今回は、アトピー性皮膚炎で起こるさまざまな症状をおさえる治療薬の生物学的製剤、初の承認を受けた「デュピクセント」というお薬についてご紹介。
まず治療ゴールですが、皮膚のかゆみ等の症状がない状態であったり、軽度の症状がすぐに悪化につながることのないような皮膚状態を目指していきます。
デュピクセントがどのように皮膚の炎症やかゆみ、バリア機能低下を抑制し、どのように症状の改善につながるのかを、詳しく解説しましょう。
この記事の執筆者
小林 智子(こばやし ともこ)
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長
2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。
こばとも皮膚科関連医療機関
デュピクセント(デュピルマブ)の使用方法と効果について
デュピクセント(デュピルマブ)は、ピンポイントに特定のタンパク質(IL-4とIL-13)の働きを抑えることでその効果を発揮。
具体的にいうと、アトピー性の皮膚炎が起きる原因と考えられる「かゆみ」や「炎症」そして「バリア機能の低下」という3つの要因すべてに対して効果が期待され、投与方法は皮下注射です。
まず投与を始める日に2本を注射して(医療機関で)、次の2回目から後は2週間ごとに1本を注射(自宅などでご自身で)します。
デュピクセントの正しい使用方法 について
初回にする皮下注射は医療機関にて専門の医療スタッフが、2回目以降は患者さんご自身で自宅にて皮下注射していただきます(医療機関で注射することも選択可能)。
最初に投与する薬の量は600mg(シリンジを2つ使用して皮下に)で、その後は2週間ごとに1回目の半量(300mg)をご自身でしていただきます。
注射を行う際の一般的な手順:
- 注射器を冷蔵庫から取り出し、そのままの状態で約15分間放置し、注射器が室温になるまで待つ。
- 注射を行う部位(太ももまたは腹部)を消毒し、清潔に。
- 注射器を安定した手で持ち、皮膚に対して垂直に針を挿入。
- プランジャーを押し下げて、薬液を皮下へと入れる。
- 針をゆっくりと皮膚から抜き取り、必要に応じて注射部位に適度な圧力を。
注射するのに良い体の場所は、二の腕の外側やお腹(おへその周囲以外)、ふとももです。
デュピクセントの効果について
デュピクセントの効果はいくつかの臨床試験で確認されています1)。
一つの臨床試験によれば、16週間デュピクセントを使用した患者のうち約52%が、皮膚の状態が「ほぼクリア」または「クリア」になったと報告2)。
また別の研究では、デュピクセントの使用により患者さんの生活の質が向上したと報告があります3)。
以下の表に、デュピクセントの主な効果をまとめました。
デュピクセントの主な効果
効果 | 説明 |
---|---|
皮膚の状態の改善 | デュピクセントを使用した患者の約52%が16週間の治療後に皮膚の状態が「ほぼクリア」または「クリア」になったとの報告 |
生活の質の改善 | デュピクセントの使用により、睡眠の質や作業能力、心理的なストレスの軽減など、日常生活の質が改善されることが報告 |
参考文献
1) Thaçi D, et al. “Efficacy and safety of dupilumab in adults with moderate-to-severe atopic dermatitis inadequately controlled by topical treatments: a randomisedo, placebo-controlled, dose-ranging phase 2b trial.” The Lancet. 2016; 387(10013): 40-52. _
2) Simpson EL, et al. “Two Phase 3 Trials of Dupilumab versus Placebo in Atopic Dermatitis.” New England Journal of Medicine. 2016; 375(24): 2335-2348.
3) Blauvelt A, et al. “Long-term management of moderate-to-severe atopic dermatitis with dupilumab and concomitant topical corticosteroids (LIBERTY AD CHRONOS): a 1-year, randomised, double-blinded, placebo-controlled, phase 3 trial.” The Lancet. 2017; 389(10086): 2287-2303.
適応対象となる患者さん
デュピクセントはアトピー性皮膚炎で苦しむ患者さんのうち、今までに試された方法から満足のいく効果のなかった成人の方に対して保険適応があります。
主に以下のような条件を持つ患者さんに対して使用。
- アトピー性皮膚炎の症状が重症であること 4)
- 症状が中等症であっても慢性化していること 5)
- 15歳以上であること 5)
それぞれの条件について、詳しく説明します。
<アトピー性皮膚炎による症状が重症であること >
ヘルペスや細菌感染を繰り返していたり、免疫抑制剤であるシクロスポリンといった薬や、ステロイドの外用だけでなく、内服を追加してもなかなかコントロールができないケース4)。
さらに、広範囲の苔癬化(ざらざらと盛り上がった状態)や痒疹(孤立した痒みを伴うブツっとしたできもの)を合併しているケースなど、さまざまな理由で重症であり、既存の治療を組み合わせても治らない方が対象です 。
<症状が中等症であっても慢性化していること >
重症とまでは言えなくても長期間の通院が必要である方、増悪因子が重なることで重症化してしまう方、もともと複数のアレルギー疾患を合併している方。
そして、アトピー性皮膚炎の症状によってご自身の生活が制限されている方が対象に。
特に、睡眠障害や集中力の低下や日常活動への制限などがあると、身体的だけでなく精神的な苦痛も伴うため、仕事や受験などに集中したい方もお使いいただけます。
<15歳以上であること >
残念ですが現状では日本国内において、15歳未満の方には適応がなく使用することができません。
デュピクセントは、上記のような項目が該当するアトピー性の皮膚炎患者さんに対して適応がある注射薬です。薬を正しく使用することで患者さんの症状を改善し、QOLが良くなっていくことを目指します。
しかし、患者さん全員に必ずしも適応があるわけではなく、個々の患者さんの症状や体調、他の疾患の有無等を考慮して医師が判断することが重要です 。
参考文献
4) デュピルマブ(遺伝子組換え)製剤の最適使用推進ガイドライン(アトピー性皮膚炎)について
5) アトピー性皮膚炎 皮膚科Q&A Q27 公益社団法人日本皮膚科学会
お子さま、ご高齢の方への使用に関して
デュピクセント(デュピルマブ)は、アトピー性皮膚炎の治療薬として幅広く利用可能ですが、すべての年齢の方に使用できるわけではありません。
ここでは、お子さまやご高齢の方へのデュピクセントの使用に際する安全性などについて解説します。
お子さまへの使用
デュピクセントは日本では、15歳以上の方にしか使用できません。理由は、こどもの身体は成長と発達の過程にあるたので、薬物動態が大人とは異なる可能性があるためです6)。
具体的には、薬物の吸収や分布、代謝、排泄などがこどもの場合、大人とは異なる可能性があります7)。
また、副作用への対応についても特別な注意が必要です。副作用があった際、お子さま自身が体調の変化を正確に表現することが困難な場合も。
そのため、保護者がお子さまに副作用が現れていないかチェックする必要があります。
海外では、各国の承認状況にもよりますが、6歳以上の患者さんへの使用が承認されているケースがあり、日本でも現在15歳未満の方に対して臨床治験が行われているところです。今後適応年齢が広がっていく可能性はあります。
ご高齢の方への使用
デュピクセントのご高齢の方への使用は、年齢自体が使用制限につながるということはありません。
しかし、高齢の患者さんはよく他の病気を併発していることが多く、複数の薬を使用されている場合はデュピクセントを使用する際、それらを考慮しながら投与するかどうか決める必要があります8)。
例えば、高血圧、糖尿病、心疾患などの慢性疾患がある患者さんの場合、これらの疾患の治療薬とデュピクセントが相互に影響を及ぼす可能性があるのです。
そのため、ご高齢の方がデュピクセントを使用する際には、医師が既往歴や、併存する疾患、内服薬などを総合的に考慮したうえで使用するかどうかの判断を行います。
デュピクセントのお子さま、ご高齢の方への使用に関するまとめ
対象 | 考慮点 |
---|---|
お子さま | ・小児の体重やからだの成長発達によって薬物の動態が成人とは異なることがある ・副作用の管理に保護者の協力が必要 |
ご高齢の方 | ・他の疾患で使用している薬剤とデュピクセントが相互に影響を及ぼす可能性がある |
ここで述べた点は、デュピクセント使用についての検討ポイントの一部であり、具体的な使用の判断は診察後に患者さんと相談して決定します。
参考文献
6) Gregory L Kearns, et al. Developmental pharmacology–drug disposition, action, and therapy in infants and children. N Engl J Med. 2003;349(12):1157-1167.
7) Hannah Katharine Batchelor and John Francis Marriott. Paediatric pharmacokinetics: key considerations. Br J Clin Pharmacol. 2015 Mar; 79(3): 395–404.
8) Andreas Wollenberg, et al. Conjunctivitis occurring in atopic dermatitis patients treated with dupilumab-clinical characteristics and treatment. J Allergy Clin Immunol Pract. 2018;6(5):1778-1780.e1.
デュピクセント(デュピルマブ)の投与期間
デュピクセント(デュピルマブ)は、皮膚の炎症を抑える作用を持つ薬剤で、アトピー性皮膚炎という慢性的な皮膚の炎症疾患に対する治療薬のため、長期間の投薬が必要な場合が多いです。
デュピクセントの投与期間について詳しく説明してみましょう。
デュピクセント投与の開始から効果が現れるまで:寛解導入
デュピクセントは、2週間ごとに皮下注射として投与され、通常は2週間以内に効果が現れます9)。
最初の投与から効果が現れるまでの期間は個々の患者さんにより異なりますが、初回投与から数週間以内に皮膚の状態が改善する患者さんが多いです。
長期間のデュピクセント投与:寛解維持
デュピクセントの効果を維持するためには、一定の間隔での投与が不可欠となります。
他の薬でも同様ですが、デュピクセントも体内で分解・排泄されるため、一定の効果を持続させるためには一定期間ごとに投与する必要があるからです。
またデュピクセントは、アトピー性皮膚炎の症状を抑制するだけでなく、皮膚の状態を改善し慢性的な症状の発生を防ぐことができます。
実際に、長期間の使用が有効である可能性を示した報告も10)。医師の指示に従って、中断することなく投与を続けることが大切です。
投与期間の変更について
デュピクセントの投与期間や投与量は、個々の患者さんの病状や反応に応じて調整が必要になることがあります11)。自己判断で投与スケジュールを変更したり、治療を中断したりすることは避けてください。
症状の変化や副作用については、診察の際に医師に報告していただくようお願いします。
以下にデュピクセントの投与に関連する主なポイントをまとめました。
- デュピクセントは2週間ごとに皮下注射として投与される。
- 投与から効果が現れるまでの期間は患者さんによるが、通常は2週間以内。
- 長期間の投与が推奨される。
- 投与期間や投与量の調整は医師が行う。
参考文献
9) Andrew Blauvelt., et al. Long-term management of moderate-to-severe atopic dermatitis with dupilumab and concomitant topical corticosteroids (LIBERTY AD CHRONOS): a 1-year, randomised, double-blinded, placebo-controlled, phase 3 trial. Lancet. 2017;389(10086):2287-2303.
10) Eric LS, et al. Two Phase 3 Trials of Dupilumab versus Placebo in Atopic Dermatitis. N Engl J Med. 2016;375(24):2335-2348.
11) Kristian Reich., et al. Efficacy and safety of abrocitinib versus dupilumab in adults with moderate-to-severe atopic dermatitis: a randomised, double-blind, multicentre phase 3 trial. Lancet. 2022 Jul 23;400(10348):273-282.
デュピクセント(デュピルマブ)の副作用やデメリット・使用上の注意点
デュピクセント(デュピルマブ)は免疫システムを調整することで皮膚の炎症を抑え、症状を改善する素晴らしい薬です。しかし、全ての治療薬には利点だけでなくリスクもあり、デュピクセントも例外ではありません。
ここでは、デュピクセントの起こりうる副作用や注意点について説明します。
デュピクセントの一般的な副作用
デュピクセントの副作用は一般的に軽度で、多くの場合、使用を中止する必要はありません12)。以下は、デュピクセントによく起こる一般的な副作用とその発生頻度をまとめたものです。
副作用 | 発生頻度 |
---|---|
注射部位の反応(痛み、赤み、かゆみ) | よく発生 |
眼の炎症(結膜炎や眼瞼炎) | ときどき発生 |
これらの副作用の中でも、注射部位の反応は比較的よく起こります。
深刻な副作用について
デュピクセントは比較的安全性が高い薬ですが、まれに深刻な副作用を引き起こすことも。以下に、深刻な副作用とその特徴を示しておきます。
- アレルギー反応:発疹、かゆみ、腫れ、息苦しさ、低血圧などの症状が現れる場合があります。アナフィラキシー反応などが疑われ、ただちに医療機関を受診(救急車でも可)して治療を受ける必要が。
- 重度の眼の症状:結膜炎(ピンクアイ)や眼瞼炎などが報告13)。これは通常、薬を中止し適切な治療を受けることで改善。
デュピクセント使用における注意点
デュピクセント使用時には、以下のような注意事項があります。
- 重大な副作用のおそれがある場合は、直ちに医療機関を受診することが重要。
- 感染症の症状が出た場合は、すぐに医師に相談し、必要に応じてデュピクセントの使用を中断。
- 既に感染症を持っている場合は、デュピクセントを使用する前に医師と相談。
また、デュピクセントは免疫応答を調整するため、感染症の症状が悪化する可能性があります14)。
12) Blauvelt A, et al. “Long-term management of moderate-to-severe atopic dermatitis with dupilumab and concomitant topical corticosteroids (LIBERTY AD CHRONOS): a 1-year, randomised, double-blinded, placebo-controlled, phase 3 trial.” The Lancet. 2017; 389(10086): 2287-2303.
13) B Akinlade, et al. Conjunctivitis in dupilumab clinical trials. Br J Dermatol. 2019 Sep;181(3):459-473.
14) Melinda JG, et al. Dupilumab: A review of its use in the treatment of atopic dermatitis. J Am Acad Dermatol. 2018 Mar;78(3 Suppl 1):S28-S36.
デュピクセント(デュピルマブ)の効果がなかった場合
皮膚科専門医として多くのアトピー性皮膚炎の患者さんを診察し、デュピクセントの登場によりこれまでなかなか症状の改善が認めなかった患者さんで日常生活に支障がないレベルまで改善しているケースをたくさん見ています。
しかし、残念ながら一部の患者さんではデュピクセント(成分名デュピルマブ)の効果が十分にみられない場合も。
よくあるのは、からだの湿疹やかゆみは改善したけれど頭部や顔、首といった部位の湿疹が残ってしまう、というケースです。このような場合には他の治療法を検討します。
以下に、デュピクセントに効果が見られない場合の対処法をいくつかご紹介しましょう。
現在の治療法を強化する
まず、現在行っている治療法の強化を検討することに。デュピクセントを導入後も、ステロイドの外用薬を併用したときの方が一般的にその効果は高まります。
導入後、症状が改善してきたらステロイド外用薬の種類や塗る頻度を少なくするなどして調整しますが、あまり症状が改善しない場合はより強力なステロイドの使用や、今一度塗り方を確認することに。
顔や首などの部位は、強いステロイドを長期に使うと副作用のリスクが高いので、非ステロイドの外用薬(タクロリムス(商品名プロトピック)やデルゴチニブ(商品名コレクチム)、ジファミラスト(商品名モイゼルト))を選択する場合が多いです。
他の薬に切り替える
また、最近ではデュピクセント以外にも新薬が登場しており、そちらの薬への変更を検討します。具体的にはJAK阻害薬と呼ばれる薬です。
この薬もアトピー性皮膚炎の病態に大きく関係しているサイトカインの経路を抑制することで、皮膚の炎症やかゆみなどの症状を改善する効果があります。
デュピクセントがあまり効かない人の中には、JAK阻害薬に変更すると症状が改善するケースが。JAK阻害薬にはいくつかあります。
- バリシチニブ(商品名オルミエント)
- ウパダシチニブ(商品名リンヴォック)
- アブロシチニブ(商品名サイバインコ)
以上がアトピー性皮膚炎に対して保険適応がある薬です(2023年時点)。
イトラコナゾールを内服する
デュピクセントを導入した方で顔や首の赤みが残ってしまう方の中には、皮膚の常在菌である「マラセチア」という真菌(カビ)に対して過敏な方がいると考えられています15)。
アトピー性皮膚炎では皮膚のバリア機能が低下しており、そのため外的な刺激が容易に侵入しやすい状態です。
マラセチアは健全な皮膚の状態であれば悪影響を及ぼすことはありませんが、肌の常在菌環境が乱れている状態では局所的に炎症を増強させることが知られています。
そういったケースでは抗真菌薬であるイトラコナゾール(商品名イトリゾール)を内服すると顔や首の赤みが改善するケースがあり、イトラコナゾールは通常2週間程度の内服で改善を認める場合が多いです16)。
アトピー性皮膚炎でない可能性を考える
上記のやり方でもなお効果がない方は、そもそも本当にアトピー性皮膚炎の診断で問題がないか、今一度確認します。診断には問診や視診、触診に加えて、場合によっては血液検査でIgEやTARCといった値も。
いずれもアトピー性皮膚炎において重症度の目安になります。
最後に、治療薬の効果は個々の患者さんのアドヒアランス(どれくらい治療方針に納得して積極的に取り組んでくれるか)にもよります。
必ずしも一つの薬が全ての人に効果を発揮するわけではないことを理解していただき、あきらめずに最適な治療方法を見つけることが大切です。
そのためには医師との密接なコミュニケーションと共に、ある程度の時間が必要だということをぜひ知っておきましょう。
参考文献
15) Fleur SAB, et al. Dupilumab facial redness: Positive effect of itraconazole. JAAD Case Rep.2019;5(10):888-891.
16) Okiyama N, et al. Successful topical treatment with ketoconazole for facial rashes refractory to dupilumab in patients with atopic dermatitis: case reports. J Eur Acad Dermatol Venereol. 2020;34(9):e474-e476.
他の治療薬との併用禁忌について
デュピクセント(デュピルマブ)はアトピー性皮膚炎の治療に広く使用されていますが、他の特定の薬剤との併用は避ける必要があります。
ここでは、デュピクセントと他の薬剤との併用に関する注意点について、詳しく説明しましょう。
併用禁忌薬とその理由
デュピクセントはアトピー性皮膚炎の治療に効果的なお薬ですが、他の特定の薬剤との併用には注意が必要です。
薬物同士の相性が悪いと相互作用を起こし、予期しない副作用を引き起こすか、あるいは一方または両方の薬物の効果が減少または増加する可能性があるため、同時に使用することは避けましょう(併用禁忌と言います)。
特に併用に注意が必要なのは、強力な免疫抑制剤です。これらの薬剤は、デュピクセントと同時に使用すると、体の免疫応答が過度に抑制される可能性があり、感染症のリスクが上がります17)。
体の免疫システムが過度に抑制されると、細菌やウイルスなどの病原体を適切に排除できなくなるため、一般的な風邪から重篤な感染症まで、さまざまな病気にかかりやすくなる可能性があるのです。
具体的にはシクロスポリンなどの薬が挙げられます。
併用忌避薬 | 忌避の理由 |
---|---|
強力な免疫抑制剤(例:シクロスポリン) | 体の免疫反応が過度に抑制され、感染症のリスクが上がる可能性がある |
デュピクセントと他の薬剤の併用についての注意点
以下に、デュピクセントと他の薬剤を併用する際の注意点を。
- デュピクセントを始める前に、現在服用している全ての薬を医師に知らせてください。これには処方薬だけでなく、非処方薬(OTCなど)や健康のためのサプリメントも含まれます。
- 自己判断でデュピクセントと他の薬剤を併用することは避け、必ず医師の指示に従ってください。
- デュピクセントが処方された後で他の薬を開始する場合、または既存の薬を変更する場合も、必ず医師に相談してください。
薬の併用はその相互作用により、予期しない副作用を引き起こしたり、治療の効果を下げる可能性があります18)。そのため、デュピクセントのような生物学的製剤を使用する際には、特に注意が必要です。
参考文献
17) Andrew Blauvelt., et al. Long-term management of moderate-to-severe atopic dermatitis with dupilumab and concomitant topical corticosteroids (LIBERTY AD CHRONOS): a 1-year, randomised, double-blinded, placebo-controlled, phase 3 trial. Lancet. 2017;389(10086):2287-2303.
18) Leslie Z Benet., et al. Understanding drug-drug interaction and pharmacogenomic changes in pharmacokinetics for metabolized drugs. J Pharmacokinet Pharmacodyn. 2019 Apr;46(2):155-163.
患者負担・薬価
デュピクセント(デュピルマブ)は重症のアトピー性皮膚炎に対する有効な治療法と認知され、日本では保険適用となっています。
患者さん負担について
自己負担額は、医療保険の種類や収入、年齢などにより変わってきます。例えば、高齢者や児童、所得が一定額以下の方は、軽減措置が適用される場合がほとんどです。具体的な自己負担額については、ご相談ください。
デュピクセント(デュピルマブ)の薬価
デュピクセントの薬価は、こちらをご確認ください。『デュピクセントの薬剤費と医療費助成制度について 』
また、デュピクセントは比較的高価な薬ですので、高額医療費制度が適用になる可能性があります。上記リンクでは高額医療費制度が適応された場合の自己負担についてもご紹介していますので一度ご確認ください。
一般的には、他の皮膚科治療薬に比べて高価な部類に入る薬ですが、重症のアトピー性皮膚炎に対する効果を考えると費用対効果は高いです19)。
以上の情報をご参考に、デュピクセント(デュピルマブ)がアトピー性皮膚炎の重症患者さんにとって効果的な治療選択肢であることをご理解いただければと思います。
参考文献
19) Marita Zimmermann, et al. Economic Evaluation of Dupilumab for Moderate-to-Severe Atopic Dermatitis: A Cost-Utility Analysis. J Drugs Dermatol . 2018 Jul 1;17(7):750-756.