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クリオグロブリン血症性血管炎

クリオグロブリン血症性血管炎

クリオグロブリン血症性血管炎(cryoglobulinemic vasculitis)とは、血液中に特殊なタンパク質のクリオグロブリンが異常に蓄積し、全身の血管に重篤な炎症を起こす自己免疫疾患です。

この疾患の特徴的なメカニズムとして、寒冷刺激を受けることでクリオグロブリンが血管内で結晶化し血管壁に沈着することで、持続的な炎症反応を起こすことが挙げられます。

代表的な症状は、皮膚に現れる紫斑や網状皮斑、関節痛、末梢神経障害による四肢のしびれや灼熱感、さらには腎臓機能の低下などです。

この記事の執筆者

小林 智子(日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士)

小林 智子(こばやし ともこ)

日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長

2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。

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こばとも皮膚科関連医療機関

医療法人社団豊正会大垣中央病院

目次

クリオグロブリン血症性血管炎の病型

クリオグロブリン血症性血管炎は、血清中に存在するクリオグロブリンというタンパク質の種類と性質によって、Ⅰ型、Ⅱ型、Ⅲ型という3つの病型に分類できます。

病型分類の基本

クリオグロブリンは常温では液体として存在していますが、体温よりも低い温度になると固まってしまう特徴を持っています。

分類の際には、クリオグロブリンを構成している免疫グロブリンと呼ばれるタンパク質の種類や、単一の細胞から作られているのか(単クローン性)、あるいは複数の異なる細胞から作られているのか(多クローン性)という点に着目して判断を行います。

病型クリオグロブリンの特徴主なクラス
Ⅰ型単クローン性IgG, IgM, IgA
Ⅱ型混合型(単クローン性+多クローン性)IgM + IgG
Ⅲ型混合型(多クローン性)IgM + IgG

Ⅰ型クリオグロブリン血症

Ⅰ型クリオグロブリン血症は、単一の細胞から作られる免疫グロブリンだけで構成される病型で、血液細胞に関連する病気との結びつきが強いです。

関連する疾患

  • 多発性骨髄腫
  • 原発性マクログロブリン血症
  • 慢性リンパ性白血病
  • B細胞リンパ腫

Ⅱ型クリオグロブリン血症

Ⅱ型クリオグロブリン血症は、単一の細胞から作られる免疫グロブリンと、複数の異なる細胞から作られる免疫グロブリンが混在している状態です。

この病型では、ウイルス性肝炎、特にC型肝炎との関連性が強く指摘されており、また自己免疫疾患を合併することも少なくありません。

特徴詳細
主要構成成分IgMκ(単クローン性)+IgG(多クローン性)
関連疾患C型肝炎、自己免疫疾患
免疫学的特徴リウマトイド因子活性を有する

Ⅲ型クリオグロブリン血症

Ⅲ型クリオグロブリン血症では、すべての免疫グロブリンが複数の異なる細胞から作られる多クローン性のものであることが特徴です。

この型では、免疫システムの全般的な異常が背景にあることが多く、様々な自己免疫疾患との関連性が報告されています。

関連がある自己免疫疾患

  • 全身性エリテマトーデス
  • シェーグレン症候群
  • 関節リウマチ
  • 慢性感染症

クリオグロブリン血症性血管炎の症状

クリオグロブリン血症性血管炎は、寒冷刺激により血管内で結晶化したクリオグロブリンが血管壁に沈着することで、皮膚症状から内臓障害まで、多彩な症状を引き起こします。

初期症状と皮膚所見

皮膚症状は最も特徴的な徴候で、下肢を中心に紫斑や網状皮斑、潰瘍などが現れることが多く、症状は寒冷刺激により増悪します。

特に冬季や気温の低い環境では、皮膚の発赤や腫れ、痛みといった症状が顕著です。

主な皮膚症状好発部位特徴的な性質
紫斑下肢圧痛を伴う
網状皮斑四肢網目状の模様
潰瘍足首周囲治癒が遅い
皮膚硬化手指寒冷で悪化

関節・筋肉症状

関節症状として、複数の関節に同時に痛みやこわばりが生じることがあり、朝方や長時間の安静後に症状が強くなります。

筋肉の痛みや筋力低下も見られることがあり、症状は運動機能の低下につながる観察ポイントです。

  • 関節痛(多関節性)
  • 関節のこわばり
  • 筋肉痛
  • 筋力低下
  • 関節の腫れ
  • 運動制限

神経症状と末梢循環障害

末梢神経障害による手足のしびれや痛み、感覚異常は患者さんの生活に大きな影響を与える重要な症状の一つです。

また、レイノー現象と呼ばれる末梢循環障害により、指先が白色から紫色に変化し、強い痛みを伴うことがあります。

神経症状の種類症状の特徴好発部位
感覚障害しびれ・痛み手足の末端
運動障害筋力低下四肢遠位部
自律神経症状発汗異常全身
末梢循環障害色調変化指先・足先

内臓症状と全身症状

腎臓への影響としてタンパク尿や血尿、腎機能の低下が見られることがあり、消化器症状として腹痛や食欲不振、悪心・嘔吐などが生じます。

全身症状としては、発熱や倦怠感、体重減少などが見られます。

  • 腎機能低下
  • 尿所見異常
  • 消化器症状
  • 発熱
  • 倦怠感
  • 体重減少

症状は、季節や環境要因により変動し、寒冷刺激を受けることで症状が悪化します。

クリオグロブリン血症性血管炎の原因

クリオグロブリン血症性血管炎は、感染症、自己免疫疾患、血液疾患など、様々な基礎疾患によって起きます。

基本的な発症メカニズム

クリオグロブリン血症性血管炎の発症には、血液中に生じたクリオグロブリンという特殊なタンパク質が深く関与しています。

このタンパク質は、体温より低い温度で沈殿し血管壁に沈着することで、複雑な免疫反応を引き起こします。

免疫複合体が血管壁に沈着すると免疫システムが活性化され、様々な炎症性物質が産生されることで血管の炎症が進行していくのです。

発症プロセス関与する因子結果
免疫複合体形成クリオグロブリン血管壁への沈着
補体活性化補体タンパク炎症反応の惹起
白血球浸潤好中球・単球血管障害の進行

感染症関連の原因

C型肝炎ウイルス感染は最も重要な原因の一つで、特に混合型クリオグロブリン血症との関連性が強いです。

C型肝炎ウイルス以外にも、以下のような感染症が原因となることがあります。

  • B型肝炎ウイルス感染
  • エプスタイン・バーウイルス感染
  • サイトメガロウイルス感染
  • HIV感染

C型肝炎ウイルスの場合、ウイルスの持続感染により慢性的な免疫刺激が続くことで、B細胞の活性化とクリオグロブリンの過剰産生が起こります。

自己免疫疾患関連の原因

自己免疫疾患に関連したクリオグロブリン血症性血管炎では、免疫システムの異常により自己抗体が産生され、これがクリオグロブリンとして血中に蓄積することで発症します。

自己免疫疾患関連するクリオグロブリン発症機序
SLE多クローン性IgG/IgM自己抗体産生
シェーグレン症候群混合型クリオグロブリンB細胞異常
関節リウマチリウマトイド因子含有型免疫複合体形成

血液疾患関連の原因

血液疾患、特にB細胞系の腫瘍性疾患では、異常なクローン性B細胞の増殖により、単クローン性のクリオグロブリンが過剰に産生されることがあります。

原因となる血液疾患

  • 多発性骨髄腫
  • リンパ形質細胞性リンパ腫
  • 慢性リンパ性白血病
  • MGUS(意義不明の単クローン性ガンマグロブリン血症)

その他の原因と素因

遺伝的背景や環境因子なども、発症に関与することが示唆されていて、特定のHLA型との関連性や、寒冷暴露などの環境要因が発症や症状の増悪に関与しています。

また、加齢に伴う免疫系の変化も発症リスクを高める要因の一つで、高齢者では、免疫システムの制御機能が低下することで、様々な免疫学的異常が生じやすくなります。

クリオグロブリン血症性血管炎の検査・チェック方法

クリオグロブリン血症性血管炎の診断には、血液検査や尿検査などの一般的な検査に加え、クリオグロブリン定性・定量検査が不可欠で、さらに確定診断には生検による病理組織検査が必要です。

基本的な検査項目と血液検査

血液検査では、炎症マーカーである赤血球沈降速度(ESR)やCRP値の上昇が特徴的であり、疾患の活動性を反映します。

また、血清補体価(CH50)やC3、C4の低下は、免疫複合体による補体の消費を示す重要な指標です。

検査項目測定意義異常値の特徴
ESR炎症の程度上昇
CRP急性期反応上昇
CH50補体活性低下
C3/C4補体成分低下

クリオグロブリン検査の実施方法

クリオグロブリン検査は37℃で採血を行い、血清を分離した後、4℃で7日間保管して沈殿物の有無を確認する方法で行います。

定性検査で陽性と判定された場合には、さらに詳細な解析としてクリオグロブリンの型判定(免疫固定法)を実施することで、より正確な病態の把握が可能です。

  • 採血時の温度管理(37℃を保持)
  • 血清分離のタイミング
  • 冷蔵保管の温度と期間
  • 沈殿物の観察方法
  • 型判定の実施基準
  • 結果の解釈方法

尿検査と腎機能評価

尿検査では、タンパク尿や血尿の有無を確認し、24時間蓄尿検査による正確なタンパク排泄量の測定も診断の参考となります。

腎機能の評価には、血清クレアチニン値や推算糸球体濾過量(eGFR)の測定に加え、腎生検による組織診断も検討します。

検査種類検査項目評価内容
尿検査尿蛋白腎障害の程度
尿検査尿潜血腎炎の活動性
血液検査クレアチニン腎機能
計算値eGFR腎機能

組織生検による確定診断

皮膚生検は、皮膚症状のある部位から組織を採取し、血管炎の有無や程度を顕微鏡で確認する検査です。

腎生検は、腎症状が認められる場合に考慮され、糸球体における免疫複合体の沈着パターンを確認することで、より詳細な病態の把握ができます。

  • 皮膚生検部位の選択
  • 組織の固定方法
  • 免疫染色の種類
  • 電子顕微鏡観察
  • 病理診断の基準
  • 重症度評価

クリオグロブリン血症性血管炎の治療法と治療薬について

クリオグロブリン血症性血管炎の治療には、原疾患の治療を基本として、症状の重症度に応じてステロイド薬や免疫抑制薬、血漿交換療法などを行います。

基礎疾患に対する治療アプローチ

C型肝炎ウイルス関連のクリオグロブリン血症では、直接作用型抗ウイルス薬(DAA)による抗ウイルス療法が第一選択となり、ウイルスの排除により多くの患者さんで症状の改善が期待できます。

B型肝炎ウイルスが原因の際には、核酸アナログ製剤による抗ウイルス療法を実施しますが、長期的な経過観察が必要となることが多いです。

基礎疾患第一選択薬治療期間
C型肝炎DAA薬12週間
B型肝炎核酸アナログ製剤48週間以上
自己免疫疾患免疫抑制薬6ヶ月以上

ステロイド療法による炎症抑制

中等症から重症例では、炎症を速やかに抑制するためにステロイド療法を実施し、初期治療では、プレドニゾロンを0.5-1.0mg/kg/日から開始し、症状の改善に応じて漸減します。

ステロイド療法では、治療効果と副作用のバランスを見極めながら、患者さんの状態に合わせて投与量を調整していきます。

免疫抑制療法

重症例や難治性の症例では、ステロイド療法に加えて免疫抑制薬の併用を検討し、シクロホスファミドやリツキシマブなどの強力な免疫抑制薬は、血管炎症状が強い場合や、重要臓器への障害が認められる際に使用を考慮します。

免疫抑制薬投与方法主な適応
シクロホスファミド経口/静注重症血管炎
リツキシマブ点滴静注難治性症例
アザチオプリン経口維持療法

血漿交換療法と対症療法

重症例や急性増悪期には、血中のクリオグロブリンを速やかに除去するために血漿交換療法を実施することがあります。

血漿交換療法を考慮する症状

  • 重度の末梢循環障害
  • 急性腎不全
  • 広範な皮膚潰瘍
  • 中枢神経症状

血漿交換療法は週2-3回の頻度で実施し、症状の改善が得られるまで継続しますが、即効性が期待できる半面、一時的な効果にとどまることも多いため、他の治療法と組み合わせて実施することが一般的です。

薬の副作用や治療のデメリットについて

クリオグロブリン血症性血管炎の治療では、免疫抑制剤やステロイド薬などの使用に伴い、感染症のリスク上昇や骨密度低下、代謝異常など、様々な副作用があります。

ステロイド薬による副作用

ステロイド薬は血管炎の炎症を抑える効果が高い一方で、長期使用に伴う副作用への注意が不可欠であり、高用量での継続使用時には、血糖値の上昇や血圧の上昇、体重増加といった代謝性の変化が顕著に現れます。

代謝性の変化は、長期的には糖尿病や高血圧症、脂質異常症などの生活習慣病を引き起こし、さらには骨粗鬆症や大腿骨頭壊死症などの骨関連疾患のリスクも上昇することから、定期的な検査による経過観察が大切です。

副作用の種類早期の症状長期的な影響
代謝異常血糖値上昇糖尿病発症
循環器系血圧上昇心血管疾患
骨代謝カルシウム低下骨粗鬆症
消化器系胃部不快感消化性潰瘍

免疫抑制剤による感染リスク

免疫抑制剤の使用により免疫機能が低下することで、通常では問題とならない程度の細菌やウイルスによっても重症な感染症を起こす可能性が高まり、呼吸器感染症や尿路感染症、帯状疱疹などのウイルス感染症には十分な注意が必要です。

  • 細菌性肺炎のリスク上昇
  • 尿路感染症の増加
  • 帯状疱疹の発症
  • 結核の再活性化
  • 真菌感染症
  • 日和見感染症

血液学的な副作用と血球減少

免疫抑制剤の中には骨髄抑制作用により白血球減少や貧血、血小板減少などの血球減少を引き起こすものがあり、症状は感染防御機能の低下や出血傾向の増加、重度の疲労感などにつながることがあります。

血球種類減少時の症状注意すべき状況
白血球発熱感染症リスク
赤血球疲労感貧血の進行
血小板出血傾向止血困難
リンパ球免疫力低下ウイルス感染

その他の臓器への影響

一部の免疫抑制剤では急性腎障害から慢性腎臓病へと進行する可能性があるため、定期的な腎機能検査による経過観察と早期発見が重要です。

また、肝酵素の上昇や胆汁うっ滞などの症状が現れることがあり、他の肝毒性のある薬剤との併用や既存の肝疾患がある場合には、より慎重なモニタリングが必要となってきます。

  • 腎機能障害
  • 肝機能障害
  • 膵臓機能障害
  • 心機能低下
  • 神経障害
  • 皮膚障害

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

基本的な診療にかかる費用

外来での定期的な診察と検査は、患者さんの状態をモニタリングする上で重要な役割を果たしています。

診療項目保険適用後の費用(3割負担の場合)
血液検査3,000円~8,000円
尿検査1,000円~3,000円
画像検査(CT)8,000円~15,000円
画像検査(MRI)12,000円~20,000円

薬物療法の費用

ステロイド薬による治療は、比較的費用を抑えることが可能ですが、生物学的製剤などの新しい治療薬を使用する際には高額になります。

  • プレドニゾロン(1ヶ月あたり2,000円~5,000円)
  • シクロホスファミド(1ヶ月あたり10,000円~30,000円)
  • リツキシマブ(1回の投与あたり15万円~25万円)
  • アザチオプリン(1ヶ月あたり5,000円~15,000円)

入院治療における費用

入院が必要となった場合、治療内容や入院期間によって総額は変動します。

入院治療内容費用の目安(3割負担の場合)
一般病棟(1日)5,000円~10,000円
血漿交換(1回)50,000円~80,000円
リハビリ(1日)3,000円~6,000円
点滴治療(1日)3,000円~8,000円

以上

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