先天性ネフローゼ症候群

先天性ネフローゼ症候群

先天性ネフローゼ症候群(congenital nephrotic syndrome)とは、生まれつき腎臓の機能に障害があり、尿中にタンパク質が過剰に漏れ出る状態のことです。

この疾患の原因は、腎臓にある糸球体(尿をろ過する微小な構造)の異常にあります。

症状は、全身のむくみ、腹水、血液中のタンパク質が著しく減少する低タンパク血症などです。

目次

先天性ネフローゼ症候群の症状

先天性ネフローゼ症候群は、生後間もない乳児に発症する腎臓の機能不全で、タンパク尿や浮腫などの症状を呈します。

早期に見られる主要な症状

先天性ネフローゼ症候群の臨床症状は出生後数週間以内に現れ、最も特徴的な所見は、尿中への大量のタンパク質の漏出です。

この現象は、腎臓の糸球体濾過障壁の機能の不全が原因です。

症状特徴
タンパク尿尿中に異常量のタンパク質が検出される
浮腫体内の水分貯留による

全身性の症状

尿中へのタンパク質が漏れ出る状態は血清タンパク質、特にアルブミンの著しい低下をもたらし、体内の水分量を乱し、いろいろな症状を起こします。

  • 顔面および四肢のむくみ
  • 腹部の膨満感
  • 呼吸困難感
  • 食欲減退

成長発達への影響

先天性ネフローゼ症候群は、乳児の成長と発達に影響があります。

タンパク質や脂質を失くことに夜栄養障害や代謝異常により、体重が増えにくかったり、身長の成長の遅れが観察されます。

影響領域臨床像
身体発育体重の増加不良、身長の停滞
免疫状態感染症にかかりやすくなる
栄養状態タンパク質・脂質代謝の不均衡

二次的合併症のリスク

先天性ネフローゼ症候群の慢性的な経過は二次的合併症を起こし、腎機能の悪化、血液凝固異常に伴う血栓症、カルシウム・リン代謝異常による骨代謝障害などが現れます。

鑑別診断と経過観察

先天性ネフローゼ症候群は、他の腎疾患や全身性疾患と似ていることがあるので、鑑別と経過観察が必要です。

定期的な尿検査、血液生化学検査、画像診断などを通じて、症状や合併症を評価します。

検査項目評価内容
尿検査タンパク尿の定量、尿沈渣
血液検査血清タンパク、電解質、腎機能
画像診断腎臓の形態、サイズ、エコー輝度

先天性ネフローゼ症候群の原因

先天性ネフローゼ症候群は、遺伝子の変異や異常が原因です。

遺伝子異常

先天性ネフローゼ症候群の要因は、腎臓の糸球体ろ過膜を構成するタンパク質をコードする遺伝子の変異です。

遺伝子異常により、糸球体ろ過膜の構造や機能に影響が出、タンパク質が尿中へ漏れ出し、新生児期や乳児期早期からネフローゼ症候群特有の症状が現れます。

遺伝子関連タンパク質機能
NPHS1ネフリン濾過膜の構造保持
NPHS2ポドシンポドサイト(足細胞)の機能制御
WT1WT1タンパク質腎臓発生の制御

遺伝様式

先天性ネフローゼ症候群は常染色体劣性遺伝で、両親からそれぞれ変異遺伝子を受け継ぐことで発症する疾患です。

環境要因

遺伝子異常が主な原因ですが、環境要因も先天性ネフローゼ症候群の発症や進行に影響を及ぼします。

胎児期における感染症や母体の薬物への曝露などが、腎臓の発達や機能に作用することがあります。

先天性ネフローゼ症候群の検査・チェック方法

先天性ネフローゼ症候群の診断には、尿検査、血液検査、画像診断、遺伝子解析などの検査法を組み合わせて行います。

尿検査

尿検査は、先天性ネフローゼ症候群の診断において最も基本的な検査方法です。

尿検査では尿中のタンパク質量の測定で、24時間蓄尿検査や随時尿検査を用い、タンパク尿の評価を行います。

検査方法評価指標
24時間蓄尿1日総タンパク排泄量
随時尿タンパク/クレアチニン比

血液検査

血液検査では血清アルブミン値、総タンパク量、電解質バランス、腎機能マーカーを評価し、検査結果は、疾患の重症度判定や全身状態の把握に不可欠な指標です。

さらに、血液凝固系の検査も併せて実施し、血栓症発症のリスク評価も行います。

画像診断

腎臓の大きさ、形態、エコー輝度などの評価には、超音波検査を用い、症例によっては、CTやMRIを使うこともあります。

画像検査は、腎臓の構造的な異常や二次的変化を把握するために有用です。

  • 超音波検査:腎臓のサイズ測定、エコー輝度評価、皮質・髄質境界の観察
  • CT検査:腎臓の精密な形態学的評価
  • MRI検査:軟部組織のコントラスト解析

遺伝子解析

先天性ネフローゼ症候群の多くは特定の遺伝子変異が原因のため、遺伝子解析が必要です。

NPHS1(ネフリン遺伝子)、NPHS2(ポドシン遺伝子)、WT1(ウィルムス腫瘍遺伝子1)などの遺伝子を調べます。

原因遺伝子関連タンパク質
NPHS1ネフリン
NPHS2ポドシン
WT1WT1転写因子

先天性ネフローゼ症候群の治療方法と治療薬、治療期間

先天性ネフローゼ症候群の治療は、薬物療法、栄養管理、腎移植などを組み合わせて行います。

薬物療法

先天性ネフローゼ症候群における薬物療法は、症状の緩和と合併症の予防を目指します。

タンパク尿の軽減や浮腫の改善において有効なステロイド薬や免疫抑制剤が治療の中心ですが、使用には細心の注意が必要です。

薬剤名効果副作用
プレドニゾロン炎症抑制成長遅延、骨粗鬆症
シクロスポリン免疫機能抑制腎毒性、高血圧
アンジオテンシン変換酵素阻害薬タンパク尿減少血圧低下、高カリウム血症

栄養管理

先天性ネフローゼ症候群患者さんにとって栄養管理が重要で、タンパク質や電解質の損失を補うため、高タンパク・高カロリー食を行います。

同時に、水分制限や塩分制限も大切です。

腎移植

重症例においては、腎移植が治療選択肢の一つです。

腎移植は患者さんの生活の質を向上させますが、手術に伴うリスクや免疫抑制剤の長期服用に関連する問題もあります。

治療期間

先天性ネフローゼ症候群の治療は、原則として生涯にわたって継続します。

特に小児期にでは、成長や発達の段階に応じた管理が大切で、成人期に入ってからも、定期的な検査や投薬が必要です。

薬の副作用や治療のデメリットについて

先天性ネフローゼ症候群の治療には、免疫抑制薬や利尿薬などの薬物療法を用いますが、多様な副作用やデメリットがあります。

ステロイド薬の影響

先天性ネフローゼ症候群で使われるステロイド薬は長期投与に伴い副作用が現れ、最も懸念されるのは、成長発達の阻害と骨代謝異常です。

加えて、感染症にかかりやすくなったり、外見の変化(クッシング様症候群)も重要な問題となります。

副作用影響
成長障害最終身長の低下
骨粗鬆症病的骨折のリスク上昇
易感染性日和見感染症の頻発

非ステロイド性免疫抑制薬のリスク

ステロイド薬以外の免疫抑制薬(カルシニューリン阻害薬、代謝拮抗薬など)も使用されますが、副作用があります。

最も重大なのは感染症リスクの増大と、肝障害や腎障害で、さらに、長期使用に伴う悪性腫瘍の発生リスクの上昇もあります。

利尿薬の副作用

浮腫の管理のために使用する利尿薬は、体内の電解質バランスを乱すことがあります。

特に低カリウム血症は重要で、骨格筋の機能障害や不整脈を起こす危険性があり、過度の利尿作用による脱水や血液量の減少にも注意が必要です。

  • 低カリウム血症:筋力低下、心室性不整脈
  • 脱水:めまい、倦怠感、腎前性急性腎障害
  • 循環血液量減少:起立性低血圧、失神

免疫抑制状態がもたらす感染症リスク

免疫機能の抑制に伴う感染症リスクの上昇は、通常の感染症に加え、日和見感染症や重症の感染症のリスクを増加させます。

感染症タイプ原因菌
細菌性感染症肺炎球菌、大腸菌
ウイルス感染症サイトメガロウイルス、帯状疱疹ウイルス
真菌感染症カンジダ、アスペルギルス

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

外来診療費

先天性ネフローゼ症候群の患者さんは定期的な外来診療を行い、1回あたりの自己負担額は500円から2,000円程度です。

入院費用

症状が悪化したりや精密検査を行うときには入院が必要で、入院費用の自己負担額は、1日あたり3,000円から10,000円です。

薬剤費

先天性ネフローゼ症候群の治療には、ステロイド薬や免疫抑制剤などを使用します。

薬剤の種類概算月額自己負担額
ステロイド薬1,000円~3,000円
免疫抑制剤3,000円~15,000円
その他の薬剤1,000円~5,000円

検査費用

定期的な検査は、先天性ネフローゼ症候群の経過観察に不可欠です。

  • 血液検査:500円~1,000円(1回あたり)
  • 尿検査:300円~500円(1回あたり)
  • 腎生検:10,000円~15,000円(1回あたり)

腎移植関連費用

重症例では腎移植が選択肢になることがあり、手術費用の自己負担額は、10万円から30万円程度となります。

腎移植関連項目概算自己負担額
移植手術費100,000円~300,000円
術後免疫抑制療法(年間)50,000円~100,000円
定期検査・フォローアップ(年間)30,000円~50,000円

以上

参考文献

Holmberg C, Laine J, Rönnholm K, Ala-Houhala M, Jalanko H. Congenital nephrotic syndrome. Kidney International Supplement. 1996 Jan 1(53).

AbuMaziad AS, Abusaleh R, Bhati S. Congenital nephrotic syndrome. Journal of Perinatology. 2021 Dec;41(12):2704-12.

Bérody S, Heidet L, Gribouval O, Harambat J, Niaudet P, Baudouin V, Bacchetta J, Boudaillez B, Dehennault M, de Parscau L, Dunand O. Treatment and outcome of congenital nephrotic syndrome. Nephrology Dialysis Transplantation. 2019 Mar 1;34(3):458-67.

Hallman N, Norio R, Rapola J. Congenital nephrotic syndrome. Nephron. 1973 Nov 28;11(2-4):101-10.

Fanni C, Loddo C, Faa G, Ottonello G, Puddu M, Fanos V. Congenital nephrotic syndrome. Journal of Pediatric and Neonatal Individualized Medicine (JPNIM). 2014 Oct 22;3(2):e030274-.

Wang JJ, Mao JH. The etiology of congenital nephrotic syndrome: current status and challenges. World Journal of Pediatrics. 2016 May;12:149-58.

Holmberg C, Antikainen M, Rönnholm K, Ala-Houhala M, Jalanko H. Management of congenital nephrotic syndrome of the Finnish type. Pediatric Nephrology. 1995 Feb;9:87-93.

Hamed RM. Congenital nephrotic syndrome. Saudi Journal of Kidney Diseases and Transplantation. 2003 Jul 1;14(3):328-35.

Eddy AA, Symons JM. Nephrotic syndrome in childhood. The lancet. 2003 Aug 23;362(9384):629-39.

Huttunen NP. Congenital nephrotic syndrome of Finnish type. Study of 75 patients. Archives of disease in childhood. 1976 May 1;51(5):344-8.

免責事項

当院の医療情報について

当記事は、医療に関する知見を提供することを目的としており、当院への診療の勧誘を意図したものではございません。治療についての最終的な決定は、患者様ご自身の責任で慎重になさるようお願いいたします。

掲載情報の信頼性

当記事の内容は、信頼性の高い医学文献やガイドラインを参考にしていますが、医療情報には変動や不確実性が伴うことをご理解ください。また、情報の正確性には万全を期しておりますが、掲載情報の誤りや第三者による改ざん、通信トラブルなどが生じた場合には、当院は一切責任を負いません。

情報の時限性

掲載されている情報は、記載された日付の時点でのものであり、常に最新の状態を保証するものではありません。情報が更新された場合でも、当院がそれを即座に反映させる保証はございません。

ご利用にあたっての注意

医療情報は日々進化しており、専門的な判断が求められることが多いため、当記事はあくまで一つの参考としてご活用いただき、具体的な治療方針については、お近くの医療機関に相談することをお勧めします。

大垣中央病院・こばとも皮膚科

  • URLをコピーしました!
目次