皮膚の下にできるしこりに気づいたとき、それが悪いものではないかと不安を感じる患者さんは少なくありません。日々の診療において、多くの患者さんが脂肪腫と粉瘤の違いについて疑問を持たれています。
脂肪腫と粉瘤はどちらも良性の腫瘍ですが、成り立ちや症状、治療の必要性は大きく異なります。ご自身で見分けることは容易ではありませんが、特徴を知ることで対応時期を見極める助けになります。
この記事では、両者の違いを解説し、皮膚科を受診する前の不安を少しでも和らげるための情報を提供します。
この記事の執筆者

小林 智子(こばやし ともこ)
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長
2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。
こばとも皮膚科関連医療機関
脂肪腫と粉瘤の正体を知る
皮膚の下に生じるしこりは、外見上は似ていても内部の構造や発生の原因が全く異なることがあります。脂肪細胞が増殖してできるものと、皮膚の袋の中に老廃物が溜まってできるものとでは、その後の経過や注意すべき点も変わってきます。
脂肪腫とはどのような病気か
脂肪腫は、皮膚の下にある皮下組織という場所で脂肪細胞が増殖し、塊を作る良性の軟部腫瘍です。一般的にはリポーマとも呼ばれ、成熟した脂肪細胞が薄い膜に包まれた状態で存在します。
40代から50代の成人に多く見られますが、年齢や性別にかかわらず発生する可能性があり、脂肪細胞が集まってできているため、触った感触は比較的柔らかく、痛みや痒みを伴うことはほとんどありません。
長い時間をかけてゆっくりと大きくなり、10センチを超えるような巨大なサイズになることも稀にあります。
基本的には健康に害を及ぼすものではありませんが、筋肉の中に入り込んで発生する場合や、神経を圧迫する位置にできた場合は痛みや痺れを感じることがあります。
病気の成り立ちと主な特徴の比較
| 特徴 | 脂肪腫 | 粉瘤 |
|---|---|---|
| 構成要素 | 成熟した脂肪細胞の塊 | 皮膚成分でできた袋と角質 |
| 発生年齢層 | 40代〜50代に多い | 全年齢層(特に若年〜壮年) |
| 内容物 | 黄色い脂肪組織 | ドロドロした角質や皮脂 |
粉瘤(アテローム)の基本的な特徴
粉瘤は、医学的には表皮嚢腫とも呼ばれる良性の皮膚腫瘍で、皮膚の表面にある表皮細胞が、何らかの原因で皮膚の奥深くに入り込み、袋状の構造物を作ってしまうことが始まりです。
本来であれば皮膚の表面から垢として剥がれ落ちるはずの角質や皮脂が、袋の中に溜まっていくことでしこりが形成されます。袋の中に溜まるのは脂肪ではなく、古くなった角質、いわゆる垢の塊です。
時間の経過とともに内容物が増え、徐々にサイズが大きくなっていき、体のどこにでもできますが、特に顔や背中、耳の周りなどに好発します。
細菌感染を起こすと赤く腫れ上がり、強い痛みを伴う炎症性粉瘤へと変化することがあるため、注意が必要です。
なぜこれらは混同されやすいのか
脂肪腫と粉瘤が混同されやすい最大の理由は、どちらも皮膚が盛り上がり、ドーム状のしこりとして認識されるためです。初期段階ではどちらも痛みがないことが多く、見た目だけで判断することが困難なケースが多々あります。
また、患者さんご自身がインターネットなどで調べた際に、画像だけでは区別がつかないことも混乱を招く一因です。しかし、詳しく観察すると、皮膚とのつながりや硬さ、発生部位などに微細な違いがあります。
専門医であれば触診や視診である程度の予測がつきますが、確定診断には画像検査などが必要になる場合もあります。
硬さと弾力の違い
しこりに触れたときの指先の感覚は、両者を見分ける上で非常に重要な手掛かりとなります。皮膚の下でどのように動くか、押したときの弾力がどの程度かという点は、内部の構造を反映しているからです。
力を入れすぎずに優しく触れることで、それぞれの特徴的な質感が伝わってくることがあります。
脂肪腫特有の柔らかさと可動性
脂肪腫を触診する際の特徴として、ゴムのような柔らかい弾力を感じることが挙げられ、中身が脂肪組織であるため、硬いしこりというよりは、ぷよぷよとした感触に近い場合があります。また、皮膚の下でよく動くことも大きな特徴です。
指で押すと、しこりが周囲の組織から逃げるようにスルスルと動く感覚があり(滑り現象)、皮膚とは癒着していないため、皮膚をつまみ上げるとしこりと皮膚が離れていることがわかります。
ただし、背中などの皮膚が厚い部分にできた場合や、筋肉の内部に入り込んでいる場合は、この特徴がわかりにくいこともあります。全体的に境界がはっきりしており、扁平な形をしていることが多いのも脂肪腫の傾向です。
触感から推測するしこりのタイプ
| 触診のポイント | 脂肪腫の傾向 | 粉瘤の傾向 |
|---|---|---|
| 硬さ | 柔らかい、ゴムまり様 | やや硬い、弾力がある |
| 可動性 | よく動く、逃げる感覚 | 皮膚と一緒に動く |
| 皮膚との関係 | 皮膚と離れている | 皮膚とくっついている |
粉瘤の硬さと皮膚との癒着
粉瘤は、脂肪腫に比べるとやや硬く触れ、袋の中に角質がぎっしりと詰まっているため、内圧がかかっており、スーパーボールのようなコリコリとした感触を持つことが多いです。
最大の特徴は、しこりの頂点が皮膚とつながっていることで、粉瘤の袋の一部は皮膚の表面と癒着しているため、しこりを指で動かそうとすると、その上の皮膚も一緒に引っ張られて動きます。
脂肪腫のように皮膚の下で別個に動く感覚とは異なり、皮膚そのものが盛り上がっているような印象を受けます。炎症を起こしていない状態では、境界が明瞭で、球体に近い形をしていることが一般的です。
指でつまむと、中心部が皮膚に固定されている感覚を覚えることがあります。
サイズの変化と触り心地の関係
しこりのサイズが変化することによって、触り心地にも変化が生じます。脂肪腫は年単位でゆっくりと大きくなりますが、急激に硬さが変わることは稀です。
粉瘤は内容物が溜まることで徐々に大きくなりますが、時に急に腫れて大きくなることがあり、袋が破れて炎症を起こした場合に多く見られ、その際は普段よりも硬く、熱を持って触れるようになります。
また、炎症が治まった後は、線維化といって組織が硬くなり、以前よりもゴツゴツとした触り心地に変化することがあり、時期によって触り心地が変化しやすいのは粉瘤の特徴の一つです。
触れたときに確認すべき感覚の種類
- 皮膚の下で逃げるように動く感覚
- 皮膚の表面と中心部が繋がっている感覚
- 押したときの弾力が柔らかいか硬いか
- 周囲の組織との境界がはっきりしているか
- 熱感や痛みを伴う硬さがあるか
色や開口部の有無
鏡で見たり、直接目で確認したりした際の外見上の特徴も、診断の大きな助けとなります。皮膚の色の変化や、しこりの中心部分に特有のサインがあるかどうかを観察することは、専門医でなくても確認できるポイントです。
明るい場所で詳細に観察することで、ある程度の予測を立てることが可能になります。
皮膚の盛り上がり方と色の変化
脂肪腫の場合、皮膚の色は通常、周りの健常な皮膚と変わりません。皮膚の奥にある脂肪の塊が単に皮膚を押し上げているだけなので、表面の皮膚そのものには変化がないからです。
なだらかな山のような盛り上がり方をしており、急峻な立ち上がりを見せることは少ないです。粉瘤の場合、内容物が透けて見えることで、しこりの中心部が青黒く見えたり、黄色っぽく見えたりすることがあります。
特に皮膚が薄い場所にできた粉瘤は、中の角質の色が反映されやすいです。また、炎症を起こしていない粉瘤も、ドーム状に丸く盛り上がることが多く、脂肪腫よりも皮膚から飛び出しているような形状を呈することがよくあります。
粉瘤に見られる黒い点(開口部)
粉瘤を見分ける上で最も決定的な視覚的特徴の一つが、しこりの中心にある小さな黒い点で、「へそ」や「開口部」と呼ばれ、元々毛穴などの皮膚の入り口だった部分が酸化して黒くなったものです。
この黒い点は、袋の内部と外部がつながっている証拠であり、脂肪腫には絶対に見られません。すべての粉瘤に黒い点があるわけではありませんが、もししこりの中心に黒っぽい点が見つかれば、粉瘤である可能性が極めて高いです。
開口部を強く圧迫すると、中から臭いのある粥状の物質が出てくることがありますが、感染の原因となるため無理に押し出すことは避けてください。
外見上のチェックポイント
| 観察項目 | 脂肪腫 | 粉瘤 |
|---|---|---|
| 皮膚の色 | 変化なし(正常色) | 青黒い、または黄色調 |
| 中心の黒点 | なし | あり(開口部・へそ) |
| 形状 | なだらかな隆起 | 半球状のドーム型 |
炎症を起こした時の赤みと腫れ
見た目が劇的に変化するのは、粉瘤が炎症を起こしたときです。脂肪腫が赤く腫れ上がることは極めて稀ですが、粉瘤は細菌が入ったり袋が破れたりすると、急速に赤くなり、大きく腫れ上がります。
この状態を炎症性粉瘤と言い、皮膚がパンパンに張り、光沢を帯びた赤色に変化し、ひどい場合には皮膚の一部が壊死して膿が出てくることもあります。
もし、以前からあったしこりが急に赤くなり、大きくなってきたと感じた場合は、脂肪腫ではなく粉瘤が炎症を起こしている可能性を疑います。
脂肪腫であっても、衣服との摩擦などで表面が赤くなることはありますが、しこり全体が赤熱して腫れ上がるという経過は、粉瘤特有の症状です。
どこにできやすいか
体のどの部位にしこりができたかということも、診断を絞り込むための重要な要素です。脂肪細胞があRる場所であればどこにでもできる脂肪腫と、毛穴や皮膚の構造に関連が深い粉瘤とでは、好発部位に傾向の違いが見られます。
脂肪腫ができやすい体の部位
脂肪腫は、皮下脂肪がある場所ならどこにでも発生する可能性がありますが、背中、肩、首、腕、太ももといった体幹や四肢の近位部に多く見られます。
このような部位は皮下脂肪が比較的豊富であり、脂肪腫が成長するスペースがあるためと考えられ、顔面や頭皮、足の裏などにできることは比較的稀です。
背中や肩甲骨周りは、気づかないうちにゴルフボール大まで成長してしまうことも少なくありません。脂肪腫は通常、痛みがないため、背中などの見えにくい場所にあると、入浴時やマッサージを受けた際に偶然発見されることが多いです。
深い場所にできると、筋肉の動きによってしこりの見え方が変わることもあります。
主な発生部位のリスト
- 背中や肩甲骨の周囲
- 首の後ろや側面
- 腕や太ももなどの四肢
- お腹周りや腰部
- お尻などの臀部
粉瘤が好発する場所と環境
粉瘤は毛包(毛根を包んでいる組織)由来のものが多いため、毛の生えている場所や、皮脂の分泌が盛んな場所にできやすく、顔、首、耳の裏、背中、お尻などが好発部位です。
特に耳たぶや耳の裏は粉瘤ができやすく、繰り返し再発することもあり、また、脇の下や股の付け根など、皮膚が擦れやすく湿度が高い場所にもよく見られます。
手足のひらには毛穴がありませんが、外傷などが原因で表皮が埋め込まれてできるタイプの粉瘤(外傷性表皮嚢腫)が発生することがあります。
ニキビができやすい脂性肌の方や、汗をかきやすい体質の方は、皮膚の環境的に粉瘤が発生しやすい可能性があります。
単発か多発かという視点
しこりの数も重要な情報です。脂肪腫も粉瘤も、基本的には単発(一つだけできること)が多いですが、体質によっては多発することがあります。
脂肪腫が全身に多数できる場合は、多発性脂肪腫症という遺伝的な体質が関係していることがあり、この場合、腕や太ももに数十個以上の小さなしこりができることがあります。
粉瘤も多発することがあり、特に脇の下やお尻などに集まってできることがあります。多発脂腺嚢腫という別の病気と見分ける必要が出てくることもありますが、一般的に粉瘤が一度に全身に大量にできることは稀です。
もし、全身に無数のしこりがある場合は、単なる脂肪腫や粉瘤以外の全身性疾患の可能性も含めて医師に相談してください。
臭いと内容物の違い
視覚や触覚だけでなく、嗅覚や内容物の性状も、区別する決定的な要素で、しこりから何かが排出された場合や、強く圧迫した際に感じる臭いは、粉瘤を特定する非常に強力な証拠となり得ます。
粉瘤特有の独特な臭いの原因
粉瘤の最大の特徴の一つが悪臭で、粉瘤の内容物は、皮膚の老廃物である角質や皮脂が袋の中で熟成されたものです。細菌によって分解されると、プロピオン酸や酪酸といった物質を生成し、腐ったチーズや銀杏のような強烈な臭いを発します。
普段は袋の中に閉じ込められているため臭いませんが、強く押したり、炎症を起こして袋が破れたりすると、独特な悪臭が周囲に漂うことがあります。
患者さんが「しこりが臭い」と訴える場合、その時点で粉瘤である可能性が極めて高いです。
臭いと内容物の比較
| 項目 | 脂肪腫 | 粉瘤 |
|---|---|---|
| 臭いの有無 | 無臭 | 独特な悪臭がある |
| 内容物の見た目 | 黄色い塊(脂肪) | 白〜灰色のドロドロ |
| 内容物の正体 | 脂肪細胞 | 角質(垢)と皮脂 |
圧迫した時に出てくる内容物
しこりを無理に絞った時、何が出てくるかによっても判別が可能です。粉瘤の開口部から出てくるのは、白や灰色、あるいはクリーム色をした粥状(お粥のような)のドロドロした物質で、これは垢の塊が軟らかくなったもので、粘り気があります。
脂肪腫には出口がないため、指で押しても中身が出てこず、もし皮膚を切開したとしても、脂肪腫から出てくるのは黄色くプリプリとした脂肪の塊であり、ドロドロした液体ではありません。
ただし、粉瘤を無理に圧迫して内容物を出す行為は、袋を皮膚の中で破裂させ、激しい炎症を起こす原因となるため、確認のために絞り出すことは絶対に避けてください。
脂肪腫は無臭である理由
脂肪腫の中身は、皮下脂肪とほぼ同じ正常な脂肪細胞です。脂肪組織そのものには臭いはなく、細菌が繁殖して腐敗しているわけでもないので、脂肪腫がどんなに大きくなっても、そこから悪臭が発生することはありません。
もし脂肪腫と思われるしこりから臭いがする場合、それは脂肪腫ではなく粉瘤の誤認であるか、あるいは皮膚の表面に別の皮膚感染症が合併している可能性があります。
臭いがないということは、脂肪腫である可能性にはなりますが、粉瘤であっても袋が完全に閉じていれば臭わないため、臭いがないことだけで粉瘤を否定することはできません。
経過と自然治癒
一度できたしこりが今後どうなるのか、自然に消えることはあるのか、という点は多くの患者さんが気にする部分です。良性の腫瘍であっても、その成長スピードや将来的なリスクには違いがあります。
脂肪腫の成長速度と変化
脂肪腫の成長は非常に緩やかです。数ヶ月単位では大きさの変化に気づかないことも多く、数年、あるいは10年以上かけて少しずつ大きくなっていくのが一般的です。
ある程度の大きさで成長が止まることもあれば、気づけばソフトボール大になっていることもあります。
急激に大きくなることは稀で、もし短期間で倍以上の大きさになるような場合は、悪性腫瘍(脂肪肉腫など)の可能性を否定するために早急な検査が必要です。基本的には、脂肪腫が自然に小さくなったり消えたりすることはありません。
炎症やトラブルの予兆リスト
- 急激なしこりの増大
- 触れた時の激しい痛みや熱感
- 皮膚の赤みと腫れ
- 内容物の排出や出血
- 周囲の皮膚がただれる
粉瘤が自然に消えない理由
粉瘤もまた、自然治癒することは原則としてありません。袋の中に溜まっているのは皮膚の代謝産物であり、袋がある限り、角質は生成され続けます。
時折、内容物が排出されて一時的に小さくなったように感じることがありますが、袋そのものが残っているため、いずれまた内容物が溜まり、元の大きさに戻ります。
ただし、時間の経過とともに袋が周囲の組織と癒着を強めたり、炎症を繰り返すことで治療が難しくなったりすることがあります。飲み薬や塗り薬で袋を消滅させることはできないため、根治には外科的な処置が必要です。
経過とリスクの比較
| 経過の特徴 | 脂肪腫 | 粉瘤 |
|---|---|---|
| 成長速度 | 年単位で緩やか | 比較的早いこともある |
| 自然消滅 | しない | しない(再発しやすい) |
| 主なリスク | 巨大化、神経圧迫 | 感染、破裂、悪臭 |
炎症や破裂のリスクについて
粉瘤を放置する最大のリスクは、感染性粉瘤への移行です。
袋の中に細菌が侵入したり、外部からの圧迫で袋が破れたりすると、体は異物反応を起こして激しく攻撃し、患部は赤く腫れ上がり、触れられないほどの強い痛みを伴うようになります。
一度炎症を起こすと、袋の壁が溶けて周囲の組織と癒着し、手術の難易度が上がってしまい、また、炎症が治まった後もしこりが残ったり、皮膚がひきつれたりする原因になります。
反して、脂肪腫が自然に破裂したり炎症を起こしたりすることはほとんどありません。
診断方法
患者さん自身でのチェックには限界がありますが、医療機関では専門的な知識と機器を用いて診断を行います。視診や触診といった基本的な診察に加え、画像検査を用いることで、皮膚の下の状態を正確に把握し、確定診断へと導きます。
視診と触診による一次判断
視診では、皮膚の色の変化、盛り上がりの形状、粉瘤特有の開口部の有無などをチェックし、触診では、硬さ、可動性、深さ、圧痛の有無などを確認します。
経験豊富な医師であれば、この時点である程度の鑑別診断がつき、「よく動く柔らかいしこり」なら脂肪腫、「皮膚と癒着している硬めのしこり」なら粉瘤といった具合です。
しかし、深部にある場合や炎症を起こしている場合など、典型的な特徴を示さないケースも多々あるため、触診だけで100%の診断を下すことはせず、次のステップとして画像検査が行われます。
エコー検査(超音波検査)の有用性
エコー検査は体に害のない超音波を当てるだけで、皮膚の下の構造をリアルタイムに映像化できます。脂肪腫の場合、エコー画像では被膜に包まれた均一な構造が見え、内部は周囲の脂肪と似たような映り方をします。
粉瘤は、袋状の構造とはっきりとした境界線が見え、内部には角質を示す特徴的な模様が映し出されます。また、ドプラ機能を使って血流を確認することで、悪性腫瘍の特徴である異常な血流がないかどうかもチェックできます。
エコー検査で見える特徴の違い
| 画像所見 | 脂肪腫の典型例 | 粉瘤の典型例 |
|---|---|---|
| 内部の様子 | 白っぽく網目状 | 層状や同心円状の模様 |
| 境界線 | 薄い被膜がある | 明瞭な袋の壁がある |
| 後方エコー | 変化なし | 増強することが多い |
病理検査による確定診断の重要性
最終的な確定診断は、手術で摘出した組織を顕微鏡で調べる病理検査によって行われます。摘出した検体を病理医が細胞レベルで確認し、「これは脂肪細胞の塊である(脂肪腫)」「これは表皮嚢腫である(粉瘤)」という確定的な診断を下します。
手術を行わない場合や、炎症の処置として切開排膿のみを行った場合は、組織全体を検査できないことがありますが、根本的な治療として切除を行った場合は、必ず病理検査を行い、良性であることを確認することが標準的な医療の手順です。
医師に伝えるべき情報
- いつ頃からしこりに気づいたか
- 徐々に大きくなっているか
- 痛みや赤みが出たことはあるか
- 過去に同じ場所にできたことがあるか
- 家族に同じようなしこりがあるか
切除方法の違い
どちらも治療の基本は外科的な切除となりますが、アプローチ方法には違いがあり、腫瘍の性質に合わせて、傷跡を最小限にしつつ、再発を防ぐための術式が選択されます。
脂肪腫に対する摘出術の流れ
脂肪腫の治療は、被膜(カプセル)ごと脂肪の塊を取り出す手術になり、皮膚を腫瘍の直径に合わせて切開し、周囲の組織から脂肪腫を剥がして取り出します。
脂肪腫は周囲との癒着が少ないため、比較的ツルンと取り出せることが多いですが、筋肉内に入り込んでいる場合などは慎重な剥離が必要です。
最近では、傷跡を小さくするためにスクイーズ法といって、小さく切開した穴から脂肪腫を絞り出すような方法が取られることもあります。
ただし、取り残しがあると再発の原因となるため、確実に取り切れるサイズであるかどうかの見極めが重要です。手術後は空洞になった部分を縫合し、圧迫することで血が溜まるのを防ぎます。
粉瘤のくり抜き法と切開法
粉瘤の手術には、大きく分けて切開法(紡錘形切除)とくり抜き法(へそ抜き法)の二つがあります。切開法は、皮膚ごと袋を切り取る方法で、確実に袋を除去できる反面、傷跡がやや長くなる傾向があります。
くり抜き法は、特殊なパンチを使って粉瘤に小さな穴を開け、そこから内容物を絞り出した後、しぼんだ袋を引き抜く方法で、傷跡が非常に小さく済み、縫合も不要か最小限で済むため、顔などの目立つ場所に適しています。
ただし、炎症を起こして癒着が強い場合や、巨大な粉瘤には適応できないことがあります。粉瘤の状態に合わせて、医師は最適な術式を選択します。
手術に関する要素の比較
| 手術の要素 | 脂肪腫の手術 | 粉瘤の手術 |
|---|---|---|
| 主な術式 | 直上切開による摘出 | くり抜き法、紡錘形切除 |
| 重要ポイント | 被膜ごとの完全摘出 | 袋の取り残し防止 |
| 難易度上昇要因 | 筋肉への浸潤 | 炎症による癒着 |
再発を防ぐための袋の処理
粉瘤治療において最も重要なのは、袋(嚢腫壁)を完全に取り除くことです。袋の一部でも体内に残ってしまうと、そこから再び角質が溜まり始め、再発してしまいます。
炎症を起こした後の手術や、くり抜き法での手術では、袋がもろくなっていたり、ちぎれやすくなっていたりするため、より慎重な操作が必要です。
脂肪腫の場合も取り残しがあれば再発のリスクはありますが、粉瘤の方が袋という構造物が原因である以上、手術を受ける際は、単に中身を出すだけでなく、袋をしっかりと処理することが再発防止の鍵となります。
術後の生活での注意点
- 当日は入浴や激しい運動を控える
- 処方された抗生物質は指示通り飲み切る
- 傷口を清潔に保ち、濡らさない工夫をする
- 抜糸までは患部への負担を避ける
- 赤みや痛みが出たらすぐに受診する
よくある質問(FAQ)
- 脂肪腫や粉瘤が悪性(がん)に変化することはありますか?
-
脂肪腫や粉瘤が悪性化してがんになる確率は極めて低いです。良性の腫瘍であり、基本的には命に関わるものではありません。
しかし、ごく稀に粉瘤から皮膚がんが発生したという報告や、脂肪腫と似て非なる脂肪肉腫という悪性腫瘍が最初から存在しているケースがあります。
急激に大きくなる、形がいびつである、出血するなど、通常の経過と異なる場合は、良性と思い込まずに検査を受けることが重要です。
- 痛みがない場合、手術せずに放置しても大丈夫ですか?
-
生活に支障がなければ、すぐに手術をする必要はありません。脂肪腫であれば、見た目や圧迫感が気にならなければ経過観察で十分なことも多いです。
ただし、粉瘤の場合は将来的に炎症を起こすリスクを抱え続けることになります。炎症を起こすと痛みが強く、治療も長期化しやすいため、小さいうちに予防的に切除することを推奨される場合が多いです。
- 市販の薬やクリームで治すことはできますか?
-
市販の塗り薬や飲み薬で脂肪腫や粉瘤を完治させることはできません。皮膚の下にある物理的な袋や塊であるため、薬の成分で溶かして消滅させることは医学的に不可能です。
炎症を起こして赤くなっている場合に、一時的に抗生物質の軟膏などで症状を抑えることはできますが、根本的な解決にはなりません。
自己判断で強い力でマッサージをしたり、民間療法を試したりすることは、逆に炎症を誘発する恐れがあるため避けてください。
- 自分で針を刺して中身を出しても良いですか?
-
絶対に自分で針を刺したり、中身を絞り出したりしないでください。ご家庭にある針では消毒が不十分であり、細菌を奥深くまで押し込んでしまう危険性が高いです。
また、無理に絞り出すことで袋が皮膚の中で破裂すると、激しい炎症反応(異物反応)を起こし、治療が難しくなるだけでなく、大きな傷跡が残る原因となります。
中身を出したい場合は、必ず清潔な環境で処置を行える医療機関を受診してください。
以上
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