ラピフォートワイプとは、脇の多汗症(原発性腋窩多汗症)に対する治療薬として、2022年に承認、発売されたふき取り式の外用薬です。
多汗症によって日常生活に支障があると感じている人は少なくありません。
ラピフォートワイプをうまく活用することによって心理的なストレスの軽減効果が期待できます。
この記事では、原発性腋窩多汗症治療剤ラピフォートワイプについて詳しく解説していきましょう。
この記事の執筆者
小林 智子(こばやし ともこ)
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長
2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。
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ラピフォートワイプの有効成分と作用機序、効果
有効成分
ラピフォートワイプの主成分は「グリコピロニウムトシル酸塩水和物」です。抗コリン作用があり、過剰な発汗を抑える効果があります。
ラピフォートワイプには、グリコピロニウムトシル酸塩水和物が2.5%配合。
作用機序、効果
汗腺にはエクリン汗腺とアポクリン汗腺の2種類があり、多汗症の原因となる汗はエクリン汗腺から分泌されます。
ラピフォートの有効成分「グリコピロニウムトシル酸塩水和物」は、エクリン汗腺のムスカリンM3受容体と結合して、神経伝達物質アセチルコリンの働きを妨げることで、制汗作用を発揮。
その結果、日常生活における汗による不快感や社会的な不安を大幅に軽減し、生活の質を向上させたり、過剰な発汗による皮膚への刺激の軽減も可能です。
ラピフォートワイプは、特に暑い季節やストレスの多い時に使うと、効果を最大限に発揮すると報告されています。
ラピフォートワイプの使用方法と注意点
使用方法
1日1回、パッケージ内の1枚のワイプを使い、薬液を両脇に1回ずつ塗ります。この製品は1回使い切りタイプです。
使用前、使用時の注意点
- 傷や湿疹・皮膚炎などがある部位には使用を避ける。
- 使用する前に脇を拭いて、清潔かつ乾燥させる。
- 製品が目に入らないように注意し、万が一目に入ったらすぐに水で洗い流す。
- 激しくゴシゴシこすらない。
- 塗布した場所をラップで覆うなど密封しない。
- 汗拭きシートではないため、脇以外の場所への使用は控える。
- 使用後はすぐに手を洗い、手に残った薬剤を洗い流す。
- お子様が誤って触れないよう、適切に管理。
使用後の重要な注意点
- 抗コリン作用により、眩しく見えたり、霞んで見えたりするなど、眼の調節障害があらわれることがあります。症状が出た場合は、自動車の運転等、危険を伴う機械の操作は控えてください。
- 体温調節の異常を感じることがあります。高温・多湿の場所や運動時などの際、汗が出ない、体温が異常に上がる、熱中症のような症状が出たときは、涼しい場所へ移動し体を冷やし体温を低下させ、医療機関を受診してください。
適応対象となる患者さん
ラピフォートワイプは重度の原発性腋窩多汗症の方のみに適応です。
原発性腋窩多汗症の重症度分類にはHDSS(Hyperhidrosis disease severity scale、多汗症疾患重症度評価度)があり、自覚症状により4段階に分類されます。
このうち、ラピフォートワイプが適応となるのはHDSSスコアが3、もしくは4の患者さんです。日常生活において汗が我慢できないことが一つの適応の指標となります。
ラピフォートワイプが適応とならない患者さん
ラピフォートワイプは、以下のような症状をお持ちの方は使用することができません。
前立腺肥大症がある方
前立腺肥大症があり、かつ排尿障害がある方は使用できません。排尿障害がない方でも、抗コリン作用(排尿時に膀胱が収縮しなくなる)により尿が出なくなる可能性があります。
使用前に必ず医師にご相談ください。
閉塞隅角緑内障がある方
緑内障の中でも閉塞隅角緑内障の方は、使用することができません。抗コリン作用によって眼圧が上昇し、緑内障の症状を悪化させる恐れがあります。
使用前に必ず医師にご相談ください。
塗布部位に傷や湿疹、皮膚炎等がみられる方
傷や湿疹、皮膚炎等がある部位への使用はできません。薬剤が体内に吸収されやすくなり、抗コリン作用による副作用のリスクが高まることがあります。
特定の背景を有する方への使用
お子さんへの使用
9歳未満の小児を対象とした臨床試験は実施されていません。小児へは、保護者の指導のもと、使用します。
詳しくは主治医にご相談ください。
妊娠中や授乳中の方への使用
妊娠中や妊娠している可能性のある方へは、医師が治療上の有益性が危険性を上回ると判断したときのみ使用できます。
ラピフォートワイプは胎児通過性は低いものの、胎盤移行の可能性が。
また、授乳中の方への使用は、治療と母乳栄養の有益性を考慮し、授乳を続けるか中止するかを判断したうえで処方することもあります。
ラピフォートワイプの治療期間
治療期間に関しては、定められた期間はなく、治療効果が認められれば継続して使用が可能です。
国内で行われた長期投与試験は52週間行われており、その時点でも有効性が認められています。
ラピフォートワイプの副作用・デメリット
ラピフォートワイプは原発性腋窩多汗症に有効な薬ですが、副作用やデメリットもあります。
ラピフォートワイプの副作用
1%以上の方に眩しく見えたり霞んで見えたりする症状や、ドライアイ、排尿困難、頻尿、口の渇きといった抗コリン作用が出ることがあります。
また、使用部位に接触皮膚炎や湿疹が出ることも。
使用後に異常を感じり、不安な点がある際は、速やかに医師や薬剤師にご相談ください。
ラピフォートワイプ使用に伴うデメリット
ラピフォートワイプのデメリット
- 限定的な効果範囲: ラピフォートワイプの適応は腋窩(脇)のみで、手汗や全身性の多汗症には使用できない。
- 継続的な使用の必要性: 効果を維持するためには定期的な塗布が必要。
ラピフォートワイプで効果がなかった場合
ラピフォートワイプは、すべての方に効果があるわけではありません。効果が不十分だったり、副作用で使用できない場合は他の治療オプションを検討。
原発性腋窩多汗症の治療には、薬物療法(外用、内服及び注射)、レーザー治療、手術療法などがあります。
外用薬物療法には、同じ抗コリン外用薬にエクロックゲル(ソフピロニウム臭化物ゲル)があり、こちらも原発性腋窩多汗症に対して保険適用です。
また、以前は塩化アルミニウム製剤が外用薬の第一選択として使用されていました。表皮の汗管を閉塞することで制汗作用を持つと考えられており、塩化アルミニウム製剤は抗コリン薬外用剤との併用が可能です。
これら外用薬の効果が見られない重度の原発性腋窩多汗症に対しては、ボツリヌス毒素製剤の局所注射や抗コリン内服薬が保険適用となります。
その他、医療機器による施術として、マイクロ波を使用し汗腺を焼却する機器(ミラドライ)や、レーザー・フラクショナルマイクロニードル高周波・高密度焦点式超音波を用いた治療法の選択肢もありますが、いずれも保険適用外です。
また、治療の補足として心理療法を検討することもあります。
外科的な治療法として、重度の原発性腋窩多汗症に対して交感神経遮断術が適応となるケースも。遮断術に伴う副作用もありますので、専門医としっかり話し合ったうえで治療方針を決めることが大切です。
治療に関して疑問や不安がある場合は、遠慮なく専門医にご相談ください。
他の治療薬との併用禁忌
特に併用禁忌となる薬剤はありません。
保険適用について
ラピフォートワイプが保険適用となる疾患は重度の原発性腋窩多汗症です。
薬価についてですが、1包あたり262円となっています。
タイプ | 薬価に基づく薬の価格 |
---|---|
ラピフォートワイプ2.5% | 262円/包 |
保険の適応を受けるためには専門医による診察や診断が必要で、この他、初診料あるいは再診料、処置料などがかかります。
詳しくはお問い合わせください。
参考文献
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添付文書 医療用医薬品:ラピフォート
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