網状皮斑(リベド)(livedo reticularis)とは、皮膚の表面に特徴的な網目状の青紫色の模様が浮かび上がる血管の状態で、主に皮膚の細い血管の収縮と拡張によって起こる症状です。
この症状は寒冷刺激や長時間の同一姿勢により悪化する傾向があり、気温の低下時には皮膚の血管が敏感に反応して、より鮮明な網目模様として現れます。
四肢、特に下肢に好発する傾向がありますが、状況によっては体幹部にも症状が現れることがあり、皮膚の深部に存在する細い血管の状態が表面に反映されたものとして観察できます。
この記事の執筆者
小林 智子(こばやし ともこ)
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長
2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。
こばとも皮膚科関連医療機関
網状皮斑(リベド)の症状
血管障害の一種である網状皮斑(リベド)は、皮膚表面に紫がかった網目状の模様が浮き出る症状が現れます。
網状皮斑の基本的な症状
網状皮斑(リベド)における最も重要な特徴は、皮膚表面に現れる網目状の変色パターンで、この模様は血管の拡張と収縮によって起こり、四肢や体幹部に症状が出ることが多いです。
寒冷環境に曝露されることで症状が顕著になり、網目状の模様は紫がかった赤色から青紫色まで様々な色調を示します。
皮膚表面の変化に加えて、患者さんによっては軽度の痛みやしびれ感を伴うことがあり、これらの感覚異常は血流の低下による末梢神経への影響です。
症状の特徴 | 好発部位 | 色調の変化 |
網目状の模様 | 下肢・体幹 | 紫紅色~青紫色 |
対称性の分布 | 上肢・臀部 | 淡い紫色~暗紫色 |
環状のパターン | 足首周囲 | 赤紫色~暗赤色 |
症状の進行と変化
網状皮斑の症状は、温度変化や身体活動によって変動し、特に寒冷環境下での血管収縮反応により症状が増悪します。
長期的な経過においては、皮膚の色調変化がより明確になることがあり、慢性期には網目状のパターンがより顕著です。
進行段階 | 主な特徴 | 随伴症状 |
初期段階 | 淡い網状変化 | 軽度の違和感 |
進行期 | 明確な網目模様 | 感覚異常 |
慢性期 | 持続的な変色 | 組織の変化 |
特殊な症状パターン
網状皮斑の症状は、様々な形態や分布パターンを示し、全身性の基礎疾患を伴う場合には、より複雑な症状を呈します。
血管炎を伴う際には、網状皮斑に加えて皮膚の潰瘍形成や壊死性変化が現れることがあり、症状は下肢末端部に多く見られ、また、自己免疫疾患に関連する場合には、関節症状や筋肉症状を伴うことがあります。
- 非対称性の網状変化
- 多発性の皮膚潰瘍
- 関節周囲の紫斑
- 末梢循環障害
- 血管炎性病変
網状皮斑(リベド)の原因
網状皮斑(リベド)は、皮膚の細い血管の収縮と拡張のバランスが崩れることによって起こり、原因は大きく分けて原発性と続発性の二つです。
基本的なメカニズムと病態生理
血管の収縮と拡張のメカニズムは、自律神経系による精密な制御を受けており、皮膚の深層に存在する細動脈と細静脈のバランスが重要な役割を果たしています。
寒冷環境や長時間の圧迫などの外的要因により、血管壁に存在する平滑筋が過剰に反応することで、血流のバランスが乱れ、特徴的な網目状の模様が現れるのです。
血管反応の種類 | 関与する因子 | 影響を受ける血管 |
収縮反応 | 交感神経 | 細動脈 |
拡張反応 | 副交感神経 | 細静脈 |
局所反応 | 血管作動物質 | 毛細血管 |
原発性の網状皮斑における原因解析
原発性の網状皮斑は、特定の基礎疾患がない状態で発症する型で、いくつかの要因が関与しています。
- 遺伝的要因による血管壁の脆弱性
- 自律神経系の機能異常
- 血管反応性の個人差
- 皮膚の微小循環障害
- 血管平滑筋の過敏性
続発性の網状皮斑を引き起こす基礎疾患
続発性の網状皮斑は、様々な全身性疾患や血液障害に伴って発症することが多く、基礎疾患の特徴を反映しています。
基礎疾患の分類 | 代表的な疾患名 | 発症メカニズム |
膠原病 | 全身性エリテマトーデス | 血管炎症 |
血液疾患 | 抗リン脂質抗体症候群 | 血栓形成 |
代謝異常 | 高脂血症 | 血液粘稠度上昇 |
特に自己免疫疾患との関連性が強く、血管内皮細胞への炎症性変化や微小血栓の形成が重要な発症機序です。
環境要因と生活習慣の影響
日常生活における様々な環境因子や生活習慣が、網状皮斑の発症や増悪に関与することが知られいます。
- 寒冷環境への長時間の曝露
- 不適切な着衣による体温調節の乱れ
- 長時間の同一姿勢による血流障害
- 過度な温度変化にさらされる環境
- 慢性的な疲労やストレス
とりわけ、気温の変化や湿度の影響は、血管の収縮と拡張のバランスに直接的な影響を及ぼすことから、季節の変わり目には注意が必要です。
また、長時間のデスクワークや立ち仕事など、現代社会における生活様式の変化も、血流障害を起こす可能性があります。
網状皮斑(リベド)の検査・チェック方法
網状皮斑(リベド)の診断においては、特徴的な網目状の皮膚所見の視診による臨床診断を基本としながら、基礎疾患の有無を確認するための血液検査や画像診断を組み合わせます。
基本的な診察方法と臨床所見の評価
網状皮斑の診察では、皮膚の色調変化や網目状のパターンを観察することから始まり、自然光での観察が皮膚の微細な変化を見逃さないために大変重要です。
皮膚の視診では、網目状の模様の分布範囲、色調の濃淡、左右差の有無などを確認します。
触診による皮膚温の評価や、皮膚の硬さ、圧痛の有無なども併せて確認することで、血流障害の程度や炎症の存在を判断する手がかりです。
診察項目 | 評価ポイント | 臨床的意義 |
視診所見 | 網目状模様の明瞭度 | 重症度評価 |
触診所見 | 皮膚温・硬度変化 | 血流障害の評価 |
圧痛検査 | 圧痛の有無と程度 | 炎症所見の確認 |
血液検査による全身評価
血液検査では、自己抗体検査や凝固系検査を含む検査項目を評価することにより、網状皮斑の背景にある全身性疾患や血管炎症候群の有無を確認します。
炎症マーカーの測定は、疾患活動性の評価において不可欠な要素となり、特にCRPやESRの値は経過観察においても参考となる指標です。
また、自己抗体検査では、抗核抗体やループスアンチコアグラント、抗カルジオリピン抗体などの測定を行い、基礎疾患を特定していきます。
- 一般血液検査(血算・生化学)
- 炎症マーカー(CRP・ESR)
- 自己抗体スクリーニング
- 凝固系検査
- 補体価測定
画像診断による血管評価
血管超音波検査では、皮膚血流の状態や血管の形態学的変化を非侵襲的に評価でき、ドップラー法を用いることで血流速度や方向性などの情報が得られます。
より詳細な血管評価が必要な時には、CT血管造影やMR血管造影などの精密検査を実施することで、大血管から細動脈レベルまでの血管病変を評価することが可能です。
画像診断法 | 評価対象 | 特徴と利点 |
超音波検査 | 表在血管 | 非侵襲的・即時性 |
CT血管造影 | 深部血管 | 高解像度・立体表示 |
MR血管造影 | 全身血管 | 造影剤不要・安全性 |
皮膚生検
皮膚生検は、血管炎の存在や血管壁の変化を直接的に確認できる検査方法です。
生検標本の病理組織学的検査では、血管周囲の炎症細胞浸潤や血管壁の変性、フィブリノイド壊死などの所見を観察することで、疾患の本態を明らかにできます。
さらに、免疫組織化学染色を追加することで、より詳細な病態解析が可能となり、血管炎を伴う症例では診断の確実性を高めます。
- HE染色による基本的評価
- 免疫組織化学染色
- 蛍光抗体法による検査
- 電子顕微鏡による観察
- 特殊染色による評価
網状皮斑(リベド)の治療法と治療薬について
網状皮斑(リベド)の治療は、原因疾患の種類や重症度に応じて、血管拡張薬や抗血小板薬などの薬物療法を中心に進めます。
基本的な治療戦略と薬物療法
血管拡張薬による治療は症状の改善に不可欠で、プロスタグランジンE1製剤やベラプロストナトリウムなどの血管拡張作用を持つ薬剤が広く使用されます。
薬剤は、血管平滑筋に直接作用して血管を拡張させ血流を改善することで、網状皮斑の特徴的な皮膚症状の軽減が可能です。
薬剤分類 | 主な薬剤名 | 作用機序 |
血管拡張薬 | プロスタグランジンE1 | 血管平滑筋弛緩 |
抗血小板薬 | シロスタゾール | 血小板凝集抑制 |
血流改善薬 | ベラプロストナトリウム | 微小循環改善 |
抗凝固療法と血液循環改善
続発性の網状皮斑、特に血栓性素因を伴う症例では、抗凝固療法が重要な治療選択肢で、ワルファリンやヘパリンなどの抗凝固薬を使用します。
血液凝固能のコントロールには定期的な凝固能検査を行いながら、個々の患者さんの状態に合わせて投与量を決定することが大切です。
- 低分子量ヘパリン皮下注射
- ワルファリンによる経口抗凝固療法
- 新規経口抗凝固薬(DOAC)
- アスピリンなどの抗血小板薬
- シロスタゾールによる血流改善治療
免疫調節療法と炎症制御
自己免疫疾患に伴う網状皮斑の場合、免疫系の異常を制御することが症状改善の鍵となることから、ステロイド薬や免疫抑制薬による治療を行うことがあります。
治療法 | 使用薬剤 | 期待される効果 |
ステロイド療法 | プレドニゾロン | 炎症抑制 |
免疫抑制療法 | シクロスポリン | 免疫反応制御 |
生物学的製剤 | 抗TNF-α抗体 | サイトカイン阻害 |
血管機能改善のための補助療法
薬物療法と併用して、物理療法や局所療法などの補助的な治療法を組み合わせることで、より効果的な症状改善を目指します。
- 局所保温療法
- 弾性ストッキングの使用
- 低周波治療
- 血液循環促進マッサージ
- 光線療法
治療効果の判定には4週間から8週間程度の経過観察が必要で、症状の改善が見られない場合は、治療内容の見直しや原因となる基礎疾患の再評価を行います。
また、原発性の網状皮斑では、血管拡張薬による治療が中心となりますが、続発性の場合は基礎疾患の治療が最も重要な治療です。
また、免疫抑制療法を行う際は、感染症のリスクを考慮しながら投与量を調整していき、特に、ステロイド薬の長期使用に関しては、副作用の発現に十分な注意を払いながら、必要最小限の投与量で効果が得られるよう調整を行っていきます。
薬の副作用や治療のデメリットについて
網状皮斑(リベド)の治療では、血管拡張薬や抗凝固薬などの使用に伴い、出血傾向の増加や血圧変動などの副作用が生じることがあります。
血管拡張薬による副作用
血管拡張薬の使用では、血管を広げる作用により急激な血圧低下を起こすことがあり、投与開始時や用量調整時には注意深いモニタリングが必要です。
薬剤の血管拡張作用により、頭痛や顔面紅潮などの症状が生じることがあり、症状は投与開始から数時間以内に現れます。
長期的な血管拡張薬の使用では末梢血管の反応性が変化し、立ちくらみや起立性低血圧などの症状が現することがあります。
副作用の種類 | 発現時期 | 主な症状 |
即時性反応 | 投与直後 | 血圧低下・頭痛 |
遅発性反応 | 数日後 | めまい・倦怠感 |
慢性反応 | 長期使用後 | 起立性低血圧 |
抗凝固薬関連の副作用
抗凝固薬の使用に伴う最も注意すべき副作用は出血傾向で、特に消化管出血や脳出血などの重篤な出血性合併症のリスクが増加します。
抗凝固療法中は、軽微な外傷でも予想以上の出血や皮下出血を起こしやすくなり、長期的な抗凝固療法では、骨密度の低下や肝機能への影響などにも注意が必要です。
- 皮下出血の増加傾向
- 歯肉出血の頻発
- 月経量の増加
- 消化管出血のリスク
- 頭蓋内出血の危険性
免疫抑制薬による合併症
免疫抑制薬の使用では、感染症に対する抵抗力が低下することで、通常では問題とならない微生物による感染症を引き起こす可能性が高いです。
また、骨髄抑制作用により、白血球減少や血小板減少などの血液学的な異常が生じることもあります。
合併症の種類 | 監視項目 | 予防対策 |
感染症 | 発熱・炎症反応 | 衛生管理強化 |
骨髄抑制 | 血球数変動 | 定期的検査 |
臓器障害 | 機能検査値 | 用量調整 |
ステロイド薬の全身性副作用
ステロイド薬の使用による副作用は多岐にわたり、長期使用においては代謝異常や内分泌系への影響が現れやすくなります。
血糖値の上昇や脂質異常症の発現、さらには骨粗鬆症の進行など、代謝系全体に及ぶ影響について継続的な観察が必要です。
副腎機能の抑制はステロイド薬使用における重要な副作用の一つであり、長期使用後の急な中止は副腎不全を起こす危険性があります。
- 満月様顔貌の出現
- 体重増加傾向
- 皮膚の菲薄化
- 易感染性の増加
- 骨密度の低下
薬物相互作用による問題
複数の薬剤を併用する際には、それぞれの薬剤の代謝経路や作用機序の違いにより、予期せぬ相互作用が生じることがあります。
抗凝固薬と抗炎症薬の併用では、出血リスクが相乗的に増加する可能性があり、消化管出血のリスクについては慎重な経過観察が大切です。
血管拡張薬と降圧薬の併用においては、過度の血圧低下を引き起こす可能性があり、投与量の調整や血圧モニタリングが不可欠となります。
保険適用と治療費
以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。
基本的な治療費用の構成
治療内容 | 保険適用 | 自己負担額(3割負担) |
血管拡張薬(月額) | 適用 | 3,000円~8,000円 |
抗凝固薬(月額) | 適用 | 4,000円~12,000円 |
免疫抑制薬(月額) | 適用 | 8,000円~25,000円 |
血液検査(1回) | 適用 | 5,000円~15,000円 |
専門的な治療における費用
- 免疫抑制療法 月額8,000円から25,000円程度
- 生物学的製剤 1回の投与で10万円以上
- 血液検査や画像診断 15,000円から30,000円程度
長期的な治療費用の目安
治療開始から症状が安定するまでの期間は、より頻繁な通院と検査が必要です。
治療期間 | 通院頻度 | 概算医療費(月額) |
初期治療期(1-3か月) | 週1-2回 | 30,000円~50,000円 |
調整期(3-6か月) | 2週に1回 | 20,000円~40,000円 |
維持期(6か月以降) | 月1-2回 | 10,000円~30,000円 |
以上
参考文献
Fleischer AB, Resnick SD. Livedo reticularis. Dermatologic clinics. 1990 Apr 1;8(2):347-54.
Rose AE, Saggar V, Boyd KP, Patel RR, McLellan B. Livedo reticularis. Dermatology Online Journal. 2013;19(12).
Gibbs MB, English III JC, Zirwas MJ. Livedo reticularis: an update. Journal of the American Academy of Dermatology. 2005 Jun 1;52(6):1009-19.
WILLIAMS CM, Goodman H. Livedo reticularis. Journal of the American Medical Association. 1925 Sep 26;85(13):955-8.
EBERT MH. Livedo reticularis. Archives of Dermatology and Syphilology. 1927 Oct 1;16(4):426-41.
Dean SM. Livedo reticularis and related disorders. Current treatment options in cardiovascular medicine. 2011 Apr;13:179-91.
Feldaker M, HINES JR EA, KIERLAND RR. Livedo reticularis with ulcerations. Circulation. 1956 Feb;13(2):196-216.
In SI, Han JH, Kang HY, Lee ES, Kim YC. The histopathological characteristics of livedo reticularis. Journal of cutaneous pathology. 2009 Dec;36(12):1275-8.
Champion RH. Livedo reticularis. A review. British Journal of Dermatology. 1965 Apr 1;77(4):167-79.
Sneddon IB. Cerebro‐vascular lesions and livedo reticularis. British Journal of Dermatology. 1965 Apr;77(4):180-5.