プロペト(ワセリン)は、皮膚に薄い保護膜を作って水分の蒸発を防ぐ保湿効果があるだけでなく、優れた皮膚保護剤でもあり、皮膚のバリア機能を強化し、乾燥した皮膚、擦り傷や切り傷などの保護に使用される保湿剤です。
また、無香料で、アレルギー反応を起こしにくいという特徴があります。
この記事では、プロペトについて詳しく解説していきましょう。
この記事の執筆者
小林 智子(こばやし ともこ)
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長
2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。
こばとも皮膚科関連医療機関
プロペトの有効成分と効果、作用機序
プロペト(一般名:ワセリン)は、皮膚の保湿と保護を目的に広く使用されるスキンケア製品です。この製品は単独で使われることもありますが、軟膏の基剤として用いられることもあります。
有効成分
プロペトの主成分は「ワセリン」で、ワセリンは石油から精製される半固体状の物質で、無色透明なのが特徴です。
成分 | 特徴 | 由来 |
---|---|---|
ワセリン | 無色透明、半固体状 | 石油 |
ワセリンの純度の違い
ワセリンの精製度によっていくつかの種類に分かれ、プロペトは純度が高いワセリンの一つです。
黄色ワセリン<白色ワセリン<プロペト<サンホワイト(市販品)
作用機序
ワセリンの作用機序は主に保湿作用に関連していて、塗布することで皮膚の表面に薄い層を形成し、天然の保湿因子を閉じ込めて水分の蒸発を防ぎます(オクルーシブ)。
- 皮膚の表面に保護膜を形成
- 皮膚の内部からの水分蒸発を防ぐ(オクルーシブ)
ワセリンの効果
- 皮膚の乾燥を防ぐ
- 肌の柔軟性を保つ
- 傷や亀裂の治癒を促す
ワセリンの中でも純度が高いプロペトは、特に乾燥肌や敏感肌に対する保湿剤として有効です。
また、プロペトはかぶれなどのアレルギーのリスクが低く、酒さによる赤ら顔やアトピー性皮膚炎をお持ちの患者さんも比較的安心して使用できます。
プロペトの使用方法と注意点
使用方法
プロペトの基本的な使い方
ステップ | 方法 |
---|---|
1 | 他の化粧品など保湿剤を使う場合はプロペトの前に塗布 |
2 | 清潔な手でプロペトを適量、指に取る |
3 | 必要な部位に均等に塗布(広範囲の場合は数カ所に分けて塗り広げる) |
プロペトはシャワーやお風呂上がりの湿った肌に使用すると効果的です。湿った肌にワセリンを塗布することで、肌の水分を閉じ込め、より乾燥を防ぎます。
塗る量は、塗布後の肌にティッシュペーパー乗せても落ちない程度の量が目安です。使用回数の制限はなく、1日2~3回をおすすめしていますが、特に乾燥が気になるときはそれ以上塗ることもできます。
また、全身や顔など広範囲に塗っていただいても問題ありません。
注意点
- 下着や衣類につくと洗濯をしても取れにくい。
- 眼軟膏として使用するときは減菌されたものを使用する必要。
- 外気温や製剤によって硬さにばらつきはありますが、問題はない。
- 少量なら口の中に入っても特に問題ありませんが、大量に入ってしまったときは医師や薬剤師に相談。
- 遮光し、涼しい場所で保管。
適応対象となる患者さん
プロペト(ワセリン)はいろいろな症状や目的に使うことができます。
- 乾燥症状:乾皮症など乾燥所見の改善に。
- 擦過傷や亀裂などの浅い傷の創傷治癒:傷口をワセリンで浸潤させることで傷の治りが早まる。
- ハンドクリームに代わりに、または併用:ワセリンが水分の蒸発を防ぐことでハンドクリームの効果をより高める。
- 薬による副作用の軽減:イソトレチノインなどの内服治療やレチノールなどの刺激症状がある場合、刺激を感じやすい目まわりや口周りに塗ると副作用の軽減に。
- ランニングなどに伴う刺激症状:ランニングなどの際に股が擦れることによって起こる「chafing」と呼ばれる症状を緩和。
お子さま、ご高齢の方への使用
プロペトは、年齢を問わず使用できます。乳幼児のデリケートな肌から、高齢者の乾燥しやすい肌まで、幅広い年齢層の患者さんに効果的です。
乳幼児では、おむつかぶれや肌の乾燥に対するケアとして使用されることがあります。また、高齢者の肌は、皮脂量の減少で乾燥しやすくなるため、プロペトは肌の保湿と保護に有効です。
プロペトの副作用やデメリット
プロペト(ワセリン)は一般的に安全な皮膚保湿剤とされていますが、いくつかの副作用やデメリットがあります。
プロペトの主な副作用
プロペトはごくまれに接触皮膚炎を起こします。
また、プロペトは油からできているため、ニキビや脂漏性皮膚炎など特定の症状に対しては悪化の原因となる可能性も。
プロペトの使用におけるデメリット
プロペトの使用には以下のようなデメリットがあることを理解しておきましょう。
- べたつき:肌に重たい感じが残ることがあり、特に湿潤した環境では不快に感じることも。
- 汚れの付着:ワセリンが肌に付着すると、ほこりや汚れが付きやすい。
- 衣服への影響:塗布した部位が衣服に触れると、油性のため衣服にシミができることが。
プロペトで効果がなかった場合
プロペト(ワセリン)は、すべての方に効果があるわけではありません。
乾燥症状に対して効果が乏しい場合
ワセリンはオクルーシブと言って水分の蒸発を防ぐ効果はありますが、皮膚の内部で水分を蓄える作用はありません。このような保湿剤を「エモリエント」と呼びます。
一方、皮膚の中で水分を蓄えるような「ヒューメクタント」も一緒に配合された保湿剤を「モイスチャライザー」と呼び、一般的にモイスチャライザーの方が保湿力は高いです。
ヒューメクタントと呼ばれる代表的な成分
- ヘパリン類似物質
- グリセリン
- セラミド
- ヒアルロン酸ナトリウム
プロペトで効果がなかった場合、これらの保湿成分が配合されたモイスチャライザーを使用することで症状の改善を認めることがあります。
また、保湿剤を使用しても乾燥の症状を認める方には、湿疹など炎症所見を伴うケースがあります。
そのような場合は、保湿剤に加えてステロイド外用薬など炎症を抑える薬を併用する必要がありますので、早めに皮膚科を受診してください。
他の治療薬との併用禁忌
プロペト(ワセリン)は特に併用禁忌となる薬はありませんが、併用に注意が必要な薬はあります。
ステロイド外用薬との併用
ステロイド外用薬は、湿疹など多くの皮膚疾患の治療に広く使用される薬ですが、プロペトを先に塗ると薬剤の浸透を阻害する可能性があります。
多くのステロイド外用薬はワセリンが基剤となっていますので、併用する必要性がないことが多いです。
抗菌外用薬との併用
プロペトを抗菌外用薬と同じ部位に使用すると、抗菌薬の効果を阻害することがあるので注意が必要です。
プロペトは他の多くの皮膚治療薬と併用しても安全ですが、同じ部位に他の薬剤が塗布されている場合、その薬剤の効果に影響を与える可能性もあります。
プロペトと併用する前に必ず医師に相談してください。
保険適用について
ワセリンは保湿剤や保護剤として、随伴する症状などに応じて保険が適用となることがあります。
薬価は2.4円/gで、10g処方された場合は24円で、3割負担で7.2円です。
保険の適応を受けるためには専門医による診察や診断が必要で、この他、初診料あるいは再診料、処置料などがかかります。
詳しくはお問い合わせください。
参考文献
添付文書 医療用医薬品:プロペト
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STAFF, Daily Egyptian. The Daily Egyptian, January 20, 1994.