化粧品の成分欄で「ペプチド」の文字を見かける機会が増えました。シワやたるみが気になりはじめた方にとって、ペプチドは心強い味方になり得る成分です。
ペプチドはアミノ酸が数個つながった小さなたんぱく質の断片で、コラーゲンの産生を促したり炎症を抑えたりする働きが報告されています。ただし種類が多く、どれを選べばよいか迷う方も少なくないでしょう。
この記事では、ペプチドの基本的な特徴から肌への効果、化粧品での取り入れ方、注意点までを皮膚科専門医が解説します。
この記事の執筆者

小林 智子(こばやし ともこ)
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長
2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。
こばとも皮膚科関連医療機関
ペプチドとは|アミノ酸がつながった肌を助ける小さな分子
ペプチドとは、2個以上のアミノ酸がペプチド結合(アミド結合の一種)によって鎖状につながった化合物です。たんぱく質との違いは分子の大きさにあり、一般にアミノ酸が50個未満のものをペプチドと呼びます。
肌のたんぱく質から生まれた美容成分
もともと人間の体内にはさまざまなペプチドが存在し、コラーゲンやエラスチンといった皮膚の構造を支えるたんぱく質の分解過程でも生成されます。スキンケア領域では、この天然のペプチドが持つ生理活性に着目し、合成技術によって化粧品原料として実用化が進みました。
代表的なものに、コラーゲンの断片であるパルミトイルペンタペプチド-4や、銅と結合するトリペプチド-1(GHK-Cu)があります。1980年代から研究が本格化し、現在では数十種類のペプチドがスキンケア製品に配合されています。
ペプチドの分類は大きく4つ
化粧品に使われるペプチドは、働き方の違いによって4つに分けられます。
シグナルペプチドは線維芽細胞にコラーゲン合成を促すシグナルを送る種類です。神経伝達物質抑制ペプチドは表情筋の過剰な収縮をやわらげ、表情ジワを目立ちにくくする働きがあると考えられています。
キャリアペプチドは銅やマンガンなど微量元素を皮膚の細胞へ届ける役割を果たし、酵素阻害ペプチドはコラーゲンを分解する酵素の働きを抑えて、肌の弾力を守ります。
ペプチドの主な分類
| 分類 | 代表成分 | 期待される作用 |
|---|---|---|
| シグナルペプチド | パルミトイルペンタペプチド-4 | コラーゲン産生を促進 |
| 神経伝達物質抑制 | アセチルヘキサペプチド-8 | 表情ジワの軽減 |
| キャリアペプチド | トリペプチド-1銅(GHK-Cu) | 銅イオンの運搬・修復促進 |
| 酵素阻害ペプチド | 大豆ペプチド由来成分 | コラーゲン分解酵素を抑制 |
化粧品成分としての表示名称と規制
日本の化粧品では、INCI名(国際命名法)に準拠した成分表示名称が用いられます。たとえば「パルミトイルペンタペプチド-4」「アセチルヘキサペプチド-8」のようにアミノ酸の数と修飾基を組み合わせた名前で記載されるのが一般的です。
ペプチド単体では医薬部外品の有効成分として認可された例はまだ多くありません。多くの場合は化粧品原料としての配合にとどまり、配合濃度や効果の表示には薬機法上の制限があります。
ペプチドに期待できる肌への効果
ペプチドがスキンケアで注目される最大の理由は、コラーゲン合成の促進とシワの軽減に関するエビデンスが蓄積されつつある点です。加えて、抗炎症作用や抗酸化作用を示す種類も報告されています。
コラーゲンを増やしてシワ・ハリにアプローチ
シグナルペプチドの代表であるパルミトイルペンタペプチド-4は、I型コラーゲンの前駆体の断片をもとに設計された合成ペプチドです。線維芽細胞に働きかけ、I型・III型・IV型コラーゲンの産生を高めることが試験管レベルで確認されています。
Robinsonらの二重盲検試験では、3ppmのパルミトイルペンタペプチド-4を含むクリームを12週間塗布した群で、プラセボ群と比較してシワと小ジワの有意な改善が認められました。低い濃度でも効果が確認された点が注目に値します。
表情ジワをゆるやかに和らげる神経伝達物質抑制作用
アセチルヘキサペプチド-8(アルジレリン)は、神経伝達物質の放出に関わるSNARE複合体の形成を穏やかに阻害すると考えられている成分です。ボツリヌストキシンのような筋弛緩作用を、外用でマイルドに再現しようという発想から開発されました。
Wangらのランダム化比較試験では、アルジレリンを4週間塗布した群で眼周囲のシワに対して約49%の改善が報告されています。ただし、注射薬であるボツリヌストキシンとの効果の差は大きく、あくまで穏やかな作用であるといえるでしょう。
抗炎症・抗酸化で肌のコンディションを整える
銅ペプチド(GHK-Cu)には、炎症性サイトカインであるIL-6の分泌を抑制する作用が報告されています。紫外線やストレスによる慢性的な微小炎症は、コラーゲンの分解を早める原因のひとつです。
GHK-Cuはスーパーオキシドディスムターゼ(SOD)などの抗酸化酵素の活性を高めるとも考えられており、活性酸素から肌を保護する可能性が示唆されています。こうした多面的な作用により、肌全体のコンディションを底上げする成分として研究が続けられています。
| ペプチドの種類 | 効果の方向性 | エビデンスの強さ |
|---|---|---|
| パルミトイルペンタペプチド-4 | シワ軽減・ハリ向上 | 二重盲検試験あり |
| アセチルヘキサペプチド-8 | 表情ジワ軽減 | RCTあり(穏やか) |
| GHK-Cu | 抗炎症・抗酸化・修復 | 動物試験・in vitro中心 |
| コラーゲンペプチド | 保湿・光老化予防 | 食品摂取の報告あり |
ペプチド化粧品の使い方とスキンケアへの取り入れ方
ペプチドは美容液やクリームなど多様な製品に配合されていますが、使い方を工夫することでより効果を実感しやすくなります。毎日のスキンケアに無理なく組み込むコツをお伝えします。
美容液とクリームへの配合が主流
ペプチドは分子量が比較的小さいため、美容液(セラム)との相性がよい成分です。水溶性のペプチドは化粧水にも配合されますが、安定性の面から美容液やクリームに高い濃度で処方されるケースが多くなっています。
パック(シートマスク)にペプチドを配合した製品も増えており、密閉効果で浸透を助ける工夫がなされています。近年はペプチドを含むアイクリームなど、パーツケア製品も注目を集めています。
朝晩のケアに取り入れるコツ
ペプチド配合の美容液は、朝晩どちらに使っても問題ありません。洗顔後、化粧水で肌を整えたあとに美容液を塗布し、そのうえから乳液やクリームで蓋をするのが基本の順番です。
ペプチドは紫外線で分解されにくい性質を持つため、朝のスキンケアにも安心して使えます。ただし日焼け止めとの併用は必須です。効果を実感するまでには、一般的に8~12週間の継続使用が目安になります。
- 化粧水 → ペプチド美容液 → 乳液・クリーム → 日焼け止め(朝)の順番が基本
- ビタミンC誘導体やナイアシンアミドとの組み合わせは相性が良いとされる
- レチノールとの併用は刺激が出る場合があるため、肌の状態を見ながら調整する
相性の良い成分と注意したい組み合わせ
ペプチドはヒアルロン酸やセラミドといった保湿成分と組み合わせると、肌のバリア機能を高めながらハリケアができるとされています。

ナイアシンアミドとの併用は、コラーゲン産生の促進を多角的にサポートする組み合わせです。

一方、AHA(フルーツ酸)やBHA(サリチル酸)などのピーリング成分と同時に使うと、ペプチドの構造が壊れて効果が弱まる可能性があります。ピーリングケアとペプチド美容液は、朝と夜で使い分けるとよいでしょう。
ペプチドを使う際に知っておきたい注意点
ペプチドは比較的安全性が高いとされる成分ですが、いくつか押さえておきたいポイントがあります。肌トラブルを防ぐために、使いはじめる前に確認しておきましょう。
副作用や刺激が出ることはある?
化粧品に配合される濃度のペプチドで、重い副作用が報告されたケースはほとんどありません。臨床試験でも、パルミトイルペンタペプチド-4やアセチルヘキサペプチド-8の忍容性は良好とされています。
ただし、製品にはペプチド以外の成分(防腐剤・香料・界面活性剤など)も含まれるため、それらに反応して赤みやかゆみが出るケースは否定できません。はじめて使う製品はパッチテストを行うと安心です。
使用を控えた方がよいケース
妊娠中や授乳中の方がペプチド配合化粧品を使うことに大きな問題はないとされていますが、肌の感受性が高まっている時期でもあるため、使いはじめは慎重に様子を見てください。
銅ペプチドにアレルギーのある方や、金属アレルギーをお持ちの方はGHK-Cu配合製品の使用を避けた方がよい場合があります。異常を感じたら速やかに使用を中止し、皮膚科を受診してください。
化粧品に配合されるペプチドと医療用製剤の違い
市販のペプチド化粧品は、安全性を重視して比較的低い濃度で配合されています。一方、クリニックで扱われる成長因子製剤やペプチド療法は、より高い濃度や特殊なデリバリーシステムを用いて効果を高めるものです。
化粧品のペプチドは「今ある肌の状態を穏やかに整える」目的で使うもの、医療用は「治療としての変化を目指す」ものと理解しておくとよいでしょう。
| 項目 | 化粧品のペプチド | 医療用製剤 |
|---|---|---|
| 配合濃度 | 数ppm~数%程度 | 医師の処方に基づく高濃度 |
| 使用場所 | 自宅でのセルフケア | クリニック・処方が必要 |
| 期待できる変化 | 穏やかな肌質改善 | より積極的な肌の修復 |
ペプチドとよく比較される成分との違い
スキンケア成分を選ぶとき、「ペプチドとレチノールはどう違うの?」「セラミドとどちらが良い?」という疑問を持つ方は多いです。それぞれの特徴を理解して、自分の肌悩みに合った成分を選びましょう。
レチノールとペプチドの違い
レチノール(ビタミンA誘導体)は、細胞のターンオーバーを促進しコラーゲン合成を高める働きが豊富な臨床データで裏づけられています。効果が高い反面、使いはじめに赤みや皮むけ(レチノイド反応)が出やすいという欠点があります。
ペプチドはレチノールと比べると穏やかに作用し、刺激が出にくい傾向があります。敏感肌の方や、レチノールが合わなかった方にとって、ペプチドは代替候補になり得るでしょう。
セラミドとペプチドの違い
セラミドは肌のバリア機能そのものを構成する脂質成分です。角質層の細胞間脂質を補い、水分の蒸発を防ぐことが主な役割であり、保湿に特化したアプローチといえます。
| 成分 | 主な作用 | 向いている肌悩み |
|---|---|---|
| ペプチド | コラーゲン合成促進・抗炎症 | シワ・たるみ・ハリ不足 |
| レチノール | ターンオーバー促進・コラーゲン合成 | シワ・シミ・毛穴 |
| セラミド | バリア機能の補強・保湿 | 乾燥・敏感肌・肌荒れ |
コラーゲンペプチドとの混同に注意
「コラーゲンペプチド」はコラーゲンを酵素分解した低分子成分で、食品やサプリメントとして経口摂取されるケースが多い成分です。化粧品に配合される場合は保湿目的が中心になります。
一方、パルミトイルペンタペプチド-4のような合成ペプチドは、特定の生理活性を狙って設計された成分です。同じ「ペプチド」という名前でも、目的と作用がまったく異なる点を覚えておきましょう。
ペプチドのスキンケア効果と正しい使い方のまとめ
ペプチドは穏やかにコラーゲン産生を助け、肌のハリやシワにアプローチできるスキンケア成分です。種類ごとの特徴を把握し、自分の肌悩みに合ったものを選ぶことが大切です。
押さえておきたいポイント
この記事で解説した要点を振り返ります。
- ペプチドは2個以上のアミノ酸がつながった化合物で、化粧品ではシグナルペプチド・神経伝達物質抑制ペプチド・キャリアペプチド・酵素阻害ペプチドの4種類に大別される
- パルミトイルペンタペプチド-4やアセチルヘキサペプチド-8には、シワ改善を示唆する臨床試験のデータがある
- 美容液やクリームに配合されることが多く、朝晩のスキンケアに取り入れやすい
- レチノールに比べて刺激が少ない傾向があり、敏感肌の方にも試しやすい
- 気になる肌の症状がある場合は、自己判断に頼らず皮膚科を受診してください
よくある質問
参考文献
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