滴状乾癬は、ある日突然、全身に小さな雨粒のような赤い発疹が現れる皮膚疾患です。多くの患者さんが驚かれますが、この病気の背景には風邪や扁桃炎などの溶連菌感染が深く関わっています。
治療を行えば数ヶ月で治癒することも十分に期待できますが、放置すると慢性的な乾癬へ移行するリスクもはらんでいます。
この記事では、滴状乾癬特有の原因、他の皮膚病との見分け方、そして標準的な治療戦略について詳しく解説します。
この記事の執筆者

小林 智子(こばやし ともこ)
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長
2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。
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滴状乾癬とはどのような病気なのか特徴を知る
皮膚に現れる症状にはさまざまなタイプがありますが、滴状乾癬は形状や出現の仕方に大きな特徴があります。ここでは、この病気が持つ特有のサインや、どのような人に発症しやすいのかという基本的な情報を整理し、病気の全体像をつかみます。
全身に広がる小さな赤い発疹の正体
滴状乾癬の最大の特徴は、雨の滴のような形をした小さな紅斑が全身に出現することです。
一つひとつの発疹の大きさは直径数ミリから1センチ程度と小さく、円形や楕円形をしていて、背中や腕、足、腹部といった体の広い範囲に散らばるように多発します。
発疹の表面はカサカサとした白い粉のようなもの(鱗屑)で覆われることが多く、無理に剥がすと点状の出血が見られるアウスピッツ現象という特有の反応を示します。また、痒みの強さには個人差が大きいです。
通常、発疹は一つひとつが独立しており、隣り合う発疹が融合して大きな局面を作ることは稀ですが、炎症が強い場合は融合することもあります。
滴状乾癬の発疹の特徴まとめ
| 形状と大きさ | 直径1cm以下の小さな円形や楕円形で、雨粒のような形をしている | 境界がはっきりしており、わずかに盛り上がっている |
|---|---|---|
| 好発部位 | 胴体(背中、腹部)、腕、太ももなどの四肢 | 顔や頭皮に現れることもあるが、体幹部が中心となることが多い |
| 表面の状態 | 銀白色の細かい粉(鱗屑)が付着している | 乾燥しており、触るとカサカサしている |
若い世代に多く発症する傾向と年齢層
多くの皮膚疾患が加齢とともにリスクを高める中で、滴状乾癬は比較的若い世代に多く見られることが特徴です。
幼児から学童期の子供、そして20代から30代の若年成人に発症のピークがあり、これは、感染症(特に溶連菌感染症)にかかる頻度がこの年齢層で高いことと密接に関連しています。
中高年以降で発症するケースもゼロではありませんが、尋常性乾癬が30代から50代に好発するのと比較すると、発症年齢層は明らかに若い傾向にあります。子供が風邪をひいた後に体に発疹が出た場合、この病気を疑う十分な根拠です。
急激に発症する急性期の特徴的な経過
慢性的に症状が続く他の乾癬とは異なり、滴状乾癬は急に始まり、多くの患者さんは、ある日突然体にポツポツとした発疹が出始めたことに気づき、数日のうちに数が急激に増え、全身へと広がっていきます。
急激な発症様式は、ウイルスや細菌に対する体の免疫反応が活発に起きていることを示唆していて、発症前の1週間から3週間ほど前に、発熱や喉の痛みといった風邪症状を経験していることが多いです。
そして、感染症状が治まった頃を見計らったかのように皮膚症状が現れます。
尋常性乾癬との違いと移行する可能性
乾癬にはいくつかの種類がありますが、最も一般的なのが尋常性乾癬です。尋常性乾癬は大きめの硬い紅斑が慢性的に続くのに対し、滴状乾癬は小さく急性の経過をたどりますが、両者は全く別の病気というわけではありません。
滴状乾癬を発症した患者さんのうち、一部の人は症状が長引き、発疹が大きくなって融合し、最終的に慢性の尋常性乾癬へと移行することがあります。
もともと尋常性乾癬を持っていた患者さんが、扁桃炎などをきっかけに滴状乾癬の症状を併発することもあります。
滴状乾癬は乾癬という病気のスペクトラム(連続体)の一つであり、初期段階でしっかり治療を行い、慢性化を食い止めることが将来の皮膚の健康を守るために重要です。
滴状乾癬を引き起こす主な原因と溶連菌感染
滴状乾癬の発症には、細菌感染と私たちの体が持つ免疫システムが深く関わっています。ここでは、原因の核心部分である感染症との関連や、体がどのように反応して発疹を作り出すのかについて説明します。
扁桃炎や咽頭炎が引き金となる感染の関連性
滴状乾癬の原因として最も重要視されているのがA群β溶血性連鎖球菌(溶連菌)による感染で、この細菌は、子供の喉風邪や扁桃炎の主要な原因菌です。
統計的に見ても、滴状乾癬を発症した患者さんの多くが、発疹が出る数週間前に喉の痛みや高熱を出しています。また、血液検査を行うと、溶連菌感染があったことを示すASOやASKといった抗体価の上昇が確認されることが頻繁にあります。
溶連菌以外にも、黄色ブドウ球菌などの細菌や、特定のウイルス感染がきっかけとなることもありますが、圧倒的に多いのは溶連菌による扁桃炎や咽頭炎です。
免疫システムが誤作動を起こす体の反応
細菌が喉に感染しただけで、なぜ遠く離れた皮膚に発疹が出るのでしょうか。これには免疫の交差反応やスーパー抗原といった概念が関係しています。
本来、免疫システムは侵入してきた細菌(この場合は溶連菌)を攻撃して体を守ろうとしますが、溶連菌の成分の一部が、人間の皮膚の成分(ケラチンなど)と似た構造を持っている場合や、免疫細胞を過剰に刺激する毒素を出す場合があります。
その結果、細菌を攻撃するための免疫細胞(T細胞)が活性化しすぎてしまい、誤って自分自身の皮膚まで攻撃してしまうのです。
過剰な免疫反応が皮膚の炎症を起こし、細胞の増殖サイクルを異常に早め、乾癬特有の盛り上がった赤い発疹を作り出します。
主な増悪因子とリスクファクター
- A群β溶血性連鎖球菌(溶連菌)による扁桃炎・咽頭炎
- 虫歯や歯周病などの口腔内慢性感染巣
- 精神的なストレスや過労による免疫バランスの乱れ
- 特定の薬剤の使用による反応
- 皮膚への物理的な刺激や外傷
遺伝的な体質と環境要因が重なるリスク
すべての人が溶連菌に感染した後に滴状乾癬になるわけではなく、発症には、個人の体質が大きく影響します。特定の白血球の型(HLA)を持っている人は、持っていない人に比べて乾癬を発症しやすいです。
これは遺伝的な素因と言えますが、遺伝子だけで発症が決まるわけではありません。
遺伝的ななりやすさ(素因)を持っている人が、溶連菌感染という環境要因にさらされ、さらにストレスや不規則な生活といった悪化要因が重なったときに、初めて病気として発症するという考え方が一般的です。
家族に乾癬の人がいなくても発症することはありますし、家族にいても必ず発症するわけではありません。
ストレスや生活習慣の乱れによる悪化要因
感染症は直接的な引き金ですが、体の抵抗力が落ちている状態では、免疫のコントロールが効きにくくなります。過度なストレス、睡眠不足、乱れた食生活は、自律神経やホルモンバランスを崩し、免疫系を不安定にします。
特にストレスは、乾癬の症状を悪化させる強力な要因の一つです。体が疲弊していると、一度活性化した免疫反応を鎮める力が弱まり、結果として皮膚の炎症が長引いたり、治りにくくなったりします。
感染症の治療と同時に、生活全体を見直し、体を休める環境を整えることが治療の一環として必要です。
滴状乾癬と間違いやすい他の皮膚疾患との見分け方
赤い発疹が出る病気は数多く存在し、中には滴状乾癬と非常によく似た見た目を持つものもあります。誤った判断は治療の遅れにつながるため、特徴的な違いを理解しておくことが大切です。
ジベル薔薇色粃糠疹との症状の類似点
滴状乾癬と最も見分けがつきにくい病気の一つにジベル薔薇色粃糠疹(ばらいろひこうしん)があり、若年層に多く、全身に赤い楕円形の発疹が多発し、表面にカサカサしたフケのようなものが付着します。
見た目は非常に似ていますが、経過に違いがあります。ジベル薔薇色粃糠疹の場合、最初にヘラルドパッチ(初発疹)と呼ばれる大きめの発疹が一つ現れ、その1〜2週間後に細かい発疹が全身に広がるというパターンをとることが多いです。
発疹の並び方が、背中の皮膚のシワに沿ってクリスマスツリーのように見えます。一方、滴状乾癬は先行する大きな発疹がなく、一斉にパラパラと出現する傾向があります。
鑑別が必要な主な皮膚疾患
| 疾患名 | 主な特徴 | 滴状乾癬との違い |
|---|---|---|
| ジベル薔薇色粃糠疹 | 楕円形の紅斑、クリスマスツリー様の配列 | 最初に大きな初発疹が出ることが多い。乾癬特有の厚い鱗屑は少ない。 |
| 梅毒性バラ疹 | 手のひらや足の裏にも発疹が出る、赤みが薄い | 血液検査(TP抗体など)で陽性反応が出る。他の性感染症リスクの有無も参考になる。 |
| ウイルス性発疹症 | 発熱と同時に発疹が出ることが多い | 発疹の形が不揃いで、乾癬のような厚みやカサつきが少ないことが多い。 |
梅毒性バラ疹など感染症による発疹の鑑別
梅毒の第2期症状である梅毒性バラ疹も、全身に赤い発疹が出るため注意が必要です。梅毒による発疹は、痒みが少ないことが多く、体幹だけでなく手のひらや足の裏にも現れます。滴状乾癬では手のひらや足の裏に発疹が出ることは比較的稀です。
梅毒は放置すると神経や内臓に重大な影響を及ぼすため、疑わしい場合は必ず血液検査を行う必要があります。皮膚科医は、発疹の見た目だけでなく、性交渉の機会などの問診情報も含めて総合的に判断します。
薬疹やウイルス性発疹との区別が必要な理由
薬の副作用で出る薬疹や、風疹や麻疹などのウイルス性発疹も全身に赤い斑点が現れます。薬疹の場合は、直前に新しい薬を飲み始めていないかどうかが重要な手がかりです。
ウイルス性の場合は、高熱やリンパ節の腫れなど、全身症状が強く出ることが一般的です。治療法は、薬の中止や対症療法が中心となり、滴状乾癬の治療法(ステロイドやビタミンD3外用、抗生物質など)とは全く異なります。
誤った治療を行うと症状が悪化することもあるため、自己判断で市販薬を使用する前に、正確な診断を受けることが大事です。
専門医による確定診断の流れと検査方法
皮膚科クリニックでは、まず視診で発疹の大きさ、形、分布、鱗屑の状態を観察し、アウスピッツ現象(薄皮を剥ぐと点状出血する)の有無も確認します。次に、問診で数週間前の風邪症状や喉の痛みの有無、家族歴などを詳しく聞きます。
多くの場合、視診と問診で診断がつきますが、確定診断のために皮膚の一部を数ミリ切り取って顕微鏡で調べる皮膚生検を行うこともあります。
また、溶連菌感染の関与を調べるための咽頭培養検査や、ASO・ASKといった抗体価を測る血液検査も頻繁に実施されます。
医療機関で行われる滴状乾癬の標準的な治療法
診断がついたら、症状の重さや原因に応じて治療を開始します。滴状乾癬は、皮膚の炎症を抑える対症療法と、原因となっている感染症へのアプローチを並行して行うことが一般的です。
ステロイド外用薬による炎症のコントロール
皮膚の赤みや盛り上がり、痒みを抑えるために最も基本となるのがステロイド(副腎皮質ホルモン)の外用薬です。ステロイドには強力な抗炎症作用があり、過剰になっている免疫反応をその場で抑え込む力があります。
症状の強さや塗る部位(体、顔、皮膚の薄い部分など)に合わせて、5段階の強さ(ランク)の中から適したものが選ばれます。医師の指示通りに十分な量を塗ることで、速やかに見た目を改善し、不快な症状を取り除くことができます。
ただし、漫然と長期使用するのではなく、症状が落ち着いてきたら徐々にランクを下げたり、回数を減らしたりする調整が必要です。
ビタミンD3外用薬を併用する効果的な塗り方
乾癬治療においてステロイドと並んで重要なのが、活性型ビタミンD3外用薬です。
異常な速さで増殖している皮膚の細胞(角化細胞)のサイクルを正常に戻す働きがあり、即効性ではステロイドに劣りますが、副作用が比較的少なく、長期間安心して使えるメリットがあります。
最近では、ステロイドとビタミンD3をあらかじめ配合した合剤が広く使われており、1日1回の塗布で済むため、患者さんの負担が大きく減りました。入浴後など皮膚が清潔で潤っているタイミングで、擦り込まずに乗せるように塗るのがコツです。
抗生物質内服による感染源へのアプローチ
滴状乾癬特有の治療として、抗生物質(抗菌薬)の内服があり、発症の引き金となった溶連菌を体内から排除し、免疫の異常なスイッチをオフにすることが目的です。ペニシリン系やセフェム系、マクロライド系などの抗生物質が使用されます。
すでに喉の痛みが治まっていても、扁桃腺の奥などに菌が潜んでいる可能性があるため、一定期間(数週間程度)服用を続けることが推奨される場合があります。治療により、新しい発疹が出るのを防ぎ、治癒を早める効果が期待できます。
主な治療法の役割分担
| 治療法 | 主な目的 | 期待できること |
|---|---|---|
| ステロイド外用 | 炎症の鎮静化 | 赤みや痒みを素早く抑える |
| ビタミンD3外用 | 表皮細胞の正常化 | 皮膚の盛り上がりやカサつきを改善し、良い状態を保つ |
| 抗生物質内服 | 感染源の除去 | 原因菌を叩き、これ以上の悪化や再発を防ぐ |
| 光線療法(NB-UVB) | 免疫調整・細胞抑制 | 塗り薬で治りにくい広範囲の発疹を改善する |
紫外線療法が選択されるケースと期待される効果
塗り薬や飲み薬だけでは十分な効果が得られない場合や、発疹が全身に無数に広がって薬を塗るのが大変な場合に、光線療法(紫外線療法)が検討され、ナローバンドUVBという特定の波長の紫外線を当てる治療法が主流です。
この波長の紫外線には、皮膚の過剰な免疫反応を抑える強い力があり、専用の機器の中に入り、短時間全身に光を浴びる治療を週に1〜2回繰り返します。
副作用として日焼けのような症状が出ることがありますが、管理された照射量であれば安全に行え、難治性の滴状乾癬に対して非常に有効性です。
慢性化を防ぐために日常生活で意識すべき注意点
病院での治療と同じくらい、自宅での過ごし方が病気の経過を左右します。皮膚への刺激を減らし、再発の芽を摘むために、日々の生活の中で患者さん自身ができる工夫について紹介します。
喉の痛みを放置せず早めに対処する重要性
滴状乾癬にとって喉のケアは皮膚のケアと同義と言っても過言ではありません。再発を繰り返す患者さんの多くは、風邪をひくたびに発疹が現れるので、喉に違和感を覚えたら、すぐにうがいを行い、マスクで保湿をして喉を守ってください。
もし痛みや発熱が出た場合は、我慢せずに早めに内科や耳鼻科を受診し、必要であれば抗生物質による治療を受けることが、皮膚症状の再燃を防ぐ最善の手立てです。
扁桃腺が慢性的に炎症を繰り返す場合は、扁桃摘出術が皮膚症状の劇的な改善につながるケースもあり、専門医と相談することもあります。
皮膚への摩擦や刺激を避ける衣類の選び方
乾癬にはケブネル現象と呼ばれる特徴があり、これは、健康に見える皮膚であっても、摩擦や傷、圧迫などの刺激が加わると、その部分に新しい乾癬の発疹ができてしまう現象です。
皮膚をこすらないことが非常に重要で、下着や衣服は、締め付けの強いゴム製品や、チクチクするウール、静電気の起きやすい化学繊維を避け、肌触りの良い木綿(コットン)素材のものを選ぶことをお勧めします。
また、入浴時にナイロンタオルでゴシゴシ洗うのは厳禁です。
乾燥を防ぎバリア機能を保つ毎日の保湿ケア
乾燥した皮膚はバリア機能が低下しており、外部からの刺激に弱くなっていて、炎症を悪化させる要因となります。お風呂上がりは皮膚の水分が急速に蒸発するため、5分以内に保湿剤を塗ることが大切です。
処方された保湿剤(ヘパリン類似物質やワセリンなど)をたっぷりと使い、全身の皮膚をしっとりと保つことで、痒みを軽減し、発疹の治りを助ける土台を作ります。保湿ケアは、発疹が消えた後も続けることで、再発予防にも役立ちます。
食事と生活習慣の見直しによる体質改善のアプローチ
体は食べたもので作られ、皮膚の健康を取り戻すためには、体の内側からのケアも欠かせません。特定の食品が特効薬になるわけではありませんが、炎症を助長しない体づくりが回復を後押しします。
免疫力を高めるために推奨される栄養素と食事
免疫のバランスを整えるためには、抗酸化作用のあるビタミン類(A、C、E)や、腸内環境を整える食物繊維を積極的に摂ることが大事です。
緑黄色野菜、きのこ類、海藻類は毎日の食事に取り入れたい食材で、また、青魚(サバ、イワシ、サンマなど)に含まれるEPAやDHAといったオメガ3系脂肪酸には、炎症を抑える働きがあることが知られています。
一方で、高カロリーな食事や、動物性脂肪の摂りすぎは炎症を促進する可能性があるため、バランスの良い和食中心の食生活を意識すると良いでしょう。
炎症を抑えるための食事と生活のポイント
| 積極的に摂りたい食品 | 青魚(EPA/DHA)、緑黄色野菜、海藻、きのこ、大豆製品 |
|---|---|
| 控えめにしたい食品 | 脂身の多い肉類、スナック菓子、インスタント食品、過剰な糖質 |
| 生活習慣の目標 | 適正体重の維持、規則正しい睡眠、禁煙、節酒 |
肥満メタボリックシンドロームと乾癬の深い関係
近年の研究で、肥満(内臓脂肪の蓄積)が乾癬のリスクを高め、さらに症状を重症化させることが明らかになってきました。脂肪細胞からはアディポサイトカインという炎症を起こす物質が分泌されており、皮膚の炎症を悪化させます。
また、乾癬患者さんはメタボリックシンドロームや心血管疾患を合併しやすい傾向もあります。適度な運動を取り入れ、体重を適正範囲にコントロールすることは、単なるダイエットではなく、皮膚の治療の一環として極めて重要です。
飲酒や喫煙が皮膚症状に与えるネガティブな影響
アルコールとタバコは、乾癬にとって百害あって一利なしです。アルコールは血管を拡張させて痒みを増強させるだけでなく、免疫系に作用して炎症を悪化させます。また、多量の飲酒は治療薬の副作用リスクを高めることもあります。
タバコに含まれるニコチンやタールは、体内で活性酸素を発生させ、酸化ストレスを高めることで乾癬の発症や悪化に強く関与し、喫煙者は、治療抵抗性(薬が効きにくい)になりやすいことが分かっています。
治療効果を最大限に高めるためにも、禁煙と節酒に努めましょう。
質の高い睡眠とストレス管理で自律神経を整える
皮膚の再生は、睡眠中に分泌される成長ホルモンによって促進されます。睡眠不足は肌の修復を妨げるだけでなく、自律神経の乱れを通じて免疫機能を低下させるので、毎日決まった時間に寝て、十分な睡眠時間を確保することを心がけてください。
また、ストレスを溜め込まない工夫も必要です。趣味の時間を持つ、軽い運動をする、ゆっくり湯船に浸かるなど、自分なりのリラックス方法を見つけましょう。
治療期間の目安と再発を予防するための長期的な視点
治療を始めてすぐにすべての発疹が消えるわけではなく、焦らずじっくりと向き合う姿勢が必要です。
完治までに必要となる一般的な期間と経過
滴状乾癬の経過は患者さんによって異なりますが、治療を行えば、早ければ数週間、通常は2〜3ヶ月程度で発疹が消失していきます。
最初は赤みが強く盛り上がっていた発疹が、治療とともに徐々に平らになり、色が薄茶色や白っぽい色(色素沈着や色素脱失)に変わっていき、これは炎症が治まった跡であり、時間が経てば周囲の皮膚と同じ色に戻ります。
ただし、治療を途中でやめてしまうとぶり返すことがあるため、医師がもう大丈夫と判断するまでは、見た目が良くなっても通院と投薬を続けることが大切です。
症状が落ち着いた後の寛解維持療法の考え方
皮膚症状が完全になくなった状態を寛解(かんかい)と呼び、滴状乾癬は、一度寛解すればそのまま再発しないことも多いですが、一部の人は慢性的な経過をたどることがあります。
症状が消えた後も、急に全ての治療をゼロにするのではなく、保湿剤のみを継続したり、時々外用薬を使ったりする維持療法(プロアクティブ療法)を行うことがあります。
これは、目に見えないレベルで残っている微細な炎症を抑え込み、再発の火種を消すための戦略です。
季節の変わり目や体調変化時に注意すべきサイン
乾癬は季節の影響を受けやすい病気です。一般的に、紫外線が強く湿度の高い夏は症状が軽快しやすく、空気が乾燥して日照時間が短い冬に悪化しやすい傾向があります。冬場は特に保湿を強化し、風邪をひかないように注意が必要です。
また、就職、転職、引っ越しなど、生活環境が大きく変わる時期はストレスがかかりやすく、再発のリスクが高まります。
少しでも皮膚に怪しいポツポツが出たり、喉の痛みを感じたりした場合は、様子を見ずに早めに受診することで、大きな再発を防ぐことができます。
滴状乾癬の原因や治療法、溶連菌感染との関連、他の皮膚病との違いについて解説し、ステロイドや光線療法などの治療の流れや、食事・入浴といった日常生活の注意点を説明します。
滴状乾癬に関するよくある質問
患者さんから診察室で頻繁に寄せられる疑問についてお答えします。
- 滴状乾癬は周りの人にうつりますか?
-
滴状乾癬が他人にうつることは絶対にありません。この病気は溶連菌などの感染症に対する患者さん自身の免疫反応によって起こるものです。
皮膚に付着している鱗屑(フケのようなもの)や発疹に触れても、菌やウイルスが感染するわけではありません。家族や友人と一緒に入浴したり、タオルを共有したり、プールに入ったりすることに何の問題もありません。
- お風呂に入るときに気をつけることはありますか?
-
入浴は皮膚を清潔に保ち、リラックス効果もあるため推奨されますが、洗い方と温度に注意が必要です。
熱すぎるお湯は皮膚の油分を奪い、痒みを増強させる原因となりますので、38度から40度くらいのぬるめのお湯に浸かるのが良いでしょう。
また、体を洗う際はナイロンタオルなどでゴシゴシこすると、ケブネル現象によって発疹が悪化したり増えたりします。石鹸を十分に泡立て、手のひらで優しく撫でるように洗ってください。
入浴剤は、刺激の強い硫黄成分などは避け、保湿成分が配合された低刺激のものを選ぶと安心です。
- 痒みがひどい時はどうすればいいですか?
-
痒みを我慢して掻きむしると、皮膚が傷つき、さらに炎症が悪化するという悪循環(イッチ・スクラッチ・サイクル)に陥ります。まずは処方されたステロイド外用薬をしっかり塗り、炎症そのものを鎮めることが先決です。
それでも痒い場合は、患部を保冷剤などで冷やすと一時的に痒みが和らぎます。また、抗ヒスタミン薬や抗アレルギー薬の内服を併用することで、痒みをコントロールしやすくなります。
乾燥も痒みの原因になるため、こまめな保湿も忘れないでください。
- 一度治れば、もう二度となりませんか?
-
滴状乾癬は、一度の治療で完全に治癒し、その後一生再発しない患者さんも多くいらっしゃいます。
しかし、体質的に喉の風邪(溶連菌感染)にかかりやすかったり、遺伝的な素因を持っていたりする場合、風邪をひくたびに繰り返すことがあります。また、一部の患者さんは慢性の尋常性乾癬へ移行することもあります。
二度とならないと断言はできませんが、風邪予防を徹底し、規則正しい生活を送ることで、再発のリスクを大幅に下げることが可能です。
以上
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