容易で、脂肪酸代謝異常症の患者でもエネルギー源として利用しやすいことが特徴です。

MCTオイルを日常の食事に取り入れると、グルコースやタンパク質を過度に消費せずにエネルギー補給ができ、病型によっては、MCT製剤を処方する場合があり、栄養管理の一環として取り入れると効果的とされています。

低血糖時の緊急対応

脂肪酸代謝異常症を持つ人が低血糖症状を起こした場合には、ブドウ糖の経口摂取やブドウ糖点滴などで速やかに血糖値を回復させる対応が求められます。

医師や看護師の指導のもと、ブドウ糖ジェルやスポーツドリンクを常備するなど、緊急時の対処法をあらかじめ確認しておくと安心です。

低血糖の危険がある幼児の場合は、保育園や幼稚園、学校などにも状況を説明し、迅速に対応してもらえるよう周知しておくことが望ましいです。

治療手段の全体像

  • 食事療法と栄養バランスの調整
  • 適度なカルニチン補充
  • MCTオイルなど消化・吸収しやすいエネルギー源の利用
  • 急性期には低血糖への緊急対応

患者の年齢や病型、生活スタイルによって組み合わせが変わるため、専門医と十分に相談しながら治療計画を立てると治療効果を期待しやすくなります。

治療期間

脂肪酸代謝異常症は遺伝的要因が背景にあり、一度確定診断が下された場合には、基本的に長期的な管理が必要になります。

急性期の症状が落ち着いた後でも、再び体調を崩すことで症状が顕在化するケースもあるため、日常生活での予防策や定期的なフォローアップが重要です。

乳幼児期から始まる長期管理

乳幼児期に診断された場合、成長段階ごとに必要なエネルギー量や代謝の状態が変化するため、治療方針も適宜アップデートしていく必要があります。

離乳食の段階から食事療法を意識し、小児期には運動量の増加を考慮して、カルニチン補充やMCTオイルの使用量を調整するなどの管理を行います。思春期に至るまで、定期的な血液検査や栄養指導でフォローアップすることが基本です。

成長段階と主な管理ポイント

成長段階管理の重点フォローアップ内容
乳児期低血糖の早期発見こまめな授乳、血糖測定
幼児期バランスの良い食事MCTオイルの利用、適切なカロリー摂取
学童期運動時の注意血液検査での筋逸脱酵素の確認
思春期ライフスタイル変化部活動や進学などによる生活リズム調整

成人期の継続的な注意

成人期に達しても、脂肪酸代謝異常症の傾向がある人はストレスや長時間の空腹、ハードな運動によって低血糖発作を起こす可能性があります。

就職や結婚、妊娠・出産など、環境の変化が大きい時期には、エネルギー需要も変動しやすいため、定期的な検査を受けて代謝状態を確認しつつ、治療を継続することが重要です。

特に女性の場合、妊娠中や授乳期のエネルギー需要が高まるため、症状を悪化させないように栄養管理が求められます。

急性期・発作時の管理

大きな手術や感染症などで急性期に症状が悪化したときには、入院加療でブドウ糖の持続点滴や電解質補正などを行うことがあり、一時的に強化した管理を実施し、体調が安定した後は再び日常的な食事療法や内服治療に戻ります。

どの病型でも、急性期の治療を適切に乗り越えることが、その後のQOL(生活の質)維持に直結します。

経過観察の重要性

脂肪酸代謝異常症は一度完治するといった類の疾患ではなく、体質的な問題として一生付き合う可能性があります。

定期受診や血液検査、必要に応じた遺伝カウンセリングなどを継続して受けるとともに、生活習慣を工夫しながら合併症の予防に努めることが求められます。

少なくとも年に数回は専門医やかかりつけ医を訪れ、状態を確認してもらいながら治療方針をアップデートすることが望ましいです。

日常生活での管理をスムーズにする方法

  • 夜間の低血糖リスクを避けるため、寝る前に軽い炭水化物を摂る
  • 運動前に糖質補給を意識して血糖値の維持に努める
  • 発熱時や病気のときは早めに医師に相談し、栄養摂取量を増やす
  • 定期的な血液検査でケトン体やアシルカルニチンをチェックする

長期にわたって治療や管理を続けるからこそ、患者さんや家族、医療スタッフが連携し合いながら、より良い日常生活を送れます。

脂肪酸代謝異常症薬の副作用や治療のデメリットについて

脂肪酸代謝異常症の治療では、食事療法、サプリメント、薬物療法などさまざまなアプローチを組み合わせることがあります。

しかし、薬物治療には副作用が伴う可能性があり、また生活習慣の制限や経済的負担など、治療そのものに伴うデメリットを考慮する必要もあります。

カルニチン補充療法の副作用

カルニチンサプリメントは比較的安全性が高いとされていますが、まれに胃腸障害(下痢や腹痛)や体臭の変化を訴える人もいます。

用量が過剰になると、まれに不整脈や血圧変動などを起こす可能性があるため、医師から処方された範囲を守ることが大切です。サプリメントの濃度や製品によって成分含有量が異なるため、自己判断で大量に摂取するのは避けてください。

カルニチン補充療法で報告される主な副作用

副作用症状の例対策
胃腸障害下痢、腹痛、吐き気服用量の調整、食後投与
体臭の変化魚のような体臭一時的に用量を減らす
血圧変動めまい、動悸定期的な血圧測定、医師との相談

食事療法による生活上の負担

極端な食事制限ではありませんが、夜間の長時間絶食を避けるために夜食をとるなど、ライフスタイルの調整が必要です。社会人であれば仕事の都合で食事のタイミングを確保しづらいこともあり、日常生活での負担を感じる場合があります。

また、MCTオイルを使ったレシピや高炭水化物食のメニュー開発など、一時的に食事準備の手間が増えるので、家族や周囲の理解を得ながら、調整していくことが望ましいです。

薬物相互作用の懸念

もし脂肪酸代謝異常症以外の病気で別の薬を服用している場合、カルニチン製剤やMCT製剤などとの相互作用が起きることもゼロではありません。

抗けいれん薬や心臓病の治療薬、ステロイド剤などを使用している人は、医師に相談して薬物相互作用の有無を確認しながら治療を進めることが重要です。

自己判断で服用を中断したり、新しい薬を加えたりすると、予期せぬ症状の悪化を招くリスクがあります。

脂肪酸代謝異常症の保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

診断時の検査費用

初期段階では血液検査や尿検査が中心となり、これらは保険適用後の自己負担額がおおよそ1,000〜3,000円ほどになることが多いです。

ただし、アシルカルニチンプロファイルや有機酸分析、さらに遺伝子検査など特殊な検査を組み合わせる場合、保険適用であっても検査の総額が10,000〜30,000円程度になることもあります。

検査項目保険適用後の費用目安目的
一般血液検査約1,000〜2,000円血糖値、肝機能、腎機能の評価
アシルカルニチン約2,000〜5,000円脂肪酸代謝の異常パターンを推定
有機酸分析約3,000〜8,000円尿中の異常代謝産物を検出
遺伝子検査約10,000〜30,000円原因遺伝子の特定

薬物療法やサプリメント費用

カルニチン補充療法に使用されるL-カルニチン製剤は、健康保険で処方される場合、1か月あたりの自己負担額がおおむね1,000〜3,000円程度です。

MCT製剤や他の特殊調整薬も保険適用となるケースが多いですが、保険点数が異なるため実際の費用は処方量や医療機関によって差が出ます。

また、市販のMCTオイルやサプリメントを使う場合は、保険が使えないので自己負担となり、数千円〜1万円以上のコストがかかります。

入院治療や急性期対応の費用

低血糖が重症化して意識障害やけいれんが起きた場合には、救急搬送や入院が必要です。入院治点滴集中管理などを含めて費用がかさむことがあり、保険適用後でも数万円〜十数万円程度の自己負担が発生する場合があります。

継続的な外来通院と経済的負担

脂肪酸代謝異常症は長期にわたり定期受診が必要となるため、外来の通院費も考慮しなければなりません。検査の頻度が高い時期は、1か月あたり数千円〜1万円程度の医療費がかかります。

症状が安定して検査頻度が下がれば費用負担も軽減する傾向がありますが、治療や検査を自己判断で中断すると重症化する恐れがあるため、医師の指示を守った通院が大切です。

以上

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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