急性尿細管壊死(ATN)

急性尿細管壊死(ATN)

急性尿細管壊死(ATN acute tubular necrosis)とは、腎臓内にある尿細管という細い管状の構造が損傷を受け、壊死してしまう疾患のことです。

尿細管は血液中の老廃物を濾過し、尿として体外に排出するという重要な役割を果たしているため、尿細管が損傷を受けると腎機能が著しく低下し、重篤な状態に陥る可能性があります。

急性尿細管壊死(ATN)は腎不全の原因として最も多くみられ、早期発見と対処が求められる疾患の一つです。

目次

急性尿細管壊死(ATN)の病型

急性尿細管壊死は、虚血性、腎毒性、混合型、に分けられます。

虚血性ATN

虚血性ATNは、腎臓への血流が著しく減少することによって起こります。

腎臓は血流に大きく依存しているため、長時間の血流低下は尿細管上皮細胞の損傷や壊死につながるのです。

病型原因
虚血性ATN腎臓への血流減少
腎毒性ATN腎毒性物質への曝露

腎毒性ATN

腎毒性ATNは、腎臓に有害な物質に曝露されることによって発生します。

医薬品、化学物質、重金属などの腎毒性物質は、尿細管上皮細胞に直接的な損傷を与えます。

主な腎毒性物質の例

  • 一部の抗生物質
  • 抗がん剤
  • 造影剤
  • 有機溶媒

混合型ATN

混合型ATNは、虚血性要因と腎毒性要因の両方が関与している病型です。

例えば、重度の脱水状態で腎毒性物質に曝露された際、混合型ATNを発症する可能性があります。

病型特徴
虚血性ATN尿細管上皮細胞の虚血性損傷
腎毒性ATN尿細管上皮細胞の中毒性損傷
混合型ATN虚血性要因と腎毒性要因の複合的関与

病理学的特徴

ATNの病理学的特徴は、尿細管上皮細胞の壊死と再生像で、急性期には、尿細管上皮細胞の脱落と管腔内の細胞残渣が観察され、回復期には、残存した尿細管上皮細胞の再生と管腔の修復が見られます。

急性尿細管壊死(ATN)の症状

急性尿細管壊死(ATN)の初期症状は非特異的なことが多く、早期発見が難しいとされています。

乏尿・無尿

急性尿細管壊死(ATN)で最も特徴的な症状は、尿量の減少です。

一日の尿量が400mL以下になる乏尿や、尿が全く出なくなってしまう無尿が見られることがあり、これは、尿細管が壊死することで、腎臓の濃縮力が低下し、尿量が減少することからきます。

尿量定義
乏尿一日の尿量が400mL以下の状態
無尿尿が全く出ない状態

全身の浮腫

急性尿細管壊死(ATN)が起こると、ナトリウムの再吸収が障害されるため、体内の水分量が増加し、浮腫が現れることがあります。

  • 顔面や下肢に現れる浮腫
  • 体重が増加する
  • 腹水が貯留する

解質異常

急性尿細管壊死(ATN)では、電解質のバランスが崩れてしまうことがあります。

電解質異常血中濃度
高カリウム血症カリウム > 5.5 mEq/L
低ナトリウム血症ナトリウム < 135 mEq/L
高リン血症リン > 4.5 mg/dL
低カルシウム血症カルシウム < 8.5 mg/dL

全身倦怠感・易疲労感

急性尿細管壊死(ATN)では、腎機能が低下することで、老廃物が体内に蓄積して、次のような症状が現れることがあります。

  • 全身がだるい倦怠感
  • 疲れやすくなる易疲労感
  • 食欲が低下する
  • 吐き気やおう吐が起こる

これらの症状は非特異的ですが、急性尿細管壊死(ATN)を疑ううえで重要な手がかりとなります。

急性尿細管壊死(ATN)の原因

急性尿細管壊死(ATN)は、さまざまな原因によって引き起こされる腎臓の疾患です。

虚血(血流低下)

虚血は、急性尿細管壊死(ATN)の最も一般的な原因の一つで、腎臓への血流が著しく減少すると、尿細管上皮細胞が酸素や栄養不足に陥ります。

虚血を引き起こす原因

  • 重度の脱水
  • 大量出血
  • ショック状態
  • 心不全

腎毒性物質

腎毒性物質への曝露も急性尿細管壊死(ATN)の重要な原因で、これらの物質は、尿細管上皮細胞に直接的な損傷を与えます。

腎毒性物質の種類
医薬品一部の抗生物質、抗がん剤、鎮痛剤
化学物質有機溶媒、重金属、農薬

重度の感染症

重度の感染症は、急性尿細管壊死(ATN)の原因となることがあり、感染症に伴う全身性炎症反応は、腎臓の機能に悪影響を及ぼします。

感染症の種類
細菌感染症敗血症、腎盂腎炎
ウイルス感染症HIV感染症、腎症候性出血熱

その他の原因

上記以外にも、急性尿細管壊死(ATN)を引き起こす要因があり、例えば、横紋筋融解症では、損傷した筋肉から放出されるミオグロビンが尿細管を閉塞させます。

また、造影剤腎症は、造影剤の使用後に発症する急性尿細管壊死(ATN)の特殊なタイプです。

急性尿細管壊死(ATN)の検査・チェック方法

急性尿細管壊死(ATN)は、早期発見と迅速な対応が予後に大きな影響を与える疾患です。

血液検査

急性尿細管壊死(ATN)の診断には、血液検査が欠かせず、特に、次の項目を測定することが重要とされています。

  • 血中尿素窒素(BUN)
  • 血清クレアチニン
  • 電解質(ナトリウム、カリウム、クロール、カルシウム、リンなど)
検査項目基準値
血中尿素窒素(BUN)8~20 mg/dL
血清クレアチニン男性: 0.6~1.1 mg/dL<br>女性: 0.4~0.8 mg/dL

これらの値が上昇していた場合、腎機能の低下が疑われます。

尿検査

尿検査も、急性尿細管壊死(ATN)の診断に有用で、いくつかの項目を確認します。

  • 尿量
  • 尿比重
  • 尿中ナトリウム排泄量(FENa)
  • 尿中尿素窒素排泄量(FEUN)
検査項目基準値
尿中ナトリウム排泄量(FENa)1%以上
尿中尿素窒素排泄量(FEUN)35%以上

FENaとFEUNの上昇は、尿細管が障害されていることを示唆します。

画像件さ

急性尿細管壊死(ATN)の診断には、画像検査も用いられます。

  • 超音波検査:腎臓の大きさや形態を評価する
  • CT検査:腎臓の形態や石灰化の有無を評価する
  • MRI検査:腎臓の詳細な構造を評価する

腎生検

確定診断をつけるためには、腎生検が必要となることがあり、腎生検によって、次のような所見が得られます。

  • 尿細管の壊死や再生像
  • 間質に見られる浮腫や炎症細胞の浸潤
  • 尿細管腔内のキャスト(円柱)

急性尿細管壊死(ATN)の治療方法と治療薬について

急性尿細管壊死の治療は、原因の除去と腎機能のサポートを中心に行われます。

原因の除去

急性尿細管壊死(ATN)の治療において、原因の特定と除去は重要な第一歩で、例えば、脱水が原因の場合は、適切な輸液によって体液バランスを回復させます。

腎毒性物質が原因の場合は、速やかに曝露を中止し、解毒剤の投与を検討します。

原因治療法
脱水輸液
腎毒性物質曝露中止、解毒剤

腎機能のサポート

急性尿細管壊死(ATN)では腎機能が低下しているため、サポートすることが大切です。

サポートのための治療

  • 体液・電解質バランスの維持
  • 栄養管理
  • 貧血の是正
  • 感染症の予防と治療

重症例では、一時的な腎代替療法(血液透析や腹膜透析)が必要になることがあります。

薬物療法

A急性尿細管壊死(ATN)の治療では、いくつかの薬剤が用いられます。

薬剤作用
利尿剤尿量を増やし、尿細管内の浮腫を軽減
ドパミン腎血流を増加させ、尿量を増やす
成長因子尿細管上皮細胞の再生を促進

急性尿細管壊死(ATN)の治療期間と予後

急性尿細管壊死(ATN)は、早期に適切な治療を行うことが予後に大きな影響を与える疾患です。

治療期間

急性尿細管壊死(ATN)の治療期間は、軽症例であれば、2~4週間程度の保存的治療で改善することが多いとされている一方、重症例の場合は、数ヶ月に及ぶ長期の治療を要することがあります。

重症度治療期間
軽症2~4週間
中等症1~2ヶ月
重症3ヶ月以上

予後

予後不良に関与する因子

  • 高齢である
  • 糖尿病や心不全などの基礎疾患がある
  • 多臓器不全を合併している
  • 無尿期間が長期化している

予後良好因子と予後不良因子

予後良好因子予後不良因子
若年高齢
基礎疾患なし基礎疾患あり
単一臓器障害多臓器不全
無尿期間が短い無尿期間が長い

長期予後

急性尿細管壊死(ATN)の長期予後は比較的良好とされており、多くの症例では、腎機能は数ヶ月から1年程度で回復します。

ただし、一部の症例では慢性腎臓病へ移行してしまうことがあります。

薬の副作用や治療のデメリットについて

急性尿細管壊死(ATN)の治療では、いろいろな薬剤が使用されますが、これらの薬には副作用があり、治療自体にも欠点があります。

利尿剤の副作用

利尿剤は、急性尿細管壊死(ATN)の治療でよく用いられる薬剤の一つです。

利尿剤の副作用

  • 電解質異常(低カリウム血症、低ナトリウム血症など)
  • 脱水
  • 耳鳴り、難聴(ループ利尿剤)
  • 高尿酸血症、痛風発作(チアジド系利尿剤)

特に、電解質異常は重篤な合併症につながる可能性があるため、注意が必要です。

利尿剤の種類主な副作用
ループ利尿剤電解質異常、耳鳴り、難聴
チアジド系利尿剤電解質異常、高尿酸血症、痛風発作

ドパミンの副作用

ドパミンは、腎血流を増加させ、尿量を増やす目的で使用されます。

ドパミンの副作用

  • 不整脈
  • 心筋虚血
  • 消化管の蠕動運動抑制
  • 精神症状(不安、興奮、幻覚など)

特に、不整脈や心筋虚血は生命に関わる重大な副作用であり、慎重な使用が求められます。

腎代替療法のデメリット

重症の急性尿細管壊死(ATN)では、一時的な腎代替療法(血液透析や腹膜透析)が必要になることがあります。

腎代替療法のデメリット

腎代替療法デメリット
血液透析血管アクセスの合併症、血行動態の変動、透析アミロイドーシス
腹膜透析腹膜炎、カテーテル関連の合併症、蛋白質の喪失

保険適用と治療費

的な治療費の概要

尿細管壊死の治療にかかる一般的な費用

項目費用
初診料3,000円〜5,000円
治療費10,000円〜50,000円/月
薬剤費5,000円〜20,000円/月
  • 保険適用の可否は診察時に担当医師に直接質問してください。
  • 上に記載した治療費より高くなることもありますので、予めご了承ください。

以上

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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