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血管性浮腫

血管性浮腫

血管性浮腫(angioedema)とは真皮下層から脂肪組織解といった深部に起こる浮腫で、蕁麻疹の一種です。

遺伝性と非遺伝性のものがあり、唇や舌、まぶたなどに限局した症状を認めます。

普通の蕁麻疹よりも皮膚の深いところが腫れるため、痒みは通常ありません。

ここでは血管性浮腫について解説していきます。

この記事の執筆者

小林 智子(日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士)

小林 智子(こばやし ともこ)

日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長

2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。

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医療法人社団豊正会大垣中央病院

目次

血管性浮腫の病型

血管性浮腫にはさまざまな病型分類があり、古典的分類では、非遺伝性のものと遺伝性のものに分けられていましたが、近年国際ガイドラインが作成され、メディエータによる新しい分類が提唱されました。

*メディエータ:体内でさまざまな細胞から放出され他の細胞に働きかける化学物質の総称

血管性浮腫の新分類

血管性浮腫の分類関与するメディエータ古典的分類蕁麻疹の合併の有無
肥満細胞メディエータ起因性(頻度高い)IgE介在あり外来物質起因性血管性浮腫アレルギー性蕁麻疹、食物依存性運動誘発アナフィラキシーなど
IgE介在なしアスピリン蕁麻疹、非アレルギー性蕁麻疹
ブラジキニン起因性(頻度低い)C1-INH欠損・機能障害(遺伝性あり、HAE-1、HAE-2)C1-INHなし
C1-INH欠損・機能障害(遺伝性なし、AAE)
C1-INH正常(遺伝性あり、HAE-3)特発性血管性浮腫なし
C1-INH正常(遺伝性なし、薬剤性)外来物質起因性血管性浮腫なし
メディエータ不明特発性不明

血管浮腫の新しい病型分類

血管性浮腫は、大きく分けて

  1. 肥満細胞メディエータ起因性
  2. ブラジキニン起因性

の2つに分類されます。

上記の2つに加えて、臨床ではさらにメディエータ不明の特発性の血管性浮腫に分類されることがあり、このうち多いのは肥満細胞起因性のタイプで、全体の約7割を占めます。

一方、日本の蕁麻疹診療ガイドライン2018では、血管性浮腫を

  1. 特発性の血管性浮腫
  2. 刺激誘発型の血管性浮腫
  3. ブラジキニン起因性の血管性浮腫
  4. 遺伝性血管性浮腫

の4つのタイプに分類しています。

この分類だと、

  • 肥満細胞メディエータ起因性:特発性の血管性浮腫、刺激誘発型の血管性浮腫
  • ブラジキニン起因性:ブラジキニン起因性の血管性浮腫、遺伝性血管性浮腫

にそれぞれ該当します。

メディエータで分類するのは、治療に対する反応が異なるためです。

肥満細胞メディエータ起因性のタイプは、蕁麻疹とメカニズムが共通しており、蕁麻疹の治療薬である抗ヒスタミン薬がよく効きます

一方、ブラジキニン起因性のものは比較的まれであり、抗ヒスタミン薬は無効で、中には喉頭浮腫などを起こし致死的になることも

血管性浮腫の症状・病態

血管性浮腫の主な症状

血管性浮腫では、口唇や舌といった顔面の粘膜移行部に限局する浮腫が特徴です。ただし、メディエータによっても臨床症状は少し異なります。

血管性浮腫
引用元:https://www.msn.com/en-my/health/condition/angioedema/hp-Angioedema

肥満細胞メディエータ起因性

蕁麻疹と一緒に症状を認めることが多く、かゆみを伴うのが一般的です。

発症は急速で、血圧低下やショック症状を伴うことがあります。浮腫の持続時間は比較的短く、半日以内に症状がおさまることが多いです。

ブラジキニン起因性

ブラジキニン起因性では同じく口唇や舌などの浮腫症状は認める点では共通していますが、蕁麻疹を伴うことはなく、突っ張るような痛みを伴います。

浮腫は顔面だけでなく、陰部や手足の末梢などに現れることも。また、皮膚以外に喉頭や腸管の粘膜といった部位にも浮腫が出ることがあり、特にC1-INH欠損や機能障害を伴うタイプでは腹痛発作を繰り返すことがあります。

浮腫の持続時間は肥満細胞メディエータ起因性のタイプと比べると、長い傾向があり、数日間症状が続きます。

ブラジキニン起因性の病態

ブラジキニンというのは、強力な血管作動性物質および発痛物質です。何らかの原因でブラジキニンの産生が増えたり分解が阻害されると、受容体を介して血管拡張や血管性透過性が亢進して浮腫が生じます。

ブラジキニン起因性の血管性浮腫には遺伝性のタイプがあり(遺伝性血管性浮腫:HAE)、HAEにはC1-INH(インヒビター)の異常の有無によって3つのタイプが。

  1. HAE-1:C1-INHが量的に低下しているタイプ(85%程度)
  2. HAE-2:C1-INHの活性が低下しているタイプ(15%程度)
  3. HAE-3:C1-INHの異常なし(まれ)

HAE-1、2はC1-INH遺伝子の変異による常染色体優勢遺伝の疾患で、C1-INHは血液凝固系のカリクレインの活性を阻害します。C1-INH活性が低下するとカリクレインが阻害されず、ブラジキニンの産生が亢進し、浮腫が起こることに。

そして、遺伝的要因がないブラジキニン起因性のタイプで、降圧薬であるACE阻害薬によって起こる薬剤性血管性浮腫もあります。ACE阻害薬は、ブラジキニンを分解するキニナーゼを阻害することで、ブラジキニンを増加させます。

ACE阻害薬による薬剤性血管性浮腫はまれな疾患ですが、上気道閉塞の頻度が4割程度と高く、気道閉塞によって致死的になるケースがあり、注意が必要です。

血管性浮腫の検査・診断

血管性浮腫では、急に発症する顔面、特に口唇や舌などの限局した浮腫が特徴です。そのような症状を見たらまず血管性浮腫を鑑別に考えますが、診断の際には以下のようなことに注意します。

  • 病歴:薬剤や抜歯、感染などの誘発因子を含めて詳しく問診。また、喉頭や腸管などの内蔵粘膜の浮腫の既往があるかどうか、蕁麻疹の合併があるかどうかも病型を判断するために重要な項目に。
  • 家族歴:常染色体優性遺伝であり、家族歴を聴くことが非常に重要。家族歴と臨床像から診断。
  • 薬剤歴:ACE阻害薬などの薬剤歴の有無について確認。

これらの問診によって血管性浮腫が疑わしいときは、まずスクリーニング検査として血中C4およびC1-INH活性を測定。C4が低値である場合はHAEの可能性が高くなります。

引用元:https://angioedemanews.com/what-is-angioedema/

血管性浮腫の治療方法と治療薬

血管性浮腫の中には、上気道の浮腫によって一刻も早い対応が必要なことがあります。

初期対応

肥満細胞メディエータ起因性で蕁麻疹およびアナフィラキシー症状を引き起こしているときには、アナフィラキシーガイドラインに準じて治療を行います。

抗ヒスタミン薬やステロイドの全身投与に加え、呼吸困難などを示す場合はアドレナリンを投与。

一方、ブラジキニン起因性でHAEが疑われるときには、C1-INH製剤の補充療法(静脈注射)を行います。このようなon demand治療としては、近年ブラジキニンB2拮抗薬であるイカチバンドが保険適用です。

発作時はon demand治療をできるだけ早期に行うことが推奨されています。

発作予防

血管性浮腫のうち、特にHAEについては発作予防が大切です。薬剤性の場合は疑わしい薬剤の中止が大切ですが、それ以外の予防法として、短期予防と長期予防の2つの概念があります。

  • 短期予防:外科手術などの侵襲が高くストレスがかかるような状況が予定されている際、その前に原因物質が判明している場合は、C1-INH製剤補充療法を行い、予防治療を行うことが推奨されています。
  • 長期予防:浮腫の症状が1ヶ月に1回以上出現するようなときには、長期予防のためにアンドロゲン製剤やトラネキサム酸の投与を検討します(いずれも保険適用外)。

血管性浮腫の治療期間

通常、血管性浮腫の予後は良好で、診断がついても全く発作を起こさないこともあります。大切なのは早期診断と早期治療です。早期診断することで、定期的なフォローアップが可能になります。

そうすることで、発作が起きた場合薬剤を迅速に投与でき、気道の浮腫による窒息を予防することが可能です。

薬の副作用や治療のデメリット

血管性浮腫の治療に用いられる薬物には、抗ヒスタミン薬、ステロイド薬、アンドロゲン製剤、トラネキサム酸などが。ただし、副作用もあります。

血管性浮腫の治療薬の主な副作用

薬剤名主な副作用
抗ヒスタミン剤眠気、口腔内乾燥
ステロイド体重増加、高血圧、糖尿病、緑内障、精神症状
C1-INH製剤頭痛、腹痛、皮膚反応
アンドロゲン製剤体重増加、頭痛、肝障害
トラネキサム酸消化不良、下痢、視覚障害

さらにデメリットとして、一部の薬剤は保険が適用されず治療費が高額となることがあります。

保険適用の有無と治療費の目安について

血管性浮腫の治療では、健康保険が適用されるものと、適用されないものがあります。

治療薬の保険の適用の有無

保険適用あり保険適用なし
抗ヒスタミン剤アンドロゲン製剤
ステロイド点滴トラネキサム酸
C1-INH製剤カリクレイン阻害薬
イカチバンド

また、遺伝性血管性浮腫は原発性免疫不全症候群の一つで、指定難病として申請が可能です。

詳しくはお問い合わせください。

参考文献

堀内孝彦ら. 遺伝性血管性浮腫 診療ガイドライン改訂2023年版. 補体. 2023;60(2):103-131.

あたらしい皮膚科学 第3版 8章 血管性浮腫

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