寝ている時も膝が痛む「夜間痛」の原因|睡眠を妨げる炎症と骨内圧の上昇

寝ている時も膝が痛む「夜間痛」の原因|睡眠を妨げる炎症と骨内圧の上昇

変形性膝関節症に伴う夜間痛は、関節内の慢性的な炎症物質の停滞と、骨の深部で生じる骨内圧の上昇が重なり合うことで発生します。

日中の負担が解消されず組織が熱を持つ状態では、安静にしていても痛みが増幅し、深い睡眠を阻害する深刻な問題となります。

この記事では、なぜ寝ている間に痛みが出るのかという根源的な理由を解き明かし、静かな夜を取り戻すための具体的な知識を提供します。

目次

夜間痛が発生する根本的な仕組みと変形性膝関節症の関係

夜間痛は日中の活動によって生じた関節組織の微細な損傷が修復されず、炎症物質が関節内に停滞し続けるために発生します。

本来、睡眠は組織の回復時間ですが、変形性膝関節症が進行すると、この回復機能が炎症の勢いに追いつかなくなります。

関節内の老廃物が排出されない滞留現象

健康な膝関節では、関節液が循環することで組織に栄養を運び、不要な老廃物を運び出しています。

変形が進むと、このポンプ機能が低下し、炎症に伴って発生した化学物質が膝の内部に溜まったままになります。

特に就寝中は身体を動かさないため、重力の作用も加わって炎症物質が膝の裏側や隙間に密集します。

この蓄積された刺激物質が、夜間の静かな時間帯に感覚神経を鋭く刺激し、不快な疼きを作り出します。

神経の過敏化を招く持続的な刺激

関節包を包む滑膜という組織には、痛みを感じる受容体が豊富に存在しています。

炎症が慢性化すると、これらの受容体が常に興奮状態となり、通常では痛みを感じない程度の刺激でも激痛として脳へ伝わります。

夜間は日中の騒音や視覚情報といった外部刺激が激減します。そのため、脳が膝からの信号に意識を集中させてしまい、痛みの感覚が日中よりも増幅されて感じられるのです。

筋肉の緊張と関節内圧の関係

痛みに対する防御反応として、膝の周囲にある筋肉は無意識のうちに硬く緊張しています。筋肉が強張ると関節同士の隙間がさらに狭まり、関節内部の圧力が高まります。

横になって身体を休めているつもりでも、内側では筋肉が関節を締め付け続けている状態です。この持続的な圧迫が組織の酸欠を招き、さらなる痛みの物質を放出させる悪循環を生んでいます。

膝の状態と夜間の症状変化

進行状況痛みの現れ方睡眠への影響
初期段階特定の姿勢で疼く寝入りに時間がかかる
中期段階寝返りで鋭く痛む夜中に数回目が覚める
進行段階常にズキズキ痛む熟睡できず疲労が残る

滑膜の炎症が睡眠中に痛みを増強させる理由

滑膜炎による関節液の過剰分泌は、関節包の内側から組織を強く押し広げ、神経を過敏にさせる直接的な要因となります。

滑膜が炎症を起こすと、膝の中に「水が溜まる」状態になりますが、この水分そのものが圧迫による痛みを生み出します。

プロスタグランジンによる発熱と痛み

炎症が起きている現場では、プロスタグランジンという物質が大量に作られています。この物質は痛みのセンサーを敏感にするだけでなく、血管を広げて熱を持たせる作用があります。

布団に入って身体が温まると、さらに血管が拡張して炎症が活性化します。ズキズキとした拍動性の痛みは、血管の動きが過敏になった神経に直接響いている現象です。

滑膜の肥厚による物理的な干渉

繰り返される炎症によって、滑膜自体が分厚く、硬く変化していきます。肥厚した組織は関節内のスペースを圧迫し、わずかな脚の動きでも組織同士が擦れ合うようになります。

寝返りを打つ際、この硬くなった滑膜が関節に挟み込まれると、火花が散るような鋭い痛みが走ります。この物理的な刺激は、深い眠りを一瞬で妨げるほどの強度を持っています。

夜間の免疫活動と痛みの関係

私たちの身体は、寝ている間に免疫システムを活性化させて傷んだ組織の修復を試みます。この修復過程において放出される成分が、皮肉にも一時的に痛みを強くさせる場合があります。

深夜から早朝にかけて炎症反応がピークに達するのは、身体が懸命に治そうとしている証拠でもあります。

この時間帯に痛みが集中するのは、組織の代謝が活発になっている生理的なリズムも影響しています。

滑膜の健康を守るための意識

  • 膝を捻るような急な動作を控える
  • 腫れが強い時期は長風呂を避ける
  • 適切な安静と適度な運動を両立する

骨内圧の上昇による激しい痛みと骨の代謝異常

骨の内部に圧力が溜まる骨内圧の上昇は、拍動を伴う深い重苦しい痛みを引き起こし、睡眠の質を著しく下げます。

軟骨が磨り減って骨同士が直接ぶつかるようになると、骨の深部にある骨髄という組織に大きなストレスがかかります。

骨髄浮腫という骨の「むくみ」現象

強い荷重や衝撃が繰り返されると、骨の内部に水分が溜まる骨髄浮腫という状態になります。骨は硬い殻に覆われた閉鎖空間であるため、溜まった水分の逃げ場がどこにもありません。

内圧が高まった骨髄内では、細い神経や血管が常に押し潰されています。この逃げ場のない圧力が、じっとしていても疼くような、深い場所からの痛みの正体です。

静脈の還流障害と骨内のうっ血

骨から心臓へ戻るべき血液の流れが滞ると、骨の中に古い血液が停滞してうっ血が起こります。夜間に身体を横にしても、このうっ血が解消されない限り、不快な拍動感は消えません。

うっ血状態の骨内部は酸素が不足し、酸性度が上がっています。この化学的な環境の変化が、痛みの受容体を刺激し続け、安眠を妨げる持続的な苦痛を生み出しています。

骨棘形成に向けた異常な代謝活動

負荷に耐えようとして骨がトゲのように増殖する骨棘ができる際、骨の周囲では非常に活発な細胞活動が起きています。

この活動期には血管が新生され、多くの血液が流れ込むことで内圧が変動しやすくなります。

夜間にズキズキと疼く痛みは、まさにこの骨の変形プロセスが進行しているサインでもあります。単なる筋肉痛とは異なる、この深部の痛みこそが変形性膝関節症に特有の悩みと言えます。

骨内圧に関連する痛みを見分ける基準

特徴症状の現れ方対策の考え方
痛みの深さ骨の芯が疼く感覚体重負荷の徹底的な軽減
リズム心拍に合わせた疼き下肢を高くして挙上する
動作影響動かさなくても痛い専門的な医師の診断

夜間の冷えや血行不良が膝のコンディションに与える影響

冷えは血管を急激に収縮させ、痛み物質の排出を妨げるため、膝のコンディションを著しく悪化させます。

気温が下がる夜間から明け方は、最も血行が滞りやすい時間帯であり、痛みの感度が鋭くなる環境が整ってしまいます。

血管収縮による酸素不足と痛み物質の蓄積

膝が冷えると周囲の細い血管が閉じ、新鮮な酸素を含んだ血液が届きにくくなります。酸素不足に陥った組織は、悲鳴を上げるように痛みの物質をさらに放出し始めます。

排出されるべき老廃物もその場に留まってしまうため、痛みの濃度がどんどん濃くなっていきます。冷えた膝を温めると痛みが和らぐのは、血管が再び開いて、これらの物質が押し流されるからです。

組織の硬化と動作時の摩擦増大

低温環境下では、筋肉や靭帯などの軟部組織は柔軟性を失い、ゴムのように硬くなります。硬くなった組織は、寝返りなどのわずかな動きに対して柔軟に追従できません。

遊びがなくなった関節内部では、組織同士が強く擦れ合い、微細な炎症を新たに引き起こします。

朝起きた時に膝がガチガチに固まっている感覚は、夜間の冷えによる組織の硬化を物語っています。

明け方の低温ピークが招く激痛

一日の中で最も気温が下がる明け方は、自律神経の働きによって血管も収縮しやすくなっています。この冷えのピークに合わせて、膝内部の炎症反応が敏感に反応します。

深い眠りから痛みで引き戻されるのは、体温の低下とともに組織の耐性が限界を超えるためです。

就寝中の保温管理は、単なる寒さ対策ではなく、痛みの発生を防ぐための重要な戦略となります。

部位別の冷え対策と期待できる変化

対策部位具体的な方法得られる変化
膝関節全体厚手のサポーター着用組織の柔軟性維持
足首・足先レッグウォーマー還流血液の温度低下防止
太もも保温性の高いインナー筋肉の強張りを防ぐ

睡眠の質を低下させる膝の痛みへの具体的な対処法

膝を軽く曲げた状態で支える正しいポジショニングを整える取り組みが、関節内の圧力を最も低く保つ秘訣です。

痛みを力技で我慢するのではなく、物理的な環境を調整すると、組織へのストレスを逃がすことが可能です。

仰向け時のクッション活用の重要性

膝が完全に伸び切った状態で仰向けになると、関節包が前後に引き伸ばされて緊張が高まります。

膝の裏に柔らかいクッションや丸めたタオルを置き、20度から30度ほど曲げた状態を作ってください。

この角度は関節内部のスペースが最も広がり、内圧が下がりやすいポジションとして知られています。筋肉もリラックスしやすくなるため、酸欠による疼きを抑える効果が期待できます。

横向き寝での脚の間の支え

横向きで寝る場合、上の脚の重みが膝を押し下げ、関節に捻じれの力を加えてしまいます。両膝の間にボリュームのある枕を挟むと、骨盤から膝にかけてのラインを平行に保てます。

この調整により、膝の横側の靭帯にかかる負担が大幅に軽減され、就寝中の安定感が増します。寝返りを打つ際もクッションを挟んだままにすると、急激な捻れによる痛みを防げます。

寝具の重みから膝を解放する工夫

重い冬用の布団などは、寝ている間に足首を押し下げ、膝のお皿部分を強く圧迫する場合があります。

軽量な羽毛布団を選ぶか、膝の上に布団の重みが直接乗らないように工夫しましょう。

足元の布団を少し浮かせるように設置するだけでも、膝にかかる物理的な圧力は大きく変わります。些細な重さの積み重ねが、夜間の深い疼きを誘発しているケースは少なくありません。

安眠を確保するためのポジショニングの要点

  • 膝を「ピン」と伸ばしたままにしない
  • 脚の重みが一点に集中しないよう面で支える
  • 寝姿勢を変えても支えが外れないようにする

日常生活で意識すべき膝への負担を減らす動作の工夫

夜間の痛みは日中の活動の総和であるため、一日の動作の中でいかに膝に「貸し」を作らないかが鍵となります。

何気ない立ち上がりや歩行の蓄積が、夜になって炎症の火種となって燃え上がることを忘れてはいけません。

椅子の立ち上がりと重心の移動

椅子から立ち上がる際、いきなり膝の力だけで身体を押し上げようとすると、一瞬で強い内圧が発生します。

まずは深くお辞儀をするように上体を前に倒し、重心を足元に移動させてから立ち上がってください。この予備動作を挟むと、大腿四頭筋の過剰な収縮を抑え、関節への衝撃を分散できます。

手すりがある場合は腕の力を使い、全身の力を調和させることが、夜間の炎症悪化を防ぐ第一歩です。

階段での足運びと衝撃のコントロール

階段の昇り降りは膝にとって最大の試練ですが、足運びのルールを守ることで負担を劇的に変えられます。

昇る時は元気な方の脚から出し、降りる時は痛みのある方の脚から出すように意識しましょう。

降りる動作は特に膝への負担が大きいため、一段ずつ両足を揃えて進む「カニ歩き」のような方法も有効です。

膝を深く曲げすぎないよう細心の注意を払うと、滑膜への物理的な刺激を最小限に留められます。

歩行時間の細分化と計画的な休息

一万歩をまとめて歩くような無理な運動は、変形性膝関節症の組織にとっては破壊行為になりかねません。

短距離の歩行と、座って膝を休める時間を交互に繰り返す「インターバル形式」を推奨します。

膝が熱を持ち始める前に休息を挟むことで、炎症物質の過剰な生成を食い止められます。

日中の火種を小さく抑えることこそが、夜間に疼きで悩まされないための最も確実な防衛策です。

生活の中で膝を守る具体的習慣

場面避けたい動作推奨される動作
外出時柔らかすぎる靴で歩くクッション性の高い靴を選ぶ
家事重い荷物を持って移動キャスター付きの台を活用
起床時布団から急に飛び起きる足首を動かし循環を高めてから

専門機関での診察が必要な痛みのサインと判断基準

セルフケアで改善が見られない夜間痛が続く場合は、病状が急激に進行している可能性を考慮する必要があります。

単なる老化現象と片付けず、適切な医療介入を受けることが、将来の自由な歩行能力を維持するための分かれ道となります。

痛みの強さと持続期間による判断

一晩中ずっと疼きが消えず、一週間以上にわたって満足な睡眠が取れない状況は、もはや黄色信号です。

特に、安静にしているのに痛みが強まっていく場合は、強力な滑膜炎や骨髄浮腫が進行している恐れがあります。

睡眠不足は痛みの閾値を下げ、さらに苦痛を強く感じさせる心理的な悪影響も及ぼします。

心身が疲弊しきる前に専門医の門を叩き、炎症を強制的に鎮める治療を検討する時期と言えます。

膝の外見的な変化に伴う緊急性

膝の皿が見えなくなるほどパンパンに腫れている、あるいは皮膚が赤く熱を持っている場合は要注意です。

変形性膝関節症の悪化だけでなく、偽痛風や化膿性関節炎といった他の疾患が隠れているケースもあります。

これらの疾患は進行が非常に早く、放置すると数日で関節組織が取り返しのつかないダメージを受けます。明らかな異常を視覚的に確認できたなら、迷わず受診を優先させる決断が必要となります。

保存療法の限界と新しい選択肢

これまでの湿布や飲み薬だけでは夜間痛を制御しきれない場合、治療のフェーズを上げる必要があります。

再生医療や、痛みを伝える神経に働きかける専門的な治療など、選択肢は広がっています。

今の痛みが、既存の治療の枠内で対応可能なのかをプロの視点で見極めてもらうことが大切です。専門医との対話を通じて、自分の生活スタイルに合った前向きな解決策を模索していきましょう。

医師への相談を検討すべき基準

状態具体的な様子危険度
睡眠障害痛みで毎晩目が覚める
外見の変化異常な腫れや赤みがある極めて高
薬の無効市販の鎮痛剤が効かない

よくある質問

膝が痛くて眠れない時、無理にでも脚を伸ばした方が良いですか?

無理に脚を真っ直ぐ伸ばす必要はありません。むしろ、少し膝を曲げた方が関節内の圧力が下がり、痛みが和らぐケースが多いです。

自分が最も楽だと感じる角度を探し、そこにクッションを入れて固定してください。無理なストレッチは夜間の炎症を悪化させる原因になるため、安静を第一に考えましょう。

冷やすのと温めるの、どちらが夜間痛に効きますか?

膝に熱感があってズキズキと拍動するような痛みがある時は、一時的に冷やすと炎症を鎮められます。

一方で、冷えによって強まる重だるい痛みには、保温して血行を良くすると効果的です。

その時の痛みの質に合わせて使い分けるのが正解ですが、判断に迷う場合は「心地よいと感じる方」を選んでください。

夜間の疼きがある日は、お風呂で膝を揉んでも大丈夫ですか?

強い炎症が起きている時に膝を直接揉んだりマッサージしたりするのは控えてください。刺激によって炎症物質がさらに広がり、入浴後の痛みが激しくなるリスクがあります。

お風呂ではお湯に浸かってリラックスするに留め、マッサージをするなら膝そのものではなく、太ももやふくらはぎを優しく撫でる程度にしましょう。

市販のサポーターをつけたまま寝るのは問題ありませんか?

保温目的でのサポーター使用は有効ですが、締め付けが強すぎるものは避けてください。就寝中に血流を阻害してしまうと、逆効果になって痛みが増す場合があります。

寝る時は就寝専用のゆったりしたものを選ぶか、レッグウォーマーのように膝を優しく包み込むタイプを活用するのが賢明な判断です。

参考文献

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この記事を書いた人

臼井 大記のアバター 臼井 大記 大垣中央病院 整形外科・麻酔科 担当医師

日本整形外科学会認定専門医

2009年に帝京大学医学部医学科卒業後、厚生中央病院に勤務。東京医大病院麻酔科に入局後、カンボジアSun International Clinicに従事し、ノースウェスタン大学にて学位取得(修士)。帰国後、岐阜大学附属病院、高山赤十字病院、岐阜総合医療センター、岐阜赤十字病院で整形外科医として勤務。2023年4月より大垣中央病院に入職、整形外科・麻酔科の担当医を務める。

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