腎静脈血栓症(RVT)とは、腎臓から心臓へと血液を運ぶ腎静脈に血栓(血のかたまり)ができる病気で、血管内に血栓が詰まると腎臓への血液の流れが滞り、むくみや血尿、痛みなど、多様な症状が起こる可能性があります。
早期に気づいて治療を進めることが大切ですが、日常生活では見逃しやすい症状も含まれるため、詳細な情報を得てから医療機関を受診するかどうかを判断する方も多いです。
腎静脈血栓症(RVT)の病型
ここでは、腎静脈血栓症(RVT)がどのようなタイプに分類されるかについて説明しますが、急性型と慢性型の違いだけでなく、小児と成人の病型差や血栓がどこにできるかによる分類も含め、多角的に見ていくことが重要です。
急性型
急性型の腎静脈血栓症(RVT)は、突然の血栓形成によって腎静脈がふさがり、急速に症状が出現するタイプで、血栓が形成される速度が速いほど、激しい腹痛や血尿、腎機能の急な低下を起こしやすくなります。
多くの場合、激しい腰痛や脇腹の痛みをともなうケースがみられ、血液検査や画像検査で腎機能異常が早期に判明しやすいです。急性型では腎臓に大きな負担がかかる可能性があるため、早い段階で専門的な治療を進める必要があります。
慢性型
慢性型の腎静脈血栓症(RVT)は、血栓がゆっくり形成され、腎静脈の閉塞が徐々に進むタイプで、時間をかけて血管が詰まっていくことで、急性型のように明確な痛みや血尿が出にくい特徴ことが特徴です。
そのため、自覚症状が乏しく気づきにくい一方で、腎機能の低下やむくみなどが長期的に進行し、定期検査などで発覚することもあります。
慢性型の場合、腎臓への血流が完全に途絶せずにある程度維持されることがあり、急性期よりも症状の進み方が緩やかですが、治療に時間がかかる場合が多いです。
小児例と成人例の違い
小児でも腎静脈血栓症(RVT)は起こる場合があり、成人とは原因の構造が異なり、新生児期に脱水や血液の濃縮状態が進んだ結果、血栓を形成しやすくなることがあります。
成人例ではネフローゼ症候群などの腎疾患や凝固異常などが原因になりやすいですが、小児例はほかに先天的要因が関わることもあるため、診断・治療において個別のアプローチが必要です。
特に小児期は成長過程にあり、腎臓への影響を見落とさないように慎重な観察が重要になります。
血栓の分布による分類
血栓の分布が腎静脈の一部に限定する場合と、より広範囲に及ぶ場合があり、単一の枝に限局する場合は局所的な症状が起こりやすく、広範囲に及ぶと腎臓全体に影響が及びます。
さらに、血栓の一部がはがれて肺など別の臓器へ飛ぶリスクもあり、血栓症が重篤化する恐れがあるので、血管造影やCT、MRIなどで血栓の位置を確認しながら治療方針を決めることが大切です。
- 急性型は突然症状が強く出る
- 慢性型は症状の進行がゆるやか
- 小児例は先天的要因が関わる場合もある
- 分布範囲によってリスクが変動する
分類 | 主な特徴 | 症状の進行 | 好発年齢 |
---|---|---|---|
急性型 | 血栓形成が急速に進み、激しい痛みが出やすい | 急速 | 成人が多いが小児も可 |
慢性型 | 血栓形成がゆっくり進み、自覚症状が乏しい | 徐々に | 成人が中心 |
小児例 | 先天的要因や脱水に伴う血液の濃縮が影響 | 症例により異なる | 新生児~乳幼児期 |
分布の差 | 単一の枝か全体かでリスクや症状が変わる | 病変範囲に依存 | 年齢問わず発生 |
腎静脈血栓症(RVT)の症状
血尿や腰痛、むくみなど、腎臓の働きが低下すると起こりやすい兆候が主ですが、場合によっては無症状のまま経過するケースもあり、自覚症状の有無が治療のタイミングに影響を与えることもあるため、注意深く確認することが大切です。
血尿
血尿は腎臓や尿路に何らかの異常がある場合に起こりやすい症状で、腎静脈血栓症(RVT)で腎臓への血流が妨げられると、腎機能が乱れ、尿中に赤血球が混じりやすくなります。
明らかな赤い尿が出る場合もあれば、顕微鏡検査で初めて確認される場合もあります。血尿の程度が強いほど腎臓に負担が大きい可能性があり、放置すると腎機能のさらなる低下に直結することがあるため、早めの受診が望ましいです。
腰痛や腹部痛
腎臓がある腰のあたりに痛みを感じる場合があり、これは急性期の腎静脈血栓症(RVT)で比較的多く報告されていて、血流障害による腎被膜の伸展や、血栓周辺の炎症などが原因と推定され、痛みの程度は個人差が大きいです。
時に、腹部から背中にかけて圧迫されるような痛みが持続することもあり、激しい痛みが数日続くようであれば、一度腎臓方面の検査を検討します。
むくみや体重増加
腎臓が水分や塩分を適切に調整できなくなると、全身や局所的なむくみが生じやすくなり、特に足や顔が腫れぼったくなることがあり、体重が急激に増える場合もあります。
むくみはネフローゼ症候群などの他の病気でも起こるため、それだけで腎静脈血栓症(RVT)を断定することはできませんが、血栓症と関連する腎機能の低下が原因になっている可能性も考えられるため、むくみが長引くときには注意が必要です。
無症状の場合
腎静脈血栓症(RVT)には、自覚症状がほとんどないまま進行するケースもあり、慢性型に多い傾向で、検査で偶然発覚することも珍しくありません。
何らかの腎疾患で通院中にたまたま血栓が見つかることや、健康診断で異常が指摘されて初めて気づくこともあります。
無症状であっても、腎機能が徐々に損なわれる恐れがあるため、腎機能に不安がある人や血栓リスクのある人は定期的な検査が大切です。
腎静脈血栓症(RVT)において見られる代表的な症状
- 腰回りの痛みや違和感
- 血尿(肉眼的・顕微鏡的)
- むくみや体重増加
- 無症状で経過し、検査で発覚する場合もある
症状 | 発現頻度(目安) | 特徴 | 注意点 |
---|---|---|---|
血尿 | 中程度~高 | 肉眼的な血尿から潜血のみまで多様 | 放置すると腎機能低下が進む恐れ |
腰痛・腹部痛 | 中程度 | 急性期に強く出る傾向がある | 疼痛が長引けば早期受診が望ましい |
むくみ | 中程度 | 足・顔に出やすい | ネフローゼ症候群との合併に注意 |
無症状 | 低~中 | 慢性型で起こることが多い | 定期検査で確認が重要 |
原因
血管が詰まるにはさまざまな要因が関係し、体内の凝固系が乱れたり、周囲の腫瘍や組織が血管を圧迫したりすることなどが挙げられます。
ネフローゼ症候群との関連
ネフ、ローゼ症候群で大量のタンパク質が尿中に排出されると、血液中のアルブミンが低下してむくみが起こりやすく、同時に凝固因子や抗凝固因子のバランスが崩れ、血栓ができやすい状態に陥ることがあります。
その結果、腎静脈を含む全身の静脈に血栓リスクが高まるので、ネフローゼ症候群を持つ人が腰痛や血尿などを感じた場合には、腎静脈血栓症(RVT)を疑う必要があります。
凝固異常
先天的に血液が固まりやすい体質(凝固異常)を持つ人は、腎静脈血栓症(RVT)になりやすい傾向があります。
特にプロテインSやプロテインCなどの抗凝固因子が不足する遺伝性疾患、抗リン脂質抗体症候群などの自己免疫的な疾患も血栓傾向を高め、凝固異常を疑う人は、血液検査や家族歴の確認が大切です。
腎腫瘍などによる圧迫
腎臓や周囲組織に腫瘍が発生すると、腎静脈を外部から押し潰す形で血流を阻害する場合があり、圧迫によって血液の流れが悪くなると、血栓が形成されやすい環境が生まれます。
腫瘍性疾患のチェックは画像検査などで行うことが多く、腫瘍が見つかったら血栓との関連を検討しつつ、同時に治療を進めるケースもあります。
脱水やその他の要因
水分不足による血液の濃縮は、血栓形成のリスクを高め、高齢者や小児は体内の水分バランスが崩れやすいため、脱水が血栓形成につながることがあります。
その他にも、心臓の機能低下や長期のベッド上生活によって血流が停滞すると、血栓ができやすいです。
- ネフローゼ症候群など腎機能低下に伴う凝固バランスの乱れ
- 先天性や後天性の凝固異常
- 腎腫瘍や周囲臓器による血管圧迫
- 脱水や長期臥床による血流の停滞
主な原因と関連する検査
主な原因 | 関連疾患・状況 | 検査のポイント |
---|---|---|
ネフローゼ症候群 | 大量のタンパク質喪失 | 尿タンパク、血清アルブミンの測定 |
凝固異常(先天・後天) | プロテインS欠損、抗リン脂質抗体 | 血液凝固系の精密検査(PT、APTTなど) |
腎腫瘍などによる圧迫 | 腎細胞癌、脂肪腫など | CT・MRIで腫瘍の有無や大きさを確認 |
脱水や長期臥床 | 不十分な水分補給、運動不足 | 血液の濃縮状態や全身状態の把握(血液検査) |
腎静脈血栓症(RVT)の検査・チェック方法
ここでは、腎静脈血栓症(RVT)の有無を調べるために行われる検査や日常的にチェックできるポイントを取り上げます。血液検査や画像検査を活用し、腎臓と血管の状態を総合的に把握することが大切です。
血液検査
腎臓の状態や凝固系の異常を把握するために血液検査を行うことが多く、腎機能を示すクレアチニンやBUN(尿素窒素)の値を確認し、さらにD-ダイマーなど血栓の存在を示唆するマーカーもチェックします。
凝固異常を疑う場合には、PT(プロトロンビン時間)やAPTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)など、凝固系に関する詳細な検査を追加することがあります。
血液検査の結果を総合的に判断し、腎臓だけでなく全身の状態を見渡すことで、腎静脈血栓症(RVT)の可能性や重症度を推定できます。
画像検査(CT・MRIなど)
腎静脈内の血栓を可視化するために、造影CTやMRIを用いる場合が多く、静脈の状態や血栓の位置を直接把握できるため、治療方針の決定に役立ちます。
CTでは比較的短時間で詳細な画像が得られ、MRIでは造影剤を使用せずに血管内の血流を評価できる手法もあります。
腎静脈血栓症(RVT)が疑われる人は、医師が必要と判断すれば複数の検査方法を組み合わせて正確な診断を目指すことが一般的です。
エコー検査
超音波(エコー)検査は、被ばくの心配がないため比較的安心して受けやすい検査方法で、腎臓や血流の大まかな状態を把握でき、血栓がある程度大きい場合には判別が可能なケースもあります。
ただし、造影CTやMRIほど詳細に血管内部を映し出すわけではないため、追加の画像検査と併用しながら診断を確定することが多いです。こまめにエコー検査を実施することで腎臓の変化を追いかけ、治療の経過観察にも活用できます。
日常生活における観察ポイント
むくみや血圧の変動、尿の色や回数など、日常生活の中でチェックできる指標は多くあり、血尿の兆候がある場合や、突然に腰痛や腹部の違和感が強まった場合などは要注意です。
ネフローゼ症候群や凝固異常がある人、過去に血栓症を経験した人は定期的に血液検査や尿検査を行うことでリスク管理を行い、早期発見につなげることが重要になります。
検査やチェック方法の概要
- 血液検査で腎機能や凝固状態を確認
- CT・MRIで血栓の位置や大きさを把握
- エコー検査で腎臓の形態変化を観察
- 日常生活でむくみや血圧の変化をこまめに確認
検査方法 | 得られる情報 | 利点 | 欠点 |
---|---|---|---|
血液検査 | 腎機能指標、凝固マーカーなど | 手軽に実施できる | 血栓の位置は直接的に確認できない |
造影CT | 血栓の位置や血流状態の詳細 | 画像が精細で診断精度が高い | 造影剤の使用によるアレルギーや被ばくリスクがある |
MRI (MRA含む) | 造影剤を使わずに血流評価可能な手法 | 被ばくがない | 検査時間が長く、閉所恐怖症の人には負担が大きい |
エコー(超音波) | 腎臓の形態、血流の概略 | 被ばくがなく手軽に受けやすい | 詳細な血管内の評価は難しい |
腎静脈血栓症(RVT)の治療方法と治療薬について
腎静脈血栓症(RVT)の治療としてよく行われる方法には、血栓を溶かす治療や、血栓がこれ以上大きくならないようにするための抗凝固療法、場合によっては外科的治療も検討されることがあります。日常生活の工夫も効果的です。
抗凝固療法
抗凝固療法は、血液が固まりにくくなる薬を使って、血栓がこれ以上大きくならないように抑える方法で、ワルファリンやヘパリン製剤、近年では経口直接抗凝固薬(DOAC)などがよく用いられます。
患者さんの腎機能や年齢、合併症の有無によって薬剤選択が異なり、出血リスクとのバランスを考えながら処方します。抗凝固薬の服用中は定期的な血液検査で凝固状態をチェックすることが大切です。
血栓溶解療法
血栓溶解療法では、血栓を直接溶かす作用を持つ薬剤を使って、腎静脈にできた血のかたまりを縮小させ、急性期で血栓がまだ柔らかく、十分に溶ける可能性があると判断した場合に行います。
血栓が広範囲に及ぶケースでは、カテーテルを使って薬剤を血栓の近くまで届ける場合もありますが、溶解療法は出血のリスクがあり、慎重な適応判断が必要です。
外科的治療
薬物療法だけで血栓をコントロールできない場合や、腎腫瘍などで血管が圧迫されている場合、外科的治療を検討することがあり、血栓を除去する手術や血管をバイパスする手技などが含まれます。
大きな侵襲をともなう場合があり、患者さんの全身状態や腎機能を踏まえて判断します。
日常生活の工夫
血行を良くし、血栓の再発リスクを下げる目的で、普段の食事や水分摂取に配慮することが大切で、過度な塩分や動物性脂肪の摂取は避け、適度な運動を取り入れます。
長時間の座り姿勢や水分不足は血栓を形成しやすい状態を生むため、日常的に心がけるだけでも治療の効果を高めやすいです。
代表的な治療法
- 抗凝固薬(ワルファリン、DOACなど)の内服
- 血栓溶解薬の使用(カテーテル治療含む)
- 外科的治療(血栓除去手術など)
- 生活習慣の改善(運動、水分補給)
薬剤名 | 主な作用 | 投与形態 | 注意点 |
---|---|---|---|
ワルファリン | ビタミンK依存性凝固因子を抑制 | 内服 | 食事中のビタミンK摂取量に気を配る必要がある |
ヘパリン製剤 | アンチトロンビンIIIを活性化 | 点滴・皮下注 | 投与中はAPTTなどのモニタリングが重要 |
DOAC (ダビガトラン等) | トロンビンやXa因子を直接阻害 | 内服 | 用量調節が比較的容易だが、腎機能で選択が変わる |
血栓溶解薬(t-PA等) | 血栓を溶かす作用 | 点滴 | 出血リスクが高いため、慎重に使用する |
腎静脈血栓症(RVT)の治療期間
腎静脈血栓症(RVT)の治療は、血栓の大きさや患者の全身状態、基礎疾患の有無などによって治療期間に幅があり、急性期から慢性期までの変化を把握し、途中で投薬内容や通院ペースを調整することもあります。
治療初期の経過
急性期の腎静脈血栓症(RVT)では、まず血栓を安定化させるために抗凝固薬や血栓溶解薬を中心に行い、数日から数週間は集中的に治療し、血液検査や画像検査で血栓の変化や腎機能を評価します。
血栓がある程度縮小し、症状が落ち着くまでの期間がもっとも重要で、この段階で治療を進めることで後の回復に大きく影響します。
中期的な通院の回数
急性期を乗り越えた後は、抗凝固薬の用量調整や副作用の確認を目的とした通院が始まり、月1~2回程度の頻度で受診することが多く、血液検査や尿検査を行いながら、薬の効果や腎機能の変化を確認します。
この時期に安定した状態を保てれば、通院の頻度を徐々に減らしていく方針をとる医師もいます。
症状改善後の経過観察
症状が和らぎ、血栓が十分に小さくなったと医師が判断した後も、しばらくは治療を継続する場合が多いです。
抗凝固薬の継続期間は数カ月から半年、あるいは1年以上になるケースもあり、ネフローゼ症候群や凝固異常を併発している患者さんの場合、長期的に薬を続けながら定期検査を受けることが求められます。
長期的なフォローアップ
腎静脈血栓症(RVT)は、再発リスクがゼロではなく、慢性型や原因が根本的に解消できていない場合、再度の血栓形成に注意が必要です。
医師は画像検査や血液検査の結果を踏まえながら、少なくとも年に1~2回はフォローアップを行うことを提案する場合が多く、再発の兆候を早期に発見し、対策を講じることで重症化を防ぎます。
治療期間はあくまで個別の状況に大きく左右されますが、一般的には急性期から慢性期まで合わせて数カ月から1年以上かかることがめずらしくありません。
- 初期治療:数日~数週間
- 中期的な通院:数カ月程度継続
- 症状改善後の経過観察:半年~1年以上
- 長期フォローアップ:年に数回の検査
時期 | 期間(目安) | 主な治療・確認内容 |
---|---|---|
急性期 | 数日~数週間 | 抗凝固薬・血栓溶解薬を集中的に使用 |
安定化~中期 | 数週間~数カ月 | 薬剤調整、検査通院(血液・画像) |
改善期~維持期 | 数カ月~1年程度 | 抗凝固薬の継続、症状の再発有無をチェック |
長期フォローアップ | 必要に応じて継続 | 定期検査とともに再発リスク管理、生活習慣の指導 |
腎静脈血栓症(RVT)薬の副作用や治療のデメリットについて
ここでは、治療薬がもたらす可能性のある副作用や、治療全般にともなうデメリットについて説明します。血栓を抑えるために出血リスクが高まったり、外科的治療では手術の負担が大きかったりと、考慮すべき点がいくつかあります。
抗凝固薬による出血リスク
抗凝固薬は血液を固まりにくくする薬なので、血栓を抑えるメリットがある一方で出血傾向が高まり、歯科治療での出血が止まりにくい、内出血による皮下のあざが増えるなどの症状がみられることがあります。
重篤な例では消化管出血や脳出血に至る可能性もあるため、定期的な血液検査や医師への相談が重要で、自己判断で服用を中断すると血栓リスクが再び高まるため、医師の指導をよく確認する必要です。
血栓溶解薬の慎重な使用
血栓溶解薬は血栓を素早く溶かすことが期待できますが、効果が強力であるぶん出血リスクも大きくなり、急性期に使用することが多いものの、心臓や脳の血管などに他の問題を抱える患者にとってはハイリスクな選択肢になることがあります。
医師は患者の年齢や合併症、全身状態を総合的に検討しながら、使用タイミングや投与量を細かく調整します。
外科的治療のリスク
手術で血栓を直接取り除く場合や腎静脈を再建する場合、麻酔や開腹・開胸などの大きな侵襲がある可能性があります。
手術後の合併症や感染症リスクも高まるため、外科的治療は通常、薬物治療で改善が見込めないケースや腫瘍による圧迫が顕著なケースなどで検討されます。
患者さんの体力や他の臓器の状態も手術成功のカギとなるため、治療方針の決定には慎重な判断が必要です。
生活面での注意点
治療期間中は抗凝固薬を服用しながら日常生活を送ることが多いため、ケガや転倒、過度な運動には気をつけることが望ましいです。
また、高血圧の人が無理に運動をすると血管に負担がかかるため、適度な運動量を保つための専門家のアドバイスも大切になります。
食事ではビタミンKを含む食材の摂取量を急激に増やさないほうがよい場合もあるので、担当医や栄養士と相談しながら食生活を調整することが大事です。
代表的な注意点
- 抗凝固薬の服用中は出血傾向を確認
- 血栓溶解薬は効果が高い反面、出血リスクも高い
- 外科的治療には手術侵襲や感染症リスクが伴う
- 食事や運動は医師の指導のもとで調整が必要
副作用や治療デメリット
治療・薬剤 | 主な副作用・デメリット | 避けるべき行為や注意点 |
---|---|---|
抗凝固薬 | 出血リスク(内出血、脳出血など) | 自己判断での服用中断や過剰服用は危険 |
血栓溶解薬 | 強い出血傾向 | 高齢者や基礎疾患のある人は要注意 |
外科的治療 | 手術侵襲、感染症リスク | 体力維持と術後ケアが重要 |
生活習慣の制限 | 食事制限、激しい運動の制限 | 医師や栄養士と相談しながら調整が望ましい |
保険適用と治療費
以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。
主な治療薬の費用例
抗凝固薬では、ワルファリンやDOACなどが保険適用になります。
ワルファリンは比較的価格が抑えられており、1カ月の薬剤費用は3割負担でおよそ数百円から数千円程度になることが多いです。一方でDOACは薬価が高めであり、1カ月あたり数千円から1万円を超えるケースもあります。
血栓溶解薬に関しては、急性期に短期間使うことが多いため、入院時に点滴で使用した場合の費用は数万円に及ぶこともあります。
検査費用の目安
血液検査は腎機能や凝固指標などの種類が増えるほど費用が上がる傾向にあります。3割負担の場合、1回の血液検査で2000円~5000円程度かかるケースが一般的です。
画像検査では、造影CTやMRIが必要になれば1回で1万円~2万円程度の自己負担を見込むことがあります。
入院費用の目安
急性期治療や外科手術が必要な場合、入院での治療が適用されるケースがあり、入院費用は1日あたり数千円から1万円以です。入院期間は数日から数週間まで幅があり、治療の進捗や合併症の有無によって総費用が変わります。
外来通院費用の目安
外来で抗凝固薬を処方してもらう場合、診察料や薬剤費用、定期的な血液検査の費用がかかり、月1回の通院で3割負担の場合、1回あたり数千円~1万円程度の自己負担となるケースがあります。
項目 | 自己負担額の目安(3割負担) | 補足 |
---|---|---|
抗凝固薬(1カ月) | 数百円~1万円超 | ワルファリンは比較的安価 |
血栓溶解薬(急性期) | 数万円程度(入院時) | 投与期間は短い場合が多い |
血液検査(1回) | 2000円~5000円 | 検査項目数による |
造影CT / MRI(1回) | 1万円~2万円程度 | 造影剤使用の有無で費用差がある |
入院費(1日あたり) | 数千円~1万円以上 | 病室の種類で費用が変動 |
外来診察料(1回) | 数百円~1000円程度 | 医療機関の設定で異なる |
処方料・調剤料 | 数百円~1000円程度 | 薬局によって若干差あり |
合計費用(概算) | 数千円~数十万円 | 治療期間や内容によって大きく変動 |
以上
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