巨細胞性動脈炎(GCA)

巨細胞性動脈炎(GCA)

巨細胞性動脈炎(GCA)とは、主に高齢者に生じる血管の炎症性疾患で、大動脈や頭蓋内外の中~大動脈を中心に病変が広がることが特徴とされています。

遅く発見されると視力障害など重篤な合併症を招くおそれがあり、速やかな診断と治療が重要です。

炎症に伴う頭痛や顎跛行、全身倦怠感など、多彩な症状が生じる可能性があり、原因には免疫の異常や加齢が深く関わると考えられ、治療はステロイド薬が中心となります。

症状の改善を得られたとしても再燃リスクに注意が必要で、長期的な経過観察と薬の調整が大切です。

目次

巨細胞性動脈炎(GCA)の病型

巨細胞性動脈炎は、加齢によって血管に生じる炎症が深く関連し、頭部を含む大動脈領域の動脈壁に炎症性の変化が生じる疾患で、発症しやすい動脈や炎症の様式によって、いくつかの異なる病型に分類できます。

頭蓋内外に及ぶ病型

頭蓋内外の血管が広範囲に炎症を起こす病型は、こめかみ周辺で触れる浅側頭動脈に腫脹や拍動異常が起こりやすいです。

強い頭痛やこめかみの圧痛などが典型的ですが、炎症が広がると視神経を栄養する血管にも影響が及び、視野欠損や視力低下などが懸念されます。脳梗塞に類似する神経症状が見られる場合もあり、早期対処が大切です。

大動脈や全身に及ぶ病型

大動脈やその分枝に及ぶ病型では、腕や脚への血流低下、血圧差の出現、胸部や腹部の大動脈瘤形成などが問題になり、頸部の動脈や内臓を供給する動脈が炎症を受けると、全身症状や多岐にわたる臓器機能の不調を起こすことがあります。

ときには胸痛や歩行困難などが目立つ場合もあり、ほかの循環器疾患や自己免疫疾患と鑑別が必要です。

潜在的な多彩な病型

血管炎の発症部位によって症状が異なる可能性があり、患者さんの訴えや検査所見を総合して病型を推定し、頭部や視力に限らず、身体の広範囲に病変が及ぶ可能性を念頭に置かなければなりません

多様な症状のどれがGCAに起因しているかを早期に見極めることが重要です。

高齢者に多い病型

50代後半以降での発症が多いため、「高齢者特有の血管炎」とも呼ばれますが、まれに若年者にも発症する例が報告されています。高齢者の体力や免疫力は個人差が大きく、同じGCAであっても病型の進展速度や炎症の勢いが異なる場合があります。

GCAの病型に関心をもった場合に検討したいこと

  • 頭痛の性質や部位、こめかみの圧痛の有無
  • 視力変化や視野異常の有無
  • 四肢や胸部への血流障害を示す徴候
  • 血管炎が全身に及んでいるかどうかの総合的な評価

症状が多彩であるため、このようなポイントを医療機関で詳しく確認すると、早期診断につながりやすくなります。

高齢者では関節リウマチなど他の炎症性疾患を合併している可能性もあるため、血管炎に特化した鑑別診断を視野に入れることが必要です。

GCAの代表的な病型と特徴

病型主な病変部位主な症状例
頭蓋内外型浅側頭動脈、眼動脈など激しい頭痛、こめかみの拍動異常、視力障害
大動脈病型大動脈およびその主要分枝血圧差、胸痛、四肢の虚血症状
混合型頭蓋内外 + 大動脈の双方に炎症が及ぶ頭痛、視力障害、全身症状、虚血性障害など
高齢者特有型50代~60代以降に多く発症筋力低下、関節周囲の痛み、慢性的な疲労感

上記のように、病変部位や発症様式によって病型が分けられ、複数の病型を合併することも珍しくありません。そのため、診察や検査の過程でどのような血管に炎症があるかを把握することが治療方針を決定するうえで重要です。

症状

GCAの症状は頭部や眼、顎、そして全身など多彩にわたる可能性があります。初期の段階で気付かないまま放置すると、深刻な合併症が生じることがあるため、少しでも気になる症状があるときは注意が必要です。

頭痛やこめかみの異常感

GCAによる代表的な初期症状として、頭痛が頻繁に報告されていて、とくに側頭部から頭頂部にかけての痛みが顕著で、ズキズキと脈打つような感覚を伴う場合があります。

浅側頭動脈の炎症により皮膚下で血管が肥厚し、触れると硬く感じることもあり、帽子をかぶったり、ブラシで髪をとかしたりするときに痛みが増す方もいます。

視力の低下や視野障害

眼動脈周辺が侵されると、視力の急激な低下や部分的な視野欠損が出現し、失明につながるリスクも否定できません。

視力障害は突然起こる場合があるため、「視界が暗くなった」「物が見えにくくなった」などの異常を感じたら、早急に医療機関を受診して原因を確認することが望ましいです。

顎跛行や咀嚼時の痛み

咀嚼筋への血流が悪化すると、固いものを噛むときに顎が疲れやすい、あるいは痛みを伴うなどの症状が生じることがあります。

これを顎跛行と呼び、硬い食べ物を食べているとすぐに顎がだるくなって噛み続けられなくなると訴えるケースが多いです。日常的に食事で違和感が続く場合はGCAを念頭に置き、ほかの症状とも照らし合わせます。

発熱や倦怠感などの全身症状

GCAは血管全体の炎症が関与しているため、発熱や倦怠感、体重減少などの全身症状が起こることがありますが、症状は風邪やほかの自己免疫疾患とも共通しやすく、診断を遅らせる原因になりがちです。

長期間にわたってこうした症状が続く場合は、早めに血液検査などを受けて原因を探ります。

症状を見極める際のポイント

  • 通常の頭痛と比べて強度が増しているか
  • 視力障害が突然発症し、改善せず進行しているか
  • 咀嚼時の痛みが日常的に継続しているか
  • 微熱や全身倦怠感が長引いているか

自身の体調を振り返ると、GCAの早期発見につながります。

GCAに伴う主な症状と特徴

症状主な原因特徴
頭痛浅側頭動脈の炎症側頭部の拍動痛や皮膚の圧痛
視力障害眼動脈の炎症突然の視力低下や視野欠損、失明のリスク
顎跛行咀嚼筋への血流低下固い物を噛むと疲れやすい、顎の痛み
全身倦怠感免疫異常や炎症による代謝の乱れ体重減少や微熱、慢性的な疲労
こめかみの腫脹血管の肥厚や炎症触れると硬い感触がある場合がある

症状のバリエーションが豊富であり、強い痛みや視力障害などから身体のだるさまで多面的に体調を崩す可能性が指摘されています。とくに視力に関わる症状は深刻化しやすいため、違和感を覚えた時点で相談することが肝要です。

巨細胞性動脈炎(GCA)の原因

GCAは全身性の血管炎として、加齢や免疫系の異常など複数の要因が重なることで発症すると考えられています。ただし、はっきりとした原因を断定できないことも多いため、自己免疫疾患の一種として把握されることが多いです。

免疫システムの異常

免疫システムは体内の細菌やウイルスなどを排除するために働きますが、何らかの要因で過剰反応や誤作動が起こると、自分自身の血管や組織を攻撃することがあります。

その結果、動脈壁に慢性的な炎症が続き、血管が狭窄したり血流が阻害されたりする形で症状が現れます。免疫系の異常は遺伝的要素や生活習慣、加齢の影響などによって発症リスクが変化する要素です。

加齢による血管の変性

加齢に伴って血管壁は弾力を失いやすく、炎症に対する抵抗力も低下する傾向があり、血管の動脈硬化や内膜肥厚が進むと、外部からの炎症刺激に対して防御がうまく働かなくなり、炎症が拡大しやすい土壌ができあがるのです。

そのため、高齢者に多い血管炎としてGCAが位置づけられることがしばしばあります。

遺伝的素因

一部の研究では、特定の遺伝子がGCAの発症リスクを上げる可能性が示唆されていて、家族内に血管炎や自己免疫疾患を抱える人がいる場合は、そうでない方に比べて発症率が高くなるという報告もあります。

ただし遺伝的素因があったとしても、必ずしも発症するとは限らず、環境因子や生活習慣など多くの要素が絡み合って病態が生じます。

免疫異常を誘発する環境因子

生活習慣の乱れや慢性のストレス、感染症など、さまざまな環境因子が免疫システムを揺さぶることがあります。

こうした環境要因が加わることで、もともと潜在的に存在していた自己免疫の働きが活性化し、GCAを発症するきっかけになる場合があります。

免疫系の複雑な制御メカニズムを解明する研究は続けられていますが、原因を1つに絞り込むのは難しいのが現状です。

GCAを誘発しうる主な要因

  • 長年の喫煙や肥満など生活習慣がもたらす血管への負荷
  • ウイルスや細菌感染による免疫系の過剰反応
  • 家族内に自己免疫疾患を持つ人がいるなどの遺伝背景
  • 心身のストレスによるホルモンバランスの乱れ

色々な要因が重なり合いながら血管炎を進行させると推測されています。

原因を説明する一例

原因の要素背景体内での影響
免疫システムの異常自己抗体の産生や炎症の亢進血管壁の組織破壊と狭窄、血液供給障害
加齢血管壁の弾力低下、修復能力の低下血管が炎症を受けやすく、回復しにくい状態に陥りやすい
遺伝的素因家族性に自己免疫疾患が多い特定の遺伝子型で血管炎リスクが上昇
環境因子喫煙、感染症、ストレス、肥満など血管への負荷増大、免疫系のバランスが崩れやすい

原因が多面的であるため、特定の項目だけをコントロールすれば発症を完全に防げるわけではありませんが、早期発見・早期治療に向けて基本的な健康管理を心がけることが大切です。

疑わしい症状がある場合は、専門医と相談しながら正しい対策を取ります。

検査・チェック方法

GCAは早期診断が重要であり、視力障害などを防ぐためにも正しい検査手段を用いて病変を捉える必要があり、検査は血液や画像、そして病理組織を確認するなど多方面から行うことが多いです。

血液検査による炎症マーカーの確認

GCAでは炎症反応が顕著に表れることが多いため、血沈速度(ESR)やC反応性タンパク(CRP)などの炎症マーカーが大幅に上昇し、また、貧血の有無や白血球数の異常なども手がかりになります。

とくにESRやCRPが高値の場合は、別の自己免疫疾患や感染症と鑑別するため、さらに詳しい検査が必要です。

画像検査で血管の狭窄や壁肥厚を観察

GCAは血管壁に炎症が起こるため、MRIやCT、PET-CTなどの画像検査で動脈壁の肥厚や狭窄が確認される場合があります。

近年ではエコー(超音波検査)を用いて浅側頭動脈の状態を評価する方法も利用され、血管壁に特徴的なハローサイン(壁肥厚により輪状にエコーが描出される所見)が見られるケースがあるとされています。

画像検査の代表的な手法

  • MRI/MRA:血管壁の炎症や血流を詳細に評価できる
  • CT/CTA:血管の狭窄度や瘤の有無を確認しやすい
  • PET-CT:炎症による代謝亢進部位を可視化
  • 超音波検査:浅側頭動脈の壁の肥厚や血流を簡便に評価

画像検査の選択は患者の状態や合併症の有無によって異なり、医師が最適な検査法を組み合わせて行うことが多いです。

病理組織検査による確定診断

確実に診断を得るためには、浅側頭動脈の一部を採取して顕微鏡下で炎症細胞の浸潤や巨細胞の存在を確認する病理組織検査が行われることがあります。

生検手技には多少の侵襲が伴いますが、他の血管炎との鑑別に役立つため、正しいタイミングで検討されることが一般的です。病理所見で特徴的な巨細胞や内弾性板の断裂を確認できれば、GCAの確定診断を得やすくなります。

診断基準を総合的に活用

GCAには国際的な診断基準が定められており、頭痛や年齢、血沈の上昇、病理組織像など、いくつかの項目を総合して診断に至るケースが多いです。

とくに50歳以上で新規に強い頭痛が生じ、ESRが50mm/h以上に上昇している場合はGCAを強く疑い、迅速に検査を進めます。

検査を受ける際に確認したい点

  • 血液検査で炎症マーカーがどの程度高いか
  • エコーやMRIによる血管壁の異常所見の有無
  • 病理組織検査で巨細胞や炎症の特徴があるか
  • 診断基準に照らし合わせて他の疾患と鑑別できるか

代表的な検査手法の特徴

検査手法特徴メリットデメリット
血液検査ESR、CRP、白血球数などを測定手軽に炎症反応をチェックできる炎症があるだけではGCAと断定しにくい
MRI/MRA血管壁の炎症や狭窄を詳細に視覚化放射線被曝が少ない検査費用や時間がかかる
超音波検査浅側頭動脈のハローサインを評価簡便で非侵襲的技術者の習熟度によって精度が左右される
病理組織検査採取した血管片を顕微鏡で観察して確定診断明確な根拠が得られ、鑑別に役立ちやすい患者への負担がやや大きい

総合的な判断が必要になるため、一連の検査を組み合わせて医師が総合的に評価し、GCAの可能性を高めたり除外したりします。診断を確実にしたうえで早期治療につなげることが重視されるのがGCAの特徴です。

巨細胞性動脈炎(GCA)の治療方法と治療薬について

GCAは視力喪失などの重篤な合併症を回避するため、診断または診断が強く疑われる段階で速やかに治療を始めることが勧められ、治療の中心は炎症抑制を目的としたステロイド薬の使用が一般的です。

高用量ステロイド療法

GCAの急性期には、高用量の副腎皮質ステロイド(プレドニゾロンなど)を用いた治療が基本です。ステロイドは強力な抗炎症作用を持ち、血管の炎症を早期に沈静化させる効果が期待できます。

視力障害などがすでに生じている場合や、炎症が強いと判断される場合は、点滴などでより高容量のステロイドを投与する場合があります。

ステロイド減量と経過観察

炎症や症状が落ち着いた段階では、少しずつステロイドの量を減らしていく減量計画に移行しますが、このとき、急激に減量すると再燃のリスクが高まるため、炎症マーカーや症状をモニタリングしながら慎重に進めることが大切です。

医師が検査データと患者さんの状態を見比べ、長期的に炎症をコントロールできる最小限のステロイド量を探っていきます。

免疫抑制剤の併用

ステロイドのみでのコントロールが難しい場合や副作用が懸念される場合は、免疫抑制剤を併用する選択肢があります。

メトトレキサートやトシリズマブ(抗IL-6受容体抗体)など、関節リウマチでの使用経験がある薬剤を活用することで、ステロイド量を抑えながら炎症を制御する戦略を取ることがあり、長期治療における副作用の軽減が期待できます。

治療薬の代表例

  • ステロイド薬(プレドニゾロン、メチルプレドニゾロンなど)
  • 免疫抑制剤(メトトレキサート、アザチオプリンなど)
  • 生物学的製剤(トシリズマブなど)

各薬剤には特有の作用機序や副作用の特徴があり、患者さんの病状と生活背景をふまえて組み合わせが検討されます。

補助療法としての生活管理

薬物療法だけでなく、規則正しい生活やバランスの取れた栄養摂取も大切で、ステロイドの投与によって糖尿病や骨粗鬆症が誘発・悪化する場合もあるため、食事指導や運動療法などが必要です。

医師や管理栄養士、リハビリスタッフと連携しながら健康管理を行うことで、治療の質を高められます。

治療中に留意したいポイント

  • ステロイド量の減量計画を守り、自己判断で休薬しない
  • 定期的に血液検査や画像検査を受けて炎症状態を確認する
  • ステロイドや免疫抑制剤の副作用を最小限に抑えるための対策
  • 体重、血糖値、骨密度などを管理して生活習慣を整える

こうした総合的なアプローチでGCAによる重篤な合併症を避け、長期的な寛解状態を目指すことが治療の大きな目標です。

主な治療薬と特徴

薬剤名特徴主な目的
ステロイド(プレドニゾロンなど)強力な抗炎症作用を持ち、急性期に用量を多く使うことが多い急性期の炎症制御、再燃予防
メトトレキサート免疫抑制作用を通じて炎症反応を抑えるステロイド減量の補助
トシリズマブインターロイキン6(IL-6)を阻害する生物学的製剤難治性のGCAに対する追加療法
アザチオプリンプリン代謝を阻害し、免疫活動を低下させる作用を持つ長期的な炎症管理

GCAの治療方針は個々の病状や既往歴、合併症の有無によって変わるため、医師の判断とともに患者さんが自身の症状をしっかり伝えることが治療の成功につながります。

治療期間

GCAは急性期を乗り越えた後でも、炎症の再燃が生じやすく、長期的に経過観察と薬物調整が必要で、治療期間は個々の病態によって大きく異なりますが、概ね半年から数年以上に及ぶことも珍しくありません。

急性期から維持治療期への流れ

初期治療では高用量のステロイドを投与して急激な炎症を鎮めることが優先され、視力に関する症状が顕著な場合は、入院下でのパルス療法(大量ステロイド点滴)などが検討されることもあります。

その後、ある程度炎症が落ち着いた段階でステロイドを段階的に減量しながら、寛解状態の維持を目指します。

再燃リスクと長期管理

GCAは一旦寛解に至っても、何らかのきっかけで再燃することがあるため、長期の通院と定期検査が重要です。

ステロイドの減量が進んだ時期に再燃リスクが高まる傾向があるため、医師の指導を受けながら炎症マーカーや症状の変化を注意深くモニタリングします。再燃した場合は再びステロイド量を増やすなどの対処が必要になる場合があります。

治療期間が長引く要因

  • ステロイドの減量が順調に進まない場合
  • 免疫抑制剤の副作用で投与継続が難しい場合
  • 合併症の発症や高齢による体力低下
  • 炎症の再燃を繰り返すケース

寛解後のフォローアップ

症状が落ち着き、炎症マーカーも安定した寛解状態になった後も、数カ月ごとに血液検査や診察を受けて体調をチェックすることが大切です。

視力へのダメージや大動脈に生じた変化の有無を定期的に評価しながら、再燃を早期に発見する心構えを維持する必要があります。

日常生活への適応

治療期間が長引くと、薬の副作用や通院スケジュールなど、日常生活に一定の制約が生まれますが、適度な運動や栄養バランスの良い食事、十分な休養を心がけることで、体力の維持と副作用リスクの軽減につなげることが期待できます。

医師だけでなく、薬剤師や管理栄養士などの専門家と連携しながら生活全体を整える方が治療の質を維持しやすいです。

治療期間に意識したい事項

  • 定期的な血液検査や画像検査で炎症をチェック
  • ステロイド量や免疫抑制剤の用量を正確に守る
  • 体の不調や疑わしい症状があれば早めに報告する
  • 適度な運動やストレスケアで再燃リスクを下げる

これらを継続し、再燃がなければ徐々に薬を減らして最終的には中止を目指す場合もありますが、個々の状況に合わせた慎重な調整が大切です。

治療期間の流れと対応

治療ステージ主な治療内容患者の過ごし方
急性期(発症直後)高用量ステロイド、必要に応じたパルス療法入院または頻回通院、症状の経過観察
維持期ステロイドの減量、免疫抑制剤の併用外来受診を続けながら薬剤調整
再燃時ステロイド増量、治療薬の切り替えなど症状の変化を医師に報告し速やかに受診
寛解期ステロイド量の最小化、定期検査日常生活をなるべく通常に戻しつつ管理

個人差はあるものの、適切な管理が行き届けば大きな合併症を回避できる可能性が高まり、再燃を繰り返さないよう注意を払いながら、日々の生活を整える努力が求められます。

巨細胞性動脈炎(GCA)薬の副作用や治療のデメリットについて

GCAの治療にはステロイドや免疫抑制剤など、強い抗炎症作用を持つ薬が必要になりやすいですが、同時に副作用が生じるリスクを伴います。

副作用の影響を最小限に抑えるためにも、治療法のメリットとデメリットを理解しながら主治医と相談する姿勢が大切です。

ステロイド使用による副作用リスク

ステロイドは高い抗炎症効果がある一方で、骨粗鬆症や糖尿病、感染症リスクの上昇など、多彩な副作用が見られることが知られており、長期投与となる場合、以下のような懸念が高まります。

  • 骨代謝への影響
     ・骨吸収が進み、骨折リスクが増える場合がある
  • 糖代謝への影響
     ・血糖値が上昇し、糖尿病を発症・悪化させる恐れがある
  • 体重増加やムーンフェイス
     ・見た目に変化が生じ、精神的負担になることもある

副作用をできるだけ避けるためにも、定期的に検査やカウンセリングを行うことが重要です。

免疫抑制剤の合併症

免疫抑制剤は体内の免疫機能を抑える作用があるため、感染症にかかりやすくなるリスクが上がり、また、肝機能障害や貧血などの副作用を誘発する可能性もあり、投薬中は血液検査で状態を確認しながら進めることが一般的です。

投与量や投与期間が長くなるほど注意が求められるので、早期に異常を見つけるためのフォローアップが大事になってきます。

長期投与で起こりうるリスクと対策

GCAの再燃を防ぐためにステロイドや免疫抑制剤を継続投与する場合、長期投与による潜在的なリスクが高まります。

特に骨粗鬆症や生活習慣病の管理は欠かせない課題になるため、定期的に骨密度を測定したり、血圧・血糖コントロールに努めたりするなどの対策を講じることが重要です。

代表的な薬の副作用

薬剤種別主な副作用影響を軽減する対策
ステロイド(高用量)骨粗鬆症、糖尿病、感染症ビタミンD・カルシウム摂取、血糖管理、予防接種の活用など
免疫抑制剤(メトトレキサートなど)肝障害、血球減少、感染症リスク定期的な血液検査や肝機能検査、感染症予防策
生物学的製剤(トシリズマブなど)注射部位反応、感染症投与前の十分なチェック、必要に応じた抗菌薬の検討

副作用の程度は個人差が大きく、同じ薬を使ってもほとんど影響を受けない人がいれば、重い合併症を生じる人もいます。主治医と症状や副作用の状況をこまめに相談しながら進めることで、より安全な治療を目指すことが可能です。

巨細胞性動脈炎(GCA)の保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

ステロイド薬の費用

ステロイド薬(プレドニゾロンなど)は一般的にジェネリック医薬品も多く出回っており、比較的安価に入手できることが多く、1か月あたりの薬剤費は、用量にもよりますが数百円~数千円ほどです。

保険適用後の自己負担割合が3割の場合、さらに個人の負担額は低くなります。

免疫抑制剤や生物学的製剤の費用

メトトレキサートのような免疫抑制剤はやや高価ですが、保険適用によって患者の自己負担が3割になる場合、月あたり数千円から1万円程度のケースが多いです。

一方、トシリズマブなどの生物学的製剤はさらに高額で、1回の注射あたりの費用が数万円に及ぶこともあります。

保険適用後でも1回あたり数千円~1万円以上の負担になる場合があるため、医師と相談しながら費用対効果も含めて判断する必要があります。

主な薬剤費用の目安

  • ステロイド薬:月あたり数百円~数千円程度
  • 免疫抑制剤:月あたり数千円~1万円程度
  • 生物学的製剤:1回数万円→保険適用後は数千円~1万円以上

画像検査にかかる費用

GCAの診断や経過観察では、MRIや超音波、CTなどの画像検査が用いられます。保険適用での自己負担割合が3割の場合、MRI検査は1回あたり数千円~1万円程度、CT検査は1回あたり数千円程度が目安です。

超音波検査はそれよりも安価ですが、複数回の検査を行うケースもあるため、合計金額を把握しておきましょう。

通院の頻度とトータル費用

GCAの治療では、初期のうちは症状や炎症のコントロールを慎重に見極めるため、月に1回以上の診察が必要になることが多いです。症状が落ち着き、ステロイド量が安定してきたら、通院頻度を2~3か月に1回程度に減らす場合もあります。

診察料や検査費、薬剤費を合わせると、1か月数千円から数万円程度がかかることがありますが、保険による負担軽減を受けられます。

治療費の内訳

項目1回あたりの費用目安(3割負担時)コメント
診察料数百円~1,000円程度診察内容や病院の規模で変動
血液検査数百円~2,000円程度検査項目の数や精密度に応じて変動
画像検査数千円~1万円以上MRI、CTの場合は施設によって差が大きい
処方薬数百円~1万円以上ステロイド・免疫抑制剤・生物学的製剤で大きく変動

以上

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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