悪性黒色腫(メラノーマ)(malignant melanoma)とは、皮膚のメラニン色素を産生する細胞から発生する悪性度の高い皮膚がんです。
日光や紫外線の影響を受けやすい部位に好発し、初期段階では黒色や褐色の色素斑として現れます。
悪性黒色腫(メラノーマ)は転移のリスクが高いので、専門医による診断と対応が不可欠です。
この記事の執筆者
小林 智子(こばやし ともこ)
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長
2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。
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悪性黒色腫(メラノーマ)の病型
悪性黒色腫(メラノーマ)には、末端黒子型、表在拡大型、結節型、悪性黒子型という病型があります。
末端黒子型メラノーマ
末端黒子型メラノーマは手のひらや足の裏、爪の下など、体の末端部に発生する病型です。
アジア人や黒人の方に多く見られ、日本人のメラノーマの中でも高い割合を占めています。
特徴 | 詳細 |
好発部位 | 手のひら、足の裏、爪の下 |
進行パターン | 徐々に拡大 |
表在拡大型メラノーマ
表在拡大型メラノーマは、皮膚の表面を横方向に広がっていきます。
日光に露出しやすい部位に多く発生し、欧米人に最も多く見られるタイプですが、日本人の間でも増加傾向にあります。
早期に発見できた場合、他の型と比較して予後が良好です。
結節型メラノーマ
結節型メラノーマは急速に成長し、皮膚の深部に向かって垂直方向に成長するため、早期発見が難しく予後が最も悪い病型です。
特徴 | 詳細 |
成長パターン | 垂直方向への急速な成長 |
進行速度 | 非常に速い |
悪性黒子型メラノーマ
悪性黒子型メラノーマは、顔面や首に発生する慢性的な病型です。
高齢者の方に多く見られ、長期間にわたってゆっくりと進行していきます。
進行すると厚みを増し結節を形成する可能性もあるため、注意深い経過観察が必要です。
悪性黒色腫(メラノーマ)の症状
悪性黒色腫(メラノーマ)の症状は、それぞれの病型で特異的な外観や進行パターンを示します。
末端黒子型メラノーマ
末端黒子型メラノーマは手のひらや足の裏、爪の下といった部位に発生します。
初期の段階では褐色や黒色の小さな斑点として現れ、時間の経過とともに徐々に大きくなり、不規則な形状へと変化していきます。
表在拡大型メラノーマ
表在拡大型メラノーマは体のあらゆる部位に発生する可能性があります。
- 形が整っていない不規則な斑点
- 褐色、黒色、赤色、青色などの複数の色が入り混じっている
- 少しずつではありますが、確実に大きくなっていく傾向がある
- 表面は平らか、わずかに盛り上がっている程度
特徴 | 説明 |
形状 | 左右対称ではなく、いびつな形をしている |
色彩 | 一色ではなく、複数の色が混ざり合っている |
サイズ | 日々の変化は微小だが、長期的には拡大する |
表面の状態 | 完全に平坦ではなく、僅かな凹凸がある場合もある |
結節型メラノーマ
結節型メラノーマは急速に成長します。
- 皮膚表面から盛り上がった結節や腫瘤として現れる
- 多くの場合、黒色または青みがかった黒色を呈する
- まれに赤色や、周囲の皮膚と同じような色を示すこともある
- 進行すると出血したり、表面に潰瘍ができたりすることがある
悪性黒子型メラノーマ
悪性黒子型メラノーマは、顔や首など日光に当たりやすい部位に発生します。
- 最初は平らな茶色の斑点として現れ、一見すると普通のシミのように見える
- 時間が経つにつれて徐々に大きくなり、色も濃くなっていく
- 進行すると表面がざらざらとした感じになり、さらには小さな隆起(結節)を形成する
進行段階 | 症状 |
初期段階 | 平らで茶色い斑点が出現する |
中期段階 | サイズが増大し、色が濃くなる |
後期段階 | 表面が粗くなり、小さな隆起が現れる |
悪性黒色腫(メラノーマ)の原因
悪性黒色腫(メラノーマ)の原因として、紫外線を浴びすぎること、遺伝子の特徴、免疫力の低下、そして皮膚の特徴が挙げられます。
紫外線を浴びすぎること
紫外線を浴びすぎることは、メラノーマが発生する最も大きな環境要因です。
太陽の光に含まれる紫外線のUVAとUVBは皮膚の細胞にあるDNAを傷つける力を持っていて、傷が十分に修復されないまま積み重なると細胞が異常に増えてしまい、、メラノーマが発生することがあります。
紫外線の種類 | 影響 |
UVA | 皮膚の老化を促進し、DNAを間接的に傷つける |
UVB | 日焼けの原因となり、DNAを直接的に傷つける |
子供の頃や若い時期に激しい日焼けをすること、長い期間にわたって少しずつ紫外線を浴び続けることは、メラノーマのリスクを高める要因です。
遺伝子の特徴
遺伝子に変異がある方は、メラノーマになりやすいことが明らかになっています。
CDKN2A遺伝子やMC1R遺伝子に変異があると、メラノーマが発生するリスクが上昇します。
遺伝子 | 関連するリスク |
CDKN2A | 細胞の増え方をコントロールする機能に異常が生じる |
MC1R | 肌や髪の毛の色を決める色素の作られ方が変わる |
家族の中にメラノーマになった人がいる方は、定期的に皮膚の状態をチェックしてください。
免疫力の低下
私たちの体の免疫システムが弱くなることも、メラノーマが発生するリスクを高める要因です。
健康な免疫システムは体の中で異常な細胞を見つけ出して排除する役割を果たしていますが、免疫力が低下すると働きが十分にできなくなってしまいます。
免疫力が低下する原因
- 長い間ストレスを感じ続ける
- 慢性的な病気にかかっている
- 免疫力を抑える薬を使い続ける
- 年齢を重ねる
皮膚の特徴
一人ひとりの皮膚の特徴も、メラノーマが発生するリスクに影響を与えます。
メラノーマになりやすい皮膚
- 肌が白く、日焼けしにくい体質
- そばかすが多くできる
- 目の色が青く、髪の毛が赤い
- 体にほくろが50個以上ある
悪性黒色腫(メラノーマ)の検査・チェック方法
悪性黒色腫の早期発見には、定期的な自己チェックと専門医による検査が欠かせません。自己チェックでは、ABCDEルールを活用して皮膚の変化を観察し、少しでも気になる点があればすぐに皮膚科を受診することが重要です。
自己チェックの重要性
定期的な自己チェックは、悪性黒色腫の早期発見において大切な役割を果たします。
月に一度程度、全身の皮膚を丁寧に調べてください。
ABCDEルールを用いた自己チェック
自己チェックを行う際は、ABCDEルールを参考にして皮膚の変化を注意深く観察します。
- A(Asymmetry):非対称性
- B(Border):境界不整
- C(Color):色の多様性
- D(Diameter):直径6mm以上
- E(Evolving):変化
項目 | チェックポイント |
A | 左右で形が異なっていないか |
B | 縁がギザギザしていたり、不規則な形をしていないか |
C | 一つのホクロ内に複数の色が混在していないか |
D | 鉛筆の消しゴム以上の大きさになっていないか |
E | 大きさ、色、形に経時的な変化が見られないか |
専門医による検査
自己チェックで少しでも気になる所見があったり、または定期検診の一環として、専門医による検査を受けることが望ましいです。
ダーモスコピー検査
ダーモスコピーは特殊な拡大鏡で、皮膚表面の構造を詳しく観察できる検査機器です。
ダーモスコピーの利点 | 説明 |
非侵襲的 | 皮膚を傷つけることなく検査が可能で、患者さんの負担が少ない |
高精度 | 肉眼では見えない微細な構造や色調の変化を詳細に観察できる |
即時性 | その場で結果が分かるため、迅速な判断が可能 |
生検
生検は疑わしい部位の組織を小さく採取して、顕微鏡で詳しく調べる検査方法です。
以下のような場合に生検が検討します。
- ダーモスコピー検査で悪性が疑われる所見が認められた
- ABCDEルールに該当する変化が明確に観察される
- 急速に成長する腫瘤が認められる
- 出血や痛みを伴う皮膚の変化が見られる
画像検査
悪性黒色腫の進行度の評価や転移の有無を確認するため、画像検査が実施されることがあります。
- CT検査:全身の臓器や組織の状態を詳細に把握するのに有効。
- MRI検査:特に脳や脊髄などの転移の有無を確認する際に用いられる。
- PET-CT検査:がん細胞の活動性を評価し、全身の転移巣を検出するのに役立つ。
悪性黒色腫(メラノーマ)の治療方法と治療薬について
悪性黒色腫(メラノーマ)の治療法は、外科的切除、放射線療法、化学療法、免疫療法、分子標的療法です。
外科的切除
外科的切除では、腫瘍と周囲の正常組織を含めて切除することで、がん細胞の完全な除去をすることが目的です。
早期のメラノーマでは、外科的切除だけで完治が期待できます。
病期 | 切除範囲 |
原発巣 | 腫瘍周囲0.5-2cm |
リンパ節転移 | 所属リンパ節郭清 |
放射線療法
放射線療法は、高エネルギーの放射線を用いてがん細胞を破壊する治療法です。
メラノーマの放射線療法を検討する例
- 手術後の再発予防を目的とした補助療法として
- 手術が困難な部位に発生した腫瘍の治療
- 転移巣による症状の緩和を目指す場合
単独での使用は限られますが、他の治療法と併用することで、より良い治療効果を得られます。
化学療法
化学療法は抗がん剤を用いて全身のがん細胞を攻撃する治療法で、進行したメラノーマの治療に検討されます。
使われる化学療法薬は、ダカルバジンやテモゾロミドです。
薬剤名 | 特徴 |
ダカルバジン | 標準的な第一選択薬として長く使用されてきた |
テモゾロミド | 経口投与が可能であり、患者様の負担軽減に寄与する |
ただし、メラノーマに対する化学療法の効果は限定的で、近年では免疫療法や分子標的療法が主流となっています。
免疫療法
免疫療法は、患者さん自身の免疫システムを強化してがん細胞を攻撃する治療法です。
免疫チェックポイント阻害薬と呼ばれる薬剤が画期的な治療効果を示しています。
- 抗PD-1抗体(ニボルマブ、ペムブロリズマブ):T細胞の活性化を促進
- 抗CTLA-4抗体(イピリムマブ):T細胞の増殖と機能を向上
分子標的療法
分子標的療法は、がん細胞に特異的な分子を標的とする治療法です。
BRAF遺伝子変異を持つメラノーマに対する治療があり、BRAF阻害剤(ベムラフェニブ、ダブラフェニブ)とMEK阻害剤(トラメチニブ、コビメチニブ)の併用療法が高い効果を示しています。
がん細胞の増殖シグナルを遮断することで、腫瘍の縮小や進行を遅らせます。
薬の副作用や治療のデメリットについて
悪性黒色腫の治療には手術、放射線療法、化学療法、免疫療法があり、それぞれに副作用やデメリットが伴います。
手術療法の副作用とデメリット
手術は多くの場合初期段階の悪性黒色腫に対する第一選択の治療法ですが、副作用やデメリットが生じます。
- 手術部位における痛みや腫れ
- 術後感染のリスク
- 術後の傷跡や外観の変化
- 周囲の神経損傷に起因する感覚異常
副作用 | 発生頻度 | 持続期間 |
疼痛 | 高 | 数日~数週間程度 |
腫脹 | 高 | 数日~数週間程度 |
感染症 | 低 | 適切な治療により改善 |
瘢痕形成 | 必発 | 永続的 |
放射線療法の副作用
放射線療法では、以下のような副作用があります。
- 照射部位に生じる急性または慢性の皮膚炎
- 全身的な倦怠感
- 照射部位に限局した脱毛
- 長期的な皮膚の変化(乾燥化、色素沈着、弾力性の低下など)
化学療法の副作用
化学療法は全身に作用するため、さまざまな臓器や組織に影響を及ぼし、多彩な副作用が現れます。
- 強い吐き気や嘔吐
- 全身性の脱毛
- 著しい倦怠感
- 顕著な食欲不振
- 免疫機能の低下に伴う感染リスクの上昇
副作用 | 対処法 |
悪心・嘔吐 | 制吐剤の使用 |
脱毛 | ウィッグやスカーフの活用 |
疲労感 | 十分な休息と適度な運動の併用 |
食欲減退 | 栄養指導と食事の工夫 |
免疫力低下 | 感染予防対策の実施 |
免疫療法の副作用
免疫療法は革新的な治療法であるものの、副作用が報告されています。
- 多様な様態を呈する皮膚炎
- 重篤化する可能性のある下痢・大腸炎
- 肝機能障害(トランスアミナーゼの上昇など)
- 甲状腺機能低下症などの内分泌機能障害
- 間質性肺炎を含む肺障害
副作用は免疫系の過剰な活性化によって起こり、場合によっては重篤化する可能性があるため、経過観察が必要です。
保険適用と治療費
以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。
公的医療保険の適用範囲
メラノーマの診断から治療までの多くが公的医療保険の対象です。
保険適用される項目
- 診断のための検査(画像診断、生検など)
- 手術療法
- 放射線療法
- 化学療法
- 免疫療法
- 分子標的療法
治療法別の費用
治療法と概算費用
治療法 | 概算費用(3割負担の場合) |
手術療法 | 10万円〜50万円 |
放射線療法 | 30万円〜100万円 |
化学療法 | 月額5万円〜20万円 |
免疫療法 | 月額30万円〜100万円 |
分子標的療法 | 月額50万円〜150万円 |
新薬と先進医療
新しい薬剤や治療法の中には保険適用されていないものもあり、先進医療として扱われ、全額自己負担です。
以上
参考文献
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