馬蹄鉄腎(ばていてつじん)(horseshoe kidney)とは、胎児の発育過程で左右の腎臓が下部で融合してしまう先天性の形態異常です。
健常な状態では2つの腎臓が体の両側に独立してありますが、馬蹄鉄腎では下端が繋がり、馬蹄に似た単一の器官となります。
この形態異常は胎児期の超音波検査で判明することもありますが、大半のケースでは無症状のため、成人後に偶発的に発見されることが多いです。
馬蹄鉄腎の症状
馬蹄鉄腎は多くの場合無症状ですが、尿路感染症や腎結石などの合併症を起こします。
無症状から症状の顕在化まで
馬蹄鉄腎の特徴は、多くの患者さんが長期間にわたり無症状であることで、年齢を重ねるにつれて症状が現れてきます。
尿路感染症に関連する症状
馬蹄鉄腎の方は尿路感染症にかかりやすく、これは腎臓の位置異常により、尿の流れが阻害されやすいことが原因です。
症状 | 発生頻度 |
頻尿 | 高い |
排尿時の痛み | 中程度 |
発熱 | 低い |
下腹部の不快感 | 中程度 |
尿路感染症の症状
- 頻尿(トイレに行く回数の増加)
- 排尿時の痛みや不快感
- 尿の濁り
- 下腹部の違和感
腎結石による症状
馬蹄鉄腎では腎結石が生じやすくなり、腎結石による症状は突如として現れ、激烈な痛みを伴います。
症状 | 特徴 |
腹部の疼痛 | 激しく、波状的に襲ってくる |
吐き気・嘔吐 | 痛みに随伴することが多い |
血尿 | 肉眼で確認できる場合もある |
寒気と発汗 | 結石の移動時に生じることがある |
腎機能低下に関連する症状
馬蹄鉄腎に関連して、腎臓の機能低下や合併症によって起きる症状もあります。
症状 | 関連する問題 |
高血圧 | 腎機能の低下 |
全身の倦怠感 | 貧血(赤血球の減少) |
浮腫(むくみ) | 体内の水分貯留 |
食欲不振 | 代謝異常 |
馬蹄鉄腎の原因
馬蹄鉄腎の原因は胎児期における腎臓の発育過程の異常で、遺伝的背景と環境要因が絡み合って起こります。
胎児期の腎臓形成と馬蹄鉄腎
馬蹄鉄腎は、胎児の腎臓が正常に分離せずに下部で融合することで形成されます。
通常、腎臓は胎児期に骨盤内で発生し、徐々に上方へ移動して最終的な位置に到達しますが、馬蹄鉄腎では、この上昇過程が阻害されるのです。
遺伝的要因の影響
特定の遺伝子異常が、腎臓の発育と分離に関わる過程を妨げます。
遺伝子 | 関連する症候群 |
PAX2 | 腎コロボーマ症候群(眼と腎臓の異常を特徴とする) |
EYA1 | ブランキオ-耳-腎症候群(耳、鰓弓由来組織、腎臓の異常を伴う) |
SALL1 | タウンズ-ブロックス症候群(肛門、腎臓、四肢の異常を特徴とする) |
遺伝子異常は、単独で馬蹄鉄腎を生じさせることもありますが、他の先天性異常と同時に発生することも。
環境要因の影響
胎児期の環境要因も、馬蹄鉄腎の発生に関与します。
- 妊娠中の母体の糖尿病
- 特定の薬物への曝露
- 放射線被曝
- ウイルスなどの感染症
関連する先天性異常
馬蹄鉄腎は他の先天性異常と併存することがあります。
関連する先天性異常 | 発生頻度 |
脊椎の形成異常 | 約30% |
心臓の構造異常 | 約20% |
消化管の形成異常 | 約15% |
尿路系の構造異常 | 約10% |
馬蹄鉄腎の検査・チェック方法
馬蹄鉄腎の検査やチェック方法は、画像診断、尿検査、血液検査です。
画像診断
馬蹄鉄腎の診断において、画像診断は欠かせません。
腎臓の形態異常を直接観察できるため、信頼性の高い手法です。
検査方法 | 特徴と利点 |
超音波検査 | 非侵襲的で簡便、繰り返し実施可能 |
CT検査 | 高精細な画像が得られるが、放射線被ばくあり |
MRI検査 | 軟部組織の描出に優れ、造影剤なしでも鮮明な画像が得られる |
超音波検査は放射線被ばくの心配がなく何度でも行えるので、スクリーニングや経過観察に適しています。一方、CT検査やMRI検査はより詳細な情報を提供しますが、被ばくや検査時間などが課題です。
尿検査
尿検査は、腎臓の働きや尿路感染症などの合併症を調べるのに有効です。
チェックする項目
- 尿蛋白:腎機能障害の指標となり、量や種類によって症状の程度を推測
- 尿潜血:尿路感染症や結石の存在を示唆
- 尿沈渣:細菌や結晶の有無を顕微鏡で確認し、詳細な状態を把握
定期的な尿検査を実施することで、馬蹄鉄腎に関連する問題を早い段階で発見できます。
血液検査
血液検査は、腎機能や全身の健康状態を評価するために大切です。
検査項目 | 意義と解釈 |
クレアチニン | 腎機能の指標、値が高いほど腎機能低下を示唆 |
尿素窒素 | 腎機能の指標、タンパク質代謝の状態も反映 |
電解質(ナトリウム、カリウムなど) | 腎臓による体内環境の調節機能を評価 |
ヘモグロビン | 貧血の有無を確認、腎性貧血の可能性も |
値が基準範囲から外れていると、腎機能の低下や合併症の可能性があります。
腎機能検査
より精密な腎機能の評価が必要なときは、特殊な検査を実施することもあります。
検査名 | 目的と方法 |
クレアチニンクリアランス | 24時間尿を採取し、腎臓の濾過機能を数値化 |
レノグラム | 放射性同位元素を用いて、腎臓の血流と機能を視覚化・定量化 |
糸球体濾過量(GFR)測定 | イヌリンなどの物質を用いて、腎機能を最も正確に評価 |
腎機能検査は、馬蹄鉄腎が腎機能に与える影響を把握するのに役立ちます。
馬蹄鉄腎の治療方法と治療薬、治療期間
馬蹄鉄腎の治療は、無症状の経過観察から外科的介入まで、幅広い選択肢があります。
無症状の馬蹄鉄腎への対応
多くの馬蹄鉄腎の方は無症状で特別な治療を必要としませんが、定期的な経過観察は欠かせません。
- 尿検査と血液検査の定期的な実施
- 腎機能の継続的な評価
- 超音波検査による腎臓の形態確認
合併症に対する治療法
馬蹄鉄腎に伴う合併症には、治療が必要です。
合併症と治療法
合併症 | 治療法 |
尿路感染症 | 抗生物質による治療 |
腎結石 | 体外衝撃波砕石術(体外から衝撃波を当てて結石を砕く方法)、内視鏡的治療 |
水腎症(腎臓に尿が貯まる状態) | 経皮的腎瘻造設術(皮膚から腎臓に管を入れて尿を誘導する方法)、尿管ステント留置 |
外科的治療の検討
症状が重かったり保存的治療で改善が見られない場合は、外科的治療が考慮されます。
- 腎盂形成術:尿の流れを改善する手術
- 腎部分切除術:異常がある部分を取り除く手術
- 腎摘出術:腎機能が著しく低下している場合の最終手段
手術の種類は、患者さんの年齢、全身状態、腎機能などを総合的に評価して決定されます。
治療薬の活用
馬蹄鉄腎そのものに対する特効薬はありませんが、合併症の管理に薬剤が使用されます。
合併症 | 使用される薬剤 |
高血圧 | ACE阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)、ARB(アンジオテンシン受容体拮抗薬) |
尿路感染症 | 抗生物質 |
痛み | 非ステロイド性抗炎症薬 |
治療期間と継続的なケア
馬蹄鉄腎の治療期間
- 無症状の場合:生涯にわたる定期的な経過観察
- 合併症がある場合:症状改善まで(数週間から数ヶ月程度)
- 手術後:約1〜3ヶ月の回復期間、その後も定期的な診察
治療段階 | 目的 | 期間 |
初期評価 | 状態の把握と治療方針の決定 | 1〜2週間 |
急性期治療 | 合併症の改善 | 数日〜数週間 |
回復期 | 機能回復と再発予防 | 1〜3ヶ月 |
維持期 | 長期的な健康管理 | 生涯 |
薬の副作用や治療のデメリットについて
馬蹄鉄腎の治療では、薬物療法や手術療法に関連する副作用やデメリットが生じることがあります。
薬物療法
馬蹄鉄腎に伴う合併症に対する薬物療法では、副作用が現れる可能性があります。
薬剤の種類 | 副作用 | 注意点 |
抗生物質 | 消化器症状、アレルギー反応 | 長期使用で耐性菌のリスク |
降圧薬 | めまい、疲労感、性機能障害 | 急激な血圧低下に注意 |
利尿薬 | 電解質異常、脱水 | 頻尿による生活への影響 |
長期的な薬物療法が必要となる場合副作用のリスクが高まるため、定期的な検査と経過観察が欠かせません。
手術療法
馬蹄鉄腎の手術療法には、手術自体のリスクに加え、術後の回復期間や合併症の可能性も考慮します。
手術に関連するデメリット
- 全身麻酔に伴うリスク(呼吸器合併症、認知機能への影響など)
- 手術部位の感染や出血
- 術後の痛みや不快感
- 予想以上に長引く入院期間
- 手術操作による一時的または永続的な腎機能低下の可能性
腎機能への影響
大がかりな手術や強力な薬物療法を行うと、腎機能の一時的な低下や、永続的な障害が生じることがあります。
治療法 | 腎機能への影響 | モニタリング方法 |
手術療法 | 一時的な機能低下、まれに永続的な障害 | 定期的な血液・尿検査、画像診断 |
薬物療法 | 薬剤性腎障害のリスク | 腎機能マーカーの継続的チェック |
経過観察 | 緩やかな機能低下の可能性 | 年1〜2回の総合的な腎機能評価 |
保険適用と治療費
以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。
馬蹄鉄腎の保険適用範囲
馬蹄鉄腎では、多くの治療や検査が健康保険の適用対象です。
保険適用される項目
- 診断のための画像検査(超音波、CT、MRIなど)
- 尿検査や血液検査
- 合併症に対する治療(尿路感染症の抗生物質治療など)
- 必要に応じた外科的処置
治療費の概算
治療費の目安
治療内容 | 概算費用(3割負担の場合) |
外来診察(1回) | 1,000円〜3,000円 |
腹部超音波検査 | 2,000円〜4,000円 |
CT検査 | 5,000円〜10,000円 |
尿管ステント留置術 | 30,000円〜50,000円 |
腎盂形成術 | 100,000円〜200,000円 |
以上
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