稗粒腫（はいりゅうしゅ）

稗粒腫（はいりゅうしゅ、ひりゅうしゅ milia）とは、私たちの目のまわりに現れる小さなブツブツ（丘疹）を指します。

稗粒腫は日常生活の中で意識せずとも多くの人々が経験している疾患の一つです。

この記事では、稗粒腫の病態や治療法などについて詳しく解説していきます。

稗粒腫（はいりゅうしゅ）の症状・病型

稗粒腫（はいりゅうしゅ、ひりゅうしゅ、milia）は、多くの人で認める良性の皮膚腫瘍の一種です。ここでは、稗粒腫の症状や病型についてご紹介します。

稗粒腫の症状

稗粒腫は白いブツブツ（丘疹）が特徴です。典型例では、目周りを中心に、顔に1-2mmの小型の硬い白色丘疹を認めます。

稗粒腫は単発で現れることもありますが、多発するケースが多く、稗粒腫を切開すると、白いケラチン（角質）の塊が排出されるのが大きな特徴です。

稗粒腫の病態

稗粒腫は中身がケラチンからなる表皮下嚢胞です。嚢胞とは袋のできもののことで、毛包や汗管などの上皮成分が真皮内に陥入して嚢腫を形成。

稗粒腫では、胎生期の上皮芽の迷入によって角化性嚢腫ができると考えられています。

稗粒腫の病型

稗粒腫は大きく分けて「原発性」「続発性」の2つのタイプに分類されます¹⁾。

稗粒腫の主な病型

病型	説明
原発性稗粒腫	自然に発生するタイプ・先天性稗粒腫・良性原発性稗粒腫（小児・成人）・斑状稗粒腫・結節集簇性稗粒腫・多発性発疹性稗粒腫・稗粒腫を伴う色素脱失性母斑など
続発性稗粒腫	疾患や薬剤、外傷などに伴ってできるタイプ

原発性稗粒腫

自然に発生するタイプの稗粒腫です。典型的な症状は、眼周りに1-3mm大の硬い白色丘疹（ブツブツ）。切開すると白色の角質の塊を認めます。

眼周り以外では陰部や四肢などに現れることもあり、中でも多いタイプは下記のとおりです。

・先天性稗粒腫：生まれつき見られる稗粒腫で、新生児のおよそ40〜50%に認めると報告されています²⁾。頻度に特に性差や人種差はありません。鼻周りなど顔や頭皮にできることが多く、通常数週間程度で自然に消退します。

・良性原発性稗粒腫：最も一般的なタイプで、小児から成人まで見られます。通常目まわりや頬に認めることが多いですが、外陰部や乳輪などにできることもあります³⁾。

原発性稗粒腫の中には、特定の遺伝性皮膚疾患と関連しているものがあり、先天性遺伝性毛包異形成症や先天性爪肥厚症2型などの外胚葉異形成症が該当します。

続発性稗粒腫

特定の疾患や薬剤、外傷などに起因するタイプの稗粒腫です。原発性と同様、1-2mm大の硬い白色丘疹が局所に現れ、自然に消失するケースもありますが持続する傾向があります。

続発性稗粒腫の原因

カテゴリー	具体例
疾患に伴うもの	水疱症（特に表皮水疱症、他に水疱性類天疱瘡など）・EB・帯状疱疹・接触皮膚炎
薬剤に伴うもの	ステロイド外用薬・5-FU・シクロスポリン・ベノキサプロフェン
外相に伴うもの	Ⅱ度熱傷・皮膚潰瘍・放射線治療・皮膚擦過傷

続発性稗粒腫では、上記の原因によって破壊された付属器や角化細胞が表皮下で嚢腫状に増殖して発症すると考えられています。

また、アトピー性皮膚炎の患者さんでは鼻のしわに稗粒腫を認めることがあり、原発性なのか、あるいは擦過に伴う続発性のものなのかは分かっていません。

参考文献

1) Wolfe SF, et al. Eruptive milia. Cutis.1997; 60(4):183-184.
2) Rutter KJ, et al. Profuse congenital milia in a family. Pediatr Dermatol. 2009; 26(1):62-64.
3) Kanekura T, et al. Multiple milia localized to the vulva. J Dermatol. 1996; 23(6):427-428.

稗粒腫（はいりゅうしゅ）の原因

続発性稗粒腫の場合は特定の疾患や薬剤、外傷などの原因がありますが、原発性稗粒腫の原因は不明です。

顔に好発するため紫外線曝露が関係している可能性も指摘されていますが、陰部など非曝露部にできるケースもあるため、その関連性は明らかではありません。

稗粒腫（はいりゅうしゅ）の診断・チェック方法

典型的な稗粒腫では目周りに白いブツブツを認めます。同じような所見をきたす疾患がいくつかあり、鑑別が必要です。

主な鑑別疾患

稗粒腫の主な鑑別疾患

疾患名	詳細
汗管腫	1-3mm大の白色〜常色の丘疹が目周りに多発し、ホルモンの影響が大きく、女性に好発
エクリン汗嚢腫	汗腺由来の良性腫瘍で、症状が季節によって変動
コメド（尋常性ざ瘡）	白い丘疹をきたすニキビの症状の一つ
milia-like idiopathic calcinosis cutie	手足に好発する石灰沈着症で1-3mm大の白色丘疹を認める
脂腺増殖症	脂腺の過形成による黄白色のできもので、多発傾向

鑑別が難しい場合は、試験的に切開し白色のケラチンの塊を排出するかどうかを確認。患者さんによっては稗粒腫と上記疾患が混在しているケースもあります。

自己チェックの方法

自己チェック項目

• 白く硬いブツブツ（丘疹）を認める
• 丘疹は1-2mm大程度で小さい
• 季節による症状の変化はない
• 目周りに同じような所見をいくつか認める
• 融合傾向はない（孤立している）

該当する項目が多い場合、稗粒腫の可能性があるため、一度皮膚科で相談されることをおすすめします。

稗粒腫（はいりゅうしゅ）の治療方法と治療デメリット

稗粒腫でも先天性稗粒腫の場合は数ヶ月程度で自然に消失するため治療は通常不要ですが、乳児以外でできるその他の稗粒腫については自然消退することはありません。

放置していても問題はありませんが、外見上問題になる場合は治療を検討します。

圧出法

最も一般的な治療法は単純に中身のケラチンを圧出する方法です。注射針やメスなどで小さく穴を開けた後に圧出し、圧出には綿棒やピンセット、面皰圧子などを使用。

稗粒腫は浅層にできる嚢腫なのでほとんど出血などもなく、比較的簡単に綺麗になります。

レチノイド外用

多発性発疹性稗粒腫や斑状稗粒腫ではトレチノイン（レチノイドの一種）が有効だといういくつかの報告も⁴⁾⁵⁾。

エビデンスとして十分ではありませんが、レチノイドの外用は稗粒腫の予防にも効果的だと考えられています。

治療のデメリット

稗粒腫の圧出法は、簡単に症状の改善を認める治療法ですが再発のリスクがあり、通院が必要になるケースもあります。

参考文献

4) Connelly T. Eruptive milia and rapid response to topical tretinoin. Arch Dermatol. 2008; 144(6):816-817.
5) Nambudiri VE, et al. Milia en plaque of the nose: report of a case and successful treatment with topical tretinoin. Pediatrics. 2014; 133(5):e1373-1376.

稗粒腫（はいりゅうしゅ）の治療期間

稗粒腫は先天性や乳児のケース以外で自然に消退することは難しく、必要に応じて中身を圧出する治療を行います。

治療におけるダウンタイム（通常の状態に戻るまでの期間）は長くても数日程度であることが一般的です。

保険適用について

一般的な稗粒腫の治療である圧出法は、健康保険が適用されます。

稗粒腫摘除

10箇所未満　74点（3割負担で220円）

10箇所以上　148点（3割負担で440円）

一方、トレチノイン外用薬は保険適用外で、自費となります。

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