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レイノー現象

レイノー現象

レイノー現象(Raynaud’s phenomenon)とは、寒さやストレスなどの外的刺激によって、手足の指の血管が急激に縮み、血液の流れが著しく悪くなる血管の疾患です。

特徴的な症状として、指先の色が白く変化し、その後紫色になり、最終的に赤くなるという三段階の色の変化が見られ、多くの場合、強いしびれ感や痛みを伴います。

日本の総人口の3~5%に見られ、特に寒冷地に居住する20代から30代の女性に多く発症することが分かっています。

この記事の執筆者

小林 智子(日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士)

小林 智子(こばやし ともこ)

日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長

2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。

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医療法人社団豊正会大垣中央病院

目次

レイノー現象の症状

レイノー現象は、寒冷刺激や精神的ストレスによって末梢血管が過剰に収縮し、手指や足趾の皮膚が白色から青紫色、そして赤色になります。

発作時の色調変化と進行過程

血管収縮による発作は3段階の色調変化として観察することができまず初期段階では、末梢血管の急激な収縮により血流が低下することで、手指や足趾の皮膚が蒼白となって真っ白に変化します。

その後、血管内の酸素が徐々に消費されていくことにより、うっ血した血液中の還元ヘモグロビンが増加するため、皮膚の色調は青紫色へ、最終段階では、血流が急激に回復し、皮膚は発赤を呈して赤色に変わります。

この一連の色調変化は、手指や足趾の各部位で同時に起こるわけではなく、まだらに出現することが多いです。

段階皮膚の色調変化血管の状態
第1段階蒼白(白色)血管収縮による血流低下
第2段階チアノーゼ(青紫色)酸素消費によるうっ血
第3段階紅潮(赤色)血管拡張による血流回復

好発部位と症状の特徴

レイノー現象は、主として手指と足趾に症状が現れますが、特に手指における症状の頻度が高く、手指の中でも、示指、中指、環指といった中央の指に症状が集中します。

寒冷刺激を受けた際には、指先から徐々に色調変化が進行していき、時には手掌や手背にまで及ぶこともあり、症状の持続時間は数分から数時間で、重症例では指尖部に潰瘍や壊疽を形成することもあるので注意が必要です。

好発部位の特徴

  • 手指(示指、中指、環指が多い)
  • 足趾(第1趾から第5趾まで)
  • 耳介
  • 鼻尖部
  • 口唇

随伴する感覚異常と自覚症状

発作時には、末梢循環障害に起因するさまざまな感覚異常が生じ、手指や足趾におけるしびれ感や疼痛は、日常生活に大きな影響を及ぼします。

冷感や灼熱感といった温度感覚の異常も起き、感覚異常は血行障害の程度に応じて変化することが多いです。

主な自覚症状

  • しびれ感(異常感覚)
  • 疼痛(痛み)
  • 冷感
  • 灼熱感
  • 知覚鈍麻
  • 感覚過敏

リウマチ性好中球性皮膚症は、体幹や四肢の皮膚表面に無菌性の小膿疱や紅斑が多発し、発熱や関節痛などの全身症状を伴うことがあります。

壊疽性膿皮症は下腿や足背に好発し、初期に紅斑や小膿疱として始まり急速に拡大して深い潰瘍を形成し、潰瘍の辺縁部は紫紅を呈し、著明な疼痛を伴うことが多いです。

レイノー現象の原因

レイノー現象は、末梢血管の異常な収縮反応を起こす自律神経系の機能障害や、血管壁の構造的な異常、さらには自己免疫疾によって起こります。

一次性レイノー現象の発症機序

一次性レイノー現象は、基礎疾患を持たない状態で発症する特発性の血管障害で、寒冷刺激や精神的ストレスに対する末梢血管の過敏な収縮反応が本質的な原因です。

過敏な血管収縮反応の背景には、血管平滑筋の収縮機能を制御する自律神経系、特に交感神経系の調節異常が関与していることが、これまでの研究で明らかになっています。

血管内皮細胞から分泌される血管作動性物質のバランスが崩れることで、血管収縮物質であるエンドセリンの産生が過剰となり、一酸化窒素の産生が低下することも、重要な発症メカニズムの一つです。

要因関与する機序特徴的な所見
自律神経異常交感神経系の過剰反応寒冷刺激での過敏な血管収縮
血管作動性物質エンドセリン増加、NO低下血管収縮反応の持続
遺伝的素因家族歴、若年発症女性に多い

二次性レイノー現象の基礎疾患

二次性レイノー現象は、全身性強皮症をはじめとする膠原病や自己免疫疾患に関連して発症し、基礎疾患による血管壁の構造的な変化や免疫学的な異常が原因です。

全身性強皮症では、血管内皮細胞の障害と血管周囲の線維化が進行することにより、血管の弾性が失われ、血流障害が慢性的に持続することで、レイノー現象が起こります。

膠原病関連の主な基礎疾患

  • 全身性強皮症
  • 全身性エリテマトーデス
  • 混合性結合組織病
  • 皮膚筋炎/多発性筋炎
  • シェーグレン症候群

職業性要因と環境因子

振動工具を長期間使用する職業に従事している方では、手指の血管や神経が慢性的な機械的刺激にさらされることにより、末梢循環障害が起こり、職業性のレイノー現象を発症することがあります。

寒冷環境での作業や、慢性的な機械的刺激に加えて、喫煙習慣も血管収縮を促進し、寒冷地に居住する方では発症リスクが高いです。

環境因子影響する機序リスク評価
寒冷曝露血管収縮促進高リスク
振動工具血管・神経障害中〜高リスク
喫煙血管収縮作用中リスク

遺伝的要因と発症リスク

レイノー現象の発症には遺伝的な素因が関与しており、家族歴のある方では発症の可能性が高まります。

遺伝的要因に関連する特徴

  • 若年期からの発症
  • 女性優位の発症傾向
  • 家族内発症の集積
  • HLA型との関連性
  • 血管反応性の個人差

女性ホルモンであるエストロゲンは、血管の収縮と拡張の反応性に影響を与えることから、女性に多く発症する原因の一つとして考えられています。

レイノー現象の検査・チェック方法

レイノー現象の診断には、問診と身体診察に加え、血管の機能を評価する特殊検査や血液検査など、複数の検査方法を組み合わせて行います。

診察とスクリーニング検査

問診では、症状の発症時期や頻度、寒冷刺激との関連性、指先の色調変化のパターンなど、できるだけ具体的な情報を伝えます。

寒冷負荷試験は、冷水に手指を浸すことで血管反応を確認する検査で、レイノー現象の診断において不可欠な検査方法の一つです。

皮膚温度計による測定では、手指の温度変化を客観的に評価でき、症状が出ていない時期でも血流の状態を数値として把握できます。

検査名測定項目診断的意義
寒冷負荷試験血管収縮反応症状の再現性確認
皮膚温度測定末梢温度変化血流障害の評価
爪郭顕微鏡検査毛細血管形態血管異常の観察

血管機能の精密検査

毛細血管顕微鏡検査では、爪床の毛細血管を特殊な顕微鏡で観察することにより血管の形態異常や血流の状態を評価し、血管超音波検査(超音波ドップラー検査)では、血管の形状変化や血流速度を測定します。

サーモグラフィー検査は、体表面から放射される赤外線を検出して皮膚温度分布を可視化することで、血流障害の範囲や程度調べることが可能です。

血液検査による全身状態の確認

  • 抗核抗体検査
  • リウマトイド因子
  • 血液一般検査
  • 炎症反応検査
  • 凝固機能検査
検査カテゴリー主な検査項目評価内容
自己抗体検査抗核抗体、抗セントロメア抗体膠原病との関連
一般血液検査血算、炎症反応全身状態の評価
凝固系検査PT、APTT、D-ダイマー血液凝固能の確認

レイノー現象の治療法と治療薬について

レイノー現象の治療は、カルシウム拮抗薬を中心とした血管拡張薬による薬物療法を基本として、症状の重症度に応じてプロスタグランジン製剤や血管作動性物質の投与を組み合わせます。

血管拡張薬による基本的な治療戦略

カルシウム拮抗薬は、血管平滑筋細胞内へのカルシウムイオンの流入を抑制することで、末梢血管の持続的な拡張作用をもたらすことから、レイノー現象の第一選択薬として広く使用されています。

ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬は、末梢血管への選択性が高く、副作用が比較的少ないです。

ニフェジピンやアムロジピンといった薬剤は、血管平滑筋の収縮を効果的に抑制することで、発作の頻度や重症度を軽減できます。

薬剤分類代表的な薬剤名主な作用機序
カルシウム拮抗薬ニフェジピン、アムロジピン血管平滑筋の弛緩
α遮断薬プラゾシン交感神経抑制
PDE5阻害薬シルデナフィル血管拡張作用

重症例に対する注射療法

重症例や難治性の症例においては、プロスタグランジンE1製剤の静脈内投与や、局所血流を改善するためのボツリヌス毒素の局所注射といった治療選択肢を考慮することがあります。

プロスタグランジンE1製剤は、強力な血管拡張作用を持ち、血小板凝集抑制作用も併せ持つことから、虚血性の組織障害が進行している場合の治療として有効です。

注射療法の種類

  • プロスタグランジンE1静脈内投与
  • アルプロスタジル動注療法
  • ボツリヌス毒素局所注射
  • 交感神経ブロック療法
  • 硬化療法

血管作動性物質による治療アプローチ

エンドセリン受容体拮抗薬は、血管収縮物質であるエンドセリンの作用を阻害することで、持続的な血管拡張効果を発揮します。

全身性強皮症に伴う二次性レイノー現象では、エンドセリン受容体拮抗薬の投与により、デジタルアルサーの発症予防や既存の潰瘍の治癒促進効果が期待できます。

治療薬投与経路期待される効果
エンドセリン受容体拮抗薬経口血管拡張持続
プロスタグランジンE1静脈内急性期改善
抗血小板薬経口血流改善

併用療法

複数の作用機序の異なる薬剤を組み合わせることで、より効果的な治療効果を得られることがあります。

併用療法で考慮される薬剤の組み合わせ

  • カルシウム拮抗薬+PDE5阻害薬
  • カルシウム拮抗薬+プロスタグランジン製剤
  • エンドセリン受容体拮抗薬+抗血小板薬
  • α遮断薬+血管拡張薬
  • 局所療法+全身療法

薬物療法の効果は、発作の頻度や重症度、末梢循環動態の改善度などを評価しながら、投与量の調整や薬剤の変更を検討していきます。

薬の副作用や治療のデメリットについて

レイノー現象の治療では、血管を拡張させる薬剤や血液の流れを改善する薬剤を使用しますが、これらの医薬品にはそれぞれ特有の副作用があります。

血管拡張薬に関連する副作用

カルシウム拡張薬の使用では、血管拡張作用により頭痛や顔面紅潮、めまいなどの症状が現れることがあり、服用開始直後は血圧が大きく低下することがあるので注意が必要です。

長期的な服用を続けることで、足首やふくらはぎにむくみが生じたり、歯肉が腫れ上がったりする副作用も報告されています。

薬剤分類主な副作用発現頻度
カルシウム拡張薬頭痛、めまい10-15%
血管拡張薬低血圧、動悸5-10%
抗血小板薬出血傾向、胃部不快感3-8%

血液循環改善薬のリスク

プロスタグランジン製剤の点滴治療では投与中に血管拡張に伴う顔面紅潮や頭痛、吐き気などが起こることがありますが、投与速度の調整により軽減できます。

抗血小板薬の使用により、皮下出血が起こりやすくなったり、歯茎からの出血が増加したりする傾向があるため、日常生活での怪我には注意が必要です。

  • 血管拡張に伴う頭痛
  • 投与部位の静脈炎
  • 消化器症状の出現
  • 血圧低下によるめまい
  • 心拍数増加による動悸

免疫抑制薬使用時の注意点

免疫抑制薬を使用する際には、感染症のリスクが高まることから、風邪などの一般的な感染症にも注意を払う必要があり、定期的な血液検査によるモニタリングが欠かせません。

長期的な免疫抑制薬の使用では、骨密度の低下や肝機能障害などの副作用が懸念されるため、臓器機能を定期的にチェックしていく必要があります。

副作用の種類観察ポイントモニタリング間隔
骨密度低下骨密度検査6-12ヶ月
肝機能障害肝機能検査1-3ヶ月
腎機能障害腎機能検査1-3ヶ月

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

薬物療法にかかる費用

薬物療法では、カルシウム拮抗薬、プロスタグランジンE1製剤、エンドセリン受容体拮抗薬などを使用します。

治療内容保険適用自己負担額(3割負担の場合)
一般的な血管拡張薬(1ヶ月分)適用3,000円〜5,000円
カルシウム拮抗薬(1ヶ月分)適用4,000円〜6,000円
プロスタグランジンE1点滴(1回)適用5,000円〜8,000円
血液検査一式適用3,000円〜5,000円

特殊検査と画像診断の費用

  • 毛細血管顕微鏡検査 1回あたり4,000円から6,000円
  • 血管造影検査 1回あたり15,000円から20,000円
  • サーモグラフィー検査 1回あたり3,000円から5,000円

治療に関連する追加費用

  • 弾性着衣(手袋):8,000円〜12,000円
  • 血流改善用医療機器:20,000円〜30,000円
  • 局所保温用具:5,000円〜8,000円
  • 患肢保護用品:3,000円〜5,000円

入院治療が必要な場合の費用

重症例で入院治療が必要となった場合、基本的な入院費用は1日あたり15,000円から20,000円で、点滴治療や特殊治療を行うと追加の費用がかかります。

入院内容期間概算費用(3割負担)
一般病棟入院1週間10万円〜15万円
点滴治療含む入院2週間20万円〜25万円
特殊治療含む入院3週間25万円〜30万円

以上

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大垣中央病院・こばとも皮膚科

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