溶血性尿毒症症候群(HUS)

溶血性尿毒症症候群(HUS)

溶血性尿毒症症候群(HUS)とは、赤血球が壊れてしまう溶血現象と、血小板の減少、そして急性腎障害が同時に発生する病気を指し、特に小児や高齢者を中心に発症する傾向があります。

重い下痢や嘔吐などの消化器症状をきっかけに発症するタイプもあれば、特定の細菌毒素や免疫異常などが関連するタイプもあり、急に腎臓や血液に影響が及ぶため命にかかわるリスクが生じるケースがあります。

複数の病型をひとまとめにしてHUSと呼ぶため、原因や症状のパターンは多彩ですが、いずれも血液の状態や腎機能のチェックが非常に重要です。

目次

溶血性尿毒症症候群(HUS)の病型

溶血性尿毒症症候群(HUS)には、発症のきっかけや症状の進行の仕方などの違いに基づいて複数のパターンが知られています。

典型的HUS(D+HUS)

典型的HUSは、小児期に発症しやすく、腸管出血性大腸菌O157などが産生するベロ毒素(シガ毒素)によって起こされるタイプが代表的です。

ベロ毒素は腸管から血中へ移行し、全身へ回る過程で血管内皮を傷つけたり、血球にダメージを与えたりすると考えられています。激しい下痢や血便を伴うことが多く、腎障害と溶血が急速に進行する場合があります。

典型的HUSでよく観察される初期の兆候

初期症状内容
激しい下痢血便や水様便などが頻繁に出る
発熱腸炎を併発するケースでは38℃以上の発熱が見られることもある
嘔吐胃腸の働きが乱れ、嘔吐を繰り返す
腹痛腸管の炎症が強いときは腹痛が激しくなる

非典型的HUS(aHUS)

非典型的HUSは、ベロ毒素や腸管感染を伴わないパターンに分類され、遺伝的な補体調節異常や自己抗体の形成など、免疫系の異常が関与していると考えられます。

症状の出現や進行速度は非常に多様で、何らかの誘因がなくても腎機能が急速に低下する一方、特定の感染症や妊娠、手術などをきっかけに発症するケースもあります。

非典型的HUSの特徴

  • 補体(免疫)の制御がうまくいかず、血管内で血栓ができやすい
  • 腸管感染を起こしていなくても腎障害や溶血が進行する
  • 完全に回復しないまま慢性的な腎不全へ移行する恐れがある
  • 小児だけでなく成人期に初めて発症する例もある

非典型的HUSの診断には、補体因子の遺伝子異常の有無など、専門的な検査が必要となる可能性があります。

その他の病型

HUSの中には、妊娠中や出産直後に起こる産科的な合併症として報告されるものや、悪性腫瘍や自己免疫疾患と関連して発症する例もあります。

いずれの病型であっても、溶血・血小板減少・急性腎障害という3つの要素が共通点として現れるため、HUSに該当する可能性を常に頭に入れながら症状を観察し、早期に対応することが必要です。

HUSと似た症候群の代表例

疾患名主な特徴
血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)ADAMTS13酵素活性低下が中心
播種性血管内凝固(DIC)全身性の凝固亢進と出血傾向が同時に起こる
悪性高血圧血圧が著しく上昇し、臓器障害を引き起こす

こうした類似疾患との鑑別を行うためにも、血液検査や酵素活性測定、補体検査などをしっかりと行うことが重要です。


溶血性尿毒症症候群(HUS)の症状

HUSでは、溶血や血小板減少、腎機能障害などが同時並行的に進行するため、身体のさまざまな部位に症状が現れる可能性があります。ここでは典型的にみられる症状をいくつかのカテゴリーに分けて取り上げ、その影響や特徴について解説します。

血液系の症状

HUSの中心には溶血と血小板減少があり、溶血が進むと、赤血球が破壊されることでヘモグロビンが血管内に放出され、貧血や黄疸、皮下出血などが起こりやすいです。

血小板減少によって血液が固まりにくい状態になる一方、微小血管内では血栓形成が進みやすい矛盾した状態が生じ、点状出血や歯茎からの出血、鼻出血などが頻発するとともに、微小血管障害による臓器損傷が進行します。

HUSに伴う血液系症状

  • 皮下に現れる小さな出血斑(点状出血)
  • 口や鼻からの出血が止まりにくい
  • 貧血による倦怠感やめまい
  • 目の結膜や皮膚の黄染(ビリルビン上昇による軽度の黄疸)

腎機能障害

HUSという名称に「尿毒症」という言葉が含まれる通り、腎臓の働きが急速に低下することが代表的な特徴です。

、尿量が減少する、血尿が出る、むくみが顕著になる、体内に老廃物がたまって倦怠感や悪心を感じるなどの変化が見られ、進行が速い場合は急性腎不全に陥り、透析が必要になるケースもあります。

HUSによる腎機能障害でみられる主な症状

症状内容
尿量減少1日あたりの尿量が著しく少なくなる
血尿溶血や腎障害によって尿に血液が混じる
むくみ体内に水分がとどまりやすく顔や足が腫れる
尿毒症状倦怠感、吐き気、頭痛など、老廃物蓄積による中毒症状

腎機能に異常が現れると、血圧のコントロールが乱れたり心臓への負担が増したりするため、迅速な対応が大切です。

神経系の症状

HUSでは、血栓が小さな血管に詰まることで脳の微小循環にも影響を及ぼす場合があり、頭痛やめまい、意識障害、痙攣などの神経学的症状が発生するリスクがあります。

重症例では意識レベルの低下が進み、脳浮腫や出血などを併発すると生命の危機に陥る恐れもあるため、家族や周囲が異変を感じたら早急に医療機関へ連絡することが必要です。

HUSで神経症状がみられる際の注意点

  • 頭痛やめまいが急に強くなる
  • 言葉や動作に混乱や鈍さが生じる
  • 手足のしびれや痙攣が反復する
  • 意識がもうろうとして正常な会話が難しくなる

消化器症状

典型的HUSの場合、腸管出血性大腸菌感染などによる下痢や腹痛が先行して現れることが多いです。下痢が長引くと脱水が進行しやすく、それが腎機能の悪化や血液濃縮を招き、さらなる病状の進行に拍車をかけることがあります。

激しい嘔吐や腹痛が加わる場合は栄養失調や電解質異常のリスクも上がるため、できる限り早く医師の診断を受けて水分補給や治療を検討することが推奨されます。

HUSにおける消化器症状

症状影響
下痢脱水、電解質異常、腸粘膜の損傷
血便腸管出血性大腸菌感染などによる腸壁の損傷
嘔吐水分・栄養摂取量不足、胃酸による食道刺激
腹痛腸内の炎症や痙攣による苦痛

消化器症状を安易に「食あたり」や「胃腸炎」と決めつけず、血尿や倦怠感など他の症状が合わさる場合はHUSを念頭に置いて診断を進めることが大切です。


原因

HUSの原因は多岐にわたりますが、大きく典型的HUSの要因と非典型的HUSの要因に分けると整理しやすいです。

ここでは代表的な細菌感染や遺伝・免疫異常だけでなく、その他に想定される要素についても触れ、どのような経路でHUSが発症するかを解説します。

腸管出血性大腸菌感染

典型的HUS(D+HUS)は、腸管出血性大腸菌(とくにO157:H7など)のベロ毒素によって起きることが多いです。

この細菌は汚染された食材を通じて体内に入ると、腸壁で毒素を産生し、それが血管内皮を損傷して溶血や血小板減少につながると考えられています。

食事が原因となる例が代表的であり、生肉や加熱不十分な食品、生野菜などを介して感染が広がるケースが知られています。

腸管出血性大腸菌感染を防ぐために意識したい点

  • 肉類は中心部までしっかりと加熱する
  • 調理器具を肉用、野菜用で分けるなど衛生管理を徹底する
  • 生野菜は十分に洗浄する
  • 生乳や加熱不十分な乳製品の摂取を避ける

補体異常や自己免疫的要因

非典型的HUS(aHUS)は、補体制御タンパクの遺伝子異常や自己抗体の出現など、免疫系の恒常性が崩れることを発症の引き金です。

補体は体内の防御システムの一つですが、異常があると正常な細胞が攻撃を受け、血管内で過剰な血栓形成や溶血が進むと推測されています。

こうした遺伝子変異は、家族性に発症する例もあれば、後天的な突然変異の結果として初めて発症する例もあります。

非典型的HUSに関与するとされる代表的な補体関連タンパク

タンパク名役割
CFH(補体因子H)補体C3転換酵素を阻害し、過度な補体活性を抑える
CFI(補体因子I)C3bの分解を促進し、補体反応を制御する
MCP(CD46)自己細胞表面での補体活性を低減する

薬剤性の可能性

特定の薬剤がHUSを誘発すると報告されるケースもあり、代表的には抗がん剤や免疫抑制薬など、血管内皮や免疫機構に影響を与える薬が含まれますが、その他にもさまざまな薬が関与する可能性が否定できません。

薬剤性HUSは、医師の指導のもとで薬の種類や投与量を調整したり、別の治療薬に切り替えたりすることで回避が期待されます。

HUS誘発が疑われる薬剤

  • シクロスポリンなどの免疫抑制薬
  • タクロリムスなどの免疫調整剤
  • 抗がん剤(シスプラチンなど)
  • 一部の抗血小板薬や抗菌薬

その他の要因

妊娠中の高血圧や腎障害、自己免疫疾患、造血幹細胞移植後、あるいは全身性疾患など、さまざまな状況下でHUSが発生する可能性が示唆されています。

特に妊娠中は血液量が増え、免疫やホルモンバランスが大きく変化するため、妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)との関連でHUS様症状を起こすことがあります。

また、悪性腫瘍による血管内皮障害や放射線治療の影響で血栓性微小血管障害が発症し、HUSが併発する例もあります。

HUS発症に影響すると考えられるその他の要因

要因代表的な状況
妊娠・産科的合併症妊娠高血圧症候群など
悪性腫瘍腫瘍細胞の血管浸潤や治療の影響
移植・大手術免疫の変動や血管障害
自己免疫疾患ループスなどで血管炎が進行

検査・チェック方法

HUSは急速に病状が進行することがあるため、早期に発見して適切な治療を行うことが大切で、そのためには血液検査や尿検査、補体機能の評価など、多方面から総合的にアプローチする必要があります。

血液検査

血液検査は、HUSの診断と重症度評価において欠かせない手段で、赤血球や血小板の数がどの程度減少しているのかを把握することで、溶血や血小板消費の進行度合いを確認します。

また、LDH(乳酸脱水素酵素)の上昇は赤血球の破壊を示唆し、ビリルビン値の変動やハプトグロビンの低下なども溶血の程度を推察する指標です。

HUSの診断で注目する血液検査項目

項目意味
RBC(赤血球数)減少すると貧血の程度を推測できる
血小板数消費亢進による減少がHUSの特徴
LDH赤血球破壊に伴い上昇する酵素
ハプトグロビン赤血球破壊で消費され、溶血が進むと低値
間接ビリルビン赤血球崩壊によって上昇

数値が大きく変動している場合は、HUS以外の類縁疾患も含め、血栓性微小血管障害を強く疑う必要があります。

尿検査

HUSでは腎機能障害が進行しやすいため、尿検査によって蛋白尿や血尿の有無、尿中に含まれる細胞成分を調べます。

蛋白や赤血球が多量に含まれている場合は、腎糸球体や尿細管がダメージを受けている証拠となり、腎障害の重症度を推測する一助です。

尿検査で確認する内容

  • 尿潜血:血尿の有無を判定
  • 尿蛋白:糸球体障害や再吸収異常を示唆
  • 尿沈渣:赤血球円柱や白血球、細胞片の有無

尿量の変化も重要で、急激に尿量が減少する(乏尿)場合は、すでに腎機能が深刻な段階に達している可能性があります。

画像検査・臓器評価

腎障害の程度や合併症の有無を確かめるため、超音波検査(エコー)で腎臓のサイズや構造を観察する場合があります。

また、腹部CTなどを活用して消化管や肝臓、脾臓、膵臓などの状態を一度に評価し、HUSを起こす可能性のある他の疾患や腫瘍、合併症がないかを調べることも視野に入れられます。

神経症状がみられる場合は、頭部MRIやMRAで脳血管の状態を詳しく評価することが大切です。

画像検査を行うメリット

画像検査主な目的
腎エコー腎臓の形態、血流状態、結石や腫瘍の有無を確認
腹部CT腹部全体の臓器評価、病変部位の確認、合併症排除
頭部MRI/MRA脳血管の狭窄や出血、脳実質病変を可視化

補体機能や免疫学的検査

非典型的HUSが疑われる場合、補体因子(C3やC4)や特定の補体調節因子(CFH、CFIなど)の遺伝子検査を行い、免疫制御機能に異常があるかどうかを見極め、原因解明と治療戦略の立案に役立てます。

また、自己抗体(抗CFH抗体など)の測定によって、非典型的HUSと自己免疫的要因の関連をチェックするケースもあります。

補体・免疫関連の検査項目

  • 血清補体価(CH50)の低下
  • C3やC4の著明な低下
  • 特定遺伝子変異(CFH、CFI、MCPなど)
  • 抗CFH抗体の存在

溶血性尿毒症症候群(HUS)の治療方法と治療薬について

HUSは急性期における臓器障害の進行をいかに抑えるかが重要で、特に腎不全や神経合併症などの重症化を防ぐため、迅速かつ総合的な治療アプローチが必要です。

透析療法

HUSによる腎不全が顕著な場合、腎機能が回復するまで一時的に人工透析を行うことが検討されます。

とくに急性期においては乏尿や無尿が続き、体内に老廃物や余分な水分が蓄積しやすくなるため、透析によって血液を浄化し、電解質バランスや水分量を調整します。

透析は一時的な措置となることが多いですが、腎機能の回復具合によっては、ある程度長期にわたって透析を続ける可能性も否定できません。

透析療法におけるポイント

項目内容
対象患者腎機能が著しく低下し、乏尿や重度の電解質異常がある場合
目的老廃物・余分な水分・毒素を除去し身体負担を軽減
期間腎機能の回復状況に応じて変動、場合によっては数週間~
合併症への注意低血圧、感染リスク、透析不均衡症候群などの可能性

血漿交換・免疫療法

非典型的HUSや免疫異常が関与するHUSの場合、血漿交換や血漿吸着といった免疫療法が治療の柱です。

血漿交換では患者の血漿を取り除き、新鮮凍結血漿などと置き換えることで異常な抗体や補体成分を一時的に減らす効果が期待されます。

一方、血漿吸着は特定の物質を吸着除去する装置を用いて血液を循環させる手段で、非典型的HUSにおいて高まる補体活性を緩和する狙いがあります。

血漿交換や吸着療法について考慮したい点

  • 専門的な装置・技術を要し、対応可能な施設が限られる
  • 血漿製剤に対するアレルギーや感染リスクがある
  • 治療回数や期間は病状の変化に合わせて調整する
  • 他の治療法(透析など)との併用が行われるケースも少なくない

薬物療法

HUSで使われる薬剤には複数の種類があり、それぞれ病態や合併症に応じて選択されます。

  1. 抗菌薬
    腸管出血性大腸菌に対して抗菌薬を用いるかどうかは意見が分かれていますが、他の感染症が合併している場合には積極的に投与して感染を抑えるアプローチがとられます。
  2. ステロイドや免疫抑制剤
    非典型的HUSを中心に、自己抗体や補体異常のコントロールを目指して使われることがあります。
  3. 抗補体薬(エクリズマブなど)
    補体系の過剰活性を直接ブロックする薬剤で、非典型的HUSの患者に用いられるケースがあります。
  4. 降圧薬
    腎機能障害に伴う高血圧がある場合は、血圧を適切に管理してさらなる臓器障害を防ぎます。

HUS治療における薬剤

薬剤カテゴリー作用
抗補体薬エクリズマブ補体C5を阻害し、過度な補体反応を防ぐ
免疫抑制剤ステロイド、シクロスポリンなど自己免疫反応を抑制し、補体や抗体の異常活動を抑える
抗菌薬キノロン系、ペニシリン系など細菌感染を抑制し、二次感染や合併症の進行を防ぐ
降圧薬ACE阻害薬、ARBなど血圧を管理し、腎血流を安定させて臓器障害を抑える

栄養管理と支持療法

HUSの治療では、体力を維持しながら感染症や臓器障害への対策を並行して行う必要があるため、栄養管理や輸液管理、電解質の補正などを含む支持療法が欠かせません。

嘔吐や下痢が続き脱水や栄養不足が顕著な場合は点滴などで補給を行い、腎機能の状態によってはカリウムやリンの摂取量を厳密にコントロールするなどの工夫を加えます。

HUSにおける栄養管理で考慮されるポイント

  • 水分バランスを保ちつつ、過度な塩分・タンパク質摂取を避ける
  • 腎臓の状態に合わせてカリウムやリンの摂取量を調整する
  • 食事摂取が難しい場合は輸液や経管栄養を検討する
  • 低栄養による回復力の低下を防ぐためビタミン・ミネラル補給も意識する

溶血性尿毒症症候群(HUS)の治療期間

HUSの治療期間は、病型や重症度、合併症の有無などによって大きく変動します。

腎機能がどの程度回復するかや、免疫異常がどのぐらい制御できるかなどがポイントになり、特に非典型的HUSでは長期にわたる治療管理が必要となるケースが珍しくありません。

急性期から回復期への流れ

典型的HUSでは、腸管出血性大腸菌感染による激しい下痢や嘔吐を経て急速に腎機能が低下しますが、治療によって腎機能が回復すると、数週間から1か月程度で急性期を脱する例が多いです。

ただし、腎障害の程度が重い場合や、高度の溶血が続いているケースでは、透析や血漿交換などを長期にわたって行う可能性があります。

急性期から回復期にかけての流れ

期間区分主な治療内容期間の目安
急性期透析、輸液管理、感染対策、血漿交換など数日~数週間
回復期腎機能や血液数値の安定化を確認し、治療を減量数週間~1か月程度
フォローアップ合併症チェック、再発予防、腎機能の経過観察数か月~数年単位

非典型的HUSの長期管理

非典型的HUSは、補体異常や自己免疫要因が原因の場合が多く、急性期を乗り越えた後も再発リスクが残ります。

そのため、抗補体薬や免疫抑制剤の継続投与を行いながら、血液検査や尿検査、補体の活性状態を定期的にモニタリングする必要があり、治療期間は患者ごとに大きく異なり、数年から数十年に及ぶ場合もあります。

非典型的HUSの長期管理で意識される点

  • 抗補体薬や免疫抑制剤の服用スケジュールを守る
  • 定期的な血液検査(LDH、補体、血小板など)で再発の兆候をチェック
  • 高血圧や蛋白尿など腎機能低下のサインを早期に察知
  • 日常生活で感染予防や過度なストレスを避ける努力

小児患者の治療と経過

小児期に発症したHUSでは、成長過程の中で腎機能や血液パラメータがどのように変動するかを見極めながら治療を進めることが必要です。

急性期を乗り切った後でも、成長に伴い血圧や腎機能が影響を受けるリスクがあるため、定期的な小児科的フォローアップが求められます。

特に学童期や思春期に入った際のホルモンバランスの変化などで、血圧が上昇したり再燃リスクが増したりするケースも報告されています。

小児HUSのフォローアップで気をつけたいポイント

ポイント内容
成長・発達の観察体格や発達段階を定期的に確認し、遅れや異常を早期発見
血圧測定の継続高血圧が腎機能に悪影響を与える可能性がある
定期的な尿検査血尿や蛋白尿の継続、再発の兆候を見逃さない
定期的な血液検査血小板数や溶血指標など再燃のサインをチェック

退院後の生活と注意点

急性期治療を終え、ある程度安定して退院した後も、完全に油断しないことが大切で、食事内容や水分摂取量、高血圧対策、定期的な通院など、日常の管理がHUSの再発予防に寄与します。

過度なストレスや感染症にかかったときも再燃リスクが高まる恐れがあるため、体調が普段と違うと感じたら早めに受診してください。


副作用や治療のデメリットについて

HUSの治療には、感染対策や免疫調整、腎機能サポートなど多方面からのアプローチが必要ですが、使用される薬剤や治療法に伴う副作用や負担も少なからずあります。

抗補体薬(エクリズマブ)の副作用

非典型的HUSに用いられるエクリズマブは補体C5を阻害する画期的な薬剤ですが、補体が果たす防御機能も一部抑制するため、特定の感染症にかかりやすくなるリスクがあります。

髄膜炎菌などの感染リスクが高まるため、投与前にワクチン接種などの対応を取る場合が多いです。また、投与時にアナフィラキシーのような過敏反応が起こる可能性もあるため、適切な管理体制が整った医療機関で投与を行う必要があります。

エクリズマブに関する副作用

副作用対処・注意点
過敏反応初回投与時の観察徹底、抗ヒスタミン薬の準備
髄膜炎菌感染リスクワクチン接種、定期的な感染症モニタリング
頭痛・倦怠感軽度なら経過観察、重度の場合は医師に相談

ステロイドや免疫抑制薬の副作用

免疫異常が原因となるHUSでは、ステロイドやシクロスポリンなどの免疫抑制薬を使用する場合があります。

薬剤は自己免疫反応を抑える効果が期待される一方、長期投与によって感染症リスクの増加、血糖値の乱れ、骨粗しょう症などの副作用が発生する可能性があります。

特にステロイドは用量や投与期間が長引くと副腎機能の低下や体重増加、精神面への影響なども考えられるため、定期検査と細かい調整が不可欠です。

ステロイドや免疫抑制薬の副作用と対策

  • 高血糖や糖尿病の悪化 → 食事管理や血糖値モニタリングを徹底
  • 骨粗しょう症 → カルシウムやビタミンDの補給、運動療法の導入
  • 易感染性 → 手洗いやマスク着用などの日常的感染予防の徹底
  • 精神的症状(不眠や気分変動) → 必要に応じて専門家に相談

透析・血漿交換に伴う負担

透析療法や血漿交換(吸着)療法は、急性期の臓器障害を抑える上で大きな効果が見込まれますが、定期的な通院や入院が必要となり、患者さんの生活に大きな負担がかかります。

血漿交換ではアレルギー反応や血圧低下などの合併症が起こる可能性があり、透析では血管穿刺や血圧変動、疲労感などの問題が懸念材料です。

透析・血漿交換療法におけるデメリットと対処

デメリット対処例
医療施設への定期通院が必要スケジュール調整や家族のサポートを活用する
アレルギー反応や血圧変動治療中のモニタリング徹底、緊急対応の準備
疲労感・倦怠感治療日以外の休養確保、必要に応じた栄養補給
生活の自由度制限医療者との連携で無理のない外出や仕事調整

溶血性尿毒症症候群(HUS)の保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

透析や血漿交換にかかる費用

透析は1回あたり数千円から1万円以上の自己負担がかかる場合もあり、週に数回実施すると費用が積み重なりやすいです。血漿交換も特殊な機器や大量の血漿製剤を用いるため、1回あたり数万円の自己負担になります。

治療内容自己負担の目安(3割負担時)
透析1回約2,000~10,000円
血漿交換1回約20,000~50,000円
1か月の合計治療頻度によって大きく変動

抗補体薬や免疫抑制薬の費用

非典型的HUSに対して用いられるエクリズマブなどの抗補体薬は薬価が高額になりやすく、投与頻度や治療期間によっては数十万円以上の自己負担が生じる場合も想定されます。

薬剤カテゴリー1か月あたりの自己負担(3割負担時)
抗補体薬(エクリズマブ)数万円~数十万円
ステロイド数百円~数千円
免疫抑制薬数千円~数万円
抗菌薬・予防投与薬数千円~数万円

検査費用

1回の血液検査や尿検査で数百円~数千円、CTやMRIの撮影で数千円~1万円以上の自己負担が必要になる場合があります。

  • 血液検査:1回につき数百円~数千円
  • 尿検査:1回につき数百円
  • CT・MRI:1回につき数千円~1万円以上
  • 補体因子検査や遺伝子検査:数千円~数万円程度

以上

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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