なぜ歳をとると膝の変形が進むのか|軟骨の水分量減少とプロテオグリカンの劣化

年齢を重ねるにつれて、以前のように軽やかに歩けなくなったり、ふとした瞬間に膝に違和感を覚えたりすることは、多くの方が経験する切実な悩みです。

年齢とともに膝の痛みに悩む方が増える根本的な原因は、関節軟骨の「脱水」と「弾力低下」にあります。軟骨の約80%を占める水分は、加齢により徐々に失われ、衝撃を吸収するクッション機能が低下してしまいます。

この水分維持を担っているのがプロテオグリカンという物質ですが、これも加齢とともに構造が壊れ、質が劣化します。

本記事では、この記事では、なぜ膝の変形が進行してしまうのか、その根本的な原因である「軟骨内の水分」と「プロテオグリカン」の変化に焦点を当てて解説します。

目次

膝軟骨の構造と役割

膝軟骨は、水分とコラーゲン、プロテオグリカンが絶妙なバランスで組み合わさり、体重の数倍もの衝撃を吸収する高性能なクッションとして機能しています。

軟骨を構成する主要な成分

膝の関節を覆う硝子軟骨(しょうしなんこつ)は、非常に滑らかで弾力性に富んだ組織です。驚くべきことに、軟骨には血管や神経が通っておらず、一度損傷すると自然修復が難しいという特性を持っています。

この軟骨組織は、主に水分、コラーゲン、そしてプロテオグリカンという3つの要素で構成されています。これらが互いに密接に関わり合うことで、初めて関節としての機能を発揮するのです。

水分は軟骨の重量の約70%から80%を占め、残りの固形成分をコラーゲンとプロテオグリカンが形成します。コラーゲンは網目状の強固なフレームワークを作り、その網目の間を埋めるようにプロテオグリカンが存在しています。

この構造は、鉄筋コンクリートの建物によく例えられます。コラーゲンが鉄筋として骨組みを支え、プロテオグリカンと水分を含んだ基質がコンクリートとして衝撃を受け止める構造になっています。

軟骨成分の役割と特徴

成分名主な役割構造的特徴
水分衝撃の分散と栄養の運搬軟骨重量の約80%を占める
コラーゲン組織の骨組みと強度の維持網目状の繊維構造を作る
プロテオグリカン水分の保持と弾力の提供ブラシ状の構造で水を抱え込む

それぞれの成分が欠けることなく、適切なバランスで存在して初めて、膝軟骨は機能します。体重の何倍もの負荷に耐え、スムーズな歩行を可能にするためには、この3つの要素が揃っていることが不可欠なのです。

水分が果たす衝撃吸収機能

軟骨内に豊富に含まれる水分は、単に湿り気を与えているだけではありません。歩行時や走行時に膝にかかる強大な圧力を、流体力学的に分散させる重要な役割を担っています。

体重がかかると、軟骨内の水分がコラーゲンの網目を通ってゆっくりと移動します。水が移動することで圧力を一点に集中させず、軟骨全体で負荷を受け止めるように働いているのです。

この水分の移動は、スポンジを水に浸した状態を想像すると理解しやすくなります。水を含んだスポンジを押すと水がじわりと染み出し、手を離すとまた水を吸い込んで元の形に戻ります。

膝軟骨も同様に、荷重がかかると水分を放出して変形し衝撃を逃がします。そして、荷重がなくなると再び水分を取り込んで元の厚みに戻るというポンプ作用を繰り返しています。

プロテオグリカンの保水力

水分を軟骨内に留めておくために必要な物質がプロテオグリカンです。プロテオグリカンは、コアタンパク質と呼ばれる芯に、グリコサミノグリカンがブラシの毛のように多数結合した構造をしています。

この形状はよく「試験管洗いブラシ」に例えられます。グリコサミノグリカンは強いマイナスの電気を帯びているため、互いに反発し合いながら大きく広がる性質を持っています。

この広がった空間に、プラスの電気を持つ水分子を大量に引き寄せ、抱え込みます。プロテオグリカンが存在することで、軟骨は自身の体積の何倍もの水分を保持し、パンパンに張ったタイヤのような弾力を維持できるのです。

加齢に伴う軟骨内水分の減少理由

軟骨細胞の代謝機能低下やマトリックス合成能力の衰えにより、軟骨は水分を保持できなくなり、徐々に乾燥して硬化していきます。

軟骨細胞の代謝機能の変化

軟骨の中には「軟骨細胞」という生きた細胞が点在しています。この細胞は、コラーゲンやプロテオグリカンといった軟骨の成分を新しく作り出し、古くなったものを分解するという代謝を行っています。

若い頃はこの代謝のバランスが保たれており、常に新鮮で弾力のある軟骨が維持されています。しかし、加齢とともに軟骨細胞自体の活力が失われ、その数も徐々に減少していくことが分かっています。

細胞数が減ると、新しい成分を作り出す能力が低下する一方で、分解する働きの方が優位になる傾向があります。その結果、水分を保持するための物質が十分に供給されなくなり、軟骨全体の質が低下し始めるのです。

マトリックス合成能力の低下

軟骨細胞が作り出す細胞外マトリックス(コラーゲンやプロテオグリカンなどの基質)の質も変化します。年齢が進むと、新しく合成されるプロテオグリカンの分子サイズが小さくなったり、構造が不完全になったりします。

不完全なプロテオグリカンは、十分な量の水分を抱え込むことができません。また、コラーゲンの網目構造との結びつきも弱くなるため、組織の中に留まる力が弱まってしまいます。

正常なマトリックス合成が行われないことは、保水タンクの容量そのものが小さくなってしまうことを意味します。結果として、軟骨は脱水状態に近い、弾力のない硬い組織へと変化していくことになるのです。

  • 加齢により軟骨細胞の数が減少し代謝が落ちる
  • 新しく作られるプロテオグリカンの質が低下する
  • 保水タンクの容量が減り、脱水状態が進む

浸透圧調整機能の衰え

軟骨が水分を取り込む力は、組織内の浸透圧によって制御されています。プロテオグリカンが持つマイナス電荷がナトリウムイオンなどを引き寄せ、その濃度差によって水が引き込まれるドナン効果という仕組みです。

加齢によりプロテオグリカンの質と量が低下すると、このマイナス電荷の総量が減ります。すると、組織内の浸透圧が下がり、外部から水分を強力に引き込む力が弱まってしまいます。

一度水分が外へ出た後、再び戻ろうとする力が働かなくなるため、軟骨は徐々に薄くなります。この物理化学的なバランスの崩壊が、変形性膝関節症の初期段階で静かに進行している現象なのです。

年齢による軟骨状態の変化

年代・状態水分含有率物理的特性
若年層(健康)約80%厚みがあり弾力性に富む
中年層(初期)70%〜75%表面が毛羽立ち硬くなる
高齢層(進行)70%未満薄く硬化しひび割れる

プロテオグリカンの劣化と断片化

加齢やストレスによりプロテオグリカンが分解・断片化されると、軟骨内に留まれなくなり関節液へ流出することで、軟骨のスカスカ状態が加速します。

分子構造の切断と流出

プロテオグリカンは、ヒアルロン酸という長い鎖に結合して巨大な複合体を形成し、コラーゲンの網目の中に留まっています。しかし、加齢や過度な機械的ストレスがかかると、この結合部分が切断されることがあります。

また、プロテオグリカン自体の芯となるタンパク質が分解されることもあります。細かく切断されたプロテオグリカンの断片は、もはやコラーゲンの網目に引っかかることができません。

その結果、断片化したプロテオグリカンは関節液の中へと流出してしまいます。一度関節液に漏れ出したプロテオグリカンは、二度と軟骨の中に戻ることはなく、組織の中から保水成分が物理的に失われていくのです。

酵素活性のバランス崩壊

私たちの体内には、組織を新陳代謝させるために、古い成分を分解する酵素が存在します。代表的なものがMMP(マトリックスメタロプロテアーゼ)やADAMTSといった分解酵素群です。

健康な状態では、これらの酵素の働きは厳密に制御されています。しかし、加齢や炎症反応が起きると、これらの分解酵素が過剰に活性化し、制御が効かなくなることがあります。

必要以上にプロテオグリカンやコラーゲンを攻撃し、分解してしまうのです。「分解する力」が「守る力」を上回り暴走することが、急速な軟骨劣化の大きな要因となっています。

グリコサミノグリカン鎖の短縮

プロテオグリカンのブラシ部分であるグリコサミノグリカン(コンドロイチン硫酸など)の鎖の長さも変化します。加齢とともに、この鎖が短くなる傾向があることが研究で明らかになっています。

ブラシの毛が短くなれば、それだけ水を捉える表面積が減ることになります。また、硫酸基の位置や量といった化学的な組成も変化し、水を保持する能力が質的に低下します。

量はあっても質が悪い、あるいは鎖が短くて機能しないプロテオグリカンが増えてしまいます。これにより、軟骨は見かけ上の体積を維持していても、機能的には非常に脆い状態へと陥っていくのです。

摩擦増大と炎症の悪循環

滑らかさを失った軟骨同士の摩擦が微細な摩耗粉を生み、それが滑膜を刺激して炎症を引き起こすことで、さらなる軟骨破壊が進む負のスパイラルに陥ります。

軟骨表面の摩耗と微細な損傷

健康な軟骨の表面は、氷の上を滑るよりも摩擦係数が低いと言われるほど滑らかです。しかし、水分が減り弾力が失われると、関節の動きに伴って表面が直接擦れ合うようになります。

これにより、軟骨の表面が毛羽立ったり、ささくれ立ったりする「細線化」という現象が起きます。表面が荒れると、動かすたびに摩擦抵抗が大きくなり、まるでサンドペーパーで擦り合わせるような状態になります。

摩耗は加速度的に進行し、削れ落ちた微細な軟骨の破片が生じます。この破片は関節包の中を漂い、身体にとっての「異物」となり、次なるトラブルの引き金となるのです。

滑膜炎の発生と進行

関節を包んでいる滑膜(かつまく)という組織は、関節液を分泌する役割を持っています。軟骨の摩耗粉が関節液中に漂うと、滑膜はこれを異物として認識し、排除しようとして炎症反応を起こします。

これが滑膜炎と呼ばれる状態です。滑膜炎が起きると、炎症性サイトカインという物質が大量に放出され、痛みを感じさせる原因となります。

さらに厄介なことに、このサイトカインは軟骨分解酵素の産生を促進させる命令を出します。「軟骨が削れる」→「炎症が起きる」→「分解酵素が増える」→「さらに軟骨が脆くなる」という悪循環が完成してしまうのです。

変形進行のフェーズ

段階軟骨の状態関節内の現象
初期表面の毛羽立ち摩擦がわずかに増加する
中期すり減りと亀裂摩耗粉により滑膜炎が発生
末期軟骨の消失骨同士が直接接触し変形

骨棘形成による関節の変形

軟骨がすり減り、クッション機能が失われると、骨に直接的な荷重がかかるようになります。骨は過剰な負担を感じると、荷重を支える面積を広げて圧力を分散させようとする防御反応を示します。

その結果、骨の端がトゲのように増殖し、「骨棘(こつきょく)」が形成されます。骨棘ができること自体は身体の適応反応ですが、これによって関節の形が変わってしまいます。

変形が進むと可動域が制限されたり、周囲の神経や組織を刺激して痛みを引き起こしたりします。O脚変形などが進むのも、内側の軟骨が消失し、骨自体が変形・硬化していく過程の結果なのです。

劣化を加速させる生活習慣要因

肥満や筋力低下、栄養の偏りといった日々の生活習慣が、膝への物理的負荷と炎症リスクを高め、軟骨の劣化スピードを早める大きな要因となります。

過剰な体重負荷と力学的ストレス

膝は歩行時に体重の約3倍、階段の昇降時には約7倍もの負荷がかかると言われています。体重が1キロ増えるだけで、膝への負担はその数倍に跳ね上がることになります。

持続的な過重負荷は、軟骨細胞に常に高い圧力をかけ続けることになり、細胞を疲弊させます。また、重い荷物を持つ仕事や、しゃがみ込みの多い作業も、軟骨内の水分移動を阻害します。

適切な休息を与えず、常に圧縮し続けることは、スポンジから水を絞り出し続ける行為に似ています。やがてスポンジそのものが弾力を失い、潰れてしまうのと同様に、軟骨も物理的に破壊されていくのです。

筋力低下による衝撃吸収不足

太ももの前側にある大腿四頭筋などの筋肉は、膝関節にかかる衝撃を吸収する天然のサポーターです。運動不足や加齢によってこれらの筋力が低下すると、着地の衝撃を筋肉で受け止めることができなくなります。

衝撃はダイレクトに軟骨と骨へ伝わり、組織へのダメージを蓄積させます。また、筋肉が弱ると関節の安定性も失われ、歩くたびに膝が横揺れするようになります。

この横方向へのズレやブレは、軟骨に対して「せん断力(横に引きちぎる力)」として働きます。せん断力は、垂直方向の圧力以上にプロテオグリカンのネットワークを破壊する強力な要因となるのです。

  • 体重増加は膝への負荷を数倍に増幅させる
  • 筋力低下は衝撃を軟骨に直撃させる原因となる
  • 関節の横揺れは軟骨組織を引きちぎる力となる

栄養バランスの偏りと代謝不全

軟骨の材料となるコラーゲンやプロテオグリカンの合成には、適切な栄養素が必要です。タンパク質、ビタミンC、亜鉛などが不足した食生活では、軟骨細胞が修復材料を作ろうとしても原料不足に陥ります。

加えて、高血糖状態やメタボリックシンドロームは、体内に慢性的な炎症を引き起こすことが知られています。この全身性の微細な炎症は膝関節にも波及し、軟骨破壊酵素の活性を高める可能性があります。

膝の健康は、実は全身の代謝状態と密接にリンクしています。局所的なケアだけでなく、身体全体の栄養状態を見直すことも、軟骨を守るためには重要なのです。

変形性膝関節症の自覚症状の現れ方

初期の「動き始めのこわばり」から始まり、進行すると階段昇降時の痛みや関節水腫が現れるなど、軟骨の劣化レベルに応じて特有のサインが現れます。

動作開始時の違和感とこわばり

最も初期に現れる典型的な症状は「動き始め」の違和感です。朝起きてベッドから降りる際や、長時間椅子に座っていて立ち上がろうとした瞬間に、膝がこわばってスムーズに動かない感覚を覚えます。

これは、動かしていない間に軟骨への潤滑液の循環が滞り、一時的に摩擦が高まっているために起こります。少し歩いて動かすと関節液が循環し始め、違和感が消失するのが特徴です。

この「休むと固まる」感覚は、軟骨表面の潤滑機能が低下し始めている重要なアラートです。痛みがないからと放置せず、この段階でケアを始めることが将来の変形予防につながります。

階段昇降時や正座時の疼痛

変形が少し進むと、膝に高い負荷がかかる動作で痛みを感じるようになります。特に階段を降りる動作は、体重の数倍の力がかかるため、すり減った軟骨が耐えきれなくなります。

骨に近い部分の神経が刺激され、膝の奥に鈍い痛みを感じるようになります。また、正座やしゃがみ込みなど、膝を深く曲げる動作ができなくなるのも特徴的な症状です。

これは関節内の潤滑が悪くなっているだけでなく、関節包や周囲の筋肉が硬くなっている証拠でもあります。さらに骨棘が形成され始めると、物理的に可動域が制限され、深く曲げることが構造上困難になっていきます。

関節水腫と可動域制限

炎症が強くなると、いわゆる「膝に水が溜まる」状態になります。これは関節水腫と呼ばれ、炎症を抑えようとして滑膜から関節液が過剰に分泌される防御反応です。

膝全体が腫れぼったく、熱を持ち、なんとなく重だるさを感じることが多いです。水が溜まると関節内の圧力が上がり、膝を完全に伸ばすことも、深く曲げることも困難になります。

この段階まで来ると、軟骨の摩耗粉による炎症が常態化しています。プロテオグリカンの流出もかなり進行しており、専門的な治療が必要な状態であると言えます。

残存する軟骨機能を守るために

適度な運動による関節液の循環促進、筋肉による衝撃吸収の強化、そして生活環境の見直しを組み合わせることで、残っている軟骨の寿命を延ばすことが可能です。

関節内循環を促す適度な運動

軟骨には血管がないため、栄養は関節液から拡散によって取り込んでいます。この栄養交換を行うには、スポンジを揉むように、関節に適度な圧力をかけて動かす必要があります。

痛いからといって全く動かさないでいると、栄養が行き渡らず、かえって軟骨の劣化が進んでしまいます。重要なのは「過度な負荷をかけずに、回数を多く動かす」ことです。

水中ウォーキングや固定式自転車(エアロバイク)は、体重による負荷を減らしつつ運動ができる優れた方法です。リズミカルな運動は関節液の循環を促し、残っているプロテオグリカンへの栄養供給を助けます。

日常生活での膝保護対策

カテゴリ具体的なアクション期待される効果
運動習慣水中歩行、平地歩行関節液循環の促進と筋力維持
生活様式椅子・ベッドの使用深屈曲による内圧上昇の回避
フットケアインソールの活用着地衝撃の緩和とバランス補正

大腿四頭筋の強化と柔軟性向上

膝を守る最大の防御壁は筋肉です。特に太ももの前側の大腿四頭筋を鍛えることで、膝関節にかかる衝撃を筋肉が肩代わりしてくれます。

椅子に座ったまま脚を水平に伸ばしてキープする「脚上げ体操」などが有効です。関節面を擦り合わせずに筋肉だけを刺激する等尺性運動(アイソメトリック運動)は、膝への負担が少なく推奨されます。

同時に、太ももの裏側(ハムストリングス)やふくらはぎのストレッチを行い、筋肉の柔軟性を保つことも大切です。筋肉が硬いと関節の動きをロックしてしまい、結果的に軟骨への圧力を高めてしまうからです。

生活環境の見直しと装具の活用

日々の生活環境を「膝に優しい仕様」に変えることも有効な手段です。和式トイレを洋式に変える、床に座る生活から椅子中心の生活に変えるなど、膝を深く曲げる頻度を減らす工夫が必要です。

また、O脚傾向がある場合は、足底板(インソール)を使用して荷重ラインを修正することも効果的です。膝の内側一点にかかる圧力を分散させることで、特定の箇所の軟骨だけがすり減るのを防ぎます。

サポーターは冷えを防ぎ、安心感を与える効果があります。ただし、筋肉の代わりにはならないため、頼りすぎず運動と併用しながら上手に活用することが大切です。

よくある質問

軟骨の水分量減少やプロテオグリカンの劣化に関して、患者様から頻繁に寄せられる疑問について回答します。正しい知識を持つことが、不安の解消と適切な対策につながります。

すり減った軟骨は自然に再生しますか?

残念ながら、軟骨には血管が通っていないため、皮膚や骨のように自然に再生・修復される能力は極めて低いです。

一度深く損傷したり摩耗したりした軟骨が、自然経過で元の厚みに戻ることは基本的にありません。

だからこそ、今ある軟骨をいかに守り、進行を食い止めるかが治療とケアの最大の目的となります。

再生医療などの新しい選択肢も登場していますが、まずは保存療法で現在の機能を維持することが最優先されます。

ヒアルロン酸注射は水を増やす効果がありますか?

ヒアルロン酸注射は、減少・劣化した関節液の代わりに、粘りと弾力のある薬剤を補充する治療です。これにより関節の潤滑を良くし、軟骨表面を保護する効果が期待できます。

また、軽度の抗炎症作用もありますが、これは一時的な補充に過ぎません。

軟骨組織そのものの水分保持能力を恒久的に回復させるものではないため、効果を持続させるには定期的な投与が必要になります。

サプリメントでプロテオグリカンを補給できますか?

グルコサミンやコンドロイチン、プロテオグリカンを含むサプリメントは多く販売されています。

これらを摂取することで、成分の一部が軟骨の修復材料として利用される可能性については研究が続けられています。

しかし、食べたものがそのまま膝の軟骨になるわけではありません。

医学的なエビデンスレベルは限定的であり、あくまで栄養補助として捉え、過度な期待はせずにバランスの良い食事を基本とすることが大切です。

膝が痛くても歩いたほうが良いですか?

「痛み」の種類によります。急性期で熱を持って腫れている場合や、安静にしていてもズキズキ痛む場合は、無理に歩かず安静が必要です。

一方で、慢性期で「動かし始めは痛いが、動いていると楽になる」場合は、動かさないと逆に関節が固まってしまいます。

痛みの出ない範囲、あるいは翌日に痛みを持ち越さない範囲でのウォーキングは、筋力維持と軟骨への栄養供給のために推奨されます。

水をたくさん飲めば軟骨の水分は戻りますか?

水を多量に飲んでも、軟骨の水分量が直接的に増えるわけではありません。

軟骨の水分低下は、水不足ではなく、水を保持する「プロテオグリカン」という物質の減少と質の低下が原因だからです。

タンク(プロテオグリカン)に穴が開いている状態では、いくら水を注いでも溜まらないのと同じ理屈です。

ただし、脱水は全身の健康に悪影響を及ぼすため、一般的な健康維持としての適切な水分補給は大切です。

参考文献

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この記事を書いた人

臼井 大記のアバター 臼井 大記 大垣中央病院 整形外科・麻酔科 担当医師

日本整形外科学会認定専門医

2009年に帝京大学医学部医学科卒業後、厚生中央病院に勤務。東京医大病院麻酔科に入局後、カンボジアSun International Clinicに従事し、ノースウェスタン大学にて学位取得(修士)。帰国後、岐阜大学附属病院、高山赤十字病院、岐阜総合医療センター、岐阜赤十字病院で整形外科医として勤務。2023年4月より大垣中央病院に入職、整形外科・麻酔科の担当医を務める。

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