MRSA関連腎炎とは、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)への感染後に起こる腎臓の炎症性疾患です。
MRSAは通常の抗菌薬が効きにくく、院内感染や重症感染症の原因となることが多い病原菌として知られていますが、皮膚・軟部組織などへの局所感染だけでなく、血液を介して体内の各器官へ影響を及ぼす可能性があります。
MRSA感染後に発症した腎炎では、糸球体がダメージを受け、蛋白尿や血尿、むくみ、高血圧などの症状が表面化することがあり、感染症の制御と腎臓の保護を両立する治療が大切です。
病型
MRSA関連腎炎は、MRSA感染を契機として発症する糸球体腎炎の一形態であり、どの病型が起こるかは個人の免疫応答や感染部位、MRSA株の性質などによって左右されるため、正確に病型を把握することは治療方針を考える上で重要です。
急性糸球体腎炎型
皮膚・軟部組織や呼吸器などにMRSAが感染し、その後全身性の免疫反応が活発になった結果、糸球体に免疫複合体が沈着して炎症が生じる形態です。急性発症が多く、発熱や血圧上昇、むくみなどが短期間で顕在化します。
半月体形成性腎炎型
腎臓の糸球体で強い炎症が起こり、ボウマン腔に半月体と呼ばれるフィブリンや細胞成分の塊が形成されるケースです。
急速に腎機能が低下し、重症化のリスクが高いため、早急な治療が大切で、免疫反応が激しく起こるパターンとして知られています。
メサンギウム増殖性腎炎型
糸球体のメサンギウム領域が増殖し、比較的ゆるやかな経過をたどる病型です。
急性期の症状が緩やかに始まり、血尿や軽度の蛋白尿が持続することがあり、見た目の症状が強くないため気づきにくく、経過観察が遅れると腎機能の悪化につながる恐れがあります。
慢性への移行リスク
MRSA関連腎炎は治療により改善する場合が多い一方、治療開始が遅れたり、感染制御と免疫制御が不十分だったりすると、慢性的な腎炎に移行することがあります。
慢性化すると蛋白尿が継続し、腎機能低下により高血圧や疲れやすさが目立つケースがみられます。
MRSA関連腎炎の病型は多様であり、急性期の治療だけではなく、経過観察や再発予防まで含めた管理が大切で、病型によって治療戦略が変化するため、確定診断を得ることが医療方針を決めるうえで欠かせません。
MRSA関連腎炎の病型を把握する上で、患者さんやが気づくこと
- 急激に発熱や強い倦怠感を伴って症状が進行する場合
- 血尿や蛋白尿が長期にわたり持続し、ゆるやかに腎機能が低下する場合
- 抗菌薬投与後も腎炎が改善せず、慢性化が進む場合
急性糸球体腎炎型や半月体形成性腎炎型などの重症パターンは、短期間で大きく腎機能が落ちる恐れがあります。
主な病型と特徴
病型 | 主要な特徴 | 臨床経過 | 重症度 |
---|---|---|---|
急性糸球体腎炎型 | 免疫複合体が糸球体に沈着 | 急激に発症、発熱・血圧上昇など | 中~重 |
半月体形成性腎炎型 | ボウマン腔に半月体が形成 | 急速進行性、腎不全リスク高 | 高 |
メサンギウム増殖性腎炎型 | メサンギウム領域の増殖 | 緩やかな経過、潜在的に進行 | 低~中 |
慢性化リスク | 慢性的な蛋白尿や血圧上昇の持続 | 適切な管理が欠けると進行 | 個別差 |
MRSA関連腎炎の症状
MRSA関連腎炎の症状は、通常の糸球体腎炎と類似していますが、もともとの感染源であるMRSAの症状(発熱、化膿性疾患など)を併発している場合があるため、経過が複雑になることもあります。
腎炎が進行すると日常生活に支障をきたすため、早期に自覚症状を認識することが重要です。
尿異常(血尿・蛋白尿)
血尿は赤血球が尿中に混じる状態を指し、肉眼でわかる顕性血尿と検査でしか分からない潜血があり、MRSA関連腎炎では糸球体レベルでの出血が多いため、潜血として発見されることが多いです。
蛋白尿は糸球体のフィルター機能が損なわれることで起こり、重度の場合は泡立ちの強い尿が目立ちます。
むくみと体重増加
糸球体の障害により、血液中のタンパク質(特にアルブミン)が尿へ過剰に排出され、血管内の浸透圧が下がることで体内に水分がたまりやすいです。
まぶたや顔、下肢にむくみが生じ、急激な体重増加を経験する人もいます。むくみが進むと、脱力感や息切れを感じることがあります。
高血圧や全身倦怠感
腎臓が適切に機能しなくなると、ナトリウムと水分の排泄が滞りやすくなり、高血圧を発症・悪化させる可能性があります。
さらに、尿毒症状として倦怠感や集中力の低下、食欲不振が表れることもあり、放置すると体内に老廃物が蓄積し、だるさや吐き気が続くことが増えます。
原因部位の感染症状
MRSA関連腎炎では、呼吸器感染や皮膚感染などの原発病巣が同時に存在していることがあります。
激しい咳や化膿性の傷口などが治りにくい、あるいは疼痛や赤みが広範囲に及ぶなどの特徴が見られ、これらの感染巣から血流にMRSAが拡散して腎臓に影響を及ぼす場合があります。
MRSA関連腎炎の症状は多岐にわたり、腎臓障害の兆候だけでなく、原発的なMRSA感染の症状にも注意が必要です。
MRSA関連腎炎を疑う人が注目する症状
- 血尿や泡立ちの強い尿
- 朝起きた際のまぶたや顔のむくみ
- 体重が急に増えて息切れを感じる
- 発熱や化膿性の皮膚病変が長引く
- だるさや食欲不振が続く
MRSA関連腎炎で頻度が高い症状
症状・所見 | 背景となる病態 | 注意点 |
---|---|---|
血尿、蛋白尿 | 糸球体障害による血液・蛋白漏出 | 定期的な尿検査で早期発見を狙う |
むくみ・体重増加 | 低アルブミン血症と水分貯留 | 顔・下肢の腫れや呼吸苦に注意 |
高血圧 | 腎機能低下による水・ナトリウム留留 | 血圧管理が必要、心血管リスクに配慮 |
全身倦怠感・食欲不振 | 老廃物蓄積と炎症性サイトカイン増加 | 腎機能の悪化サインを見逃さない |
原発部位の感染症状 | MRSAの病巣(皮膚、呼吸器など) | 再発・持続感染を防ぐためのケアが大切 |
MRSA関連腎炎の原因
MRSA関連腎炎の直接の原因はMRSAの感染ですが、腎臓に炎症が起こされるメカニズムは単純ではありません。
MRSA自体が血行性に腎臓へ到達して局所感染を起こす場合や、免疫反応によって形成された免疫複合体が糸球体に沈着して炎症を誘発する場合など、多面的なプロセスが関与しています。
MRSA感染の発端
MRSAはメチシリンを含むさまざまな抗菌薬に耐性を示す黄色ブドウ球菌の一種であり、病院内などでの感染症としてしばしば問題になります。
院内感染だけでなく、在宅医療や施設内感染、市中感染も増えているため、MRSA保菌者や感染症例が増加傾向にあり、皮膚の傷口や医療器具の使用部位などから侵入したMRSAが増殖し、全身へ広がることで感染性腎炎のリスクが高まります。
免疫複合体の形成
MRSAと体内の免疫系が戦う過程で、MRSAの抗原とヒトの抗体が結合した免疫複合体が血液中に現れることがあり、複合体が糸球体の膜構造やメサンギウム領域に沈着すると、局所的な炎症反応が増幅され、組織破壊につながります。
過去にMRSA感染を経験している、あるいは繰り返し感染を起こしている場合、免疫学的負担が大きくなり腎炎へ至るリスクが上昇します。
患者の基礎疾患や免疫状態
高齢者や糖尿病患者さん、透析中の患者さんなど、もともと免疫力が低下している方はMRSA感染による合併症を起こしやすいです。
さらに、免疫抑制剤を使用している方や慢性疾患を複数抱えている場合は、細菌感染のコントロールが難しくなり、MRSA関連腎炎へ進展する危険性が高くなります。
遺伝的要因や生活習慣
人によっては免疫反応の強弱や炎症の制御機構に差があり、同じMRSA感染でも腎炎を発症しやすい人とそうでない人がいます。
遺伝子レベルでの要因や、喫煙・栄養状態などの生活習慣的要素も複合的に影響し、糸球体への負担が増大すると考えられます。
MRSA関連腎炎の原因は、MRSA感染をきっかけとした多段階のプロセスにより進行し、早期のMRSA感染制御が腎炎予防につながる可能性があるため、傷の手当てや衛生管理、体調管理が大切です。
MRSA関連腎炎を引き起こす背景で注目されるポイント
- 皮膚や呼吸器への重度のMRSA感染が長期化・再発を繰り返す
- ステロイド療法や化学療法などによる免疫力低下
- 糖尿病やがんなど、慢性疾患による体力・免疫低下
- 不適切な自己判断で抗菌薬を途中でやめるなどの行為
MRSA関連腎炎を誘発しやすい要因
要因 | リスク増大の理由 | 具体例 |
---|---|---|
既存のMRSA感染 | 血行性にMRSAが拡散、あるいは免疫複合体が生じやすい | 皮膚潰瘍、肺炎、感染性心内膜炎等 |
免疫低下(高齢・糖尿病等) | 抵抗力が弱く感染が長引き、腎炎発症が促進される | 加齢、糖尿病、透析中の人 |
抗菌薬の不適切使用 | 耐性菌の増殖や再感染を招きやすい | 自己判断で治療中断など |
遺伝的要因・生活習慣 | 過剰な炎症反応や不十分な免疫制御 | 喫煙、栄養失調、慢性ストレスなど |
MRSA関連腎炎の検査・チェック方法
MRSA関連腎炎を確定診断し、治療方針を立てるうえでは、MRSA感染の評価と腎臓機能のチェックを両立させた包括的な検査が重要です。定期的に検査を受けることで、早期発見や治療効果の確認を行いやすくなります。
血液検査
血液検査では、炎症状態や腎機能の指標を評価します。白血球数やCRP(C反応性蛋白)の値が高い場合、感染や炎症が進んでいる可能性が高いです。
腎臓の働きを表すクレアチニン値や尿素窒素(BUN)の上昇があれば、腎機能の悪化が示唆され、加えて、IgAやIgGなどの免疫グロブリン量、補体価(C3、C4)を調べて、免疫複合体の沈着の可能性を探ることもあります。
尿検査
尿蛋白や尿潜血の有無を確認し、腎臓の糸球体障害を推測し、とくに赤血球円柱や顆粒円柱などが尿沈渣検査で見つかると、糸球体の炎症が強いと考えられます。
24時間尿蛋白定量を実施して蛋白尿量を把握することで、病態の重症度や治療効果の変化を評価しやすいです。
細菌培養検査
MRSA関連腎炎の成立を考える場合、MRSA感染の有無とその部位を調べることが不可欠で、皮膚や喉、痰などの分泌物を培養してMRSAが検出されるかどうかを確認します。血液培養も行い、菌血症の有無を判定することが大切です。
MRSAが検出されれば、その菌株の薬剤感受性を調べて、どの抗菌薬が有効かを確かめます。
MRSA関連腎炎を疑う際に行うチェック項目
- 血液検査で白血球数・CRP・クレアチニンなどを測定
- 尿検査で尿蛋白や尿潜血、沈渣の有無を評価
- 咽頭や鼻腔、皮膚病変などからの培養検査でMRSAの有無を確認
- 必要に応じて画像検査(腎エコーやCTなど)で腎サイズや構造を把握
検査項目と得られる情報
検査項目 | 主な目的 | 主な測定パラメータ |
---|---|---|
血液検査 | 炎症・腎機能指標のチェック | WBC、CRP、Cr、BUN、補体価等 |
尿検査・尿沈渣 | 糸球体炎症の有無、蛋白尿・血尿の評価 | 尿蛋白、尿潜血、円柱など |
細菌培養(咽頭・鼻腔・創部) | MRSA保菌の確認、薬剤感受性の判定 | MRSA陽性の有無、感受性試験 |
血液培養 | 菌血症や全身感染の評価 | MRSAが血中で増殖していないか |
腎生検
腎生検は、背中から針を刺して腎組織の一部を採取し、顕微鏡で直接病変の様子を確認する検査です。
腎生検によって炎症の種類や免疫複合体の有無、半月体の形成などが分かり、MRSA関連腎炎の病理像を正確に把握できますが、侵襲的な検査であるため、出血リスクや患者さんの全身状態を考慮しながら実施の可否を判断します。
MRSA関連腎炎の検査は多角的に行い、MRSA感染そのものと糸球体腎炎の重症度を総合的に評価します。
腎生検で評価される主な病理所見
病理所見 | 意味 | 代表的な病型 |
---|---|---|
免疫複合体沈着 | 抗原抗体複合体が糸球体に沈着 | 急性糸球体腎炎型など |
半月体(ボウマン腔のフィブリン) | 強い炎症により糸球体構造が破壊 | 半月体形成性腎炎型 |
メサンギウム増殖 | メサンギウム領域の細胞・基質の増殖 | メサンギウム増殖性腎炎型 |
糸球体硬化 | 慢性的なダメージ蓄積による部分的硬化 | 慢性化リスクのある病変に合併する事例 |
MRSA関連腎炎の治療方法と治療薬について
MRSA関連腎炎の治療は、大きく分けてMRSA感染を抑えるための抗菌薬治療と、過剰な免疫反応や炎症をコントロールする腎炎治療の2本柱で進めます。
MRSAは通常の抗菌薬が効きにくいことがあり、かつ免疫反応の制御が難しいケースもあるため、総合的なアプローチが必要です。
抗MRSA薬による感染制御
MRSAに対して効果が期待できる抗菌薬としては、バンコマイシン、テイコプラニン、リネゾリドなどが挙げられます。
菌株の薬剤感受性を確認した上で、点滴投与や経口投与を決定し、血中薬物濃度をモニタリングしながら投与量や期間を調整します。
感染病巣の完全な制御が不十分だと腎炎が改善しにくくなるため、原発巣のデブリードマン(創部洗浄・切除)を含めた外科的処置も視野に入れます。
免疫抑制療法
急性糸球体腎炎型や半月体形成性腎炎型など、強い炎症反応が確認される場合、ステロイド(プレドニゾロン)や免疫抑制薬(シクロスポリン、シクロホスファミドなど)の併用を検討します。
ただし、免疫抑制薬を使うと感染リスクが増大するため、抗MRSA薬と同時並行での慎重な管理が必要です。腎生検で重症度を確認し、腎機能悪化が顕著な症例ではパルス療法などの高用量ステロイド投与を行うことがあります。
対症療法
むくみや高血圧など、腎炎による症状を緩和するために降圧薬や利尿薬を併用し、RAS阻害薬(ACE阻害薬やARB)は、蛋白尿の減少や血圧コントロールに寄与するため、使用が検討されます。
感染による発熱や痛みがある場合には解熱鎮痛薬を使い、食欲不振や消化器症状があるときは消化器サポートを行います。
MRSA関連腎炎の治療選択で意識される要点
- 菌株の薬剤感受性を必ず把握し、抗MRSA薬を選択する
- 急性期の腎障害が強ければステロイドや免疫抑制薬を短期的に併用する
- 高血圧や低アルブミン血症に対応する降圧薬や利尿薬を加える
- 感染源(皮膚潰瘍など)の外科的管理も並行して実施する
MRSA関連腎炎の主な治療薬
薬剤カテゴリ | 代表薬剤 | 主な目的 | 注意点 |
---|---|---|---|
抗MRSA薬 | バンコマイシン、リネゾリドなど | MRSAの増殖を抑える | 血中濃度モニター、腎機能障害時の調整 |
ステロイド | プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン | 免疫反応の強い炎症を鎮静 | 感染リスク増大への対策が必要 |
免疫抑制薬 | シクロホスファミド、シクロスポリン | 免疫反応・半月体形成などを抑制 | 副作用・再感染リスクに留意 |
降圧薬、利尿薬 | ACE阻害薬、ARB、ループ利尿薬など | 高血圧・浮腫の改善 | 電解質異常のモニタリング |
生活指導
腎機能を保つには、生活面でのセルフケアも大切で、塩分制限や適度な水分管理、タンパク質摂取量のバランスなどを管理栄養士や医師と相談しながら進めます。MRSAの感染予防の観点からは、こまめな手洗いや消毒、傷口の清潔管理が必要です。
過度な運動や疲労は免疫力低下を招く恐れがあるため、体調を見ながら活動量を調整します。
MRSA関連腎炎の治療期間
MRSA関連腎炎の治療期間は、患者さんの年齢や基礎疾患、腎障害の重症度、MRSA感染源の状態などにより大きく変動します。
完全に腎炎が治まり、感染が制御された後も再燃リスクを考慮して定期フォローが続くケースも多く、長期的な視点での治療が必要です。
抗MRSA薬の投与期間
MRSA感染の治療期間は通常2~6週間程度が目安となりますが、感染部位や重症度によってはさらに長引くことがあります。
皮膚感染だけであれば短期間で済む場合もある一方、骨髄炎や感染性心内膜炎を合併している場合は、8週間以上におよぶ点滴治療が必要です。
また、腎炎の合併があると身体全体への負担が大きくなるため、経過観察期間が延びる可能性があります。
免疫抑制療法の期間
ステロイドや免疫抑制薬を使う場合は、急性期の炎症を抑えるために高用量を数週間から数カ月投与し、その後徐々に減量していくことが多いです。
半月体形成性腎炎のように重症度が高い場合は、早期に大量投与し、症状が改善しても維持療法として低用量を長期に続ける場合があります。
投与を急にやめると再燃のリスクが高まるため、血液や尿の検査データを見ながら慎重に期間を設定します。
病状安定後のフォローアップ
MRSA関連腎炎は、感染がいったん落ち着いても再発の可能性がゼロではなく、慢性的な蛋白尿や高血圧が残ることがあります。
そのため、治療終了後も数カ月から数年にわたり定期的な診察や検査を続け、腎機能の維持状況や新たな感染の有無をチェックします。
特に糖尿病など基礎疾患を抱える方は、体調が崩れた際にMRSA感染が再燃するリスクがあるため注意が必要です。
治療期間中に患者さんが意識すると良いポイント
- 指示された抗菌薬や免疫抑制薬は規定量・規定期間を守る
- 定期的な血液・尿検査を受けて経過を確認する
- むくみや倦怠感、高血圧などの症状があればすぐに報告する
- 感染源の傷口や皮膚病変のケアを怠らず、汚染を防ぐ
治療プロセスと大まかな期間の目安
治療プロセス | 期間の目安 | 留意点 |
---|---|---|
抗MRSA薬の集中投与 | 2~6週間程度(重症例は8週間以上) | 点滴中心、感染部位や重症度により延長 |
免疫抑制療法 | 数週間~数カ月(維持療法は長期) | 急性期に高用量、徐々に減量して再燃を防ぐ |
フォローアップ | 数カ月~数年 | 腎機能チェック、再発や慢性化の監視 |
MRSA関連腎炎薬の副作用や治療のデメリットについて
MRSA関連腎炎の治療には効果が高い薬剤を使いますが、同時に副作用やデメリットへの注意が不可欠です。
抗MRSA薬の中には腎機能への負担が懸念されるものがあり、免疫抑制薬は感染リスクの増大や代謝異常などの課題があるため、主治医の管理下で慎重に投与を行う必要があります。
抗MRSA薬の副作用
バンコマイシンやテイコプラニンは、腎毒性や聴力障害が報告されることがあり、リネゾリドを長期使用する場合には、骨髄抑制や末梢神経障害のリスクが指摘されています。
いずれも血中濃度のモニタリングや定期的な腎機能検査、血液検査を行いながら副作用の早期発見に努めます。
ステロイド・免疫抑制薬の副作用
ステロイドは血糖値の上昇や食欲亢進、骨粗鬆症や精神症状のリスクを伴い、また、シクロホスファミドは骨髄抑制や出血性膀胱炎、シクロスポリンやタクロリムスは腎機能悪化や高血圧、多毛などが懸念されます。
薬剤による免疫力の低下も大きな問題であり、MRSAをはじめとする細菌やウイルスへの再感染リスクが高まることを念頭に置くことが大切です。
治療上のデメリットとして患者さんが知っておきたいポイント
- 長期入院や通院が必要になり、生活や仕事への影響が大きい
- 高額な薬剤費や検査費用がかかる
- ステロイド使用による体重増加や骨密度低下で生活の質が下がる
- 免疫抑制状態に伴う新たな感染症リスクが上がる
治療で用いられる主な薬剤の代表的な副作用
薬剤分類 | 代表薬剤 | 主な副作用 | 管理上の対策 |
---|---|---|---|
抗MRSA薬 | バンコマイシン、リネゾリド | 腎毒性、骨髄抑制、聴力障害など | 血中濃度モニタリング、定期検査 |
ステロイド | プレドニゾロン | 高血糖、骨粗鬆症、精神症状など | 投与期間管理、骨吸収抑制薬の使用等 |
免疫抑制薬 | シクロホスファミド | 骨髄抑制、出血性膀胱炎など | 定期的な血算、十分な水分摂取 |
RAS阻害薬など | ACE阻害薬、ARB | 高カリウム血症、腎機能変動 | 電解質チェック、低カリウム食の配慮 |
MRSA関連腎炎の保険適用と治療費
以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。
抗MRSA薬の費用目安
バンコマイシンやテイコプラニン、リネゾリドなどの抗MRSA薬は、高価な部類に入り、点滴で投与する場合、1日に数千円~1万円以上の薬剤費が発生します。
ただし、保険適用の範囲内であれば3割負担、もしくは2割負担といった自己負担率に応じた金額で済む場合が多いです。
免疫抑制療法の費用目安
ステロイドやシクロスポリン、シクロホスファミドなども保険適用下にあります。
ステロイドは比較的安価ですが、シクロスポリンやタクロリムスなどは薬価が高く、1カ月あたり数千円~1万円程度の自己負担です。
検査・入院費用
血液検査や尿検査、細菌培養などを組み合わせて行う場合、外来でも1回あたり数千円から1万円程度の自己負担で、腎生検は入院が必要になることが多く、数日間の入院と検査費で10万円前後の請求を受けるケースがあります。
治療内容 | 自己負担の目安(3割負担の場合) | コメント |
---|---|---|
抗MRSA薬(点滴投与) | 1日あたり数千円~1万円以上 | 入院治療の場合は入院費も加算 |
ステロイド・免疫抑制薬 | 月数千円~1万円程度 | 薬剤選択や投薬量で変動 |
血液・尿検査(外来) | 1回数千円~1万円程度 | 頻度や検査項目で変動 |
腎生検(数日入院含む) | 10万円前後 | 部屋のタイプや日数で差が大きい |
以上
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