筋肉の衰え(サルコペニア)が変形性膝関節症を加速させる|高齢者の筋力低下リスク

筋肉の衰え(サルコペニア)が変形性膝関節症を加速させる|高齢者の筋力低下リスク

膝の痛みを感じて動くのを控えてしまうと、あっという間に筋肉が痩せてしまい、その結果として関節への負担がさらに増すという悪循環に陥ってしまいます。

変形性膝関節症の進行を食い止めるには、軟骨のケアだけでなく「サルコペニア(筋肉減少症)」への対策が必要不可欠です。

この記事では、なぜ筋肉が衰えると膝が悪化するのか、そして痛みを抱えながらでもできる具体的な対策について、医学的な根拠に基づきながら分かりやすく解説します。

もう一度自分の足でしっかりと歩くための知識を身につけていきましょう。

目次

なぜ筋肉が痩せると膝の痛みが激化してしまうのか?

筋肉は単なる動力源ではなく、関節を守る「クッション」であり「サポーター」です。この機能が失われることで、衝撃が骨に直撃し、関節のブレが生じて痛みが激化します。

筋肉が痩せてしまうと膝の痛みが強くなる主な理由は、関節を守るための「衝撃吸収機能」と「安定化機能」が著しく低下してしまうからです。

筋肉は単に体を動かすエンジンとしての役割だけでなく、着地の衝撃を和らげるクッションの役割も担っています。

このクッションが薄くなれば、歩くたびに骨と骨が直接ぶつかり合うようなストレスがかかり、痛みが激化するのは当然の結果といえます。

衝撃を吸収する天然のサポーターを失うリスク

私たちの膝関節は、歩行時に体重の約3倍、階段の昇り降りでは約7倍もの負荷がかかるといわれています。

健康な状態であれば、太ももの前の筋肉(大腿四頭筋)や後ろの筋肉(ハムストリングス)がバネのように働き、この強大な負荷を分散させてくれます。

しかし、筋肉量が減少すると、この天然のサポーター機能が失われてしまいます。筋肉で受け止めるべき衝撃が、そのままダイレクトに軟骨や骨へと伝わってしまうのです。

軟骨には神経が通っていませんが、軟骨がすり減って骨が露出したり、周辺の滑膜が炎症を起こしたりするため、激しい痛みが発生します。

筋肉の厚みは、そのまま膝を守る盾の厚みであると考えてください。

関節がグラグラになり軟骨の摩耗が早まる

筋力低下は、関節の「安定性」を奪います。膝関節は太ももの骨(大腿骨)とすねの骨(脛骨)をつなぐ蝶番のような構造をしていますが、これを正しい位置に留めているのが筋肉や靭帯です。

特に太ももの内側の筋肉(内側広筋)が弱ると、膝が外側にブレやすくなります。いわゆるO脚変形が進みやすくなる原因の一つです。

一歩歩くたびに膝が横揺れを起こし、関節の中で骨同士がこすれ合うような動きが生じます。

これが繰り返されると、まるでヤスリをかけたように軟骨の摩耗スピードが加速してしまいます。

安定感を失った膝は、少しの段差や方向転換でもバランスを崩しやすくなり、転倒のリスクも高めます。

痛いから動かない、動かないから弱る悪循環

変形性膝関節症の患者さんが最も陥りやすいのが、「痛みによる活動回避」です。膝が痛むと、どうしても外出がおっくうになったり、家の中でも座っている時間が長くなったりします。

人間は「痛み」という不快な感覚を避けるようにプログラムされているため、これは自然な反応といえます。

ところが、筋肉は使わなければ驚くほどの速さで萎縮していきます。特に高齢者の場合、2週間の寝たきり生活で7年分の筋肉を失うというデータもあるほどです。

痛いから動かないでいると、さらに筋力が落ち、筋力が落ちるから関節への負担が増えて余計に痛くなる。この「負のドミノ倒し」をどこかで食い止めなければ、症状は進行する一方です。

筋力低下と膝関節への影響度合い

筋肉の状態膝関節への物理的影響日常生活での自覚症状
軽度の筋力低下衝撃吸収能力がわずかに低下し、長時間歩行で炎症が起きやすくなる。歩き始めは平気だが、長く歩くと膝が重だるくなる。階段の下りに不安を感じる。
中等度の筋力低下(サルコペニア予備群)関節の横揺れ(不安定性)が生じ、軟骨の局所的な摩耗が進行する。立ち上がり時に手をつく必要がある。平地でも膝がガクッと折れそうになる(膝折れ)。
重度の筋力低下(サルコペニア)骨への直接的な荷重負荷が増大し、変形が急速に進む。杖がないと歩けない。家の中の移動も億劫になり、活動量が極端に低下する。

あなたの膝痛はサルコペニアが原因かもしれない?

単なる加齢ではなく、「病的な筋肉減少」が起きている可能性があります。特に「サルコペニア肥満」は膝へのダメージが最大級になるため、早急な発見と対処が必要です。

単なる加齢による衰えと、病的な筋肉減少(サルコペニア)は明確に区別して考える必要があります。

もし、膝の痛みに加えて全身の筋肉量や筋力が基準値を下回っている場合、それは変形性膝関節症の治療だけでなく、サルコペニアへの介入も同時に行わなければ改善が見込めません。

自分の体が今どのような状態にあるのかを正しく把握することが、治療の第一歩となります。

サルコペニアとは単に筋肉が減ることではない

サルコペニア(Sarcopenia)は、ギリシャ語の「肉(Sarx)」と「喪失(Penia)」を組み合わせた造語ですが、単に筋肉の量が減ることだけを指すのではありません。

「筋肉量の減少」に加えて、「筋力(握力など)の低下」または「身体機能(歩行速度など)の低下」が組み合わさった状態を指します。

つまり、見た目はそれほど痩せていなくても、ペットボトルのキャップが開けにくかったり、横断歩道を青信号のうちに渡りきれなかったりする場合は注意が必要です。

筋肉の「質」が低下しており、サルコペニアに該当する可能性があります。

変形性膝関節症の方は、膝の痛みによって歩行速度が遅くなりがちですが、それが痛みによるものなのか、筋力低下によるものなのかを見極めることが大切です。

最も恐ろしい「サルコペニア肥満」のリスク

近年、整形外科の現場で特に問題視されているのが「サルコペニア肥満」という状態です。

これは、筋肉量が減っているにもかかわらず、脂肪が増えているために体重が変わらない、あるいは増えている状態を指します。

一見すると体格が良いように見えるため、周囲も本人も筋肉不足に気づきにくいのが特徴です。

膝にとっては「支える力(筋肉)」が減っているのに、「支えるべき荷物(脂肪)」が増えているわけですから、これほど過酷な環境はありません。

さらに、過剰な内臓脂肪からは炎症を引き起こす物質が分泌され、これが膝の炎症をさらに悪化させるという負の相乗効果も引き起こします。

ふくらはぎの太さで分かる簡易チェック法

特別な医療機器がなくても、自宅で簡単にサルコペニアのリスクをチェックする方法があります。

それが「指輪っかテスト」です。ふくらはぎの筋肉量は全身の筋肉量と相関関係があるため、ここを測定すると大まかなリスクを判定できます。

両手の親指と人差し指で輪っかを作り、ふくらはぎの一番太い部分を囲んでみてください。

もし、指の輪っかでふくらはぎを囲んだときに「隙間ができる」ようであれば、筋肉量が著しく減少している可能性が高いです。

逆に、指が届かない、あるいはちょうど囲める場合は、今のところ筋肉量は保たれていると考えられます。

自分ですぐできるサルコペニア危険度チェック

  • 横断歩道を青信号の間に渡りきれないときがある(歩くのが遅くなったと感じる)。
  • 手すりを使わずに椅子から立ち上がるのが難しい、または勢いをつけないと立てない。
  • ペットボトルのキャップを開けるのが大変になった(握力の低下)。
  • 過去1年間で転倒したことがある、または転びそうになったことが何度もある。
  • 意図していないのに、体重が以前より減ってきた(特にこの1年で4.5kg以上の減少)。
  • ふくらはぎの「指輪っかテスト」で、指と脚の間に隙間ができる。

膝を守る大腿四頭筋はなぜこれほど重要視されるのか

大腿四頭筋は「膝のお皿のコントロール」と「着地のブレーキ」という二つの重大な役割を担っています。この筋肉が弱ると、膝はコントロールを失った車のように暴走し、壊れてしまいます。

膝の治療において、医師や理学療法士が口を酸っぱくして「太ももの筋肉を鍛えましょう」と言うには明確な理由があります。

大腿四頭筋(だいたいしとうきん)は、人体の中で最も大きく強力な筋肉の一つであり、膝関節の機能維持において主役級の働きをしているからです。

この筋肉の状態が、今後の膝の運命を左右すると言っても過言ではありません。

膝蓋骨(お皿)をコントロールする唯一の筋肉

大腿四頭筋は、太ももの前にある4つの筋肉の総称ですが、これらは膝のお皿(膝蓋骨)を経由してすねの骨に付着しています。

つまり、膝のお皿を引っ張り上げ、正しいレールの上を滑るようにコントロールしているのは、ほぼこの筋肉だけなのです。

大腿四頭筋が弱まると、膝のお皿の動きが不安定になり、大腿骨との間で摩擦が生じやすくなります。

これが「膝の前側の痛み」の主な原因となります。

また、膝を伸ばす力も弱まるため、歩行時に膝が完全に伸びきらず、常に軽く曲がった状態で歩くことになります。

この「曲がったまま歩く」姿勢は、膝関節への負担を何倍にも膨れ上がらせてしまいます。

着地の衝撃を逃がすブレーキ機能

歩行中、足が地面に着いた瞬間、膝は軽く曲がりながら体重を受け止めます。

このとき、大腿四頭筋は筋肉を伸ばされながら力を発揮する「遠心性収縮」という働きを行い、強力なブレーキとして機能します。

このブレーキがしっかりと効くことで、着地の衝撃がソフトになり、関節内部へのダメージを防げるのです。

もしこのブレーキ機能が壊れていたらどうなるでしょうか。足をつくたびに「ドン、ドン」と衝撃が骨に響き渡ることになります。

変形性膝関節症の進行を防ぐためには、単に脚を太くするだけでなく、この「衝撃を吸収しながら支える力」を取り戻すことが極めて重要です。

弱った筋肉が招く「歩き方」の崩壊

大腿四頭筋が弱ると、人間は無意識のうちに代償動作(トリックモーション)を行って歩こうとします。

例えば、上半身を左右に大きく揺らしながら歩く「デュシャンヌ歩行」などが典型的です。

これは筋力の弱さを補うための戦略ですが、膝関節にとっては最悪の状況です。体を左右に振ることで、膝の内側には強烈な圧力がかかり続けます。

本来かかるはずのない方向からの力が加わるため、O脚変形はさらに進行し、靭帯も引き伸ばされてしまいます。

正しい歩き方を取り戻すには、意識して姿勢を正すだけでは不十分で、その姿勢を支えるための基礎となる大腿四頭筋の筋力が必要不可欠なのです。

大腿四頭筋の役割と弱体化による弊害

主な役割正常に機能している状態機能低下時の症状・リスク
膝の伸展(伸ばす力)膝をピンと伸ばして立つことができ、安定した立位姿勢を保てる。膝が曲がったままになり(拘縮)、常に太ももやふくらはぎが緊張して疲れやすくなる。
膝蓋骨のトラッキングお皿が正しい軌道を滑らかに動き、屈伸がスムーズに行える。お皿が外側に引っ張られやすくなり、膝の前側に痛みや引っかかり感が生じる。
衝撃吸収(ブレーキ)階段を降りる際、ゆっくりと体重をコントロールして着地できる。階段の下りで膝が支えきれず「ガクッ」となる恐怖心から、手すりに依存する。

食事で筋肉の材料を届けないと運動は逆効果になる

材料(栄養)のない現場で工事(運動)をしても、体は壊れるだけです。特に高齢者は「朝のタンパク質」と「水分の確保」が、筋肉維持の鍵を握っています。

「筋肉をつけたいから」といって、やみくもに運動だけを頑張っていませんか?

実は、十分な栄養が足りていない状態で運動をすると、体はエネルギー不足を補うために今ある筋肉を分解してしまいます。

つまり、運動しているのに逆に筋肉が減っていくという本末転倒な事態になりかねません。

タンパク質は「量」だけでなく「タイミング」も大事

筋肉の主成分であるタンパク質が必要なのは言うまでもありません。高齢者の場合、若年層よりも多くのタンパク質を摂取しないと筋肉が合成されにくい「同化抵抗性」という状態にあります。

具体的には、1食あたり約20g以上のタンパク質を摂取することが推奨されています。

さらに重要なのが摂取のタイミングです。

多くの人は夕食で大量にタンパク質を摂りますが、朝食や昼食はパンやおにぎりだけで済ませがちです。

しかし、筋肉の合成スイッチを入れるには、朝・昼・晩の3食それぞれで均等にタンパク質を摂ることが必要です。

特に朝食でタンパク質(卵、納豆、ヨーグルトなど)をしっかり摂ると、日中の活動による筋肉合成が高まります。

筋肉の司令塔「ロイシン」を意識して摂る

アミノ酸の中でも、特に筋肉作りにおいて重要な役割を果たすのが「ロイシン」です。

ロイシンは、筋肉を作る工場のスイッチを入れる役割を担っています。いくら材料(他のアミノ酸)があっても、スイッチ(ロイシン)が入らなければ筋肉の合成は始まりません。

ロイシンは牛乳や乳製品、大豆製品、魚(特にマグロやカツオなどの赤身魚)、肉類に多く含まれています。

サプリメントでBCAA(分岐鎖アミノ酸)という言葉を聞いたことがあるかもしれませんが、この中にロイシンが含まれています。

食事だけで摂取が難しい場合は、プロテインやアミノ酸サプリメントを補助的に活用するのも賢い選択です。

見落とされがちな「水分」と筋肉の関係

筋肉の約75%は水分でできています。水分が不足すると、筋肉への血流が悪くなり、栄養が届きにくくなるだけでなく、老廃物も溜まりやすくなります。

これが筋肉の痙攣(こむら返り)や、慢性的な痛みの原因になるケースも少なくありません。

高齢になると「喉が渇いた」という感覚が鈍くなるため、意識的に水を飲む必要があります。

一度に大量に飲むのではなく、コップ1杯の水を起床時、食後、入浴前後などにこまめに摂る「点滴飲み」を心がけてください。潤った筋肉は、柔軟性があり、衝撃を吸収する能力も高くなります。

筋肉を守るための栄養素とおすすめ食材

栄養素体内での主な働き効率よく摂取できる食材例
タンパク質筋肉、臓器、皮膚など体の基礎を作る。不足すると筋肉分解が進む。鶏むね肉、ささみ、豚ヒレ肉、アジ、サケ、卵、豆腐、納豆
ロイシン(アミノ酸)筋肉合成のスイッチを入れる司令塔。筋タンパク質の分解を抑制する。牛乳、チーズ、ヨーグルト、カツオ、マグロ、高野豆腐
ビタミンDカルシウムの吸収を助けるほか、筋繊維の萎縮を防ぐ作用がある。サケ、ブリ、サンマ、干しシイタケ、キクラゲ

痛くてもできる!膝に負担をかけない筋力トレーニング

「動かさない」ことが最大のリスクです。関節を動かさずに筋肉だけを使う「等尺性運動」なら、炎症がある時期でも安全に筋力を維持できます。

「膝が痛いのに運動なんて無理」と思われるかもしれませんが、痛みがある時期だからこそ行うべき運動があります。

それが、関節を動かさずに筋肉に力を入れる「等尺性収縮(アイソメトリック)」運動です。

関節を曲げ伸ばししないため、軟骨への摩擦ストレスをかけずに筋力低下を防げます。

座ったままできる「パテラセッティング」

これは膝のリハビリテーションで最も基本となる運動です。膝を伸ばした状態で、太ももの筋肉にグッと力を入れる練習です。

足を伸ばして座り(長座)、膝の下に丸めたタオルを置きます。そのタオルを膝の裏で床に向かって押しつぶすように力を入れます。

このとき、膝のお皿が太ももの付け根のほうへ引き上がるのを意識してください。5秒間力を入れて、ゆっくり力を抜く。これを20回程度繰り返します。

テレビを見ながらでもできる地味な動きですが、大腿四頭筋をピンポイントで刺激し、関節内の腫れを引かせる効果も期待できます。

重力から解放される水中ウォーキングのすすめ

もし近くにプールがある環境なら、水中運動は変形性膝関節症の方にとって理想的なトレーニングです。

水の中では浮力が働くため、体重による膝への負担が陸上の数分の一にまで軽減されます。陸上では痛くて歩けない人でも、水中なら痛みを感じずに大きく足を動かせるケースが多々あります。

水の抵抗が適度な負荷となり、全身の筋肉をバランスよく鍛えられます。

泳ぐ必要はありません。胸くらいの深さで、大股で歩いたり、横歩きをしたりするだけで十分な効果があります。

水圧によるマッサージ効果で血流が良くなり、痛みの緩和にもつながります。

椅子を使った安全なスクワット

通常のスクワットはフォームが難しく、間違ったやり方で行うと膝を痛める原因になります。そこでおすすめなのが「椅子からの立ち座りトレーニング」です。

安定した椅子を用意し、浅めに腰掛けます。足は肩幅に開き、お辞儀をするように上体を前に倒してから、ゆっくりと立ち上がります。

そして、またゆっくりとお辞儀をしながら座ります。「ドスン」と座らないように、太ももの筋肉でブレーキをかけながら座るのがポイントです。

これなら転倒の心配も少なく、日常生活動作(トイレや食事の動作)の改善にも直結します。

運動を行う際の安全チェックリスト

  • 運動中や運動後に、鋭い痛みや強い腫れが出ないか確認する(軽い筋肉痛はOK)。
  • 「痛気持ちいい」範囲で行い、歯を食いしばるような無理はしない。
  • 息を止めないように注意し、声を出しながら(数を数えながら)行う。
  • 体調が悪い日や、膝が熱を持っている日はお休みする勇気を持つ。
  • 運動の後は、太もものストレッチやアイシングでケアをする。
  • 自己流で痛みが強くなる場合は、すぐに理学療法士や医師にフォームを確認してもらう。

日常生活に潜む「筋肉を食いつぶす」悪習慣

「座りっぱなし」や「合わない靴」は、トレーニングの効果を打ち消してしまうほどの影響力を持っています。日々の小さな習慣を見直すことが、最も確実な治療法です。

せっかく運動や食事に気を使っていても、日常の何気ない習慣が筋肉の成長を妨げ、膝の悪化を招いている場合があります。

特に「動かないことへの慣れ」や「誤ったかばい方」は、知らず知らずのうちに体を蝕んでいきます。

座りっぱなしは「喫煙」と同じくらい体に悪い

「座りすぎ(セデンタリー・ライフスタイル)」は、現代病の温床であり、膝にとっても大敵です。

長時間座り続けていると、太ももの裏側の筋肉(ハムストリングス)が縮こまり、膝が伸びにくくなります。

また、股関節の前の筋肉も固まり、骨盤の動きが悪くなります。

さらに、筋肉を使わない時間が長いと、インスリンの感受性が低下し、食べた栄養が筋肉に取り込まれにくくなります。

テレビを見ている間も、CMの間だけは立ち上がって足踏みをする、30分に1回はトイレや水分補給のために立つなど、こまめに「座りっぱなしを中断する」習慣をつけましょう。

道具を使ってでも「正しい歩き」を維持する

「杖を使うと年寄りくさい」「弱ってしまいそう」と敬遠する方がいますが、それは誤解です。

痛みがある状態で無理に歩くと、変な癖がつき、かえって筋肉のバランスを崩してしまいます。

杖(T字杖やポール)を適切に使うと、膝にかかる荷重を20〜30%減らせます。痛みを和らげながら、正しいフォームで長く歩くことができれば、結果的に筋肉の減少を防げるのです。

また、靴の中に医療用のインソール(足底板)を入れるのも有効です。

足裏のアーチを支え、膝の内側にかかる負担を物理的に減らすことで、歩行時の筋肉の働きをサポートしてくれます。

睡眠不足が筋肉の修復を妨げる

筋肉はトレーニング中ではなく、寝ている間に成長・修復されます。この修復作業を指揮するのが「成長ホルモン」です。

成長ホルモンは深い眠りの時に多く分泌されますが、睡眠不足や質の悪い睡眠ではこの分泌が不十分になります。

高齢になるとどうしても眠りが浅くなりがちですが、日中に適度な活動をして体を疲れさせることや、寝る前の入浴で体を温めることなどで睡眠の質を高める努力が必要です。

膝の夜間痛で眠れない場合は、枕を膝の下に入れて少し曲げた状態で寝るなどの工夫をし、医師に相談して痛みのコントロールを行うのも重要です。

膝と筋肉に良い習慣・悪い習慣

生活シーン筋肉を減らし膝を悪くする習慣筋肉を守り膝を楽にする習慣
座位・リラックス柔らかいソファに深々と座り、何時間も動かない。適度な硬さの椅子に座り、30分に1回は立ち上がるか足首を動かす。
外出・移動外出を極力控え、家の中の移動も這ったりして済ます。杖やサポーターを適切に使ってでも、自分の足で歩く機会を作る。
メンタル「もう歳だから治らない」と悲観し、情報をシャットアウトする。「できることから始めよう」と前向きに捉え、正しいケアを実践する。

フレイル(虚弱)と変形性膝関節症の密接な関係

膝の痛みは、体だけでなく心や社会とのつながりまで奪っていきます。しかし、「おしゃべりしながら歩く」といった簡単なデュアルタスクが、この負の連鎖を断ち切る強力な武器になります。

サルコペニアが進行した先にあるのが「フレイル(虚弱)」という状態です。これは健康な状態と要介護状態の中間地点を指します。

変形性膝関節症は、単なる関節の病気ではなく、このフレイルへの入り口になりやすい病気です。

しかし、フレイルは適切な介入で健康な状態に戻ることができる「可逆性」を持っています。

身体的フレイルから社会的フレイルへの連鎖

膝が痛くて歩くのが遅くなる(身体的フレイル)と、友人との旅行や買い物に行くのが億劫になります。

すると、社会とのつながりが希薄になり、家に閉じこもりがちになります(社会的フレイル)。

人との会話が減り、刺激が少なくなると、今度は認知機能の低下やうつ傾向(精神・心理的フレイル)が現れ始めます。

このように、膝の痛みは全身の虚弱へとドミノ倒しのように影響を広げていきます。だからこそ、膝の治療は「痛み止めを飲むだけ」では不十分なのです。

リハビリテーションを通じて身体機能を維持し、社会参加を続けることが、結果として膝の痛みをコントロールし、健康寿命を延ばすことにつながります。

認知機能と歩行能力の意外なリンク

「歩きながら計算をする」「信号を見ながら左右を確認する」といった動作には、実は高度な脳の処理能力が必要です。これを「デュアルタスク(二重課題)能力」と呼びます。

変形性膝関節症の方で、歩くことだけに意識が集中してしまい、周りが見えなくなっている場合は要注意です。これは脳の予備能力が低下しているサインかもしれません。

転倒を防ぐためには筋力だけでなく、こうした脳の処理能力も維持する必要があります。

散歩中にしりとりをしたり、計算をしたりする「コグニサイズ(認知課題+運動)」は、フレイル予防と膝の機能維持の両方に効果的です。

「オーラルフレイル」も見逃せない

意外に思われるかもしれませんが、口の機能の衰え(オーラルフレイル)も膝と関係しています。

噛む力や飲み込む力が弱まると、硬いお肉や繊維質の野菜を避けるようになり、うどんやパンなど柔らかい炭水化物ばかりを食べるようになります。

これでは先ほど述べた「タンパク質」や「ビタミン」が不足し、サルコペニアが加速してしまいます。

しっかり噛んで食事をすることは、筋肉の材料を取り込むための入り口です。膝を守るために、定期的な歯科検診を受け、口の健康を保つことも忘れてはいけません。

フレイル・サイクルの構造

段階起こっている現象変形性膝関節症との関連
入り口膝の痛み、活動量の低下痛みを理由に外出頻度が減る。
サルコペニア進行筋肉量減少、基礎代謝の低下体重が増えやすくなり、膝への負荷がさらに増す。
フレイル定着疲労感、活力低下、食欲不振リハビリへの意欲がなくなり、廃用症候群へ進む。

よくある質問

変形性膝関節症とサルコペニアの関係で、プロテインは飲んだ方がいいですか?

食事だけで十分なタンパク質が摂れていない場合は、プロテインの活用を強くおすすめします。

特に高齢になると食が細くなり、必要な量(体重1kgあたり1.0~1.2g)を食事だけで満たすのが難しくなります。

運動直後などに摂取すると、効率よく筋肉の維持・増加が期待できます。ただし、腎臓に持病がある方は医師にご相談ください。

変形性膝関節症の痛みが強いときでも、サルコペニア対策の筋トレは必要ですか?

痛みが強く、患部に熱感や腫れがある急性期は、無理な曲げ伸ばし運動は避けるべきです。

しかし、完全に安静にすると筋力は即座に落ちてしまいます。

このような時期は、関節を動かさずに筋肉に力を入れる「等尺性運動(パテラセッティングなど)」を行いましょう。

痛みのない範囲で筋肉への刺激を続けることが重要です。

サルコペニアと診断された場合、変形性膝関節症の手術は受けられないのですか?

手術が受けられないわけではありませんが、術後の回復やリハビリの進み具合に影響が出る可能性があります。

筋肉量が少ないと、術後に歩けるようになるまでの期間が長くなったり、転倒リスクが高まったりする場合があります。

そのため、手術が決まった段階から、可能な限り栄養摂取とリハビリを行い、少しでも筋肉の状態を良くしておく「プレハビリテーション」が推奨されています。

変形性膝関節症でウォーキングをすると膝が痛む場合、サルコペニア予防に代わりになる運動はありますか?

はい、あります。ウォーキングは素晴らしい運動ですが、膝への衝撃があるため無理は禁物です。

代わりにおすすめなのが「エアロバイク(自転車こぎ)」や「水中ウォーキング」です。

これらは体重による膝への負担を大幅に減らしつつ、脚の筋肉を効率的に鍛えることができます。また、座って行う足の上げ下げ体操なども有効です。

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この記事を書いた人

臼井 大記のアバター 臼井 大記 大垣中央病院 整形外科・麻酔科 担当医師

日本整形外科学会認定専門医

2009年に帝京大学医学部医学科卒業後、厚生中央病院に勤務。東京医大病院麻酔科に入局後、カンボジアSun International Clinicに従事し、ノースウェスタン大学にて学位取得(修士)。帰国後、岐阜大学附属病院、高山赤十字病院、岐阜総合医療センター、岐阜赤十字病院で整形外科医として勤務。2023年4月より大垣中央病院に入職、整形外科・麻酔科の担当医を務める。

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