紫斑病性腎炎

紫斑病性腎炎

紫斑(しはん)病性腎炎(henoch schonlein purpura nephritis)とは、血管の炎症により紫斑が生じ、腎臓の機能障害を引き起こす疾患です。

血管の炎症により血小板が減少し、血液が漏れ出して皮膚に紫色の斑点が現れ、炎症が腎臓の血管にも及ぶことで、腎機能が低下していきます。

ここでは、紫斑病性腎炎の原因や症状、診断方法について詳しく解説していきましょう。

目次

紫斑病性腎炎の病型

紫斑病性腎炎は、腎臓の病気の一つで、特徴的な病型を示します。

紫斑病性腎炎の主な病型

紫斑病性腎炎の主な病型

  • メサンギウム増殖性糸球体腎炎型
  • 管内増殖性糸球体腎炎型
  • 膜性増殖性糸球体腎炎型

これらの病型は、腎生検で得られた組織を顕微鏡で詳しく調べることにより分類されます。

メサンギウム増殖性糸球体腎炎型

メサンギウム増殖性糸球体腎炎型は、紫斑病性腎炎の中で最も多く見られる病型で、メサンギウムと呼ばれる細胞が増え、その周りの物質も増加することが特徴です。

組織の変化特徴
メサンギウム細胞増加
メサンギウム周囲の物質増加

管内増殖性糸球体腎炎型

管内増殖性糸球体腎炎型は、メサンギウム増殖性糸球体腎炎型の次に多く見られる病型です。

毛細血管の内側にある細胞が大きくなったり、管の中に細胞が入り込んだりすることが確認され、また、半月体と呼ばれる構造が形成されることもあります。

膜性増殖性糸球体腎炎型

この病型では、糸球体の基底膜と呼ばれる部分が二重になったり、そこに物質が沈着したりすることが特徴的な所見として挙げられます。

組織の変化特徴
糸球体基底膜二重化
沈着物存在

紫斑病性腎炎の症状

紫斑病性腎炎には、皮膚症状と腎臓への影響から出る症状があります。

皮膚症状

紫斑病性腎炎の特徴的な症状の一つが、皮膚に現れる紫斑と呼ばれる紫色の斑点です。

これは、血管の炎症によって血小板という血液を固める成分が減少し、血液が皮膚の下の組織に染み出すことで生じます。

紫斑は主に脚やお尻に多く見られ、点状や斑状の出血斑です。

紫斑の特徴説明
色調紫色から赤褐色
大きさ直径数mm〜数cm
形状円形、楕円形、不整形
圧痛一般的に圧痛を伴わない

腎症状

血管の炎症が腎臓の糸球体という部分に及ぶと、糸球体腎炎を引き起こし、以下のような症状が現れます。

  • 血尿(肉眼で見えるレベルか顕微鏡で見えるレベルか)
  • 尿中のたんぱく質の増加
  • むくみ(特に脚や顔)
  • 高血圧

全身症状

紫斑病性腎炎では、全身性の症状も見られることがあります。

全身症状説明
発熱炎症反応に伴う発熱が生じる可能性がある
関節痛関節の炎症により、痛みや腫れを認めることがある
腹痛消化管の血管炎により、腹痛を訴えることがある
倦怠感全身性の炎症や腎機能低下に伴う倦怠感を認めることがある

紫斑病性腎炎の原因

紫斑病性腎炎は、さまざまな要因が関与して発症すると考えられています。

IgA血管炎(ヘノッホ・シェーンライン紫斑病)

IgA血管炎は、紫斑病性腎炎の最も一般的な原因の一つで、IgAという免疫に関わるタンパク質が血管の壁に溜まり、炎症を引き起こします。

IgA血管炎は、主に子供に多く見られる病気ですが、大人になってから発症することも。

原因特徴
IgAの沈着血管壁に炎症を引き起こす
発症年齢主に子供、時に大人

全身性エリテマトーデス(SLE)

全身性エリテマトーデスは、自己免疫疾患の一種で、体の免疫システムが自分自身の細胞を攻撃してしまい、腎臓もその影響を受けます。

SLEによる紫斑病性腎炎は、ループス腎炎と呼ばれることも。

血管炎症候群

血管炎症候群は、血管に炎症が起こる一連の病気で、腎臓の血管にも炎症が広がり、紫斑病性腎炎を引き起こすことがあります。

代表的な血管炎症候群

  • 顕微鏡的多発血管炎
  • 多発血管炎性肉芽腫症(ウェゲナー肉芽腫症)
  • 好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(チャーグ・ストラウス症候群)

腎臓以外の臓器にも症状が現れます。

感染症

感染症が原因で紫斑病性腎炎が起こることもあります。

原因特徴
溶連菌感染症感染後に紫斑病性腎炎を引き起こす
その他の感染症ウイルスや他の細菌による感染が関与することもある

紫斑病性腎炎の検査・チェック方法

紫斑病性腎炎は、早期発見が大切な病気です。この疾患の診断に用いられる主な検査やチェック方法について解説いたします。

身体所見と問診

紫斑病性腎炎の診断において、まず行うのが身体所見と問診です。

尿検査

紫斑病性腎炎では、腎臓の機能障害が生じるため、尿検査は大切な検査の一つです。

尿検査項目説明
尿蛋白腎臓の障害により、尿中のたんぱく質が増加する
尿潜血腎臓からの出血により、尿中に血液が混ざる
尿沈渣赤血球や白血球、円柱などの異常所見を確認する

血液検査

血液検査も、紫斑病性腎炎の診断や病状評価に欠かせません。

  • 血小板数の減少
  • 貧血
  • 腎機能を反映するクレアチニンや尿素窒素の上昇
  • 炎症反応を示すCRP(C反応性たんぱく質)の上昇

腎生検

確定診断や病状評価のために、腎生検が行われることがあります。

腎生検の目的説明
確定診断腎臓の組織を顕微鏡で観察し、紫斑病性腎炎の特徴的な所見を確認する
重症度評価腎臓の組織の障害の程度を評価し、治療方針を決める際に役立てる
経過観察治療効果の判定や、病状の変化を追跡するために実施する

画像検査

紫斑病性腎炎では、腎臓の形や大きさの変化を評価するために、画像検査が行われることも。

超音波検査やCT、MRIなどの検査により、腎臓の大きさや形、周りの組織の状態を確認できます。

紫斑病性腎炎の治療方法と治療薬

紫斑病性腎炎の治療は、原因となった病気や症状の重さに応じて、一人ひとりに合わせて行われます。

薬物療法

薬物療法は、紫斑病性腎炎の治療の中心です。

作用
ステロイド炎症を抑える
免疫抑制剤免疫の反応を抑える

支持療法

支持療法は、腎臓の機能を維持したり、合併症を防いだりすることを目的とした治療法です。

  • 血圧のコントロール
  • むくみの管理
  • 貧血の治療
  • 感染症の予防と治療

血漿交換療法

血漿交換療法は、重い紫斑病性腎炎に対して行われる治療法の一つです。

患者さんの血液から病気の原因となる物質を含む血漿を取り除き、新しい血漿と入れ替えます。

適応効果
重い症状の方病気の原因物質の除去
他の治療が効かない場合腎臓の機能の改善

腎代替療法

腎代替療法は、腎臓の機能が著しく低下した場合に行われる治療法です。

  • 血液透析
  • 腹膜透析
  • 腎臓移植

紫斑病性腎炎の治療期間と予後

紫斑病性腎炎は、腎臓の細い血管に炎症が起こる自己免疫疾患の一種で、適切な治療を受けないと腎不全になってしまう可能性がある重い病気です。 ここでは、紫斑病性腎炎の治療にかかる期間と予後について説明します。

紫斑病性腎炎の治療期間

軽い症状の場合、数週間から数ヶ月の免疫を抑える治療で良くなることが多いものの、重い症状の場合は、良くなるまでに数ヶ月かかり、その後の維持治療を含めると、1年以上の長期治療が必要になることがあります。

病気の重症度良くなるまでの期間維持治療の期間
軽症数週間~数ヶ月数ヶ月~1年
重症数ヶ月1年以上

紫斑病性腎炎の長期予後

適切な治療を受けた紫斑病性腎炎の患者さんの長期予後は、比較的良いとされています。 ただし、患者さんの中には、良くなったり悪くなったりを繰り返す人や、慢性腎臓病になる人も。

予後割合
完全に良くなる60~70%
再発する20~30%
慢性腎臓病になる10~20%

紫斑病性腎炎の治療の副作用及びデメリット

紫斑病性腎炎の治療は、副作用やデメリットにも注意が必要です。

薬物療法の副作用

ステロイドの主な副作用

  • 感染症にかかりやすくなる
  • 骨が弱くなる
  • 糖尿病になる
  • 体重が増える
  • 顔がまるくなる(ムーンフェイス)

一方、免疫を抑える薬の副作用としては、感染症のリスクが高まったり、骨髄の働きが抑えられたりすることなどが挙げられます。

主な副作用
ステロイド感染症、骨が弱くなる、糖尿病など
免疫を抑える薬感染症、骨髄の働きが抑えられるなど

支持療法のデメリット

血圧を下げる薬は、めまいや疲れやすさなどの副作用を引き起こすことがあり、また、むくみを取る薬は、体内の電解質のバランスが崩れる原因となることもあります。

血漿交換療法のデメリット

デメリット内容
体への負担血管に管を入れたり、体外循環をしたりする必要がある
合併症感染症、出血、アレルギー反応など

腎代替療法のデメリット

  • 生活の質が低下する
  • 合併症のリスクがある
  • 食事や水分を制限しなければならない

一方、腎臓移植は、手術の体への負担が大きいことや、ドナーが不足していることなどの問題も。

また、移植後は一生涯、免疫を抑える治療を受ける必要があるため、感染症にかかるリスクが高くなります。

保険適用の有無と治療費の目安について

紫斑病性腎炎の治療は、原則として健康保険が適用されます。

紫斑病性腎炎の保険適用

保険適用の範囲や条件は、患者の症状や治療内容によって異なる場合があります。

保険適用の対象保険適用の条件
診察料医師による診察が行われること
検査料医学的に必要な検査であること
投薬料医師が処方した薬剤であること
入院料医師が入院の必要性を認めること

紫斑病性腎炎の一般的な治療費

軽症では、外来通院による治療で済むこともありますが、重症の場合は入院治療が必要となり、治療費が高額になることもあります。

・外来通院の場合:数万円~数十万円/月

・入院治療の場合:数十万円~数百万円/月

高額療養費制度の利用

紫斑病性腎炎の治療費が高額になる場合、高額療養費制度を利用することができます。この制度は、医療費が一定の金額を超えた場合、超過分の一部が支給されるものです。

所得区分自己負担限度額(月額)
低所得者約35,400円
一般約80,100円~252,600円
高所得者約140,100円~252,600円

医療費助成制度の活用

特定疾患に指定されている場合、医療費助成制度を利用できる可能性があります。

なお、上に記載した治療費より高くなることもありますので、予めご了承ください。

また、保険適用の可否は診察時に担当医師に直接ご確認ください。

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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