膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)

膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)

膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)とは、腎臓の糸球体における炎症と免疫複合体の沈着によって、糸球体の膜構造が変化し、増殖傾向を示す疾患です。

この疾患は、血尿やタンパク尿などの腎機能異常を自覚するきっかけとなりやすい一方、初期の段階では大きな症状を感じないまま進行する場合もあります。

腎臓は体内の老廃物をろ過し、水分や電解質のバランスを保つ重要な器官であり、糸球体にトラブルが生じると、生活の質だけでなく全身の健康状態に影響を及ぼすことがあります。

MPGNにはいくつかの病型があり、それぞれに原因や症状の強さ、進行の仕方が異なるため、適切な検査と治療が必要です。

目次

病型

膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)は、糸球体の膜状構造の異常と炎症性増殖を特徴とし、いくつかの病型に分類できます。病型の違いは、病態をより正確に把握するうえで重要であり、治療戦略を考える際の指標です。

病型の概要

MPGNは大きく分けてI型、II型(分枝状dense deposit diseaseと呼ばれることが多い)、III型などに分類されることがあります。糸球体基底膜への免疫複合体の沈着様式や電子顕微鏡所見などが分類の基準です。

医療の現場では、炎症の程度だけでなく、糸球体の構造変化や補体活性の状態によっても細かく病型を区別します。

病型の大まかな区分

主な病型病態の特徴病理学的所見の例
I型糸球体基底膜の内皮下に免疫複合体が沈着光学顕微鏡で分葉状増殖、電子顕微鏡で内皮下沈着物
II型(DDD)Dense deposit diseaseと呼ばれ、基底膜内部にdenseな沈着物基底膜内に帯状の高電子密度沈着
III型I型に類似、基底膜が二重化・嚢状に拡張することが多い内皮下だけでなく上皮下にも沈着物が存在することがある

I型MPGNの特徴

I型MPGNは免疫複合体が糸球体基底膜の内皮側に沈着することで、糸球体の炎症と肥厚、分葉状増殖が起こるタイプです。

C3やIgGなどの補体や免疫グロブリンの沈着が認められ、血中補体の一部が低下する例もあり、慢性的に進行し、タンパク尿や血尿が目立ちます。

II型(Dense deposit disease)の特徴

II型は、従来「DD病」とも呼ばれ、基底膜内に帯状の高密度沈着物が形成されるのが特徴です。臨床症状はI型に類似することもあり、ネフローゼ症候群に近いほどの重度タンパク尿を示す例もあれば、血尿が主体となるケースもあります。

補体活性の異常が強く関与していると報告されています。

III型の特徴

III型はI型に近い病態を示しながら、上皮下にも沈着物が生じやすいとされます。糸球体基底膜の構造が部分的に二重化したり嚢状変化がみられるなど、多彩な形態変化が観察されることがあります。

発症原因や症状のバリエーションも広く、患者さんによって臨床経過が異なります。

  • I型は免疫複合体が内皮下に沈着するパターンが主
  • II型はdense depositの形成が顕著
  • III型は上皮側への沈着や基底膜の二重化が目立つ
  • いずれの型も慢性経過をたどりやすい

病型が異なると予後や治療反応も微妙に変わるため、腎生検による病理検査で正確な分類を行うことが大切です。

膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)の症状

膜性増殖性糸球体腎炎は、初期には無症状または軽度のタンパク尿や血尿のみのことがありますが、病態が進行すると尿への異常だけでなく、浮腫や倦怠感などの全身症状が出現します。

タンパク尿と血尿

MPGNの代表的な症状としてタンパク尿と血尿があり、タンパク尿は腎臓のろ過機能が損なわれることで生じ、重症化するとネフローゼ症候群(大量のタンパク尿と低アルブミン血症)に近い状態になります。

血尿は、糸球体の炎症や血管透過性の変化によって赤血球が漏れ出るために起こり、目で確認できる肉眼的血尿と、検査では検出されるが肉眼ではわからない顕微鏡的血尿があります。

代表的な尿異常

尿の異常特徴関連症状・所見
タンパク尿軽度から大量まで幅広い。浮腫の原因となる低アルブミン血症、ネフローゼ症候群様症状
血尿肉眼的か顕微鏡的かで見え方が異なる血色が茶褐色になることも
円柱(蛋白円柱、血球円柱)尿沈渣で認められることがある糸球体由来の異常を示唆

浮腫や体重増加

ネフローゼ症候群に近いレベルのタンパク尿がある場合、血中のアルブミンが減少し、体内に水分が溜まりやすくなります。

顔や脚がむくんだり、短期間で体重が増加したりすることがあり、特に下肢のむくみやまぶたの腫れは患者さん本人が気づきやすい症状です。

  • 下肢のむくみが日常生活に支障をきたす
  • 朝起きたときにまぶたが腫れている
  • 靴や靴下のあとがなかなか消えない
  • 体重が数日で数kg増加することがある

血圧上昇と倦怠感

腎機能の低下や体液バランスの乱れによって高血圧がみられることがあり、高血圧が進むと頭痛や肩こりを感じたり、さらに腎機能の悪化を招く悪循環に陥る場合もあります。

また、体内の老廃物が十分に排泄されにくくなると、全身の疲労感や倦怠感が増すことがあります。

進行時のリスク

MPGNが進行し腎不全に近づくと、尿量の減少、電解質異常、貧血などが表れて日常生活に大きな支障が出る場合があります。治療のタイミングを逃すと腎機能が回復しにくくなるため、早めの受診が望ましいです。

膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)の原因

膜性増殖性糸球体腎炎の原因には、免疫複合体の形成や補体活性の異常など、さまざまな要素が絡んでいます。

感染症や自己免疫疾患、あるいは遺伝的要因が関与する場合もありますが、いずれにしても糸球体に慢性的な炎症と組織変化を引き起こす点が共通しています。

免疫複合体の沈着

糸球体に沈着した免疫複合体が、局所の炎症を誘導する大きな要因です。

慢性の感染症(C型肝炎や慢性細菌感染など)で作られた免疫複合体が血流を介して糸球体に集まり、膜構造を変化させることがMPGNの引き金になるケースが知られています。

免疫複合体に関連する主な要因

免疫複合体に関与する要因特徴
慢性ウイルス感染C型肝炎、B型肝炎など長期的に体内に存在しやすい
自己免疫疾患SLE(全身性エリテマトーデス)など自己抗体生成が持続する
原因不明(特発性)明確な感染源が見つからない免疫複合体のみが確認される

補体経路の異常

MPGNの病型の一部では、補体の代替経路に異常があり、特にII型(Dense deposit disease)では、補体が過剰に活性化することで基底膜内部に沈着物が形成されやすいです。

補体活性を調節する因子に遺伝的変化があると、MPGNを引き起こしやすい場合があります。

  • 補体C3の持続的な低下がみられる
  • 補体調節因子の遺伝子変異が関与する可能性
  • 血中補体の低下は炎症の慢性化と結びつく

自己免疫反応や遺伝的要因

一部のMPGN患者さんでは自己抗体(免疫が誤って自分自身を攻撃する抗体)の存在が確認されることがあります。

こうした自己免疫反応は自己免疫疾患や特定の遺伝的背景をもつ人に起こりやすく、長期にわたり腎臓を含む複数の臓器にダメージを与えるケースがあります。

不明なケース(特発性)

診断を進めても原因となる感染症や明確な自己免疫疾患が見つからず、特発性と分類されるMPGNもあります。

こうしたケースでは生活習慣や環境要因が重なっている可能性も考えられますが、はっきりとした発症メカニズムはまだ解明されていません。

検査・チェック方法

MPGNを疑う場合、複数の検査を組み合わせて診断を行い、腎臓の状態や炎症の程度、原因を特定します。血液検査から腎生検まで多岐にわたる検査が必要となり、正確な診断がつくまでに時間を要することがあります。

血液検査

腎機能を確認するため、血中のクレアチニンや尿素窒素(BUN)などを測定し、また、タンパク質やアルブミン濃度、免疫グロブリン、補体成分(C3、C4など)、炎症反応(CRP)の値を把握します。

慢性炎症の場合はCRPが軽度に上昇し、補体が低下しているケースが多いです。

血液検査の代表的な項目

検査項目内容MPGNでの変化例
クレアチニン腎機能を示す指標腎機能が低下すると上昇
尿素窒素(BUN)尿中に排出されるべき窒素化合物腎不全が進むと上昇
アルブミン血中の主要タンパク質タンパク尿が長期に及ぶと低下
免疫グロブリンIgG免疫反応を担うタンパク質免疫複合体の形成に関与
補体成分(C3、C4)生体防御機構の1つ低下を認める例が多い
CRP炎症の指標慢性炎症で軽度上昇

尿検査

尿試験紙や尿沈渣によって、タンパク尿や血尿の有無を確認し、糸球体由来の蛋白円柱や血球円柱が見られる場合、MPGNなど糸球体疾患を示唆します。また、時間蓄尿検査を行い、1日あたりのタンパク排泄量を評価することも大切です。

  • 24時間タンパク排泄量が3.5gを超えるとネフローゼ症候群レベル
  • 尿沈渣で赤血球や血球円柱が確認される
  • 尿量の変化も指標になる場合がある

画像検査

腎臓の形状や大きさ、血流などを調べるために腹部エコー(超音波検査)やCTが行われることがあり、腎実質のエコー輝度が変化している場合や、萎縮・肥大が生じている場合に腎病変を推測する一助となります。

ただし、MPGNの確定診断において画像検査は補助的役割が中心です。

腎生検

MPGNを確定的に診断するためには腎生検が必要となることが多いです。腎組織の一部を採取し、光学顕微鏡や電子顕微鏡、免疫染色などで詳しく観察します。I型、II型、III型などの病型判定もこの腎生検の結果に基づいて行われます。

腎生検の意義

腎生検の役割詳細
確定診断光学・電子顕微鏡所見でMPGNと確認
病型の特定I型、II型、III型の判別に必須
予後予測と治療方針の決定病変の広がりや重症度を直接評価
他の腎疾患との鑑別IgA腎症など類似疾患との違いを明確化

腎生検には出血などのリスクが伴うため、医師との相談のうえで適切な時期に受ける必要があります。

膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)の治療方法と治療薬について

MPGNの治療は、原疾患がある場合はその対処を優先し、糸球体の炎症や免疫異常をコントロールすることを目的に進めます。タンパク尿の軽減や腎機能の悪化防止、合併症の管理などが主なターゲットです。

免疫抑制療法

MPGNでは炎症反応や免疫複合体形成が関与しているため、免疫抑制療法が検討されることがあります。

ステロイド薬(プレドニゾロンなど)や免疫抑制薬(シクロスポリン、タクロリムス、ミコフェノール酸モフェチルなど)が使用され、炎症を抑え、タンパク尿を改善する効果が期待されます。

代表的な免疫抑制薬

薬剤名作用機序主な使用目的
ステロイド(プレドニゾロンなど)免疫抑制・抗炎症効果炎症緩和、免疫反応コントロール
シクロスポリンTリンパ球の活性化を抑制ステロイド併用でタンパク尿軽減
タクロリムスシクロスポリンに類似した免疫抑制作用難治性症例の補助療法
ミコフェノール酸モフェチルリンパ球増殖抑制ステロイドとの併用

血圧管理とRAS阻害薬

腎臓病の進行と高血圧は相互に悪影響を及ぼすため、血圧管理が重要です。

アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)やアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)などのRAS阻害薬を使うと、血圧コントロールとともにタンパク尿を軽減し、腎保護作用が期待できます。

  • 目標血圧は通常130/80mmHg以下を目指す
  • RAS阻害薬によって尿タンパク量を減らす効果が得られる
  • 他の降圧薬(Ca拮抗薬など)も併用して総合的に血圧を管理

原因疾患の治療

C型肝炎など明確な原因感染症がある場合は、その治療を優先し慢性ウ、イルス感染を制御できれば、MPGNの病態も改善することがあります。また、自己免疫疾患が背景にある場合は、その疾患に対する免疫調節が症状緩和に直結します。

治療期間

MPGNは慢性疾患に位置づけられることが多く、治療期間は数か月から数年、場合によってはさらに長期にわたり、症状の安定化と腎機能の維持を目指しながら、定期的に検査や投薬調整を行うことが必要です。

急性期から慢性期

急性増悪が起きてタンパク尿や血尿が急増した場合、ステロイドなどで集中的な治療を数か月行い、その後、症状が落ち着いた段階で免疫抑制薬の量を減らしたり、RAS阻害薬のみで管理を続けるなど、段階的な治療方針を取ります。

治療期間の大まかな目安

治療段階期間の目安主な内容
急性期・増悪期数週間~数か月ステロイド大量投与、免疫抑制薬併用
慢性期・安定期数か月~数年免疫抑制薬の減量、RAS阻害薬で維持療法
継続的なフォローアップ長期(数年~)定期的な血液・尿検査で腎機能を監視

治療終了の判断

MPGNは完治が難しい場合も多く、腎機能を維持しながら症状をコントロールする長期管理の意識が大切です。

ステロイドや免疫抑制薬を中止できるほど安定している場合でも、定期的な尿検査や血液検査を受け、再燃を早期に発見する姿勢が重要になります。

  • 症状がなくても定期検査で隠れた炎症を見つける
  • ステロイド中止後も数か月~数年は血液・尿検査を継続
  • 高血圧や脂質異常症など、併発症の管理を続ける

膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)薬の副作用や治療のデメリットについて

MPGNの治療に使う薬剤には、ステロイドや免疫抑制薬をはじめとする強力な炎症制御の作用がありますが、その一方で多彩な副作用リスクやデメリットもあります。

ステロイドの副作用

プレドニゾロンなどのステロイド薬は、血糖値の上昇、体重増加、満月様顔貌(ムーンフェイス)、骨粗鬆症、精神的な変化などを引き起こすことがあり、また、高用量の長期使用では感染リスクが高まるため注意が必要です。

主なステロイド副作用

副作用症状・注意点
体重増加食欲増進と代謝異常で肥満気味になる
糖尿病の悪化血糖値がコントロールしにくくなる
骨粗鬆症骨折リスクが高まる
精神面への影響気分の変動、不眠、イライラなど
易感染性免疫抑制により感染症にかかりやすい

免疫抑制薬の副作用

シクロスポリンやタクロリムスなどのカルシニューリン阻害薬は腎機能をさらに悪化させる可能性や、高血圧や高カリウム血症などの電解質異常を引き起こすことがあります。

ミコフェノール酸モフェチルは消化器症状や骨髄抑制が現れることがあり、血球減少や感染に注意しながら使用を続けます。

  • カルシニューリン阻害薬は腎毒性のリスクがある
  • 血圧や電解質を定期的にモニタリング
  • 骨髄抑制で白血球や血小板が減少することがある
  • 血液検査や尿検査の頻度を増やして安全性を確保する

長期使用のデメリット

ステロイドや免疫抑制薬を長期にわたって使用すると、生活習慣病(糖尿病、脂質異常症など)のリスクが高まることがあります。

また、感染症への抵抗力低下が続くため、外出や職場での感染症対策に気を配ることが必要です。

副作用対策

副作用を抑えるためには、最低限の有効量で投与し、症状が落ち着いたら徐々に減量する方針がとられます。

また、カルシウムやビタミンDサプリメントなどを利用して骨密度の低下を防ぐことや、血糖値を定期的に測定し、糖尿病の合併を予防することも重要です。

膜性増殖性糸球体腎炎(MPGN)の保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

外来受診や検査費

外来での血液検査や尿検査、腹部エコー、CTなどの画像検査を行うと、1回あたり数千円~1万円程度かかり、腎生検を行うとなると、検査や入院の費用がさらに上乗せされ、合計で数万円程度になることもあります。

項目費用目安(3割負担時)備考
診察料数百円~1,000円台総合病院・専門病院で変動
血液検査・尿検査1,000円~3,000円程度項目数による
画像検査(エコー、CT)2,000~5,000円前後機器・検査項目により変動
腎生検(入院含む)数万円程度になることが多い入院日数や病院による

薬剤費

ステロイド薬や免疫抑制薬は保険適用の範囲内であれば、自己負担割合が3割の場合、月数百円から数千円程度で収まります。

薬剤月あたりの費用目安(3割負担)備考
ステロイド薬数百円~1,000円台投与量が多いと上限近くになる
免疫抑制薬(シクロスポリン等)1,000円~5,000円以上薬剤のブランドや処方量で変動が大きい
降圧薬(ACE阻害薬, ARBなど)数百円~1,000円台血圧管理が長期化すると継続費用がかかる
利尿薬数百円血圧管理・浮腫対策で用いられることがある

入院治療費

MPGNの急性増悪期や腎生検のために短期入院する場合、1日あたり数千円~数万円の自己負担です。

腎生検だけでなく、ステロイドのパルス療法(大量投与)を行うときや、高度の浮腫・血圧コントロールが必要なときに入院加療が検討されます。

入院時の主な費用項目概算費用(3割負担)補足
ベッド代(一般病棟)1日あたり数千円~個室利用なら差額がかかることが多い
血液検査・尿検査1回あたり1,000円~3,000円程度頻回に行われると合計費用が増える
腎生検(処置料含む)数万円程度病院の施設・入院日数で変動
ステロイドパルス療法数千円~数万円(回数・量による)3回シリーズなどで実施されることが多い

以上

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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