TSS(トキシックショック症候群)(toxic shock syndrome)は、黄色ブドウ球菌が分泌する毒素が原因で発症する深刻な全身性疾患です。
典型的な症状として、急激な体温上昇や血圧降下、皮膚の紅潮、複数の臓器機能不全などが挙げられます。
生理用タンポンを長時間装着したり、術後に細菌感染を起こしたりすると、発症リスクが高まります。
この記事の執筆者
小林 智子(こばやし ともこ)
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長
2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。
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TSS(トキシックショック症候群)の症状
TSS(トキシックショック症候群)は、高熱や皮膚の異変、循環器系の変調など、複数の症状が同時に現れます。
急激な発熱と皮膚の変化
TSSの初期症状として最も目立つのは急激な体温上昇で、体温が39℃を超え、一般的な解熱薬では効果が乏しいです。
同時に全身に広がる紅斑は、日焼けに似ていて、手掌や足底に顕著に現れます。
症状 | 特徴 |
高熱 | 39℃を超える体温上昇 |
紅斑 | 全身性、特に四肢末端に顕著 |
消化管系の異常
高熱と皮膚症状に引き続き消化管系の異常が生じ、体内の水分が急速に失われ、重度の脱水状態に陥るリスクが高まります。
- 激しい吐き気と嘔吐
- 水様性の激しい下痢
- 強い腹部痛
循環への影響
TSSが進展すると循環系にも影響が及び、血圧が急速に低下し、めまいや意識消失を起こします。さらに、意識レベルの低下も見られ、混濁や錯乱状態に陥ることも。
症状 | 詳細 |
血圧低下 | 収縮期血圧90mmHg以下 |
意識障害 | 混濁、錯乱、失神 |
多臓器不全
重症化すると複数の臓器に機能障害が現れ、腎臓、肝臓、肺などの機能が低下し、以下のような症状が生じます。
- 尿量の著しい減少
- 呼吸困難や息切れ
- 黄疸(皮膚や眼球結膜の黄染)
後期症状
TSSの後期症状として手掌や足底の皮膚が剥離することがあり、これは発症から1〜2週間後に生じることが多く、回復期の指標となります。
TSS(トキシックショック症候群)の原因
トキシックショック症候群(TSS)は、黄色ブドウ球菌やA群溶血性連鎖球菌などの細菌が体内で増殖し、強力な毒素を放出することで、急激な症状を起こします。
TSSの原因となる細菌
黄色ブドウ球菌とA群溶血性連鎖球菌が、TSSの主要な原因菌です。
細菌名 | 感染部位 |
黄色ブドウ球菌 | 皮膚、粘膜 |
A群溶血性連鎖球菌 | 咽頭、皮膚 |
毒素産生のメカニズム
黄色ブドウ球菌の場合、TSST-1(Toxic Shock Syndrome Toxin-1)と呼ばれる毒素が、A群溶血性連鎖球菌では、発熱性毒素など複数の毒素が原因です。
毒素は体内で急速に拡散し免疫系を過剰に刺激し、血圧低下や多臓器不全などの深刻な症状が現れます。
TSSのリスク因子
TSSの発症には、細菌の増殖や毒素産生を促進する環境を作る、いくつかのリスク因子が関連しています。
- 生理用タンポンの長時間使用
- 術後の創傷
- 熱傷や擦過傷などの皮膚損傷
- 免疫機能の低下状態
感染経路
TSSの発症には生理用タンポンの使用に関連するケースが広く知られていますが、それ以外にもさまざまな経路があります。
感染経路 | 例 |
皮膚 | 熱傷、擦過傷、手術創 |
粘膜 | 鼻腔、腟 |
呼吸器 | 喉頭、気管 |
TSS(トキシックショック症候群)の検査・チェック方法
TSS(トキシックショック症候群)の診断は、臨床症状の観察と検査を組み合わせて行います。
臨床症状の評価
TSSの診断において、まず行うのは臨床症状の評価です。
注目する点
- 急激な高熱(38.9℃以上)
- 全身性の発疹
- 急激な血圧低下
- 複数臓器の機能不全の兆候
これらの症状が同時に現れたときは、TSSの可能性を考えます。
血液検査
血液検査はTSSの診断に不可欠です。
検査項目 | 異常所見 |
白血球数 | 著しい増加 |
血小板数 | 顕著な減少 |
CRP | 急激な上昇 |
肝機能・腎機能 | 明らかな異常値 |
数値の異常は全身の炎症反応や臓器障害を示唆し、TSSの診断を裏付けます。
微生物学的検査
TSSの原因となる細菌を特定するため、いくつかの検査を実施します。
- 血液培養検査
- 創部や膣などの分泌物培養検査
- 黄色ブドウ球菌の毒素産生能検査
画像診断
多臓器不全の程度を評価するため画像検査を行い、画像所見は、TSSによる臓器障害の範囲と程度を把握するのに役立ちます。
検査方法 | 確認ポイント |
胸部X線撮影 | 肺水腫、急性呼吸窮迫症候群の有無 |
腹部CT検査 | 肝臓・腎臓の腫大、腹水貯留の程度 |
鑑別診断
TSSは他の疾患と症状が似ているため、区別が大切です。
鑑別が必要な疾患
- 重症敗血症
- 川崎病
- スティーブンス・ジョンソン症候群
- 猩紅熱
TSS(トキシックショック症候群)の治療方法と治療薬について
トキシックショック症候群(TSS)の治療法として抗生物質療法、毒素の除去、循環動態の安定化があり、重症度によっては集中治療が必要です。
抗生物質療法
TSSの初期治療では、菌の増殖を抑え、毒素の産生を阻止するため、抗生物質の投与が第一選択です。
原因菌 | 抗生物質 |
黄色ブドウ球菌 | バンコマイシン、クリンダマイシン |
A群溶血性連鎖球菌 | ペニシリンG、クリンダマイシン |
クリンダマイシンは毒素産生抑制作用が強く、多くの症例で用いられます。
毒素除去と支持療法
TSSの症状緩和には、体内に蓄積した毒素の除去が必須です。
実施される治療法
- 大量輸液:毒素の希釈と排泄促進
- 血液浄化療法:重症例での毒素除去
- 免疫グロブリン療法:毒素の中和と免疫反応の調整
循環の安定化
TSSではしばしば重度のショック状態に陥るため、循環の安定化が治療の中心です。
治療法 | 目的 |
輸液療法 | 血圧維持、臓器灌流の改善 |
昇圧剤 | 血圧上昇、心拍出量の増加 |
人工呼吸器 | 呼吸不全時の酸素化改善 |
外科的処置
TSSの状況によっては、抗生物質治療と並行して外科的介入を行います。
- 壊死組織のデブリードマン
- 膿瘍のドレナージ
- 感染源となる異物の摘出
薬の副作用や治療のデメリットについて
TSSの対して使用される薬や治療法には、いろいろな副作用やデメリットがあります。
抗生物質治療の副作用
TSSの治療で投与される抗生物質には、副作用が伴います。
抗生物質 | 副作用 |
バンコマイシン | 腎機能低下、聴力障害 |
クリンダマイシン | 偽膜性大腸炎、肝機能異常 |
免疫グロブリン療法の副作用
重症のTSS患者さんには免疫グロブリン療法を行うことがあり、アレルギー反応(アナフィラキシー)のリスクや、血栓が形成のリスクがあります。
昇圧剤使用のリスク
ショック状態を改善するために使用する昇圧剤は、血圧を上げる一方で、新たな合併症を起こすことがあります。
昇圧剤 | 副作用 |
ノルアドレナリン | 不整脈、末梢血流低下 |
バソプレシン | 心臓の血流不足、電解質バランスの乱れ |
集中治療のリスク
TSSの重症例では集中治療室(ICU)での管理が必要です。
長期のICU滞在のデメリット
- 人工呼吸器の使用による肺炎リスクの上昇
- 点滴やカテーテルを介した血液感染の可能性
- 長期臥床による筋力低下や体力減少
ステロイド薬の副作用
一部のTSS症例では、ステロイド薬を使用することがあります。
ステロイド薬の副作用
- 血糖値の急上昇
- 胃や十二指腸の潰瘍
- 骨密度の低下(骨粗鬆症)
- 免疫力の低下
保険適用と治療費
以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。
TSSの保険適用範囲
TSSの治療は、国民健康保険や社会保険などの公的医療保険制度の適用対象です。
保険適用される項目
- 抗生物質治療
- 輸液療法
- 血液検査
- 画像診断(X線、CT、MRIなど)
- 入院費用
- 集中治療室(ICU)での治療
TSSの治療費
TSSの治療費は、症状の重症度や入院期間によります。
治療内容 | 概算費用(保険適用前) |
外来治療(軽症の場合) | 5万円~15万円 |
入院治療(7日間) | 50万円~100万円 |
ICU治療(3日間) | 100万円~200万円 |
長期入院(1ヶ月) | 200万円~500万円 |
以上
参考文献
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