ハイドロキノンは代表的な美白成分の一つです。メラニン生成を抑えることで皮膚の色素沈着を強力に軽減する作用があり、老人性色素斑や肝斑、炎症後色素沈着など、幅広い適応があります。
ただし、ハイドロキノンは効果が高い分取り扱いに注意が必要で、過剰な使用や誤った使用方法は肌に悪影響を及ぼす可能性も。
この記事では、ハイドロキノンについて詳しく解説していきます。
この記事の執筆者
小林 智子(こばやし ともこ)
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長
2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。
こばとも皮膚科関連医療機関
ハイドロキノンの有効成分と効果、作用機序
ハイドロキノンは、皮膚科領域でよく用いられる美白成分です。化粧品には2%まで配合することができ、皮膚科で処方されるハイドロキノンは4〜5%のものが一般的になります。
ハイドロキノンの有効成分
ハイドロキノンは、化学式 C6H4(OH)2 で表されるフェノール化合物です。
ハイドロキノンの化学的特徴
特徴 | 説明 |
---|---|
化学名 | ベンゼン-1,4-ジオール |
分子量 | 110.11 g/mol |
物理的性質 | 白色から灰色の結晶、無臭 |
溶解性 | 水、アルコール、エーテル、アセトンに溶解可能 |
ハイドロキノンの作用機序
ハイドロキノンの作用機序は、メラニン合成の抑制にあります。メラニンは肌の色を決める主要な色素で、紫外線によるダメージから肌を守る役割がある反面、過剰に生成されることでシミやそばかすの原因に。
ハイドロキノンはメラニンを生成する過程で重要な働きを担うチロシナーゼに働きかけ、メラニン生成を抑制します。
メラニンが作られる過程は、チロシン(アミノ酸)から始まります。チロシンはチロシナーゼ(酵素)によってメラニンへと変換。
ハイドロキノンはこのチロシナーゼの活性を阻害することでメラニンの生成を減少させ、肌の色素沈着を改善します。
ハイドロキノンの効果
ハイドロキノンの効果は、メラニンの生成を抑制することによる美白効果です。
- シミやそばかす、肝斑の軽減:メラニンの過剰生成を抑えることで、シミやそばかすを薄くします。
- ニキビ跡(炎症後色素沈着)の軽減:茶色いニキビ跡の改善効果をもたらします。
- 肌色の均一化:肌の色ムラを改善し、全体的に均一な肌色を促進します。
また、ハイドロキノンはトレチノインと併用することもよくあります。トレチノインはビタミンAの一種で、ターンオーバーを促進する効果が。
ハイドロキノンと組み合わせることで、早くメラニンが排出されてより高い美白効果が期待できます。
ハイドロキノンの使用方法と注意点
ハイドロキノンはシミ治療に効果の高い成分で、適切な使用方法を知ることが大切です。
ハイドロキノンの使用方法
ハイドロキノンの使用方法
- 清潔な肌に使用する: 洗顔後、肌が清潔で乾燥した状態で使用してください。トレチノインを併用する場合は、トレチノインを先に塗ります。
- 少量を患部に塗布: 指の腹を使い、シミやそばかすのある部分のみに均一に塗布します。
- 日中の使用時には日焼け止めを併用: 夜1回、または朝と夜に2回使用します。ただし、ハイドロキノンは紫外線に対して非常に不安的な成分なので、朝使用するときは、紫外線対策を徹底してください。
ハイドロキノンの注意点
ハイドロキノンを安全に使用するための注意点
- 使用期間を守る: 長期間の連続使用は推奨されず、長くても6ヶ月で一度使用を中止する。
- 正しい保存方法: 直射日光や高温を避け、冷暗所で保管。
その他のハイドロキノン使用時の注意点
- 目や口、粘膜などの敏感な部位の使用を避ける。
- 刺激を感じた場合は使用を中止し、医師に相談。
- 他のスキンケア製品との併用は慎重に。
適応対象となる患者さん
ここではハイドロキノンの適応疾患などについて詳しく解説していきます。
ハイドロキノンが適応となる疾患
ハイドロキノンは特定のタイプの色素斑に特に有効です。
ハイドロキノンが適応となる疾患
シミの種類 | 特徴 |
---|---|
肝斑 | 妊娠やホルモンの変化により生じる顔のシミ |
老人性色素斑 | 長期間の日光暴露や加齢によるシミ |
雀卵斑(そばかす) | 遺伝的素因によってできるシミ |
炎症後色素沈着 | ニキビやアトピーなど、皮膚の炎症が治癒した後に残るシミ |
反対に、ハイドロキノンが適応とならないタイプの色素斑もあります。
- ADM(後天性真皮メラノサイトーシス):頬を中心に認める褐色〜暗灰色の色素斑で、真皮に過剰なメラニンを認めるのが特徴です。あざの一種でレーザー治療が唯一の治療法となります。
- 扁平母斑:同じくあざの一種で、表皮の基底層にメラニンの沈着を認めます。レーザー治療が唯一の治療法です。
- 脂漏性角化症:「老人性イボ」と呼ばれ、厳密には良性腫瘍の一つです。しばしば老人性色素斑に合併します。
適応対象となるケース
ハイドロキノンの適応となる患者さん
- 適応疾患の色素斑を有する患者さんの症状改善
- レーザー治療に抵抗がある患者さんの代替治療として
- レーザー治療などの受けられた方のアフターケア(炎症後色素沈着に対して)
- 肝斑の患者さんのホームケア
雀卵斑や老人性色素斑はレーザー治療やIPLなどの方が高い効果がありますが、肝斑や炎症後色素沈着に対しては、欧米ではハイドロキノンがファーストチョイスとされています(肝斑の場合はトラネキサム酸内服も)。
ハイドロキノン適応の注意事項
ハイドロキノンは2%までであれば化粧品に配合できるため、市販で購入できるハイドロキノン入りの化粧品もいくつかあります。
ただし、ハイドロキノンはかぶれなどの副作用が比較的起こりやすく、使用期間もきちんとした専門家によるフォローが必要です。
まずはハイドロキノンが適応の疾患であるかどうかも踏まえて、皮膚科でハイドロキノンを処方されることをおすすめします。
特定の背景を有する患者さんの使用
ハイドロキノンはシミ治療に有効な薬剤ですが、以下の特定の背景を持った患者さんの使用には注意が必要です。
お子さまへのハイドロキノンの使用
12歳未満のお子さまについては、安全性が確認されておらず、使用は推奨されていません。
妊娠中・授乳中の方へのハイドロキノンの使用
これまでヒトでの報告はありませんが、ハイドロキノンの使用によって胎児奇形など重篤な副作用の可能性が指摘されているため、妊娠中や授乳中の方は使用することができません。
ご高齢の方へのハイドロキノンの使用
ご高齢の方は皮膚が薄く、薬剤に対して敏感なことがあります。ハイドロキノンは一定の割合で刺激やかぶれといった副作用を認めるため、ご高齢の方の使用の際には注意が必要です。
ハイドロキノンの治療期間
次に、ハイドロキノンの一般的な治療期間について解説していきます。
ハイドロキノン治療の一般的な期間
ハイドロキノンは多くの場合、2〜3ヶ月程度で効果を感じることが多く、これまでの報告で4ヶ月でその効果は概ねプラトー(横ばい)になることも指摘されています。
そのため、使用後3〜4ヶ月で全く効果を感じないときは、使用を中止。ハイドロキノン以外の美白成分に変更するなどを検討します。
また、効果を感じる場合でも、ハイドロキノンを長期に漫然と使用することは、組織褐変症などの副作用のリスクが高まるため、6ヶ月を目処に一度効果判定を行い、使用を中止。
再度ハイドロキノンの使用を検討する場合は、3〜6ヶ月程度の期間を空けることが一般的です。
6ヶ月経った時点で使用を継続することもありますが、週末のみや週に3回までように使用頻度を制限することで、副作用のリスクを最小限に抑えることができます。
いずれの場合も必ず医師のアドバイスを受けてください。
ハイドロキノンの副作用
ハイドロキノンには、いくつか副作用があります。
副作用
ハイドロキノンの副作用には、主に使用初期に認めるものと長期の使用によって認めるものに分類されます。
ハイドロキノンの主な副作用
治療期間 | 副作用 |
---|---|
初期 | 刺激感、赤み、かぶれ |
長期治療期間 | 色素脱失、外因性組織褐変症 |
長期使用における副作用
ハイドロキノンの長期使用で特に注意が必要なのが、色素脱失と外因性組織褐変症です。
色素脱失はハイドロキノンの細胞毒性によってメラノサイトがダメージを受けた結果起こる白抜けのことで、高濃度のハイドロキノンを使用したときに起こりやすいと言われています。
また、非常にまれなケースではありますが、長期間の過剰な使用が皮膚の色素沈着を引き起こす可能性が。これを外因性組織褐変症と呼びます。
特に濃度の高いハイドロキノンを長期間にわたって使用した場合にリスクが高いことが報告されており、これまでアフリカ系での報告が多かったものの、最近ではアジア人での報告も相次いでおり、より注意が必要です。
ハイドロキノンは慎重な使用が求められる薬剤であるため、治療開始前および治療期間中は医師の指導と監督のもとで適切に使用することが重要になってきます。
副作用が発生した場合は、直ちに使用を中止し、主治医に相談してください。
ハイドロキノンで効果がなかった場合
ハイドロキノンが効果を示さない場合や副作用によって使えない場合は他の治療オプションを検討します。
代替成分への変更
ハイドロキノンと同じようにメラニンの生成を抑制する美白成分には以下のようなものがあります。
- アゼライン酸
- ビタミンC
- コウジ酸
- アルブチン
- システアミン
アゼライン酸
アゼライン酸は、抗炎症作用を持つ成分で、ニキビや酒さの治療に用いられる成分ですが、メラニンの過剰な生成を抑制する効果もあります。
これまでの報告で15〜20%のアゼライン酸は、特に炎症後の色素沈着(PIH)や肝斑(かんぱん)の治療に有効です。日本では20%の高濃度アゼライン酸が配合された化粧品はクリニック専売となります。
ビタミンC
ビタミンCは、抗酸化成分の代表的な成分で、過剰なメラニンの生成を抑制するだけでなく、還元作用によってメラニンを薄くする作用があり、活性型のアスコルビン酸以外に、さまざまなビタミンC誘導体があります。
コウジ酸
コウジ酸は、近年シミ治療においてハイドロキノンの代替としてよく使用される成分の一つです。
メラニンの生成を抑えることで、色素沈着の軽減に効果的であるだけでなく、抗酸化作用や抗糖化作用も有する点が特徴で、比較的刺激が少なく、敏感肌の患者さんにも適しています。
アルブチン
アルブチンは植物に含まれる天然型フェノール性配糖体、すなわちハイドロキノン誘導体です。ハイドロキノンと同様、メラニンの生成を抑制する作用があります。
システアミン
もともとパーマ剤などに配合される成分で、メラニンの生成を抑制する効果もあります。
安定性や匂いの問題で化粧品に配合することは難しいと言われていましたが、近年システアミンが5%配合された美白化粧品が医療機関専売で発売されるように。
通常の製品と違い、塗布した15分後に洗い流す使い方です。
ハイドロキノンで十分な効果が得られなかった場合、これらの代替成分が有効な選択肢となることがあります。
一部には、市販で購入できるものもありますが、新しい成分を使用する前は一度主治医に相談し、肌の状態やニーズに合っているか検討してください。
他の治療法へ変更
老人性色素斑や雀卵斑にはレーザー治療やIPLも適応で、肝斑治療の場合は、トラネキサム酸の内服やピーリングなども推奨されます。
いずれも自費の治療です。ハイドロキノンで効果を感じないときは治療法の変更について一度主治医と相談されることをおすすめします。
他の治療薬との併用禁忌
ハイドロキノンは、特定の治療薬と併用する際には注意が必要です。
ハイドロキノンとの併用が注意な薬
ハイドロキノンと併用することで副作用を引き起こす可能性がある治療薬は過酸化ベンゾイルで、ニキビ治療によく用いられる薬です。
ハイドロキノンとの併用は刺激を増加させたり、薬剤の変色を引き起こす可能性が指摘されています。
その他併用時に注意すべき成分
ハイドロキノンとよく併用される成分の中には、併用によって刺激が高まるものもあります。
- レチノイド(トレチノイン、レチノール、アダパレンなど)
- ビタミンC
- グリコール酸、サリチル酸などピーリング成分
- イオウ
赤みやかゆみ、刺激感などの症状を認める場合は、同時に塗るのは避けてください。
アルコール含有製品との併用
アルコールを含む化粧品やスキンケア製品も、ハイドロキノンとの併用によって肌の刺激が高まることがあります。
ハイドロキノンを使用している間は、アルコール含有の化粧品やスキンケア製品の使用を避けましょう。
保険適用について
ハイドロキノンは保険が適用されず、自費の扱いとなります。
詳しい価格はお問い合わせください。
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