急性糸球体腎炎(acute glomerulonephritis)とは、腎臓内部にある微小な濾過装置、糸球体に急性の炎症が発生することで腎機能が著しく低下する腎疾患です。
感染症に罹ってから約1~2週間後に発症し、特に上気道感染症の後に多く見られ、10代から30代にかけての発症頻度が高くなっています。
典型的な症状は、全身性の浮腫(むくみ)、褐色調の血尿、たんぱく尿で、重症例では著明な血圧上昇です。
溶連菌などの感染を契機として形成される免疫複合体が糸球体に沈着し、補体系の活性化を介して炎症性の変化をもたらします。
急性糸球体腎炎の症状
急性糸球体腎炎の主要な症状は、浮腫、血尿、高血圧です。
初期症状と経過
急性糸球体腎炎の症状は、上気道感染から1~2週間後に突然発症することが多く、初期段階では、顔面のむくみが朝方に目立つようになり、日中は徐々に軽減していきます。
また、全身倦怠感や微熱が持続し身体が重く感じられ、通常の活動が困難になることも少なくありません。
時期 | 主な症状 | 特徴的な変化 |
早朝 | 顔面浮腫 | 最も顕著 |
日中 | 浮腫軽減 | 徐々に改善 |
夕方 | 下肢浮腫 | 再度悪化 |
特徴的な3大症状の詳細
浮腫は最も目立つ症状で、朝方に顔面、特に眼瞼周囲に現れ、重力の影響で夕方になると下肢にも見られるようになります
血尿は、肉眼で確認できる場合と、顕微鏡でしか確認できない場合があります。多くの患者さんでは茶褐色からコーラ色の尿が観察され、これは腎臓の糸球体が障害を受けていることを示す重要な所見です。
高血圧は、腎臓の機能障害に伴って現れる症状で、若年層で急激な血圧上昇が見られた場合には、急性糸球体腎炎を疑う必要性が高まります。
随伴症状と注意すべき徴候
急性糸球体腎炎では、主要な症状以外にもさまざまな随伴症状が現れます。
- 食欲不振
- 悪心・嘔吐
- 頭痛
- 背部痛
- 呼吸困難
症状の重症度分類
症状の程度は患者さんによって大きく異なり、軽症例では日常生活への影響が比較的少ないものの、重症例では入院による厳重な管理が必要です。
重症度 | 浮腫の程度 | 血圧値 | 尿所見 |
軽症 | 軽度 | 140/90未満 | 微小血尿 |
中等症 | 中等度 | 140-160/90-100 | 肉眼的血尿 |
重症 | 高度 | 160/100以上 | 大量血尿 |
急性糸球体腎炎は、主に感染症後の免疫反応によって引き起こされる腎疾患であり、特に溶連菌感染症がきっかけとなることが確認されています。
急性糸球体腎炎の原因
急性糸球体腎炎は主に感染症後の免疫反応によって起こる腎疾患で、特に溶連菌感染症が重要な引き金です。
感染後の免疫反応による発症
感染症への罹患後、体内の免疫システムが過剰に反応することで、腎臓の糸球体に炎症が生じることが急性糸球体腎炎の発症の原因です。
上気道感染症から1〜2週間後に発症することが特徴的で、この時間差は免疫複合体が形成され、腎臓に到達するまでの期間に相当します。
免疫複合体の形成過程では、感染症への防御反応として産生された抗体が病原体と結びつき、これが血流を介して腎臓に到達することで炎症反応が起きます。
感染源 | 発症頻度 | 好発年齢 |
溶連菌 | 最多 | 5-15歳 |
ウイルス | 中程度 | 全年齢 |
細菌 | 比較的少 | 成人 |
溶連菌感染症との関連性
溶連菌感染後急性糸球体腎炎(PSAGN)は急性糸球体腎炎の代表的な病型で、特に小児期における発症リスクが高いです。
溶連菌が持つ特殊なタンパク質が人体の免疫系を刺激し、腎臓に対する自己免疫反応が誘発される可能性が示唆されています。
免疫学的な連鎖反応は、腎臓の微細構造に著しい影響を及ぼすことが確認されているので、早期発見が不可欠です。
その他の感染性要因
その他の感染症も急性糸球体腎炎の原因となります。
- 肺炎球菌感染症
- 黄色ブドウ球菌感染症
- サイトメガロウイルス感染症
- B型肝炎ウイルス感染症
- マイコプラズマ感染症
非感染性要因の関与
感染症以外にも、自己免疫疾患や全身性疾患が原因となって急性糸球体腎炎を起こすことがあります。
全身性エリテマトーデスやIgA血管炎などの自己免疫疾患では、免疫複合体の形成メカニズムが異なるものの、同様の糸球体障害が生じる例が確認されています。
非感染性要因 | 発症機序 | 特徴的な所見 |
SLE | 自己抗体 | 多臓器障害 |
IgA血管炎 | IgA沈着 | 紫斑 |
薬剤性 | アレルギー | 急性発症 |
非感染性要因による発症では、基礎疾患の活動性と腎症状が密接に関連していることが特徴です。
急性糸球体腎炎の検査・チェック方法
急性糸球体腎炎の診断には、血液検査、尿検査、画像検査などの総合的な検査を行い、検査結果を複合的に判断することで確定診断に至ります。
基本的な検査の流れと種類
急性糸球体腎炎の診断過程ではまず問診から始まり、身体所見の確認を行います。患者さんの症状の経過や、先行する感染症の有無などを詳しく聞き取ることは、診断の精度を高める上で重要です。
続いて実施される検査では、尿検査が最も基本的な検査で、早朝尿を用い複数回の検査結果を比較することで、より正確な病態の把握ができます。
検査項目 | 検査内容 | 異常所見 |
尿検査 | 尿潜血、蛋白尿 | 血尿、蛋白尿陽性 |
血液検査 | 腎機能、炎症反応 | BUN・Cr上昇、CRP上昇 |
血圧測定 | 収縮期・拡張期血圧 | 高血圧の有無 |
尿検査における詳細評価
尿検査では肉眼的所見に加えて顕微鏡による詳細な観察も実施され、赤血球の形態や円柱の有無など、細かな所見によって、腎臓の障害状態をより正確に確認できます。
また、24時間蓄尿検査を行うことで、より詳細な腎機能評価ができ、1日あたりの蛋白排泄量や腎臓の濾過機能を正確に測定することが可能です。
血液検査による評価項目
血液検査では、以下の項目を調べます。
- 血清クレアチニン値
- 血中尿素窒素(BUN)
- 電解質バランス
- 補体価(CH50、C3、C4)
- 炎症マーカー(CRP、赤沈)
検査値は、腎機能の状態や炎症の程度を判断する上で大切な指標となり、特に補体価の低下は、急性糸球体腎炎に特徴的な所見です。
画像診断による腎臓の評価
腎臓の形態学的評価には、超音波検査やCT検査を用い、検査により、腎臓のサイズや性状、さらには腎血流の状態まで確認できます。
画像検査 | 評価項目 | 特徴的所見 |
超音波検査 | 腎臓サイズ、エコー輝度 | 腫大、輝度上昇 |
CT検査 | 形態異常、血流評価 | 腫大、造影効果 |
MRI検査 | 詳細構造、血流動態 | 信号変化、血流低下 |
経時的な検査とモニタリング
検査結果の解釈には、単回の検査値だけでなく、経時的な変化を観察することも重要で、尿所見や腎機能検査値の推移を追跡することで、病状の進行度や回復傾向を正確に評価できます。
また、定期的な血圧測定や体重測定なども欠かせません。
急性糸球体腎炎の治療方法と治療薬、治療期間
急性糸球体腎炎の治療は、安静療法と薬物療法を組み合わせて行います。
初期治療における安静の重要性
急性期における安静は炎症の沈静化に大きく寄与し、特に発症初期の2週間は腎臓への負担を軽減するため、安静度に応じた活動制限が推奨されており、症状の改善に伴って徐々に活動範囲を広げていきます。
運動制限の程度は、血尿やタンパク尿の程度、血圧値などの臨床所見に基づいて個別に判断することが大切です。
安静度 | 活動制限 | 期間の目安 |
厳重安静 | ベッド上での生活 | 1-2週間 |
軽度安静 | 室内での軽い活動可能 | 2-4週間 |
一般生活 | 運動以外制限なし | 1-2ヶ月 |
塩分・水分制限と食事療法
浮腫や高血圧の改善には、塩分制限が効果的です。
一日の塩分摂取量を5〜6g程度に制限することで、体内の水分バランスが整い、浮腫の軽減につながります。
水分摂取に関しては、尿量と体重の変動を参考にしながら、患者さんの状態に応じて調整します。
薬物療法
急性糸球体腎炎の薬物療法は、症状の程度や病態の進行状況に応じて、複数の薬剤を組み合わせて行います。
重症例では、免疫抑制薬であるステロイド薬が中心的な役割を果し、急性期の炎症を効果的に抑制することで腎機能の保護を図ることが目的です。
浮腫が顕著な症例では、ループ利尿薬やサイアザイド系利尿薬を用いることで過剰な体液貯留を是正し、患者さんの身体的負担を軽減できます。
高血圧を伴う場合には、ACE阻害薬やARBなどの降圧薬を使用することで、腎臓の保護効果と血圧コントロールの両方が必要です。
溶連菌感染が原因である場合には、ペニシリン系抗生物質の投与により原因となる感染源を除去することで、免疫反応の沈静化を促します。
腎炎の重症度や症状に応じて使用する薬剤
- 利尿薬(浮腫の改善)
- 降圧薬(血圧コントロール)
- 免疫抑制薬(重症例)
- 抗凝固薬(血栓予防)
- 抗生物質(感染源の除去)
薬剤分類 | 主な使用目的 | 使用期間 |
利尿薬 | 浮腫改善 | 症状改善まで |
降圧薬 | 血圧管理 | 必要期間 |
抗生物質 | 感染制御 | 1-2週間 |
経過観察と治療期間
治療開始後2〜3週間で、多くの患者さんが浮腫や高血圧などの急性症状が改善傾向を示します。
ただし、尿所見の完全な正常化には通常3〜6ヶ月を要することが多く、この間の定期的な経過観察が大切です。
症状の改善が見られた後も、再発予防の観点から少なくとも6ヶ月間は定期的な検査を継続します。
薬の副作用や治療のデメリットについて
急性糸球体腎炎の治療では、ステロイド薬や免疫抑制薬などの使用に伴う副作用やリスクがあります。
ステロイド薬による副作用
ステロイド薬の使用では、投与量や期間によって様々な副作用が現れ、特に長期使用における影響には注意が必要です。
消化器系への副作用として、胃潰瘍や消化性潰瘍の発症リスクが上昇するので、胃粘膜保護剤の併用が推奨されます。
また、感染症に対する抵抗力が低下することから、通常では問題とならない細菌やウイルスによる感染症を起こす可能性が高まります。
副作用の種類 | 早期の症状 | 好発時期 |
満月様顔貌 | 顔のむくみ | 2-4週間 |
高血糖 | 口渇、多尿 | 1-2週間 |
骨粗鬆症 | 腰背部痛 | 3-6ヶ月 |
免疫抑制薬に関連する副作用
免疫抑制薬は血液系への影響が懸念され、血球減少や貧血などの血球減少が生じることがあり、定期的な血液検査による経過観察が欠かせません。
さらに、肝酵素の上昇や胆道系酵素の変動が見られることもあるため、投与開始後は肝機能検査値の推移を慎重に観察します。
併用薬による相互作用
急性糸球体腎炎の治療では、以下のような薬物相互作用に注意が必要です。
- 降圧薬との相互作用
- 利尿薬による電解質バランスへの影響
- 抗凝固薬との併用時の出血リスク
- 解熱鎮痛薬による腎機能への影響
- 抗生物質との相互作用
治療に伴う身体的負担
長期的な薬物療法では様々な身体的な負担が蓄積していき、特に高齢者や基礎疾患をお持ちの方では、より慎重な経過観察が重要です。
治療期間 | 想定される負担 | 観察のポイント |
初期 | 急性期症状 | バイタルサイン |
中期 | 薬物副作用 | 血液検査所見 |
長期 | 慢性合併症 | 全身状態 |
保険適用と治療費
以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。
外来診療における治療費の内訳
外来診療では、血液検査や尿検査などの検査を行います。
外来診療項目 | 3割負担額 | 検査頻度 |
一般血液検査 | 2,000円 | 月1回 |
尿検査 | 1,500円 | 月2回 |
画像検査 | 3,000円 | 3ヶ月毎 |
薬剤費用の詳細
治療に使用される主な薬剤には以下のようなものがあります。
- 利尿薬 月額1,000円~3,000円
- 降圧薬 月額2,000円~5,000円
- 免疫抑制薬 月額5,000円~15,000円
- 抗凝固薬 月額3,000円~8,000円
検査費用の変動要因
検査費用は病状の進行度や重症度によって大きく変動し、腎生検が必要となった場合には、高額な費用が発生します。
特殊検査項目 | 3割負担額 | 備考 |
腎生検 | 30,000円 | 1回のみ |
血管造影 | 25,000円 | 必要時 |
特殊免疫検査 | 8,000円 | 随時 |
以上
参考文献
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