急性尿細管間質性腎炎(きゅうせいにょうさいかんかんしつせいじんえん acute interstitial nephritis)とは、腎臓の尿細管と間質に炎症が起こり、急激に腎機能が低下する疾患です。
原因としては、薬剤性のものが最も多く、特に抗生物質やNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)などがあり、その他、感染症や自己免疫疾患に伴って発症することもあります。
ここでは、急性尿細管間質性腎炎について、詳しく解説していきましょう。
急性尿細管間質性腎炎の病型
急性尿細管間質性腎炎の病型は、原因により、いくつかに別れます。
急性尿細管間質性腎炎の主な病型
急性尿細管間質性腎炎の主な病型は、薬剤性、感染性、自己免疫性の3つに分類されます。
薬剤性の急性尿細管間質性腎炎は、特定の薬剤の使用によって引き起こされる病型であり、最も一般的なタイプです。
一方、感染性の急性尿細管間質性腎炎は、細菌やウイルスなどの感染症が原因となって発症します。
自己免疫性の急性尿細管間質性腎炎は、自己免疫疾患に関連して発生することがあり、比較的まれな病型です。
病型 | 主な原因 |
薬剤性 | 特定の薬剤の使用 |
感染性 | 細菌やウイルスなどの感染症 |
自己免疫性 | 自己免疫疾患との関連 |
薬剤性急性尿細管間質性腎炎
薬剤性急性尿細管間質性腎炎は、特定の薬剤の使用によって引き起こされ、急性尿細管間質性腎炎の中で最も頻度が高いとされています。
原因となる薬剤は多岐にわたりますが、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、抗菌薬、利尿薬などが代表的です。
薬剤性急性尿細管間質性腎炎の診断には、詳細な病歴聴取と薬剤使用歴の確認が大切になります。
感染性急性尿細管間質性腎炎
感染性急性尿細管間質性腎炎は、細菌やウイルスなどの感染症が原因となって発症する病型です。
感染性急性尿細管間質性腎炎の診断には、尿培養や血液培養などの微生物学的検査を用います。
原因となる感染症
感染症の種類 | 主な原因微生物 |
細菌感染 | 大腸菌、連鎖球菌 |
ウイルス感染 | アデノウイルス、サイトメガロウイルス |
真菌感染 | カンジダ属 |
自己免疫性急性尿細管間質性腎炎
自己免疫性急性尿細管間質性腎炎は、自己免疫疾患に関連して発生する比較的まれな病型です。
関連する自己免疫疾患は、全身性エリテマトーデス(SLE)、Sjögren症候群、IgG4関連疾患などが知られています。
急性尿細管間質性腎炎の病型は、薬剤性、感染性、自己免疫性の3つに大別。各病型によって原因や診断アプローチが異なります。
急性尿細管間質性腎炎の症状
急性尿細管間質性腎炎では、さまざまな症状が現れます。主な症状について詳しくみてみましょう。
発熱
急性尿細管間質性腎炎の初期症状の一つに、発熱があります。
発熱の特徴
発熱の特徴 | 説明 |
高熱 | 38℃以上の高熱になることが多い |
持続性 | 数日から数週間続く場合がある |
感冒様症状 | 発熱に加えて、だるさや関節の痛みなどの風邪に似た症状を伴うことがある |
発熱は、急性尿細管間質性腎炎の炎症反応を表していると考えられています。
全身症状
急性尿細管間質性腎炎では、全身に現れる症状も見られることがあります。
主な全身症状
- だるさ
- 食欲がない
- 体重が減る
- 皮膚の発疹
これらの症状は、腎臓の炎症が全身に影響を及ぼしていることを示しています。
尿路症状
急性尿細管間質性腎炎では、尿に関する症状も特徴的です。
尿路症状
尿路症状 | 説明 |
血尿 | 目に見える血尿または顕微鏡でしか見えない血尿が認められることがある |
蛋白尿 | 尿中への蛋白質の排出量が増える |
尿量減少 | 尿が少なくなったり、全く出なくなったりする場合がある |
排尿時の痛み | 膀胱炎や尿道炎を併発した場合に見られることがある |
これらの尿路症状は、腎臓の炎症によって引き起こされると考えられています。
腎機能障害
急性尿細管間質性腎炎では、腎機能が悪くなることが特徴で、 いくつかの所見で確認されます。
- 血液中のクレアチニン値が上がる
- 血液中の尿素窒素値が上がる
- 電解質のバランスが崩れる(カリウムが高くなる、ナトリウムが低くなるなど)
腎機能障害が進むと、だるさ、吐き気、嘔吐などの尿毒症の症状が現れることもあります。
急性尿細管間質性腎炎の原因
急性尿細管間質性腎炎には、薬剤、感染症、自己免疫など、いろいろな原因があります。
薬剤性
急性尿細管間質性腎炎の最も一般的な原因は、特定の薬剤の使用によるものです。
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、抗生物質、利尿剤、プロトンポンプ阻害薬(PPIs)などが、この疾患の発症に関与しています。
これらの薬剤は、腎臓の尿細管や間質に直接的な損傷を与えたり、免疫反応を引き起こしたりすることで、炎症を引き起こすのです。
薬剤の種類 | 具体例 |
NSAIDs | イブプロフェン、ナプロキセン |
抗生物質 | ペニシリン系、セフェム系 |
利尿剤 | チアジド系、ループ利尿薬 |
PPIs | オメプラゾール、ランソプラゾール |
感染症
急性尿細管間質性腎炎は、腎臓や尿路の感染症によっても引き起こされる場合があり、細菌やウイルスが腎臓に直接感染することで、尿細管や間質に炎症が生じます。
また、他の部位の感染症が引き金となり、免疫反応を介して間接的に腎臓に影響を与えることも。
自己免疫疾患
全身性エリテマトーデス(SLE)や、シェーグレン症候群など、自己免疫疾患の一部が急性尿細管間質性腎炎の原因となる可能性があり、免疫システムが自己の組織を攻撃することで、腎臓に炎症が生じます。
自己免疫疾患による急性尿細管間質性腎炎は、他の原因に比べて比較的まれですが、見逃してはならない重要な原因の一つです。
- 全身性エリテマトーデス(SLE)
- シェーグレン症候群
- IgG4関連疾患
- サルコイドーシス
その他の原因
上記以外にも、急性尿細管間質性腎炎の原因となる要因がいくつかあります。例えば、腎臓への放射線照射や、特定の毒物への曝露などが挙げられるでしょう。
また、まれではありますが、遺伝的要因が関与していることもあります。
その他の原因 | 詳細 |
放射線照射 | 腎臓への直接的な放射線照射 |
毒物曝露 | 重金属、有機溶剤など |
遺伝的要因 | 家族性急性尿細管間質性腎炎 |
急性尿細管間質性腎炎の原因は多岐にわたりますが、薬剤性が最も一般的であり、感染症や自己免疫疾患も原因となっています。
急性尿細管間質性腎炎の検査・チェック方法
急性尿細管間質性腎炎の検査やチェック方法急性尿細管間質性腎炎は、早期に発見し、検査を行うことが大切です。
尿検査
急性尿細管間質性腎炎を診断する際には、尿検査が欠かせません。尿検査でチェックするべき主な項目は以下のとおりです。
- 尿中の白血球や赤血球の有無
- 尿中の蛋白質や糖の有無
- 尿沈渣の顕微鏡検査
尿検査を通して、腎臓に炎症や損傷があるかを判断できます。
血液検査
血液検査は、急性尿細管間質性腎炎の診断において重要な役割を果たします。
主な検査項目
検査項目 | 目的 |
血中クレアチニン値 | 腎機能の評価 |
血中尿素窒素値 | 腎機能の評価 |
血中電解質値 | 電解質バランスの確認 |
血中CRP値 | 炎症の有無の確認 |
血液検査結果をもとに、腎機能の状態や炎症の有無を把握できます。
画像検査
急性尿細管間質性腎炎の診断には、画像検査が役立ちます。
主な画像検査
- 腹部超音波検査:腎臓の大きさや水腎症の有無をチェックします。
- CT検査:腎臓の形状や結石の有無を詳しく調べます。
- MRI検査:より詳細な腎臓の構造を確認するために利用されることがあります。
腎生検
確定な診断を下すために、腎臓の一部を採取して顕微鏡で調べる、腎生検が行われることがあります。
腎生検の目的 | 内容 |
病変の確認 | 腎臓の組織を直接観察し、病変の有無や程度を確認する |
病型の分類 | 急性尿細管間質性腎炎の病型を分類し、原因の特定に役立てる |
予後の予測 | 病変の程度から、予後の予測を行う |
急性尿細管間質性腎炎の治療方法と治療薬
急性尿細管間質性腎炎の治療では、原因を見つけて取り除き、治療薬で迅速に対処します。
原因の除去
急性尿細管間質性腎炎の治療で最初にすべきなのは、原因を取り除くことです。
主な原因と対処法
原因 | 対処法 |
薬剤性 | 原因となる薬の中止 |
感染症 | 抗菌薬の投与 |
自己免疫疾患 | 免疫抑制療法 |
原因を速やかに取り除くことで、腎臓への負担が減り、回復が早まります。
ステロイド療法
急性尿細管間質性腎炎の治療には、ステロイドが使われることがあります。
ステロイド療法で期待できる効果
- 炎症反応を抑える
- 腎臓の線維化を防ぐ
- 腎機能の回復を促す
支持療法
急性尿細管間質性腎炎の治療では、支持療法も欠かせません。
支持療法 | 目的 |
水分・電解質管理 | 脱水や電解質のアンバランスを予防・改善する |
腎代替療法 | 腎機能が著しく低下したときの代替手段 |
貧血の管理 | 腎性貧血に対する治療 |
支持療法で、合併症を防ぎ、症状をやわらげることができます。
経過観察
急性尿細管間質性腎炎の治療後は、経過観察が大切です。
経過観察での注意点
- 腎機能を定期的にチェックする
- 再発がないか確認する
- 合併症を早期に発見する
急性尿細管間質性腎炎の治療期間と予後
急性尿細管間質性腎炎の治療期間と予後は、原因、重症度、合併症の有無などによって大きく異なります。
治療期間
薬が原因の場合、その薬をやめてから数週間から数ヶ月で腎臓の機能が回復することが多いです。 一方、感染症や自己免疫疾患が原因だと、治療期間がより長くなる可能性があります。
原因 | 治療期間 |
薬剤性 | 数週間から数ヶ月 |
感染症 | 数ヶ月から1年以上 |
自己免疫疾患 | 数ヶ月から数年 |
予後
急性尿細管間質性腎炎の予後は、早期発見と速やかな治療開始が鍵となります。 原因が特定され、適切な治療が行われれば、多くの患者さんで腎臓の機能が回復するでしょう。
しかし、一部の患者さんでは、慢性腎臓病に移行したり、末期腎不全になったりすることもあります。
- 早期発見と速やかな治療開始が重要
- 多くの患者さんで腎臓の機能が回復
- 一部の患者さんでは慢性腎臓病や末期腎不全になる可能性も
予後に影響を与える因子
急性尿細管間質性腎炎の予後には、いくつかの因子が影響し、高齢、女性、基礎疾患の存在、重症度、診断の遅れなどが、予後を悪くする因子として知られています。 また、原因となった薬や病気によっても、予後が変わってくるでしょう。
予後不良因子 | 詳細 |
高齢 | 高齢者は予後不良の傾向あり |
女性 | 女性は男性に比べ予後不良の傾向あり |
基礎疾患 | 糖尿病、高血圧など基礎疾患のある患者は予後不良の傾向あり |
重症度 | 重症例は予後不良の傾向あり |
診断の遅れ | 診断が遅れた場合、予後不良の傾向あり |
長期的な管理の重要性
急性尿細管間質性腎炎の治療後は、長期的な管理が大切となります。 定期的に腎臓の機能をチェックしたり、再発を防ぐための対策を取ることが欠かせません。
また、原因となった薬や病気についての情報を患者さんと共有し、再発のリスクを最小限に抑えることが求められます。
薬の副作用や治療のデメリット
急性尿細管間質性腎炎の治療は、腎機能の回復には欠かせませんが、副作用やデメリットもあります。
ステロイド薬の副作用
急性尿細管間質性腎炎の治療に用いられるステロイド薬は、強力な抗炎症作用を持っていますが、さまざまな副作用を引き起こす可能性も。
ステロイド薬を長期間使用すると、感染症のリスクが増加したり、骨粗鬆症の懸念が出てきます。
ステロイド薬の副作用 | 詳細 |
感染症 | 細菌、ウイルス、真菌などによる感染症のリスク増加 |
骨粗鬆症 | 骨密度の低下と骨折リスクの増加 |
高血糖 | 糖尿病の発症や悪化 |
体重増加 | 体脂肪の蓄積と肥満 |
免疫抑制薬の副作用
免疫抑制薬は、自己免疫疾患が原因の急性尿細管間質性腎炎の治療に用いられることがあり、免疫システムを抑制するため、副作用を引き起こすことがあります。
- 感染症のリスク増加
- 肝機能障害
- 腎機能障害
- 血液障害(貧血、白血球減少、血小板減少など)
保険適用の有無と治療費の目安について
急性尿細管間質性腎炎の治療は、ほとんどの場合、保険が適用されます。
保険適用の範囲
診察費 、検査費(尿検査、血液検査、画像検査など) 、投薬費(ステロイド薬、抗菌薬など) 、入院費(重症例や合併症がある場合)は原則として健康保険の適用対象です。
ただし、先進医療に該当する治療や、自由診療となる治療は保険適用外となることがあります。
一般的な治療費
急性尿細管間質性腎炎の治療費は、症状の重症度や治療内容によって異なります。
一般的な治療費の目安
治療内容 | 費用目安(自己負担額) |
外来診療 | 1,000円〜3,000円/回 |
入院治療 | 5,000円〜10,000円/日 |
ステロイド薬 | 500円〜1,000円/月 |
血液透析 | 10,000円〜20,000円/回 |
これらの費用は、健康保険の種類や医療機関によって異なる場合もあります。
高額療養費制度
急性尿細管間質性腎炎の治療費が高額になると、高額療養費制度が適用されることがあります。
その他の費用助成制度
急性尿細管間質性腎炎の治療費負担を軽減するための制度として、医療費控除制度、障害者手帳の交付による各種助成制度があります。
これらの制度を利用するには、一定の条件を満たす必要があるため、詳細は医療機関や行政機関に確認しましょう。
ただし、上に記載した治療費より高くなる場合もありますので、予めご了承ください。
保険適用の可否は、診察時に担当医師に直接質問することをお勧めします。
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