蕁麻疹様血管炎(urticarial vasculitis)とは、皮膚の血管に炎症が生じることで、蕁麻疹に似た紅斑や膨疹を起こす自己免疫疾患です。
一般的な蕁麻疹と大きく異なる特徴として、発疹が24時間以上持続することに加え、かゆみではなく痛みや灼熱感を主体とした症状が現れます。
さらに、皮膚症状に加えて、発熱、関節痛、腹部症状などの全身症状を併発することもあります。
この記事の執筆者
小林 智子(こばやし ともこ)
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長
2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。
こばとも皮膚科関連医療機関
蕁麻疹様血管炎の症状
蕁麻疹様血管炎は、通常の蕁麻疹に似た皮疹が24時間以上持続し、痛みや熱感を伴うことが多く、さらに全身の血管に炎症が及ぶことで、発熱や関節痛なども見られます。
皮膚症状の特徴
蕁麻疹様血管炎における皮膚症状は、通常の蕁麻疹では数時間で消退する膨疹が、24時間以上持続します。
皮疹は強い痒みだけでなく、刺すような痛みや灼熱感を伴い、夜間から早朝にかけて症状が悪化し、また、皮疹が消退した後に、紫斑や色素沈着が残ることもあります。
特徴 | 通常の蕁麻疹 | 蕁麻疹様血管炎 |
持続時間 | 24時間未満 | 24時間以上 |
痛み | なし~軽度 | 中等度~重度 |
色素沈着 | 残らない | 残ることが多い |
紫斑 | 見られない | 見られることが多い |
全身症状の様相
蕁麻疹様血管炎では、皮膚症状に加えて、様々な全身症状が現れ、発熱や倦怠感といった炎症症状に加え、関節痛や筋肉痛が現することも多いです。
- 38度前後の発熱
- 全身の倦怠感
- 関節痛や筋肉痛
- 食欲不振
- 体重減少
臓器症状について
血管炎が進行すると、様々な臓器に症状が及ぶ可能性があり、特に注意が必要なのは、腎臓、肺、消化器系などの主要臓器における症状です。
腎臓に炎症が及んだ場合、血尿や蛋白尿といった症状が現れることがあり、肺に影響が及ぶと、咳嗽や呼吸困難感などの呼吸器症状を起こします。
影響を受ける臓器 | 主な症状 |
腎臓 | 血尿、蛋白尿、浮腫 |
肺 | 咳嗽、呼吸困難、胸痛 |
消化器 | 腹痛、下痢、吐き気 |
関節 | 関節痛、関節腫脹 |
眼症状と神経症状
蕁麻疹様血管炎では、眼や神経系にも症状が現れ、結膜炎や上強膜炎、まれに視力低下を起こすことがあります。
また、神経系の症状として見られるのは、頭痛やめまい、しびれ感などの末梢神経症状です。
- 眼の充血や痛み
- 視力の一時的な低下
- 頭痛やめまい
- 手足のしびれ感
- 筋力低下
症状は、血管炎の程度や範囲によって異なる経過をたどり、複数の症状が同時に出現することも、単一の症状のみが現れることもあります。
蕁麻疹様血管炎の原因
蕁麻疹様血管炎は、免疫複合体が血管壁に沈着することで起き、遺伝的要因や環境因子、薬剤性などが関与しています。
免疫学的メカニズム
血液中で形成された免疫複合体が血管壁に沈着し、好中球やリンパ球などの炎症細胞が血管壁に集積していき、この過程で、TNF-αやIL-1βなどの炎症性サイトカインが大量に産生され、血管の損傷が進行していきます。
免疫因子 | 主な役割 |
免疫複合体 | 血管壁への沈着、補体活性化 |
補体系 | 炎症細胞の誘導、組織損傷 |
サイトカイン | 炎症の増強、細胞活性化 |
接着分子 | 炎症細胞の血管壁への接着 |
基礎疾患との関連
蕁麻疹様血管炎の発症は、全身性エリテマトーデスやシェーグレン症候群などの自己免疫疾患との関連性が強いく、さらに、B型肝炎やC型肝炎などのウイルス性肝炎、さらには悪性腫瘍との関連も指摘されています。
- 全身性エリテマトーデス
- シェーグレン症候群
- 混合性結合組織病
- ウイルス性肝炎
- 悪性腫瘍
薬剤性要因
薬剤の使用が蕁麻疹様血管炎を誘発することがあり、これを薬剤性蕁麻疹様血管炎と呼び、抗生物質や非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)、降圧薬などが原因です。
薬剤性の場合、医薬品が直接的に免疫反応を引き起こすことや、薬剤と体内のタンパク質が結合して免疫複合体を形成することで、血管炎が生じます。
薬剤分類 | 代表的な原因薬剤 |
抗生物質 | ペニシリン系、セファロスポリン系 |
解熱鎮痛薬 | アスピリン、イブプロフェン |
降圧薬 | ACE阻害薬、カルシウム拮抗薬 |
抗けいれん薬 | フェニトイン、カルバマゼピン |
環境因子と遺伝的背景
環境因子も蕁麻疹様血管炎の発症に関与することがあり、寒冷刺激や紫外線暴露、感染症などの外的要因が、免疫系の異常を誘発し、発症のきっかけとなります。
また、特定のHLA型との関連性も報告されており、遺伝的な素因も発症リスクに影響を与える可能性があります。
- 寒冷刺激への曝露
- 紫外線の過度な照射
- ウイルスや細菌感染
- 精神的ストレス
- 過度な運動負荷
蕁麻疹様血管炎の検査・チェック方法
蕁麻疹様血管炎の診断には、問診と血液検査、皮膚生検などの複数の検査を組み合わせた評価が必要で、臨床所見と検査結果を照らし合わせることで、他の血管炎症候群や蕁麻疹との鑑別を行いながら確定診断に至ります。
診断の基本的アプローチ
問診では症状の持続時間や痛みの性質に加えて、発症時期や環境因子との関連性、さらには全身症状の有無など、患者さんの状態を評価することが重要です。
皮疹の性状については、発疹の形態や色調の変化、痛みやかゆみの程度、日内変動の有無、症状の持続時間や再発の頻度についても注意深く確認していきます。
皮膚の視診においては、発疹の形状や色調の観察に加えて、圧痛の有無や程度、消退後の色素沈着の特徴などを調べます。
鑑別のポイント | 蕁麻疹様血管炎 | 一般的な蕁麻疹 |
持続時間 | 24時間以上 | 24時間未満 |
主な症状 | 痛み・灼熱感 | かゆみ |
圧痛 | あり | なし |
色素沈着 | 残存する | 残存しない |
血液検査による評価
血液検査では炎症反応や免疫系の異常を示す複数のマーカーを確認することで診断の確実性を高めるとともに、疾患の活動性や重症度を評価し、さらには合併症の有無についても調べます。
一般的な血液検査で炎症反応を確認するだけでなく、補体価や免疫複合体、抗核抗体などの検査も併せて実施することで、免疫学的異常の有無を評価することも大切です。
- 炎症マーカー(CRP、赤沈)
- 補体価(C3、C4、CH50)
- 免疫複合体
- 抗核抗体
- 血算・生化学検査
皮膚生検による確定診断
皮膚生検は蕁麻疹様血管炎の確定診断において不可欠な検査で、他の血管炎症候群との鑑別診断にも重要な情報をもたらすとともに、疾患の活動性や重症度の評価にも役立てます。
病理検査では血管壁の変化や炎症細胞の浸潤パターン、組織障害の程度などを判断し、以下の所見に注目して評価を行っていきます。
病理所見 | 特徴 | 診断的意義 |
血管壁の変化 | フィブリノイド変性 | 強い |
細胞浸潤 | 好中球優位 | 中程度 |
血管周囲の変化 | 核塵の存在 | 強い |
表皮の変化 | 浮腫性変化 | 弱い |
追加検査と鑑別診断
全身症状を伴う症例では、肺機能検査や腎機能検査などの追加検査を実施して臓器障害の有無を評価するとともに、合併症の早期発見にも努めます。
画像検査では胸部レントゲンやCTなどを用いて肺病変や他の臓器病変の有無を確認するだけでなく、造影検査なども追加することで、血管炎による臓器障害の程度をより評価することが可能です。
鑑別診断のための追加検査
- 抗好中球細胞質抗体(ANCA)
- クリオグロブリン
- 肝炎ウイルス関連検査
- 尿検査
- 心電図検査
蕁麻疹様血管炎の治療法と治療薬について
蕁麻疹様血管炎の治療は、軽症例では抗ヒスタミン薬による対症療法から開始し、症状の程度に応じてステロイド薬や免疫抑制薬を組み合わせます。
第一選択薬による初期治療
第二世代抗ヒスタミン薬は眠気などの副作用が少なく、長時間作用が持続することから、日中の活動に支障をきたすことなく服用することができます。
初期治療では、抗ヒスタミン薬を通常用量から開始し、症状の改善が見られない時には、承認用量の範囲内で増量することがあります。
この段階での治療効果は非常に重要で、その後の治療方針を決定する指標です。
抗ヒスタミン薬 | 主な特徴 | 服用回数 |
第一世代 | 即効性、眠気あり | 1日2-3回 |
第二世代 | 持続性、眠気少なめ | 1日1-2回 |
ステロイド薬による治療
抗ヒスタミン薬で十分な効果が得られない場合、強力な抗炎症作用を持ち、血管炎の活動性を抑制する効果があるステロイド薬の使用を検討します。
経口ステロイド薬はプレドニゾロンを使用し、症状の程度に応じて初期用量を決定し、症状が安定してきたら、慎重に漸減していきますが、急な減量は症状の再燃を招く可能性があるため、長期的な経過観察が必要です。
また、皮膚症状が主体の場合には、外用ステロイド薬の併用も効果的です。
- ステロイド経口薬の特徴
- 投与量は症状に応じて調整
- 漸減方法は個別に設定
- 副作用の定期的なモニタリング
- 長期使用時の骨粗鬆症予防
免疫抑制薬による治療
ステロイド薬の減量が困難な場合や、高用量のステロイド薬が必要な場合には、免疫抑制薬の併用を考慮します。
シクロホスファミドやアザチオプリン、メトトレキサートなどの免疫抑制薬は、各々特有の作用機序を持っており、患者さんの状態や合併症の有無を考えて選択します。
免疫抑制薬 | 主な副作用 | モニタリング項目 |
シクロホスファミド | 骨髄抑制、出血性膀胱炎 | 血球数、尿検査 |
アザチオプリン | 肝機能障害、消化器症状 | 肝機能、血球数 |
メトトレキサート | 間質性肺炎、肝機能障害 | 胸部X線、肝機能 |
生物学的製剤による治療
従来の治療に抵抗性を示す症例では、生物学的製剤の使用を検討することがあり、特に、オマリズマブは高用量の抗ヒスタミン薬で効果不十分な症例に対して効果を発揮することがあります。
生物学的製剤は、特定の炎症性サイトカインや免疫細胞を標的とする分子標的薬で、従来の治療薬とは異なる作用機序を持ち、より選択的に免疫反応を制御することが可能です。
薬の副作用や治療のデメリットについて
蕁麻疹様血管炎の治療では、抗ヒスタミン薬、ステロイド薬、免疫抑制薬などの薬剤を使用しますが、薬剤はそれぞれ特有の副作用があり、長期使用による様々な合併症のリスクを伴います。
抗ヒスタミン薬の副作用
抗ヒスタミン薬の副作用は、特に第一世代の薬剤で顕著で、第一世代抗ヒスタミン薬は血液脳関門を通過しやすく、中枢神経系への作用が強いことから、日中の眠気や集中力低下、作業効率の低下などを起こします。
また、抗コリン作用による口渇、便秘、排尿障害なども一般的な副作用で、高齢者では転倒リスクの増加や認知機能への影響にも注意が必要です。
抗ヒスタミン薬の種類 | 主な副作用 | 注意が必要な患者 |
第一世代 | 眠気、めまい、口渇 | 高齢者、運転従事者 |
第二世代 | 軽度の眠気、胃部不快感 | 腎機能障害患者 |
ステロイド薬による合併症
ステロイド薬の長期使用は、多岐にわたる副作用のリスクを伴い、骨粗鬆症や糖尿病、高血圧、消化性潰瘍などの発症リスクが上昇するだけでなく、感染症に対する抵抗力も低下します。
皮膚の菲薄化や皮下出血、満月様顔貌などの容姿の変化も起こりうる副作用で、さらに、長期使用による副腎機能の抑制も可能性のある合併症です。
- 骨密度の低下と骨折リスクの上昇
- 血糖値の上昇と耐糖能異常
- 血圧上昇と電解質異常
- 消化管粘膜障害
- 白内障やグラウコマのリスク増加
免疫抑制薬に関連する副作用
免疫抑制薬の使用は、感染症のリスクを高めることから、定期的な血液検査によるモニタリングが不可欠で、日和見感染症の予防と早期発見には十分な注意が必要です。
各薬剤特有の副作用として、肝機能障害や腎機能障害、血球減少などが起こることがあり、副作用は時として重篤な状態に発展する可能性もあります。
免疫抑制薬の種類 | 特徴的な副作用 | モニタリング項目 |
シクロスポリン | 腎機能障害、高血圧 | 血中濃度、腎機能 |
シクロホスファミド | 出血性膀胱炎、不妊 | 尿検査、生殖機能 |
メトトレキサート | 肺炎、肝機能障害 | 胸部X線、肝機能 |
生物学的製剤の特有のリスク
生物学的製剤は、従来の免疫抑制薬とは異なる作用機序を持つ薬剤ですが、使用には特有のリスクが伴い、結核などの感染症リスクの上昇や、投与時反応、自己抗体の産生などに留意します。
また、長期的な安全性に関するデータが比較的限られていることから、未知の副作用が出現する可能性についても考慮しなければなりません。
- 重症感染症のリスク増加
- 投与部位反応
- 自己抗体産生
- アレルギー反応
- 悪性腫瘍発症リスク
保険適用と治療費
以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。
外来診療における基本的な治療費
診察では、症状の程度に応じて複数の検査や投薬が必要です。
診療内容 | 3割負担額(目安) |
血液検査 | 3,000~5,000円 |
皮膚生検 | 8,000~12,000円 |
免疫検査 | 4,000~7,000円 |
一般的な投薬(2週間分) | 3,000~6,000円 |
投薬治療にかかる費用
ステロイド外用薬や内服薬、免疫抑制薬など、複数の薬剤を組み合わせて使用します。
- ステロイド外用薬(1本) 1,500~3,000円
- ステロイド内服薬(1か月分) 2,000~4,000円
- 免疫抑制薬(1か月分) 8,000~15,000円
- 抗ヒスタミン薬(1か月分) 2,000~4,000円
- 消炎鎮痛薬(1か月分) 1,500~3,000円
長期的な治療における費用
慢性的な経過をたどる場合は、定期的な通院と検査が長期間にわたって続きます。
期間 | 想定される総費用(3割負担) |
初期治療(1か月) | 30,000~50,000円 |
安定期(1か月) | 15,000~30,000円 |
急性増悪時(1か月) | 40,000~70,000円 |
入院治療(1週間) | 70,000~120,000円 |
以上
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