老化で膝が硬くなる原因|変形性膝関節症による関節包の線維化と柔軟性低下

膝の曲げ伸ばしが不自由になり、まるで錆びついた蝶番のように感じる原因は、単なる「年齢のせい」だけではありません。
その正体は、長年の炎症によって関節を包む袋(関節包)が厚く硬くなる「線維化」という現象です。
変形性膝関節症が進行すると、本来ゴムのように伸び縮みするはずの組織が、柔軟性を失った革のように変化してしまいます。
この記事では、なぜ膝の組織が硬化してしまうのか、その生物学的な背景と、日常生活への具体的な影響、そして硬化の進行を防ぐために必要な知識を詳しく解説します。
繰り返される炎症が関節包の柔軟性を奪い硬い組織へと変えてしまう
多くの人が感じる膝の強張りや動かしにくさの根本的な原因は、関節を包み込んでいる「関節包(かんせつほう)」という組織の質的な変化にあります。
健康な状態の関節包は、非常に柔軟性に富んでおり、膝を曲げたり伸ばしたりする動きに合わせてスムーズに伸縮します。
しかし、変形性膝関節症が進行すると、この組織が本来の性質を失い、硬く分厚い状態へと変わってしまうのです。
この変化を引き起こす最大の要因は、関節内で繰り返される「炎症」です。
膝の内部で何らかのトラブルが起き、滑膜(かつまく)という組織が刺激を受けると、炎症性サイトカインという物質が放出されます。
これ自体は身体を守るための反応ですが、炎症が慢性化して長く続くと、組織は修復過程でコラーゲン線維を過剰に産生し始めます。
本来は整然と並んでいるはずのコラーゲン線維が、無秩序に絡み合いながら蓄積することで、組織全体が分厚く、伸びにくい状態になります。これが「線維化」と呼ばれる現象です。
線維化が進んだ関節包は、例えるなら、新品の風船と古くなって劣化したゴムの違いに似ています。
新品の風船は少しの力で大きく伸びますが、劣化したゴムは硬く、無理に伸ばそうとしても簡単には伸びません。
膝の関節包も同様に、線維化によって弾力性を失うと、膝を曲げようとしたときに物理的な制限がかかり、突っ張り感や痛みを生じさせます。
この「物理的な硬さ」こそが、老化とともに膝が動かなくなる大きな正体なのです。
炎症が長引くことで正常な組織が瘢痕組織へと置き換わる
私たちの体には傷ついた組織を治そうとする自然治癒力が備わっていますが、変形性膝関節症においては、この治癒の働きが裏目に出る場合があります。
皮膚を深く切った後に、その部分が少し硬く盛り上がって傷跡(瘢痕)になるのをイメージしてください。関節の中でもこれと同じようなことが起こります。
繰り返される炎症によって傷ついた組織を補強しようとして、体は線維性の組織を増やしていきます。
この瘢痕化した組織は、元の正常な関節包に比べて血流が乏しく、柔軟性が著しく低いという特徴を持っています。一度瘢痕化してしまった組織は、自然に元の柔らかさに戻るのは困難です。
そのため、炎症をいかに早期に沈静化させ、線維化の進行を食い止めるかが、膝の柔軟性を維持するためには極めて大切です。
関節液の滞留と滑膜の増殖が引き起こす悪循環
関節包の内側にある滑膜は、通常、関節の動きを滑らかにする関節液を適量分泌しています。
しかし、炎症が起きると滑膜は異常に増殖し、関節液を過剰に作り出します。これがいわゆる「膝に水がたまる」状態です。
水がたまって関節包が内側からパンパンに引き伸ばされた状態が長く続くと、関節包自体がその圧力に耐えるためにさらに厚く硬くなろうとします。
増殖した滑膜自体も厚みを持ち、関節の隙間に入り込むと物理的な障害物となります。
この分厚くなった滑膜と、硬くなった関節包のダブルパンチによって、膝の可動域は徐々に、しかし確実に狭まっていきます。この悪循環を断ち切るには、滑膜の炎症コントロールが必要になります。
関節包の状態変化と比較
| 比較項目 | 健康な関節包の状態 | 線維化した関節包の状態 |
|---|---|---|
| 組織の弾力性 | ゴムのように柔軟に伸縮する | 革のように硬く伸びにくい |
| 組織の厚み | 薄く、関節の動きを妨げない | 分厚く肥厚し、動きを制限する |
| コラーゲンの配列 | 規則正しく整列している | 無秩序に絡み合い癒着している |
| 関節液の量 | 潤滑に必要な適量を維持 | 炎症により過剰または減少する |
| 痛みの感受性 | 正常な感覚受容器が働く | 神経が過敏になり痛みを感じやすい |
線維化は痛みを感じる神経をも過敏にさせてしまう
関節包が線維化して硬くなると、単に動きが悪くなるだけでなく、痛みの感じ方にも変化が生じます。
硬くなった組織には、微小な血管と共に新しい神経線維も入り込んでくることが知られています。これを血管新生・神経新生と呼びます。
これによって、本来は痛みを感じないはずの何気ない動作でも、強い痛みを感じるようになってしまうのです。
組織が硬いために、少し動かしただけで組織内部の圧力が高まり、過敏になった神経を刺激します。
その結果、「動かすと痛いから動かさない」という行動をとりがちになり、動かさないことでさらに線維化が進むという負のスパイラルに陥ります。
硬さと痛みは密接に連動していることを知っておく必要があります。
膝蓋下脂肪体や膝裏の組織も硬化して膝の曲げ伸ばしを制限する
膝が硬くなる原因は、関節全体を包む関節包だけでなく、その周囲にある特定の組織の変化も大きく関与しています。
特に影響を受けやすいのが、膝のお皿(膝蓋骨)の下にある「膝蓋下脂肪体(しつがいかしぼうたい)」と、膝の裏側の組織です。
これらは関節の動きに合わせて形を変えたり移動したりする重要な役割を持っていますが、ここもまた線維化のターゲットとなりやすい部位です。
膝蓋下脂肪体は、通常であれば非常に柔らかい脂肪の塊で、クッションの役割を果たしています。
しかし、炎症が波及すると、この脂肪体までもが線維化し、硬いゴムのような塊に変性します。
膝を伸ばし切るとき、この脂肪体は関節の隙間からスムーズに逃げる必要がありますが、硬くなると逃げ場を失って関節に挟まり込んでしまいます。
これが激痛と「伸びにくさ」を引き起こす原因となり、多くの人が訴える「膝が完全に伸びない」という症状の隠れた主犯格となります。
膝裏の筋肉と関節包の癒着が「伸びない膝」を作る
膝の裏側には、後方関節包という分厚い組織があり、さらにその上をハムストリングスや腓腹筋といった強力な筋肉が走行しています。
膝を曲げた状態で過ごす時間が長くなると、これらの組織同士がくっついてしまう「癒着(ゆちゃく)」が生じます。
特に高齢者の場合、膝を完全に伸ばす機会が減るため、膝裏の組織が縮んだ状態で固まりやすくなります。
後方関節包が短縮し、周囲の筋肉と癒着してしまうと、いくら太ももの前側の筋肉を鍛えても、膝は伸びません。
つっかえ棒が膝裏に入っているような状態になるため、この癒着を剥がすような物理的なアプローチがない限り、改善は難しくなります。
膝が伸びないことで歩行時の姿勢が悪化し、腰痛などを引き起こす二次的なトラブルにもつながります。
膝周囲の組織硬化による影響
- 膝蓋下脂肪体が硬化し、膝を伸ばした時にお皿の下に痛みが走る
- 膝裏の組織が癒着し、仰向けに寝ても膝裏がベッドにつかなくなる
- お皿の動きが制限され、階段の上り下りで強い圧迫感を感じる
- 可動域が狭くなることで、歩行時の蹴り出しが弱くなり歩幅が減少する
- 組織の血流が悪化し、冷えを感じやすくなることでさらに硬化が進む
お皿の動きが悪くなると膝全体の柔軟性が失われる
膝の曲げ伸ばしにおいて、膝蓋骨(お皿)は上下に大きく移動します。膝を深く曲げるとき、お皿は下へ滑り込み、伸ばすときは上へと引き上げられます。
しかし、関節包や脂肪体が線維化すると、お皿の周りの組織も硬くなり、お皿の動きをロックしてしまいます。これを「膝蓋骨の拘縮(こうしゅく)」と呼びます。
お皿が動かない状態で無理やり膝を曲げようとすると、関節内部の圧力が異常に高まり、関節軟骨を強く圧迫します。
これがさらなる軟骨の摩耗を引き起こす原因となります。お皿の周りの柔らかさを保つ取り組みは、膝関節全体の柔軟性を守るだけでなく、軟骨を保護するためにも非常に大切です。
長期の固定や運動不足が線維化を加速させる
「痛いから安静にする」というのは、急性期には必要ですが、慢性的になると逆効果になります。
関節は動かさないでいると、驚くべき速さで拘縮が進みます。ギプス固定を外した直後に関節が動かなくなるのと同じ原理が、日々の活動量低下によってゆっくりと進行します。
動かさないと関節内の体液循環が悪くなり、組織の栄養状態が低下し、線維化が促進されてしまいます。
特に、座りっぱなしの生活や、歩幅の狭いちょこちょこ歩きは、膝を大きく動かす機会を奪います。
関節包や周囲の軟部組織は、日常的に最大可動域まで動かされることで柔軟性を維持しています。
「痛みを感じない範囲で大きく動かす」を怠ると、使われない可動域から順に硬くなっていくのです。
年齢を重ねるとコラーゲンの質が変化して膝の組織は弾力を失う
関節包や靭帯、腱といった膝を構成する軟部組織の主成分はコラーゲンです。
このコラーゲンは、若い頃は瑞々しく弾力性に富んでいますが、加齢とともにその質が変化していきます。これを「コラーゲンの架橋(かきょう)形成」の変化と言います。
古い輪ゴムが簡単に切れたり硬くなったりするように、体内のコラーゲンも老化によってしなやかさを失います。これは炎症とは別の、生理的な老化現象として進行するものです。
特に問題となるのが、糖化という現象によって生じるAGEs(終末糖化産物)の蓄積です。体内の余分な糖分がタンパク質と結びつくと、コラーゲン線維同士を不適切に接着剤のように固めてしまいます。
この悪い架橋が増えると、組織は茶色く変色し、硬く脆くなります。糖尿病の患者さんに膝の拘縮が多いのは、この糖化の影響を強く受けるためと考えられます。
水分含有量の低下が組織の粘弾性を奪う
赤ちゃんの肌がプルプルしているのに対し、高齢者の肌が乾燥しやすいのと同様に、関節内の組織も加齢とともに水分を保持する能力が低下します。
関節包や軟骨に含まれるプロテオグリカンという物質は、水を抱え込む性質を持っていますが、加齢によりこの合成能力が落ちていきます。
水分が減った組織は、「粘弾性」を失います。粘弾性とは、急な動きに対して衝撃を吸収しつつ、ゆっくりした動きには滑らかに従う性質です。
水分が抜けてパサパサになった組織は、摩擦抵抗が増え、伸び縮みする際の抵抗感が強くなります。これが、朝起きたときや動き始めに感じる「ギシギシした感じ」の一因となっているのです。
筋肉の萎縮が関節への負担を増やし硬化を招く
加齢に伴う筋肉量の減少(サルコペニア)も、間接的に膝の硬化に寄与します。
特に太ももの筋肉である大腿四頭筋が弱ると、着地時の衝撃を筋肉で吸収できず、関節包や軟骨にダイレクトに衝撃が伝わります。
この繰り返される微細な損傷が、組織の防衛反応としての硬化を招くことになります。
また、筋肉自体も老化により線維化してしまいます。筋肉の中に脂肪や結合組織が増え、筋肉自体が伸びにくくなると、それが付着している膝関節の動きも制限されます。
「筋肉が硬いから関節が動かない」のか「関節が硬いから筋肉が動かせない」のか、これらは相互に影響し合いながら、膝全体の柔軟性を低下させていきます。
長年の微細な損傷の蓄積が修復不能な硬さを作る
私たちは何十年もの間、膝を使って歩き続けています。その長い歴史の中で繰り返された小さな捻挫や打撲、過度な負担といった微細な損傷は、完全に元の状態に戻るわけではありません。
修復されるたびに、組織は少しずつ硬く丈夫な組織へと置き換わってきました。これは、長年使い込んだ道具が摩耗しつつも形を変えていくようなものです。
60代、70代の方の膝には、過去数十年分の「歴史」が刻まれています。この蓄積された変化を急激に元に戻すことはできませんが、これ以上硬くしないためのケアを行うことは十分に可能です。
過去の積み重ねによる硬さを理解し、現在の組織の状態に合わせた付き合い方を考えましょう。
寝ている間の不動状態が朝一番の膝の強張りと痛みを引き起こす
変形性膝関節症の方の多くが、「朝起きた直後の一歩目が痛い」「映画館などで長時間座った後に立ち上がろうとすると膝が伸びない」といった症状を訴えます。
これは「始動時痛(しどうじつう)」や「ゲル現象」と呼ばれる特徴的な症状です。この現象には、関節液の性質と関節包の状態が深く関わっています。
関節の中にある潤滑油(滑液)は、動かずにじっとしていると粘度が高くなり、ドロっとした状態になります。
逆に、動かしていると温度が上がり、サラサラとして動きやすくなる性質を持っています。
寝ている間や座っている間は膝を動かさないため、関節液の粘度が増し、さらに線維化した関節包が縮んだ状態で一時的に固定されてしまうのです。
そのため、動き始めには強い抵抗感を感じますが、少し歩いて温まってくると動きやすくなるという現象が起きます。
この症状は、膝の硬化が進行しているサインの一つです。単なる疲れと放置せず、関節内部で柔軟性が失われつつある警鐘として受け止める必要があります。
夜間の不動状態が組織の一時的な短縮を引き起こす
睡眠中は数時間にわたり膝をほとんど動かしません。
この間に、炎症を持っている組織周辺では、フィブリンという糊のような物質が析出し、組織同士を軽く接着させてしまいます。これを微細な癒着と呼びます。
朝起きて動かそうとするとき、この軽く接着した部分を剥がしながら動かすことになるため、強張りや痛みを感じるのです。
日中活動している間は、常に動くことでこの接着が防がれていますが、夜間の長い休息時間は、逆に組織を固める時間としても作用してしまいます。
特に寒い季節は血流も低下するため、この朝の強張りがより顕著に現れる傾向があります。
始動時のこわばりレベルチェック
| レベル | 症状の特徴 | 生活への影響度 |
|---|---|---|
| 初期 | 動き始めに違和感があるが、数歩で消える | 日常生活に支障はないが気になり始める |
| 中期 | 立ち上がり時に痛みがあり、動き出すのに時間がかかる | すぐに歩き出せず、一呼吸置く必要がある |
| 進行期 | 朝のこわばりが30分以上続き、日中も硬さが戻る | 活動量が低下し、外出が億劫になる |
| 末期 | 常に膝が固まっており、動かそうとすると激痛が走る | 自力での歩行が困難になり介助が必要になる |
変形した骨同士がぶつかり合うことで物理的に膝の動きが止まる
変形性膝関節症が進行すると、レントゲン写真で骨の角が尖ったように見える「骨棘(こつきょく)」が確認されるようになります。
これは、不安定になった関節を安定させようとして、骨が反応して増殖したものです。
関節包の線維化が「軟部組織による制限」であるのに対し、骨棘は「骨による物理的な制限」として膝の動きを阻害します。
骨棘が大きくなると、膝を深く曲げようとしたときや、真っ直ぐに伸ばそうとしたときに、骨と骨がぶつかり合うような状態になります。
ドアの蝶番に石が挟まっているようなもので、物理的な衝突(インピンジメント)が起こるため、それ以上どう頑張っても動かないという限界点が生まれます。
この段階になると、リハビリで無理に可動域を広げようとすることは、かえって痛みを強める原因になります。
関節の適合性が悪くなりスムーズな滑りが失われる
正常な膝関節は、大腿骨(太ももの骨)と脛骨(すねの骨)が絶妙な適合性を保ちながら、転がり運動と滑り運動を組み合わせて動いています。
しかし、軟骨がすり減り、骨棘ができると、このレールの形状がいびつになります。デコボコの道を車輪で走るようなもので、スムーズな動きが物理的に不可能になります。
骨の形状変化による硬さは、関節包の線維化とは異なり、ストレッチやマッサージで改善することはできません。
しかし、多くのケースでは、骨の衝突よりも先に、周りの筋肉や関節包の硬さが動きを止めていることが多いのです。
つまり、骨棘があるからといって、必ずしも可動域改善をあきらめる必要はありません。軟部組織の柔軟性を高めると、骨がぶつかる手前までの十分な可動域を確保できる可能性は残されています。
軟骨の摩耗粉がさらなる滑膜炎を引き起こす
すり減った軟骨や骨棘から生じた微細な破片(摩耗粉)は、関節内に散らばります。
体はこれを異物として認識し、排除しようとして免疫細胞を集めます。これが滑膜炎(かつまくえん)の引き金となります。滑膜炎は関節包の線維化を促進させる主原因です。
つまり、骨の変形や軟骨の摩耗は、単に物理的なブロックを作るだけでなく、炎症を引き起こし続ける「火種」となります。これにより周囲の組織はますます硬くなってしまうのです。
骨の変形自体を止めるのは難しいですが、炎症をコントロールすると、組織の硬化スパイラルを緩やかにすることは可能です。
骨と軟部組織の硬さの違い
- 骨棘による制限は、カチッという硬い感触で動きが止まり、それ以上全く動かない
- 関節包による制限は、ゴムが突っ張るような弾力のある感触で、時間をかけると少し動く
- 骨の変形は不可逆的だが、軟部組織の硬さはケアによって改善の余地がある
- 骨棘が神経に触れると鋭い痛みを生じるが、組織の硬さは鈍い痛みを伴うケースが多い
膝の拘縮を進行させないために日々の生活で避けるべき具体的な習慣
老化や変形性膝関節症による組織の変化はある程度避けられないものですが、日々の生活習慣によってその進行スピードを早めてしまっているケースがよくあります。
無意識に行っている「膝に良かれと思ってやっていること」や「楽だからついやってしまう姿勢」が、実は膝の拘縮(こうしゅく)を助長している可能性があります。
最も避けるべきは「長時間同じ姿勢でいること」です。特に、膝を深く曲げたまま長時間座り続ける、逆に低い椅子に座り続ける姿勢は、関節包を一定の長さで固めてしまいます。
テレビを見ている間、デスクワークの間、あるいは長時間の移動中など、30分に一度は膝を伸ばしたり曲げたりしてください。関節内の圧力を変化させ、組織液を循環させましょう。
膝を冷やす環境が組織の柔軟性を奪う
冷房の効いた部屋で膝を出して過ごしたり、冬場に足元を冷やしたりすることは、膝の硬化にとって大敵です。温度が下がると、コラーゲン線維は硬くなる性質があります。
また、血流が悪くなると組織への酸素供給が滞り、痛み物質が排出されにくくなります。
多くの人が「炎症があるなら冷やしたほうがいい」と誤解しがちですが、赤く腫れて熱を持っている急性期を除き、慢性の変形性膝関節症においては「温める」が基本です。
冷やすと一時的に痛みを感じにくくなることはあっても、組織自体は硬くなり、結果として動きの悪さを悪化させてしまいます。保温サポーターやひざ掛けを活用し、常に膝を冷気から守りましょう。
痛みを恐れた過度な安静が最大の悪化要因
痛みがあると動きたくない、というのは人間の自然な心理です。しかし、変形性膝関節症において「過度な安静」は、関節が固まる最大の原因となります。
「痛いから歩かない」→「足の筋肉が落ちる・関節が固まる」→「久しぶりに動くと余計に痛い」という悪循環は、非常に多くの患者さんに見られます。
大切なのは、痛みのない範囲、あるいは「イタ気持ちいい」範囲で動かし続けることです。激しいスポーツをする必要はありません。
椅子に座って足をブラブラさせる、お風呂の中でゆっくり曲げ伸ばしをする、といった重力の影響が少ない運動から始めることが、硬化を防ぐための第一歩です。
温めるケアと愛護的な運動で関節包の柔軟性を取り戻していく
一度硬くなってしまった膝を、若い頃のような完全な状態に戻すのは難しいかもしれません。しかし、現在の硬さを和らげ、可動域を少しでも広げて生活を楽にすることは十分に可能です。
そのための鍵となるのが「温熱」と「持続的な伸長」です。
コラーゲン線維は、温められると緩みやすくなる性質を持っています。入浴後など、体が十分に温まっているタイミングでストレッチを行うのが最も効率的です。
また、強い力でグイグイ押すストレッチは、防御反応として筋肉を緊張させ、逆効果になる場合があります。
組織がリラックスした状態で、ゆっくりと時間をかけて伸ばす「愛護的な」取り組みが、硬化した関節包には最も有効です。
物理療法を活用して深部から組織を緩める
家庭でのケアには限界がある場合、整形外科やリハビリテーション科での物理療法を活用するのも一つの手段です。
ホットパックや超音波治療器などは、皮膚の表面だけでなく、関節の深部まで熱を届けられます。特に超音波は、微細な振動によって組織を温めると同時に、癒着した組織をほぐす効果も期待できます。
また、専門家による徒手療法(マッサージや関節モビライゼーション)は、自分では動かせない方向へ関節を誘導し、関節包の特定の部分を伸長させられます。
硬くなったお皿の動きを引き出したり、膝裏の癒着をターゲットにしたりと、個々の膝の状態に合わせたケアを受けると、セルフケアの効果も高まります。
柔軟性維持のためのセルフケアのポイント
- 入浴はシャワーで済ませず、湯船に浸かって関節全体を温める
- 座っている時は、膝裏にクッションを入れず、できるだけ膝を伸ばす時間を設ける
- お皿の周りの皮膚を指で優しくつまみ、上下左右に動かすマッサージを行う
- 貧乏ゆすりのような小刻みな運動(ジグリング)を行い、関節液の循環を促す
- 痛みが増した場合は無理をせず、翌日に痛みが残らない範囲で継続する
よくある質問
- 変形性膝関節症による関節包の線維化と柔軟性低下において、サプリメントは硬さを取る効果がありますか?
-
サプリメント(グルコサミンやコンドロイチンなど)は、軟骨の成分を補うことを目的としていますが、すでに硬くなってしまった関節包の線維化を直接的に解消する効果は科学的に証明されていません。
硬さは組織の構造的な変化によるものなので、飲むだけで柔らかくなるのは期待しにくいのが現状です。
ただし、プラセボ効果を含め痛みが緩和することで動きやすくなり、結果として動かす機会が増えて硬さが和らぐ可能性はゼロではありませんが、基本的には運動療法や温熱療法が優先されます。
- 変形性膝関節症による関節包の線維化と柔軟性低下がある場合、正座は無理にしてでも続けるべきですか?
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無理な正座は避けるべきです。関節包が線維化し柔軟性が低下している状態で無理に膝を深く曲げると、関節内部の圧力が極端に高まり、軟骨や半月板を損傷するリスクがあります。
また、痛みを我慢して行うストレッチは筋肉の防御収縮を招き、かえって膝を硬くする原因になります。
お風呂の中など温まって柔らかい時に、痛みのない範囲で曲げる練習をするのは良いですが、体重をかけて無理やり曲げる行為は推奨されません。
- 変形性膝関節症による関節包の線維化と柔軟性低下に対して、ヒアルロン酸注射は効果的ですか?
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ヒアルロン酸注射は、関節の滑りを良くし、炎症を抑える効果があるため、間接的に膝の硬さを改善する助けになります。
痛みや炎症が治まれば、膝を動かしやすくなるため、リハビリが進みやすくなるからです。
しかし、注射そのものが硬くなった関節包の線維組織を溶かして柔らかくするわけではありません。
あくまで「動かしやすい環境を作る」ための手段であり、注射と併せて適切な運動を行うことが、柔軟性を取り戻すためには重要です。
- 変形性膝関節症による関節包の線維化と柔軟性低下を予防するために、最も効果的な運動は何ですか?
-
最も効果的で安全なのは、体重をかけずに行う膝の曲げ伸ばし運動と、大腿四頭筋(太ももの前側の筋肉)の強化です。
例えば、椅子に座った状態で膝をゆっくり限界まで伸ばして5秒キープし、ゆっくり下ろす運動や、仰向けに寝て片足ずつ上げる運動が推奨されます。
また、プールでの水中ウォーキングは、浮力で関節への負担を減らしつつ、水圧と抵抗で適度な運動効果が得られるため、硬さの予防と改善に非常に有効です。
- 変形性膝関節症による関節包の線維化と柔軟性低下による膝の硬さはマッサージで治りますか?
-
マッサージだけで完全に治すのは難しいですが、症状を和らげる効果は十分に期待できます。
特に、お皿の周りや膝裏の筋肉を優しくほぐすと、一時的に柔軟性が向上し、動きやすくなります。
ただし、強い力で揉むと炎症が悪化する可能性があるため注意が必要です。マッサージで筋肉を緩めた後に、軽く動かす運動を組み合わせと、より効果的に柔軟性を維持できます。
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