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痒疹（ようしん、prurigo）とは、激しい痒みを伴う、孤立した丘疹や小結節のことです。
主に、虫刺されやアトピー性皮膚炎によって引き起こされることが多く、強い痒みから患者さんの睡眠や日常生活に影響を及ぼすことがあります。
この記事では、痒疹について詳しく解説していきましょう。
この記事の執筆者
小林 智子（こばやし ともこ）
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長
2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。
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痒疹（ようしん）の病型
「痒疹（ようしん）」とは、強い痒みを伴う孤立性の丘疹や小結節のことで、湿疹による丘疹と異なり、他の発疹に変化しないのが特徴です。
臨床経過や症状から、いくつかの病型に分かれます。
痒疹の病型
痒疹は臨床経過から
- 急性痒疹
- 亜急性痒疹（単純性痒疹）
- 慢性痒疹
に分類されます。ただし、亜急性痒疹については痒疹に属さないとする考え方もあり、その分類には議論が分かれます。
慢性痒疹は臨床症状からさらに
- 多形慢性痒疹
- 結節性痒疹
に分類されます。
痒疹の病型一覧
| 病型 | 詳細 | |
|---|---|---|
| 急性痒疹 | 虫刺症に伴う丘疹で数週間で軽快する | |
| 亜急性痒疹 | （単純性痒疹） | 蕁麻疹様の紅色丘疹で慢性型への移行も |
| 慢性痒疹 | 多形性痒疹 | 高齢者の腰部などに好発する苔癬化局面 |
| 結節性痒疹 | 四肢などを中心に多発する硬い結節 | |
痒疹（ようしん）の症状・原因
痒疹の症状は、病型によっても異なります。
急性痒疹の症状
急性痒疹は節足動物に噛まれることによって起こる痒疹です。2〜7歳の小児に起こりやすく、強い痒みを伴い、別名ストロフルス性痒疹と呼ばれ、アトピー性皮膚炎などの既往があると認めやすい傾向に。
虫刺されが起こりやすい四肢の露出部や肘、肩などに好発し、節足動物に対する遅延型の過敏反応によると考えられています。
多形性痒疹の症状
慢性痒疹の一つである多形性痒疹では、側腹部や腰部などに赤褐色調の痒疹が多発し、時に苔癬化した局面として認めることがあります。
痒みによる掻破のために痂皮を伴うことも多く、慢性の経過で再発を繰り返すのが特徴です。
結節性痒疹の症状
典型的な結節性痒疹では、四肢の伸側に赤褐色調の痒疹が多発し、強い痒みを伴います。顔面や上背部、手足などは通常症状を認めません。アトピー性皮膚炎などの他疾患との合併例も多く、頻度は女性の方が高い傾向にあります。
アフリカ系アメリカ人の発症率は白人患者の約3倍という報告もあり、遺伝的素因が関係しているのではないかと言われていますが、原因については明らかでありません。
急性痒疹が節足動物の外的要因で起こる一方、結節性痒疹は内部悪性腫瘍や腎不全、精神疾患などによって誘発されるという指摘もあり、内的な要因が関係している可能性も。
病変部ではリンパ球や好酸球の浸潤が見られ、好酸球カチオンタンパク質などの好酸球に由来するタンパク質が増加することで痒みが起こると考えられ、また、痒みを誘発するインターロイキン-31（IL-31）も増加しています。
痒疹（ようしん）の検査・チェック方法
痒疹は特徴的な臨床所見と経過から、視診によってある程度診断は可能ですが、診断の補助として、いくつかの検査を行うことがあります。
ダーモスコピー
結節性痒疹では、ダーモスコピーで赤色の点状(dots)と光沢性のある白色領域とその周辺の線条を認め、さらに、掻破によって潰瘍や出血を認めることもあります。
直接鏡検・皮膚生検
痒疹の鑑別疾患には、
- 疥癬
- 結節性類天疱瘡
- 痒疹型先天性表皮水疱症
などがあり、鑑別のために直接鏡検（KOH法）や皮膚生検などが行われることもあります。
皮膚生検で病変部の一部をくり抜き、顕微鏡にて細胞の変化を確認。結節性痒疹では、表皮肥厚（表皮過形成）や不全角化（orthohyperkeratosis）、真皮上層の炎症性細胞の浸潤などを認めます。
血液検査
重度の結節性痒疹では悪性腫瘍や腎疾患、肝疾患などの可能性もあり、スクリーニングのために血液検査を行うことがあります。
痒疹（ようしん）の治療方法と治療薬
痒疹は強い痒みによって精神的苦痛を伴うことも多く、治療では炎症を抑え、かゆみを軽減することが大切です。外用薬、内服薬、光線療法、スキンケアや生活習慣の改善が含まれます。
外用薬
外用薬には、ステロイド外用薬や非ステロイド外用薬があり、直接、皮膚に塗布することで炎症を抑え、かゆみを緩和します。
特にステロイド外用薬は痒疹に対して第一選択薬です。ステロイド外用薬は強さによってランクが分かれ、痒疹の場合はVery Strong以上の比較的強いタイプを選択することに。
単純塗布あるいはODTと言って薬を塗った後に被覆剤などを密着して貼付することでより高い効果が期待できます。
非ステロイド外用薬として、タクロリムス軟膏（プロトピック軟膏）などが挙げれますが、急性期に使用されることは少なく、日本では保険適用外です。
外用薬の一覧
| 治療薬の種類 | 成分名 | 用途 |
|---|---|---|
| 外用ステロイド薬 | ヒドロコルチゾン | 軽度の炎症とかゆみの緩和 |
| 非ステロイド外用薬 | タクロリムス軟膏 | 長期的な炎症管理 |
内服薬
内服薬は、アレルギー反応を抑制する抗ヒスタミン薬を外用薬と併用することが多いです。また、難治性の結節性痒疹に対してはシクロスポリン（ネオーラル）を試すことがありますが、保険適用ではありません。
ステロイド内服薬についても、有効性に対する副作用の懸念から推奨されておらず、急性増悪時の短期間のみ使用を検討するのが一般的です。
光線療法
エキシマライトやナローバンドUVBなどは、これまでに有効性が報告されており、ステロイド外用薬や抗ヒスタミン内服薬との併用も可能です。ただし、日本においては保険適用外の治療となります。
ネモリズマブ
ネモリズマブはヒト化抗ヒトIL-31受容体モノクローナル抗体で、IL-31によって引き起こされる痒みを抑える作用があります。
もともとアトピー性皮膚炎に伴うそう痒に対して保険適用となっていました。アメリカでは結節性痒疹に対してFDA承認されており、日本でも治験が行われています。
その他
結節部にステロイドの局所注射をしたり、透析を行っている腎疾患患者さんや肝疾患患者さんに対してはナルフナフィン塩酸塩の内服を行うことがあります。
生活習慣やスキンケア
痒疹の治療では、薬物治療だけでなく、生活習慣やスキンケアの見直しも大切な役割を果たします。
生活習慣・スキンケアのポイント
- 皮膚の乾燥を防ぐため、入浴後は保湿剤を適切に使用。
- 刺激の少ない石鹸を使用し、温水で洗う。
- 細菌感染のリスクを減らすため、爪を短く保つ。
痒疹（ようしん）の治療期間
痒疹の治療期間は、急性痒疹と慢性痒疹で大きく異なります。
通常急性痒疹は数週間程度で改善を認めることが多い一方、慢性痒疹は数ヶ月〜数年以上と個人差が大きいです。特に腎疾患など合併している疾患がある患者さんは、治療期間が長期になる傾向があります。
薬の副作用や治療のデメリット
痒疹に対する薬物療法には、副作用やデメリットもあります。
痒疹の薬や治療の副作用及びデメリット
| 治療方法 | 主な副作用 | デメリット |
|---|---|---|
| ステロイド外用薬 | 皮膚の菲薄化、毛細血管拡張 | 長期使用による副腎皮質の機能抑制の可能性 |
| 抗ヒスタミン薬 | 眠気、めまい | 薬によっては中枢神経系への影響あり |
| シクロスポリン （ネオーラル） | 感染症リスク増加、胃腸系の副作用 | 定期的な採血が必要 |
| 光線療法 | 皮膚がんリスクの若干の上昇 | 定期的な通院が必要 |
治療中に副作用を認めたときは、早急に主治医に相談してください。
保険適用の有無と治療費の目安について
痒疹（ようしん）の治療では、保険が適用されるものとされないものがあります。
| 保険適用あり | 保険適用なし |
|---|---|
| ステロイド外用薬抗ヒスタミン薬 | タクロリムス軟膏シクロスポリン光線療法ステロイド局注 |
この他に、初診料及び再診料などが別途かかります。詳しくはお問い合わせください。
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