足のかゆみや皮むけなどの症状が現れたとき、多くの方が「これは水虫かもしれない」と不安を感じます。
市販薬で様子を見るべきか、すぐに病院へ行くべきか判断に迷うことも少なくありませんが、足のトラブルは自己判断せずに皮膚科を受診することが重要です。
似たような症状を持つ別の皮膚疾患の可能性もあり、顕微鏡検査による確定診断が完治への近道となります。
この記事では、皮膚科を受診すべき理由や検査の流れ、正しい治療の継続方法について詳しく解説し、患者さんが安心して治療を始められるようサポートします。
この記事の執筆者

小林 智子(こばやし ともこ)
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長
2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。
こばとも皮膚科関連医療機関
水虫が疑われる場合に受診すべき診療科
足の皮膚に異変を感じた際、最初にどの診療科を受診すればよいのか迷う患者さんは多いです。内科や整形外科ではなく、皮膚の専門家である皮膚科を選ぶことには明確な医学的根拠があります。
皮膚科医は皮膚の構造や病変を深く理解しており、視診だけでは判別が難しい変化も見逃しません。
皮膚の構造と病変を熟知した専門家による判断
皮膚科は、皮膚、爪、毛髪などの疾患を専門的に扱う診療科であり、全身の健康状態を映す鏡とも言える皮膚の微細な変化を詳細に観察します。
水虫は白癬菌(はくせんきん)というカビの一種が皮膚の角質層に寄生することで発症しますが、症状は多岐にわたり、単にかゆみがあるだけでなく、皮膚がむけたり、小さな水ぶくれができたり、皮膚が硬く厚くなったりすることもあります。
皮膚科医は、多様な症状が白癬菌によるものなのか、あるいは別の要因によるものなのかを見極める知識と経験を持っているのです。
自己判断による誤った治療のリスク回避
「足がかゆいから水虫だ」と自己判断し、市販の水虫薬を使用する患者さんは非常に多いですが、大きなリスクを伴います。足の皮膚トラブルのうち、本当に水虫であるケースは全体の半数程度とも言われています。
残りの半数は、汗による湿疹(異汗性湿疹)や接触皮膚炎(かぶれ)、あるいは掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)など、全く異なる疾患である可能性があります。
このような疾患に水虫の薬を塗ると、薬の刺激で症状が悪化したり、かぶれを起こしたりすることがあります。さらに深刻なのは、湿疹に対してステロイド外用薬を誤って使用してしまうケースです。
ステロイドは免疫を抑える作用があるため、もし原因が白癬菌であった場合、菌の増殖を助長し、症状を劇的に悪化させる危険性があります。
皮膚疾患の鑑別ポイント
| 疾患名 | 主な原因 | 水虫薬の使用影響 |
|---|---|---|
| 足白癬(水虫) | 白癬菌の感染 | 症状が改善する |
| 異汗性湿疹 | 汗やアレルギー | 悪化する恐れがある |
| 接触皮膚炎 | 靴や靴下の素材 | かぶれが広がる |
早期発見と早期治療がもたらすメリット
水虫は自然治癒することがほとんどなく、放置すればするほど菌は皮膚の奥深くや爪へと侵入していきます。
初期の菌がまだ角質の表面にとどまっている段階で皮膚科を受診し、正しい治療を開始すれば、比較的短期間できれいな皮膚を取り戻すことが可能です。
また、早期に治療を開始することは、同居する家族への感染リスクを減らすことにもつながります。夏場は菌の活動が活発になり症状が悪化しやすいため、比較的症状が落ち着いている冬場のうちに受診して治療を始めることも選択肢の一つです。
水虫(足白癬)の正体と感染の広がり方
水虫が単なる「かゆい病気」ではなく、真菌(カビ)による感染症であることを正しく理解することは、治療へのモチベーションを維持するために不可欠です。
日常生活のあらゆる場所に潜む白癬菌が、どのような条件で皮膚に侵入し、増殖していくのかを知ることで、予防や対策の質が変わります。
原因となる白癬菌(トリコフィトン)の特徴
水虫の原因となる白癬菌は、カビ(真菌)の一種であり、正式には皮膚糸状菌と呼ばれ、ヒトの皮膚や髪の毛、爪に含まれるケラチンというタンパク質を栄養源として生きています。
白癬菌はケラチナーゼという酵素を出し、硬いケラチンを溶かして栄養を摂取しながら奥へと進んでいきます。高温多湿な環境を非常に好むため、靴を長時間履いて蒸れた足は、白癬菌にとって絶好の繁殖場所です。
白癬菌は非常に生命力が強く、剥がれ落ちた垢(あか)の中でも乾燥した状態で数ヶ月間、条件によっては一年近くも生き続けることができます。これが、家庭内や公共の場での感染が絶えない大きな理由の一つです。
感染経路と日常生活に潜むリスク
白癬菌は空気感染するわけではなく、菌が付着した物に触れることで感染します(接触感染)。家庭内のバスマット、スリッパ、共有のタオル、ジムや温泉施設の脱衣所の床などが主な感染源です。
しかし、菌が皮膚に付着した瞬間に水虫になるわけではなく、付着した菌が角質層の内部へ侵入するには、健康な皮膚であれば通常24時間程度かかります。
菌が付着しても、その日のうちにきれいに洗い流せば、感染は成立しないことが多いです。ただし、皮膚に傷があったり、ふやけていたりすると、バリア機能が低下しているため、侵入までの時間は12時間程度にまで短縮されることもあります。
感染リスクが高い場所の例
- 多くの人が裸足で利用する温泉やプールの脱衣所
- スポーツジムの共用シャワールームやマット
- 家庭内で共有しているバスマットやスリッパ
- 宿泊施設のカーペットや畳
- 靴の試着時やボウリング場の貸し靴
菌が増殖しやすい環境条件
白癬菌が活発に増殖するには、温度と湿度の条件が揃う必要があります。温度が15度以上、湿度が70%以上になると活動が活発になり、さらに温度が高くなると爆発的に増殖します。
日本の夏は高温多湿であるため、水虫の症状が悪化する患者さんが急増します。また、冬であっても、暖房の効いた室内でブーツや厚手の靴下を長時間着用していれば、足元の環境は夏と変わりません。
汗をかきやすい体質の方や、通気性の悪い革靴や安全靴を仕事で履く方は、季節を問わず注意が必要であり、こまめに靴を脱いで風を通すなどの対策が必要です。
症状のタイプ別に見る水虫の種類と特徴
一口に水虫と言っても、症状の現れ方は人それぞれ異なり、指の間がジュクジュクするタイプもあれば、足の裏がカサカサしてひび割れるタイプもあります。
ここでは、代表的な3つの足白癬(趾間型、小水疱型、角質増殖型)について、それぞれの特徴的な症状や好発部位、患者さんが感じやすい自覚症状について解説します。
趾間型(しかんがた)の特徴
足白癬の中で最も多くの患者さんに見られるのが、趾間型で、主に足の指と指の間、特に薬指と小指の間に症状が現れやすい傾向があります。これは、小指と薬指の間が隙間なく密着しやすく、湿気がこもりやすいためです。
皮膚が白くふやけてジュクジュクしたり、赤くただれて皮がむけたりし、強いかゆみを伴うことが多く、かきむしることで細菌感染を併発し、痛みや腫れが生じることもあります。
また、患部が二次感染を起こすと、独特の悪臭を放つようになることも、このタイプの特徴の一つです。乾燥すると皮がむけてカサカサすることもありますが、湿潤しているケースが目立ちます。
各タイプの主な症状一覧
| タイプ名 | 主な症状 | かゆみの程度 |
|---|---|---|
| 趾間型 | 指の間がふやける、皮がむける、赤くなる | 強いことが多い |
| 小水疱型 | 土踏まずや足の縁に小さな水ぶくれができる | 強いことが多い |
| 角質増殖型 | 足の裏全体が硬くなる、ひび割れる、粉をふく | ほとんどない |
小水疱型(しょうすいほうがた)の特徴
小水疱型は、足の裏の土踏まず周辺や足の側面に、小さな水ぶくれ(水疱)が多発するタイプで、水ぶくれは、日が経つと破れて皮がむけ、赤くなります。水ぶくれができる初期段階で強いかゆみを感じることが特徴です。
水ぶくれをつぶすと中の液体が出てきますが、液体自体に菌がたくさんいるわけではありません(菌は水疱の蓋の部分に多くいます)。しかし、つぶした傷口から雑菌が入る恐れがあるため、故意につぶすことは避けてください。
梅雨時期などに症状が悪化しやすく、涼しくなると症状が治まるため治ったと勘違いしやすいですが、菌は潜伏しているため、翌年の夏に再発することが多いです。
角質増殖型(かくしつぞうしょくがた)の特徴
角質増殖型は、足の裏全体の皮膚が厚く硬くなり、表面がザラザラしたり、白い粉をふいたようになったりします。
かかとがひび割れて痛み(あかぎれのような状態)を伴うこともありますが、他のタイプと異なり、かゆみを感じることはほとんどないので、単なる乾燥や加齢による角質の硬化と勘違いされやすく、長年放置されがちです。
このタイプは皮膚の奥深くまで菌が入り込んでいるため治りにくく、放置することで爪水虫へと移行する原因にもなります。
冬場に乾燥してひび割れがひどくなるため、「ただの乾燥肌」と思い込んで保湿クリームだけでケアしてしまうケースが多く見受けられます。
見逃してはいけない爪水虫(爪白癬)の脅威
足の皮膚の水虫を放置していると、白癬菌が爪の中へと侵入し、爪水虫を起こすことがあります。爪水虫は見た目の問題だけでなく、歩行時の痛みや転倒リスクにもつながる厄介な病気です。
さらに、爪が菌の貯蔵庫となり、自身の他の部位や家族への感染源となり続けるため、早期の対処が必要です。
爪の変色と肥厚化のサイン
爪水虫にかかると、爪の透明感が失われ、白濁したり黄色く変色したりし、進行すると爪が厚く盛り上がり(肥厚)、ボロボロと崩れやすくなります。
さらに変形が進むと、巻き爪のようになったり、厚くなった爪が靴に当たって痛みを起こしたりします。爪が厚くなると家庭用の爪切りでは切ることが困難になり、ケアがおろそかになるという悪循環も生まれます。
初期段階では痛みやかゆみがないため、気づかずに放置してしまう患者さんが多いですが、爪の色や形がおかしいと感じたら、爪水虫のサインかもしれません。親指の爪に症状が出やすいですが、どの指にも起こり得ます。
市販薬では対応が難しい理由
皮膚の水虫であれば、市販の塗り薬でも一定の効果が期待できることがありますが、爪水虫の場合、市販の外用薬だけで完治させることは極めて困難です。
爪は硬いタンパク質でできており、外から薬を塗っても成分が奥深くまで浸透しにくい構造になっています。白癬菌は爪の硬い層の下や内部で増殖しているため、表面的なケアだけでは菌を死滅させることができません。
最近では浸透力を高めた爪専用の市販薬も登場していますが、医師による処方薬に比べると効果は限定的です。
家庭内感染の温床となるリスク
爪水虫の爪の中には、大量の白癬菌が存在しています。ボロボロと崩れ落ちた爪の破片には生きた菌が含まれており、床やバスマット、スリッパなどに散らばることで、同居している家族への感染源となります。
ご自身がいくら足を洗って清潔にしていても、爪の中に菌がいる限り、常に菌を撒き散らしている状態です。高齢者の場合、厚くなった爪が靴下や布団に引っかかり、転倒の原因になることもあります。
他者と共有を避けるべき日用品
- バスマットや浴室の足ふきタオル
- 室内用のスリッパやサンダル
- 爪切り(使用後に消毒すれば可)
- 靴やブーツの貸し借り
- 寝具(足元が触れ合う場合)
皮膚科クリニックで行われる検査と診断の流れ
皮膚科を受診すると、具体的にどのような検査が行われるのでしょうか。痛みを伴う検査なのか、時間はどれくらいかかるのか、不安に思う患者さんもいらっしゃるでしょう。
ここでは、問診から始まり、確定診断のための顕微鏡検査、そして他の皮膚疾患との鑑別まで、クリニックでの一般的な診療の流れをシミュレーションし、安心して受診できるよう説明します。
問診と視診による現状確認
診察室に入ると、まず医師による問診が行われ、いつから症状があるのか、どのような症状なのか、家族に水虫の人はいるか、過去に治療歴はあるかなどを伝えます。
その後、患部の視診を行い、医師は足の裏だけでなく、指の間、爪、そして場合によっては手のひらや体幹など、他の部位に症状が広がっていないかも確認します。
この段階で医師は水虫の可能性が高いか、あるいは別の疾患の可能性が高いかあたりをつけますが、見た目だけで確定診断を下すことはしません。視診では、皮膚の炎症のパターンや水疱の分布、角質の厚さなどを詳しく観察します。
確定診断のための顕微鏡検査(KOH法)
水虫の診断において最も重要で、かつ確実なのが顕微鏡検査です。これはKOH法(直接鏡検法)と呼ばれ、医師は、患部の皮膚の皮や水疱の膜、あるいは爪の一部をピンセットなどでほんの少し採取します。
採取した検体をスライドガラスに乗せ、特殊な液体(KOH液)を垂らして皮膚を溶かし、顕微鏡で観察し、白癬菌の菌糸や胞子が存在するかどうかをその場で直接確認します。
菌が見つかれば水虫と確定診断され、見つからなければ他の疾患を疑います。この検査は通常、数分から10分程度で結果が出るため、当日のうちに治療方針が決まります。
受診から処方までの目安時間
| 工程 | 内容 | 所要時間(目安) |
|---|---|---|
| 問診・視診 | 症状の確認とヒアリング | 3〜5分 |
| 検体採取・鏡検 | 顕微鏡での菌の確認 | 5〜10分 |
| 説明・処方 | 診断結果と薬の使い方説明 | 5〜10分 |
他の皮膚トラブルとの鑑別診断
水虫に似た症状を示す皮膚疾患は多数あり、顕微鏡検査で白癬菌が見つからなかった場合、医師は他の可能性を探ります。
掌蹠膿疱症であれば金属アレルギーや喫煙歴との関連を調べたり、接触皮膚炎であれば靴の素材や染料に対するパッチテストを検討したりします。また、見た目は水虫のようでも、細菌感染を起こしている場合もあります。
正確な診断がつかないまま漫然と薬を使い続けることの弊害を防ぐためにも、皮膚科での鑑別診断は非常に大きな意味を持ちます。自己判断で市販薬を使い続けて治らなかった症状が、実は水虫ではなかったというケースは多いです。
効果的な治療法の選択と薬の使い方のポイント
水虫治療の基本は、抗真菌薬を用いて白癬菌を退治することです。近年、薬の進化により、以前よりも効果的で使いやすい薬が増えていますが、どんなに良い薬でも、使い方を間違えれば効果は半減してしまいます。
外用薬(塗り薬)の種類と特徴
皮膚の水虫治療の主役は外用薬です。クリーム、液(ローション)、軟膏などのタイプがあり、症状や部位に合わせて使い分けます。クリームは伸びが良く使用感が良いため最も一般的ですが、ジュクジュクした患部には刺激になることがあります。
液タイプは乾燥させる作用がありますが、ひび割れがあるとしみることがあり、軟膏は刺激が少なく保護作用がありますが、べたつきがあります。
医師は、患者さんの皮膚の状態を見て、最も適した剤形(タイプ)を選んで処方します。最近の薬は1日1回の塗布で済むものが多く、患者さんの負担も軽減されていますが、塗り忘れると効果が途切れるため、毎日の習慣にすることが大切です。
外用薬の剤形比較
| 剤形 | 適した症状 | 注意点 |
|---|---|---|
| クリーム | 一般的、カサカサした患部 | ジュクジュクした傷には刺激になることがある |
| 液体(ローション) | カサカサした患部、爪周り | 傷口やひび割れがあるとしみて痛い |
| 軟膏 | ジュクジュクした患部、亀裂 | べたつきが気になる場合がある |
内服薬(飲み薬)が必要なケース
爪水虫や、皮膚が非常に厚くなって塗り薬が浸透しにくい角質増殖型水虫の場合、外用薬だけでは治療が難しいことがあります。このようなケースでは、内服薬(抗真菌薬の飲み薬)が選択されます。
内服薬は、血液に乗って爪や皮膚の奥深くに薬剤を届け、内側から菌を死滅させます。高い効果が期待できますが、肝臓への負担などを考慮し、定期的な血液検査を行うことが一般的です。
また、飲み合わせの悪い薬もあるため、普段服用している薬がある場合は必ず医師に申告することが大切です。内服薬による治療期間は数ヶ月に及ぶことが多いため、根気強く服用を続ける必要があります。
治療を成功させるための継続期間と塗り方
水虫治療で最も大切なのは継続と広範囲への塗布です。かゆみなどの症状が消えると治ったと思いがちですが、菌はまだ角質の奥に残っています。自己判断で治療を中止すると、菌が再び増殖し、再発を繰り返してしまいます。
皮膚のターンオーバー(生まれ変わり)には約4週間かかり、角質層が完全に入れ替わるまでにはさらに時間を要すので、症状が消えてからさらに1ヶ月〜数ヶ月は塗り続けることが重要です。
また、菌は患部だけでなくその周囲にも広がっているため、患部よりも広めに、できればアキレス腱から足の裏全体、指の間まで薬を塗ることが推奨されます。お風呂上がりの皮膚が柔らかくなっている時に塗るのが最も効果的です。
効果的な塗り方のポイント
- 患部だけでなく、足の指の間から足裏全体に広く塗る
- 症状がない方の足にも菌がいる可能性があるため両足に塗る
- お風呂上がりの皮膚が清潔で柔らかいタイミングで塗る
- すり込む必要はなく、優しく広げるように塗る
- 指定された期間は、見た目がきれいになっても毎日続ける
再発を防ぐための日常生活でのケアと環境づくり
治療によって一度水虫が治っても、生活環境や習慣が変わらなければ、再び感染してしまうリスク(再感染)があります。水虫を繰り返す病気にしないためには、足元を清潔に保つことと、菌が増えにくい環境を作ることが大切です。
足を清潔に保つ毎日の習慣
足の清潔を保つことは、予防の基本中の基本です。毎日お風呂に入り、石鹸を使って足の指の間の汚れまで丁寧に洗い流しましょう。ゴシゴシと強くこする必要はありません。
傷を作ってしまうとそこから菌が入りやすくなるため、よく泡立てた石鹸で優しく包み込むように洗い、洗った後は、タオルで指の間の水分までしっかりと拭き取ることが大切です。
湿ったままにしておくと、菌が増殖しやすい環境を作ってしまい、特に指の間が狭く密着している方は、意識して乾燥させるようにしましょう。
靴や靴下の選び方とメンテナンス
靴の中は高温多湿になりやすく、白癬菌にとっての楽園です。同じ靴を毎日履き続けると、靴の中の湿気が乾く暇がありません。できれば3足程度の靴を用意し、ローテーションして履くことで、靴を乾燥させる時間を作りましょう。
通気性の良い靴を選ぶことも有効です。靴下については、ナイロンなどの化学繊維よりも、吸湿性の高い木綿やシルク、あるいは5本指ソックスを選ぶと、指の間の蒸れを軽減できます。
帰宅後はすぐに靴下を脱ぎ、足を洗って乾燥させる習慣をつけることが望ましいです。長時間靴を履く仕事の方は、休憩中に靴を脱ぐだけでも効果があります。
靴の衛生管理チェックリスト
| 項目 | 推奨される行動 | 理由 |
|---|---|---|
| 靴の履き回し | 2〜3足を交互に履く | 靴内部の湿気を乾燥させるため |
| 乾燥剤の使用 | 脱いだ靴に入れる | 湿度を下げて菌の繁殖を抑えるため |
| 天日干し | 定期的に行う | 紫外線による殺菌と乾燥効果 |
家庭内での感染拡大を防ぐ工夫
家族に水虫の患者さんがいる場合、あるいはご自身が治療中の場合は、他の方への感染を防ぐ配慮が必要です。最も感染リスクが高いのはバスマットです。患者さん専用のバスマットを用意するか、使用後はすぐに洗濯・乾燥させるようにします。
スリッパも自分専用のものを使用し、共用は避け、また、床に落ちた皮膚の粉(鱗屑)には菌が含まれているため、こまめに掃除機をかけ、拭き掃除を行うことで、部屋の中の菌を減らすことができます。
洗濯物は一緒に洗っても洗剤と水で菌は洗い流されるため、過度に神経質になる必要はありません。
水虫治療に関するよくある質問(FAQ)
最後に、水虫治療に関して患者さんから頻繁に寄せられる質問にお答えします。
- 症状がかゆくないのですが、それでも水虫の可能性はありますか?
-
かゆみは水虫の必須条件ではありません。かかとがガサガサになる角質増殖型や、爪が変色する爪水虫は、かゆみを伴わないことがほとんどです。
かゆみがないからといって放置すると、家族に移してしまったり、治りにくくなったりするため、皮膚の異変を感じたら皮膚科を受診してください。
- 酢や熱湯につけると治るという噂を聞きましたが本当ですか?
-
危険ですので行わないでください。酢や熱湯による民間療法は、皮膚に化学熱傷や火傷を起こし、バリア機能を破壊してしまいます。
その結果、かえって傷口から菌が入りやすくなったり、細菌感染(蜂窩織炎など)を併発したりして重症化する恐れがあります。
- 妊娠中や授乳中でも水虫の治療はできますか?
-
可能ですが、使用できる薬の種類に制限がある場合があります。
一般的に外用薬(塗り薬)は、皮膚から吸収されて全身に回る量が極めて微量であるため、妊娠中や授乳中でも使用できるものが多いですが、内服薬(飲み薬)は避けるべきケースがあります。
自己判断で市販薬を使わず、必ず皮膚科医に妊娠中・授乳中であることを伝えて処方を受けてください。
- プールや温泉に行った後、感染を防ぐにはどうすればいいですか?
-
24時間以内に足を洗えば感染を防げる可能性が高いです。菌が皮膚に付着しても、角質層の中に入り込むまでには通常24時間程度の猶予があります。
帰宅後に石鹸で足を丁寧に洗い、指の間までしっかりと水分を拭き取ってください。ゴシゴシ洗う必要はなく、泡で優しく洗うだけで表面についた菌は落ちます。
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