オテズラ錠(アプレミラスト)は、局所療法だけでは治療困難な尋常性乾癬や乾癬性関節炎、ベーチェット病による口腔潰瘍に対して適応となるPDE4阻害作用を持つ内服薬です。
この薬はホスホジエステラーゼ4(PDE4)という酵素を阻害することで、細胞内の炎症を引き起こす物質の生成を抑制し、上記疾患の症状を軽減します。
この記事では、乾癬治療薬オテズラ錠について詳しく解説していきましょう。
この記事の執筆者
小林 智子(こばやし ともこ)
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長
2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。
こばとも皮膚科関連医療機関
オテズラ錠(アプレミラスト)の有効成分と効果、作用機序
有効成分
オテズラ錠の有効成分は「アプレミラスト」という成分です。
作用機序
アプレミラストは、ホスホジエステラーゼ4(PDE4)という細胞内酵素の活動を妨げる働きを持ちます。PDE4は、免疫細胞のシグナル伝達の調整に関わるcAMPを、不活性形態であるAMPに分解。
乾癬やベーチェット病の患者さんは、免疫細胞や表皮組織内でのPDE4が過剰に高まっており、それが免疫系のバランスの乱れや炎症の原因となっています。
アプレミラストはこのPDE4の活動を阻害することで、免疫バランスを調節し、炎症を抑えることができるのです。
効果
オテズラ錠で改善することが期待されている症状
- 頭皮などの乾癬症状(ふけ、厚い鱗屑、紅斑など)
- 爪の症状
- かゆみ
- 手指や足指、踵などの腫れ・痛み
- 関節の変形などの症状
全ての患者さんに同じような効果が現れるわけではなく、個人差がありますが、オテズラ錠は乾癬などの治療において、新たな全身治療の選択肢として注目されています。
オテズラ錠(アプレミラスト)の使用方法と注意点
使用方法
通常、成人ではアプレミラストを次のように経口投与し、6日目から1日2回、朝夕にそれぞれ30mgを経口投与します。
1日目 | 2日目 | 3日目 | 4日目 | 5日目 | 6日目以降 | |||||
朝 | 朝 | 夕 | 朝 | 夕 | 朝 | 夕 | 朝 | 夕 | 朝 | 夕 |
10mg | 10mg | 10mg | 10mg | 20mg | 20mg | 20mg | 20mg | 30mg | 30mg | 30mg |
注意点
- 投与開始時は少しずつ薬の量を増やす。この漸増投与を行わなかった場合、悪心、下痢、嘔吐など消化器症状の発現率が高くなるので、必ず医師の指示した用法を守る。
- 重度の腎機能障害を持つ方では、薬剤の血中濃度が上昇する可能性が。そのため、薬の量を減量するなど、投与に際しては特に注意が必要。
- 錠剤は噛み砕いたり割ったりせず服用。
- 薬剤の相互作用に注意し、他の薬と併用するときは医師に相談。
- 飲み忘れてしまったら、気がついたときに飲む。ただし、次の服用時間が近いときは、忘れた分を飲まずに次の時間に合わせて正しい時間に飲む。お薬の量や服用回数に誤りがあったら、すぐに医師または薬剤師に相談。
適応対象となる患者さん
オテズラ錠は、局所療法で効果不十分な尋常性乾癬(ステロイド外用剤等で効果が得られず、皮疹が体表面積の10%以上に及ぶ方)、乾癬性関節炎(難治性の皮疹又は関節症状がある方)、局所療法で効果不十分なベーチェット病による口腔潰瘍に適応です。
特定の背景を有する方への使用
お子さんへの使用
使用できません。
ご高齢の方への使用
ご高齢の方は、一般に生理機能が低下しているので、感染症、下痢、悪心、嘔吐などの副作用が発現する可能性が高くなります。体調を十分に観察しながら、慎重に投与することに。
感染症がある、感染症が疑われる、または再発性感染症の既往歴がある方
感染症を悪化させたり、顕在化させたりすることがあります。
重度の腎機能障害(Cockcroft-Gault式によるクレアチニンクリアランス値が30mL/min未満)がある方
オテズラ錠の血中濃度が上昇し、副作用が現れる可能性が高くなることがあります。
妊娠、または妊娠している可能性のある方
使用できません。妊娠の可能性がある女性にオテズラ錠を投与する際は、まず問診などにより妊娠をしていないことを確認し、この薬が胚胎への毒性リスクがあることを説明したうえで投与を開始。
また、投与期間中は適切な避妊を行う必要があります。
授乳中の方
授乳中の方への使用は、治療上の有益性及び母乳栄養の有益性を考慮し、授乳の継続又は中止を検討したうえで処方することもあります。詳しくは医師にご相談ください。
オテズラ錠(アプレミラスト)の治療期間
症状が改善してくる時期には個人差がありますが、比較的ゆっくりと効果があらわれ、早い方で2週間、遅くても飲み始めから24週間くらいまでに実感するでしょう。
24週以内に効果が見られないときは、治療計画を見直すことも検討します。
また、治療期間は患者さんの症状や治療への反応に応じて変わるため、個々の状況に合わせた柔軟な対応が大切です。
乾癬の治療は長期戦であり、オテズラ錠の効果を最大限に引き出すためには、患者さんと医療者の継続的なコミュニケーションが欠かせません。
オテズラ錠(アプレミラスト)の副作用やデメリット
オテズラ錠は、多くの方にとって有効な治療薬ですが、いくつかの副作用やデメリットがあります。
副作用
オテズラ錠の副作用
- 消化器症状:多くの患者さんが経験する副作用で、特に下痢、吐き気、腹痛。飲み始めてから2週間以内に現れ、4週間以内におさまる傾向にありますが、重度の下痢が起こることも。
重度の症状が現れた際は、医師に相談したうえで、一時的にお薬を飲むのを中断することも。 - 感染症:風邪に代表される感染症ですが、ウイルスや細菌が体内に入ることで引き起こされる。
- 過敏症:乾癬の症状とは別に、じんましんやかゆみといった症状が発生したり、急な息切れなどの呼吸器系の症状が現れることも。
- 体重の減少:服用を開始した患者さんの中には、体重が減少することがあり、特に治療初期に観察。定期的な体重測定を。
- うつ症状:関連性は不明ですが、まれに因果関係が否定できない気分の落ち込みやうつ症状が出ることも。うつ病の既往があったり、現在うつ症状が出ている方への投与は慎重に経過観察。症状が現れたときは、主治医に相談。
デメリット
オテズラ錠治療におけるデメリット
- 治療の持続性が求められる:長期間にわたっての服用になるため、定期的な医療フォローアップが必要。これが患者さんにとって、時間的、経済的な負担に。
- 効果の出現に時間がかかることがある:即効性のある薬剤ではなく、症状の改善を実感するまでには数週間から数ヶ月かかることも。患者さんは治療初期には忍耐が必要。
オテズラ錠(アプレミラスト)の服用を検討している患者さんは、これらの副作用やデメリットを理解し、医師と十分に話し合ったうえで、治療を開始するかどうかを決めることが大切です。
また、治療中は定期的な医療フォローアップを受け、体調の変化に注意し、必要に応じて医師に相談してください。
オテズラ錠(アプレミラスト)で効果がなかった場合
オテズラ錠は多くの方にとって有効な治療選択肢ですが、すべての方に効果があるわけではありません。効果がみられない、または不十分なときは、他の治療薬への切り替えが検討されることがあります。
ここでは、オテズラ錠に代わる代替治療薬についてご説明しましょう。
乾癬の代替治療薬
尋常性乾癬の治療は、軽症の方にはステロイド外用薬、活性型ビタミンD3外用薬、その両者を配合した配合薬の外用療法が基本です。
この外用療法で十分な効果が見られないときは、外用療法に加えてナローバンドUVBやエキシマライトといった紫外線療法を併用したり、本剤のアプレミラストやレチノイドといった内服薬を併用します。
それでも他の治療が困難であったり、紫外線療法が難しいときは、シクロスポリンやメトトレキサートなどの免疫抑制剤や抗リウマチ薬の内服療法を検討することに。
そして、これらの治療で十分な効果が得られなければ、コストは高額になりますが、生物学的製剤の使用を検討することもあります。
それぞれの製剤には副作用がありますので、医師としっかり相談して治療方針を決めていきましょう。
乾癬治療に関して、オテズラ錠に代わる代替治療薬の一覧表
代替治療薬 | 作用機序 |
---|---|
生物学的製剤 | TNF-α阻害剤、IL-17阻害剤などさまざまなターゲットに作用 |
メトトレキセート | 免疫系を抑制し、炎症を減少 |
シクロスポリン | 免疫抑制作用があり、特に重症の症例で使用される |
光線療法 | 紫外線B波やPUVA療法が乾癬の症状改善に有効 |
レチノイド | 表皮の異常角化を抑制する効果 |
ベーチェット病による口腔潰瘍の代替治療薬
ベーチェット病の粘膜病変は頻度が高く、初期に症状が出てくることが多いです。
軽症の場合は、口腔内の清潔を保ち、ステロイド外用薬や粘膜保護剤などの局所療法から治療を開始しますが、増悪したときは本剤であるアプレミラストなどの全身療法を選択することになります。
その他の全身療法として挙げられるのは、コルヒチン、抗菌薬、ステロイドの全身投与。さらに重症(腸管・血管・神経病変・眼発作を伴う場合)と判断されると、TNF-α阻害薬が検討されることもあります。
他の治療薬との併用禁忌
リファンピシン、フェノバルビタール、カルバマゼピン、フェニトインなどの薬は、CYP3A4酵素誘導作用あるため、CYP3A4で代謝される本剤の効果が弱くなることがあります。
代替治療薬として挙げられているメトトレキセートも、併用すると効果が弱まることが指摘されました。真菌感染症治療薬のケトコナゾールは、併用すると逆に効果が増強することがあります。
別の疾患があり、治療薬を内服しているときは、オテズラ錠を使用する前に必ず医師や薬剤師にご相談ください。
保険適用と薬価について
オテズラ錠が保険適用となるのは、局所療法で治療困難な尋常性乾癬や乾癬性関節炎、ベーチェット病による口腔潰瘍の症状です。
詳しくは添付文書をご覧ください。
https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00066595
薬価は、オテズラ錠10mgで329.9円/錠、20mgで659.7円/錠、30mgで989.6円/錠。
投与開始時の2週間はスターターパックによる漸増投与が必要で、1週間分の薬剤費は約8906円です。
薬剤費は適応される保険の割合に応じて変わります。
たとえば3割負担の方ですと、上記の価格の3割分が薬剤費の自己負担分となり、スターターパック1週間で約2672円です。
保険の適応を受けるためには専門医による診察や診断が必要で、この他、初診料あるいは再診料、処置料などがかかります。
詳しくはお問い合わせください。
参考文献
添付文書 医療用医薬品:オテズラ
https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00066595
参考:オテズラを服用される患者さん向けサイト オテズラDAYS お薬代の目安
https://www.otezla-japan.jp/patient/pso_psa/tips/treatment_cost
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