ロキソニンとは、痛みや発熱をやわらげるために広く使用される解熱鎮痛剤です。
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の一種で、体内で痛みや炎症を引き起こすプロスタグランジンの生成を抑制することで効果を発揮。
日常生活でよく見られる風邪の発熱、手術後の痛み、腰痛、肩の痛み、歯の痛みに対して、速やかに効果を示すことで知られています。
この記事では、解熱鎮痛剤ロキソニンについて詳しく解説していきましょう。
この記事の執筆者
小林 智子(こばやし ともこ)
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長
2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。
こばとも皮膚科関連医療機関
ロキソニンの有効成分と作用機序、効果
有効成分
ロキソニンの主成分であるロキソプロフェンナトリウム水和物は、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の中でも特に効果が高いとされています。
作用機序
ロキソニンは、プロスタグランジンの合成を担う酵素であるシクロオキシゲナーゼ(COX)の活動を阻害することで、熱や痛みに作用します。
人間の体内には、COX-1とCOX-2の二種類のシクロオキシゲナーゼがあり、プロスタグランジンの生成に関与。
ロキソニンは、両方の酵素の働きを阻害し、プロスタグランジンの過剰な生成を抑え、痛みや炎症の原因を抑制します。
効果
ロキソニンは、特に急性の痛みや炎症に対して高い効果があります。
歯科処置後の痛み、筋肉痛、関節痛、腰痛。また、打撲や捻挫などの外傷に伴う痛みなど、さまざまな種類の痛みに効きます。
皮膚科領域では帯状疱疹や蜂窩織炎などに伴う急性疼痛によく処方される薬です。また、ロキソニンは発熱を伴う風邪の症状に用いられることもあります。
頭痛や生理痛にも効果はありますが、保険適用外です。
ロキソニンの使用方法と注意点
使用方法
- 成人の腰痛・筋肉痛・関節痛など整形外科領域の痛みや炎症または歯痛:通常、ロキソニン1回60mg、1日3回投与、頓服する場合は、1回60~120mg。年齢、症状により適宜増減。
- 成人の手術後・外傷後・抜歯後の炎症または鎮痛:上記と同じ用法。
- 成人の急性上気道炎:1回60mgを服用し、原則として1日2回、1日最大180mgまで。年齢、症状により適宜増減。
注意点
- 空腹時の内服は避ける。
- 過剰な服用は避け、医師の指示通りに内服。
- 他の消炎鎮痛剤との併用には注意。
- 症状を一時的にやわらげるための薬で、症状の原因となっている疾患がある場合は治療が必要。
- 使用後に急激な体温低下により、体に力が入りにくくなったり、手足が冷たくなったりすることが。
- 関節リウマチなどの慢性疾患に対して長期使用する際は、副作用に注意し、定期的な採血やその他検査など、医師による診察が必要。
適応対象となる患者さん
ロキソニンが適応となる疾患
- 関節リウマチ、変形性関節症、腰痛症、肩関節周囲炎、頸肩腕症候群、歯痛の方への消炎・鎮痛
- 手術後、外傷後並びに抜歯後の消炎・鎮痛
- 急性気道炎の方の解熱・鎮痛
ロキソニンが使用できない患者さん
ロキソニンが適応外となる方
- 消化性潰瘍のある方
- 重篤な血液異常、肝障害、腎障害、心機能不全のある方
- ロキソニンに対して過敏症の既往歴がある方
- アスピリン喘息、またはその既往のある方
- 妊娠後期の方
特定の背景を有する方への使用
お子さまへの使用
小児に対する安全性は確立していません。小児に対しては、ロキソニンではなくカロナールなどのアセトアミノフェンが処方されます。
ご高齢の方への使用
ご高齢の方は加齢によって肝臓や腎臓の機能が低下していることが多く、通常の成人用量では過剰になることがあるので、1回用量や服用回数を調整します。
また、他の疾患で多くの薬を服用している場合、相互作用のリスクが高まるため、医師による管理が必要です。
妊娠または妊娠している可能性のある方への使用
妊娠後期の方には、投与できません。
それ以外の妊婦さん、または妊娠している可能性のある方に対しては、治療上の有益性が危険性を上回ると判断された場合にのみ、最小限の投与量で慎重に処方します。
授乳中の方への使用
授乳中の方への使用は、治療効果と母乳栄養の有益性を考慮し、医師が授乳の継続または中止を検討したうえで処方することもあります。
感染症を合併している方
治療をする前にロキソニンを内服すると、本来の感染症の症状がわからなくなり、治療開始が遅れることがあります。
さまざまな疾患の既往がある方
重篤ではない腎障害・肝障害・消化管潰瘍・血液異常・心機能異常、気管支喘息、潰瘍性大腸炎、クローン病、また、これらの既往歴がある方は、ロキソニンを内服することで症状が悪化、あるいは再発する恐れがあります。
使用に関しては必ず医師や薬剤師にご相談ください。
ロキソニンの治療期間
ロキソニンの短期使用
ロキソニンは痛みや発熱に対して効果的ですが、短期間の使用が推奨され、上気道炎による発熱、一時的な腰痛や筋肉痛、歯痛などの症状に対して数日から1週間程度の使用が一般的です。
症状が改善しなかったり、悪化するときは、医師の診察を受けてください。
長期使用におけるリスク
長期間にわたるロキソニンの使用は、副作用に対するリスクが高まるので、漫然とした使用は勧められません。
長期間使用する際は、医師と十分に相談し、定期的に尿検査や血液検査、肝機能検査のチェックを受けることが大切です。
ロキソニンの副作用
ロキソニンはさまざまな急性疼痛に有効な薬ですが、副作用もあります。
重大な副作用
ロキソニンは、重大な副作用を引き起こすことがあります。
ロキソニンの重大な副作用
- ショック、アナフィラキシー症状(呼吸困難、血管浮腫、蕁麻疹など)
- 中毒性表皮壊死融解症(Toxic Epidermal Necrolysis: TEN)や皮膚粘膜眼症候群(Stevens-Johnson症候群)など皮膚疾患
- 重度の腎障害や血液、肺、肝臓、心臓への障害
- 消化管潰瘍、消化管出血、消化管穿孔
- 小腸や大腸の狭窄、閉塞
- 喘息発作などの急性呼吸障害
- 発熱、頭痛、悪心嘔吐、項部硬直、意識障害などを伴う無菌性髄膜炎
- 筋肉痛、脱力感、採血でCK上昇などが認められる横紋筋融解症
その他の副作用
発疹や痒みなどの皮膚症状、食欲不振や悪心嘔吐・下痢・胸焼けなどの消化器症状、眠気、肝機能異常、浮腫などの症状が見られることもあります。
特に胃腸症状を認めることがあり、ロキソニンと一緒に胃粘膜保護薬が処方されることが多いです。
その他にもいろいろな副作用が出る可能性があります。詳しくは添付文書の副作用をご覧ください。
https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00057032#par-9_5_1
使用中・使用後に気になる症状が現れたり、不安な点があるときは、使用を中止し速やかに医師や薬剤師にご相談ください。
ロキソニンで効果がなかった場合
ロキソニンはすべての方に効果があるわけではありません。効果が感じられなかったり、副作用で使用することができない方が、代わりに使用できる薬や対応について解説します。
疼痛・発熱の原因検索
まずは疼痛や発熱の原因となっている疾患を調べ、その際採血や画像検査など追加検査を行うことがあります。
原因が判明すれば、抗菌薬などの必要な治療を開始したり、しかるべき診療科に紹介したりということも。
アセトアミノフェン
ロキソニンで症状が改善しないときの代替薬には、アセトアミノフェン(カロナールなど)があります。胃腸に対する副作用が少ないですが、肝臓への影響に注意してください。
他の非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)
ロキソニン以外のNSAIDsを試すことも一つの選択肢です。
イブプロフェンやナプロキセンなど違う成分のNSAIDsは、ロキソニンと異なる効果を示すことがあります。ただし、胃腸障害などのリスクも同様に考慮してください。
COX-2阻害薬
セレコキシブなどのCOX-2阻害薬は、特に炎症を伴う痛みに対して効果的です。
COX-2は炎症時に組織で誘導される酵素で、この酵素を選択的に阻害することで抗炎症・鎮痛効果があるものの、解熱作用はありません。
ロキソニンと比べて胃潰瘍など消化器合併症の副作用が50%少ないとされていますが、心血管系に対するリスクがあるため、医師の指導のもとで使用する必要があります。
オピオイド鎮痛剤
がん性疼痛など重度の痛みに対しては、オピオイド鎮痛剤が検討されることもあります。
モルヒネやオキシコドンなどが含まれますが、これらの薬剤は依存性や呼吸抑制などの重大な副作用があるため、医師の厳密な監督のもとでのみ使用することに。
補完・代替医療
一部の方には、鍼治療やカイロプラクティック、マッサージなどの補完・代替医療が効果的なことも。薬物療法と併用することで、痛みの緩和をサポートすることが期待されます。
他の治療薬との併用注意
ロキソニンは一部飲み合わせの悪い薬があります。
ロキソニンとの併用を注意すべき薬
併用注意薬 | リスク |
---|---|
他のNSAIDs | 胃腸障害、腎障害のリスク増加 |
抗凝固薬 | 出血リスクの増加 |
リチウム製剤 | 血中リチウム濃度が上昇してリチウム中毒を起こす |
メトトレキサート | 血中メトトレキセート濃度が上昇して作用が増強 |
ニューキノロン系抗生剤 | 痙攣を誘発 |
一部の降圧薬、利尿薬 | 降圧薬、利尿薬の効果を弱める |
SU系血糖降下薬 | 血糖降下作用を増強 |
これらの薬を服用されている方は、事前に必ず医師や薬剤師に申し出てください。
保険適用について
ロキソニンは、関節リウマチ、変形性関節症、腰痛症、肩関節周囲炎、頸肩腕症候群、歯痛などの消炎・鎮痛、手術後や外傷後、抜歯後の鎮痛・消炎、急性上気道炎(急性気管支炎を伴う急性上気道炎を含む)に対して保険適応となります。
詳しくは添付文書をご覧ください。
https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00057032#par-9_5_1
薬価
製品名 | 薬価 |
---|---|
ロキソニン錠60mg | 10.1円/錠 |
ロキソニン細粒10% | 17.8円/g |
1か月あたりの薬価は、1日に服用する量と日数によります。例えば、1日に1錠を服用し、1か月(30日)服用する場合、先発品のロキソニン錠60mgでは303円(10.1円×30日)になり、3割負担の場合は約91円が自己負担額です。
医師の処方箋を受けるためには専門医による診察や診断が必要で、この他、初診料あるいは再診料、処置料などがかかります。
詳しくはお問い合わせください。
参考文献
添付文書 医療用医薬品:ロキソニン
佐野 統編. NSAIDsの選び方・使い方ハンドブック. 羊土社. 2010.
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