イソトレチノインは主にニキビ治療に用いられる内服薬で、皮膚の新陳代謝を促進したり、皮脂の過剰な分泌を抑える効果があります。
アメリカおよび欧米では1980年代から難治性の重症ニキビに対してFDA(アメリカ食品医薬品局)に承認されている薬でも、日本では保険が適用されず自費での扱いです。
最近では個人輸入などで購入する人もいるようですが、胎児奇形などの重篤な副作用があるため、取り扱いには十分な注意が必要になってきます。
この記事では、イソトレチノインについて詳しく解説していきましょう。
この記事の執筆者
小林 智子(こばやし ともこ)
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長
2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。
こばとも皮膚科関連医療機関
イソトレチノインの作用機序、効果
イソトレチノインは成分名で、ビタミンA誘導体の一つです。ビタミンAは脂溶性ビタミンで、さまざまな生理活性があります。
イソトレチノインが配合された薬の商品名には、ロアキュタンやアキュテインなどが。
ニキビにおけるイソトレチノインの作用機序
ニキビの発生にはいくつかの要因が関係しています。
- 過剰な皮脂
- 毛穴の詰まり、過角化
- 炎症
- アクネ菌の増殖
イソトレチノインの作用機序
- 皮脂腺の縮小、皮脂の分泌抑制:イソトレチノインには皮脂腺の大きさと皮脂の産生を両方減少させる作用があります。
- 皮膚細胞のターンオーバーを促進: 皮膚の過剰な角化を防ぎ、毛穴の詰まりを防ぎます。
- 抗炎症作用: 炎症性サイトカインを減少し、免疫を調整させる作用があります。
- アクネ菌の減少:毛包の環境を調整し、ニキビの原因となるアクネ菌を減少させる作用があります。
ニキビの要因すべてにアプローチすることで、重症のニキビに対しても効果をもたらします。
効果
イソトレチノインのニキビへの効果
効果 | 説明 |
---|---|
炎症性ニキビの数の減少 | アクネ菌の減少や抗炎症作用によって炎症性のニキビの数を減少させる |
新しいニキビ発生の予防 | 毛穴が詰まりにくくなることで新たなニキビができにくくなる |
ニキビ痕の予防 | 早期に炎症を改善することによってニキビ痕の発生を予防したり軽度にとどめることが可能に |
多くの臨床試験で、イソトレチノインはニキビの発生数を減少させるだけでなく、ニキビ痕の改善や、肌質の改善などにも寄与することが分かっています。
特に、ニキビ痕はその外見から精神的なダメージにつながることが多く、重度のニキビなどニキビ痕のリスクが高いケースに対して早期にイソトレチノインを導入することで、多くの患者さんの生活の質を高めることが可能です。
イソトレチノインの使用方法と注意点
使用方法
イソトレチノインの内服量は、体重によって異なります。通常、重症のニキビ治療に対しては0.5〜1.0mg/kgを2回に分けて服用します(場合によっては1回)。
0.5mg/kgから開始し、反応や副作用の状況を考慮しながら1.0mg/kgまで増量することが多いです。もし副作用を認める際は、内服量を減らすこともあります。
重要なのは累積の投与量で、少ない時点でイソトレチノインの内服を中止すると、再燃することも。累積投与量が120〜150mg/kgで再発を起こしにくいと言われています。
一方で、軽度〜中等度のニキビの場合は0.25〜0.4mg/kgでも有効であるという報告が。ただし、飲む間隔が大幅に空いてしまうと効果は低くなります。
一方、累積投与量が220mg/日以上の方が、220mg/日未満よりも再発のリスクが明らかに低いという報告も。
イソトレチノイン服用の際の注意点
イソトレチノインを服用する際には、以下の点に気をつけてください。
- 専門医の処方と指示に従う: 処方薬であるため、医師の指示通りに服用。
- 服用量を守る: 処方量は患者さんの体重やニキビの重症度に基づいて決定され、必ず医師が指示する量を守り、自己判断での量の増減は行わない。
- 服用のタイミング: 食事によって吸収率が向上するため、食後の服用が推奨。親油性なので、特に脂質を含む食事を摂取することで吸収率がさらに上昇。
- 治療期間の遵守: 服用期間の短縮や中断は効果に影響するので、指示された治療期間を守る。
その他の注意点
イソトレチノインを安全に使用するためには、以下の注意点を厳守してください。
- 定期的な検査: 定期的に血液検査をすることで、副作用の有無を確認。
- 妊娠時の危険性: 胎児奇形のリスクがあるため、妊娠中または妊娠を計画している女性は使用を避け、内服終了後最低1ヶ月は避妊。
- 日光への露出: 治療中は日光に敏感になるため、日焼けを防ぐ対策。
- 強い乾燥や皮膚症状を認める場合:主治医に相談。
- 他の薬剤との併用:相互作用のリスクがあるため、使用前に必ず主治医に相談。
適応対象となる患者さん
イソトレチノインは欧米では重症のニキビに対してFDAに承認されており、適応と考えられる患者さんは以下のとおりです。
一般的なニキビ治療で効果が乏しい方
ニキビの治療はまず保険治療から始め、過酸化ベンゾイル(ベピオ)、アダパレン、抗生剤の外用剤や内服薬などが挙げられます。
これらの治療法で十分な反応を示さない場合、イソトレチノインの導入を検討することに。
ニキビ痕を伴う炎症性ニキビ
重度のニキビはニキビ痕を残すことが多いため、ニキビ痕のリスクが高かったり既にニキビ痕が形成されている方には、イソトレチノインが有効な選択肢です。
ニキビの再発率を低減させることで、将来のニキビ痕形成を予防すると考えられています。
結節・嚢腫性ニキビ
イソトレチノインは、通常、中等度から重度のニキビに適応。
広範囲にわたって赤い炎症性ニキビや化膿した膿疱を認めるケースに加え、結節や嚢腫といった、しこりを伴うようなニキビが多発するようなケースでは、イソトレチノインの使用が考慮されます。
ニキビで精神的苦痛を伴う患者さん
ニキビが一時的なものではなく、長期間にわたり続く場合、精神的な苦痛を伴うことが多くあります。
ニキビはうつ病などの精神疾患との関連性について指摘されており、患者さんの生活に大きく影響を与えるような場合、イソトレチノインを服用することで精神的苦痛の軽減に繋がることが分かっています。
顔の膿皮症
顔の膿皮症は、若い女性に認める比較的まれな疾患で、顔に融合性の赤い結節や膿疱が多発し、重度のニキビや酒さと類似。
顔の膿皮症に対してはイソトレチノインが、非常に効果が高いことが分かっています。
集簇性痤瘡(しゅうぞくせいざそう)
集簇性痤瘡は最重症型のニキビで、膿瘍や排膿を伴う瘻孔(ろうこう)を認め顔の凹凸が顕著となるのが特徴です。
最近の研究では、毛包の閉塞による過剰な免疫反応によって起こる慢性炎症として、化膿性汗腺炎などの膿皮症と同じスペクトラム(病態)だと考えられています。
集簇性痤瘡に対しても、イソトレチノインが有効です。
適応対象にはならない患者さん
イソトレチノインはすべての患者さんに適応となる薬ではありません。
イソトレチノインが服用できないケース
- 妊娠中の方、妊娠している可能性のある方、妊娠の計画をしている方:重篤な副作用として胎児に先天奇形を及ぼすリスクがあります。
- 授乳中の方:イソトレチノインは乳汁への移行性があり、乳児への影響の懸念から授乳中の場合もイソトレチノインの服用はできません。
- 12歳未満の方:ヨーロッパのガイドラインでは、12歳未満の方へのイソトレチノインの服用は推奨されていません。
- 大豆・ピーナッツアレルギーのある方:イソトレチノインのカプセルに含まれる大豆オイルの摂取によってアナフィラキシー症状を引き起こすことがあります。
- テトラサイクリン系の抗生剤で治療中の方
- イソトレチノイン製剤・トレチノイン製剤やビタミンAでアレルギーを起こしたことのある方:頭蓋内圧の亢進により頭痛などの副作用が起こりやすくなります。
- ビタミンA過剰症の方
- うつ病・その他の精神疾患で治療中の方
- 肝障害のある方
- 脂質異常のある方
イソトレチノインの治療期間
イソトレチノインの治療期間は累積投与量によっても変わってきます。0.5mg/kgで開始し、その量で維持された場合、累積投与量120mg/kgに達するには約8ヶ月、220mg/kgの場合は1年以上かかります。
再発は20歳未満だと起こりやすいことが報告されており、患者さんの年齢や重症度などに応じて投与量を調整することに。1クール目の治療終了後、平均して10ヶ月を目安に再発を認めることがあります。
症状が軽度であれば外用薬などでコントロールが可能ですが、症状が比較的重度である場合はイソトレチノインの内服をもう1クール行うことも。
イソトレチノインの副作用と対処方法
イソトレチノインは重症のニキビに対して非常に効果の高い薬ですが、いくつかの副作用があります。
胎児奇形
中でも最も重篤な副作用が胎児奇形で、生まれてくる赤ちゃんに先天的な異常が現れるリスクがあるため、妊娠中の方や妊娠の可能性がある方は服用することができません。
イソトレチノインの内服中だけでなく、内服後も女性の場合は半年、男性の場合は1ヶ月、避妊を行う必要があります(女性は1ヶ月程度でも問題ないという最近の報告も)。
骨の成長
以前、FDAより成長期の児童にイソトレチノインを内服させた際に、「早発性骨端閉鎖」という成長が止まってしまうリスクが報告されました。
近年のレビューでは、骨端閉鎖についてはイソトレチノインを高用量服用した際にリスクが高まることが指摘されており、通常ニキビで用いられる量では起こりにくいと考えられています。
心配の方は、一度主治医と十分に相談してください。
精神疾患との関連性
以前はイソトレチノインがうつ病などの精神疾患を引き起こすリスクが懸念されていましたが、最近ではイソトレチノインによってニキビが改善する精神的なメリットの方が高いというのがコンセンサスとなっています。
その他副作用
その他のイソトレチノインの主な副作用
- 皮膚・唇・鼻・目の乾燥(特に唇の乾燥はほぼ全例に認める)
- 頭痛
- めまい、吐き気、疲労感
- 鼻血
- 夜間の視力低下など視覚異常
- 光線過敏症
- 関節痛や筋肉痛
また、軽度の肝機能障害や脂質異常を認める場合があるため、定期的に採血を行います。
もし気になる症状がある場合や症状が改善しないときは、早めに専門医にご相談ください。
対処方法
軽度の副作用であれば、以下のような対策によってイソトレチノインの内服を継続することが可能です。
副作用の種類 | 対処法 |
---|---|
皮膚の乾燥 | 保湿剤の使用 |
唇の乾燥 | リップクリーム、ワセリンの使用 |
鼻血 | 加湿器の使用や鼻腔保湿剤の使用 |
目の乾燥 | 人工涙液の使用 |
関節痛 | 適度な運動、痛みが強い場合は休息を取る |
- 内服中~内服後一ヶ月に献血はしない。
- 内服中は紫外線に対して過敏な状態になっているため直射日光は避ける。
イソトレチノインで効果がなかったり再発を認める場合
イソトレチノインは強力なニキビ治療薬であるにもかかわらず、望ましい治療成果が得られないこともあります。
ここでは、イソトレチノインで効果が見られなかったり、内服終了後に再発を認める場合の対応について解説しましょう。
ホルモン療法
特に25歳以上の女性では、ホルモンバランスの変動がニキビの原因として大きく影響を与えることがあり、このような場合、低用量ピルや抗アンドロゲン作用を有するスピロノラクトンの内服などの治療が有効なことがあります。
過酸化ベンゾイルやアダパレンなどとの併用
通常、イソトレチノインの内服中は過酸化ベンゾイルやアダパレンの外用は不要ですが、内服終了後に再発を認める場合、軽度であればこれらの外用薬によってある程度ニキビのコントロールが可能になることも多いです。
過酸化ベンゾイルやアダパレンは保険適用となります。
レーザー療法
近年、Aviclearというレーザー機器がニキビ治療に対してFDA承認を取り、注目を集めています。
これは1726nmの波長を用いたレーザーで、皮脂腺を破壊する作用があり、ニキビを根本的に改善することが可能となる機械で、日本でも現在厚労省の承認を申請中です。
他の治療薬との併用禁忌
イソトレチノインは一部の治療薬との併用が禁忌となっています。
H併用禁忌とされる主な薬剤
併用忌避薬剤 | 理由 |
---|---|
ビタミンA | 過剰摂取による副作用リスクの増加 |
テトラサイクリン系(ミノマイシン・ビブラマイシン) | 頭蓋内圧亢進症のリスク増加 |
イソトレチノインによる治療を安全に行うためには、併用禁忌薬剤とその理由をよく理解し、もし内服中や内服を検討している場合は事前に必ず主治医に申し出てください。
保険適用について
イソトレチノインはニキビ治療に対して自費での治療薬です。
薬剤費に加え、診察料や採血検査代などがかかります。
詳しくはお問い合わせください。
参考文献
Paichitrojjana A. Oral Isotretinoin and Its Uses in Dermatology: A Review. Drug Des Devel Ther. 2023;17:2573-2591.
Johnson BA, et al. Use of systemic agents in the treatment of acne vulgaris. Am Fam Physician. 2000;62(8):1823-1836.
Layton A. The use of isotretinoin in acne. Dermatoendocrinol. 2009;1(3):162-169.
Espinosa NI, et al. Acne Vulgaris: A Patient and Physician’s Experience. Dermatol Ther (Heidelb). 2020;10(1):1-14.
AK Mohiuddin. Acne protection: measures and miseries. Dermatol Clin Res. 2019;5.1: 272-311.
Rao PK, et al. Safety and efficacy of low-dose isotretinoin in the treatment of moderate to severe acne vulgaris. Indian J Dermatol. 2014;59(3):316
Oachitrojjana A, et al. Oral Isotretinoin and Its Uses in Dermatology: A Review. Drug Des Devel Ther. 2023; 17:2573-2591.
Colburn WA, et al. Food increases the bioavailability of isotretinoin. J Clin Pharmacol. 1983;23(11-12):534-9.
Amichai B, et al. Low-dose isotretinoin in the treatment of acne vulgaris. J Am Acad Dermatol. 2006;54(4):644-6.
Gollnick HP, et al. Comparison of combined azelaic acid cream plus oral minocycline with oral isotretinoin in severe acne. Eur J Dermatol. 2001;11(6):538-44.
Gollnick HP, et al. A consensus-based practical and daily guide for the treatment of acne patients. J Eur Acad Dermatol Venereol. 2016;30(9):1480-90.
Alazawi S, e al. Analysis of the effects of isotretinoin on the premature epiphyseal closure in pediatric populations: a literature review. J Osteopath Med. 2021; 122(1):45-53.
厚生労働省HP アキュテイン(ACCUTANE)(わが国で未承認の難治性ニキビ治療薬)に関する注意喚起について
FDA HP https://www.fda.gov/drugs/postmarket-drug-safety-information-patients-and-providers/isotretinoin-capsule-information#warning