Kaposi水疱様発疹症

Kaposi水疱様発疹症（Kaposi’s varicelliform eruption）は、アトピー性皮膚炎などの慢性的な皮膚疾患を基礎疾患として持つ方に発症する、ウイルス性の皮膚感染症です。

原因は単純ヘルペスウイルスで、感染部位に水疱や痂皮が広範囲に現われるのが典型的な症状です。

病状の進行に伴い、発熱や倦怠感といった全身症状も生じます。

Kaposi水疱様発疹症の症状

Kaposi水疱様発疹症は、急性で広範囲に及ぶ水疱性発疹を特徴とする皮膚感染症です。

初期症状

Kaposi水疱様発疹症の初期段階で最初に目立つのは、小さな赤い斑点や丘疹で、主に顔面や頸部、胸部など、上半身に集中して現れます。

初期症状	特徴
赤い斑点	直径2-3mm程度、散在性
丘疹	わずかに隆起、掻痒感を伴う場合も

水疱の形成と拡大

初期症状の出現後、病変は急速に進行し水疱へと変化していきます。

• 水疱のサイズは直径2-6mm程度で、透明または淡黄色の液体で満たされる
• 水疱は互いに融合し、より大きな病変を形成することがある
• 発疹は体幹や四肢にも拡大し、全身に及ぶ

二次感染のリスク

水疱が破れると、びらんや潰瘍を形成し二次感染のリスクが高まります。

二次感染で見られる症状

1. 疼痛や灼熱感の増強
2. 発熱や倦怠感などの全身症状
3. リンパ節腫脹

二次感染の徴候	対応の必要性
膿瘍形成	高
発赤の拡大	中
疼痛の増強	中

回復期の皮膚変化

症状のピークを過ぎると、徐々に回復期に入ります。

観察される皮膚の変化

1. 水疱の乾燥と痂皮形成
2. 痂皮の脱落
3. 色素沈着や瘢痕の残存（一部の症例）

軽症例では数日で軽快しますが、重症例では広範囲の皮膚障害が生じ、回復には数週間必要です。

患者さんの年齢や基礎疾患、免疫状態によってアトピー性皮膚炎患者さんや免疫不全状態にある方では、症状がより重篤化します。

Kaposi水疱様発疹症の原因

Kaposi水疱様発疹症は単純ヘルペスウイルスなどのウイルス感染と、アトピー性皮膚炎などによる皮膚バリア機能の低下が組み合わさって起こります

ウイルス感染

Kaposi水疱様発疹症の原因ウイルスは単純ヘルペスウイルス（HSV）ですが、他のウイルスが関与するケースもあります。

ウイルス	発症頻度
単純ヘルペスウイルス	高い
水痘帯状疱疹ウイルス	中程度
ワクシニアウイルス	低い

皮膚バリア機能の低下

Kaposi水疱様発疹症は、健康な皮膚の人よりも、皮膚バリア機能が低下している人に発症しやすいです。

皮膚バリア機能の低下に関わる要因

• アトピー性皮膚炎
• 乾癬
• 火傷や外傷による皮膚損傷
• 長期間のステロイド外用薬使用

免疫機能の関与

皮膚の免疫機能もKaposi水疱様発疹症の発症に関わっています。正常な免疫反応はウイルス感染を抑える役割を果たしますが、免疫機能が低下するとウイルスの増殖を抑えきれなくなります。

免疫機能	Kaposi水疱様発疹症への影響
正常	ウイルス増殖を抑制
低下	ウイルス増殖を促進

免疫機能の低下は、基礎疾患や薬物治療の影響が原因です。

環境因子

環境因子もKaposi水疱様発疹症の発症に影響を与えます。

発症のきっかけになる要素

• 高温多湿な環境
• 皮膚の極度の乾燥
• 強いストレス
• 睡眠不足

環境因子は皮膚の状態や免疫機能に影響を及ぼし、ウイルス感染のリスクを高めます。

Kaposi水疱様発疹症の検査・チェック方法

Kaposi水疱様発疹症の診断は、問診と身体診察による臨床診断を基本とし、必要に応じてウイルス検査などの確定診断を行います。

臨床診断

Kaposi水疱様発疹症の診断において、臨床所見の観察が最も重要です。

1. 発疹の性状：小水疱から大水疱への変化
2. 発疹の分布：顔面や上半身に多い
3. 皮膚の状態：びらんや潰瘍の有無
4. 随伴症状：発熱や倦怠感の程度

臨床所見	診断的意義
多発性水疱	高
急速な進行	中
上半身優位	中

問診によるリスク評価

問診では患者さんの背景にある情報を聞き取り、Kaposi水疱様発疹症のリスク因子を評価します。

注目する点

• アトピー性皮膚炎の既往
• 免疫抑制状態（HIV感染、ステロイド使用など）
• 皮膚のバリア機能障害
• 最近の皮膚感染症の既往

確定診断のための検査

臨床診断後、いくつかの検査を実施し確定診断を行います。

1. ウイルス分離培養：水疱内容物からのウイルス検出
2. PCR検査：ウイルスDNAの同定
3. Tzanck試験：水疱底の細胞診

検査方法	特徴
PCR検査	高感度、迅速
ウイルス培養	時間を要するが確実

鑑別診断の実施

Kaposi水疱様発疹症は他の皮膚疾患と似た症状を呈することがあるため、鑑別診断が欠かせません。

鑑別が必要な疾患

• 単純ヘルペス感染症
• 帯状疱疹
• 水痘
• 重症薬疹

Kaposi水疱様発疹症の治療方法と治療薬について

Kaposi水疱様発疹症の治療は抗ウイルス薬の全身投与を中心とし、局所療法や支持療法を併用します。

抗ウイルス薬による全身療法

Kaposi水疱様発疹症の主要な治療法は、抗ウイルス薬の全身投与です。

抗ウイルス薬	投与方法	典型的な投与期間
アシクロビル	点滴静注	5〜7日間
バラシクロビル	経口	7〜10日間

薬剤はウイルスのDNA合成を妨げることで効果を発揮し、重症例では点滴静注が選ばれることが多く、軽症から中等症では飲み薬が使われます。

局所療法

全身療法と並行して局所療法も行い、目的は、皮膚症状をやわらげ二次感染を防ぐことです。

• 抗ウイルス軟膏（アシクロビル軟膏など）
• 抗菌薬入り軟膏
• ステロイド外用薬（慎重に使用）

支持療法

Kaposi水疱様発疹症では皮膚症状に加え全身症状が出るため、支持療法も大切です。

支持療法	目的
点滴	脱水の予防・改善
解熱鎮痛薬	熱や痛みの緩和
栄養管理	体調の維持・改善

治療経過

Kaposi水疱様発疹症の治療期間は、1〜2週間程度です。

治療開始後の経過観察のポイント

1. 新たな症状の出現有無
2. 既存の症状の広がり・縮小
3. 熱などの全身症状の変化
4. 血液検査の結果

薬の副作用や治療のデメリットについて

Kaposi水疱様発疹症の治療は抗ウイルス薬や支持療法を行いますが、治療法には副作用やリスクが伴います。

抗ウイルス薬の副作用

抗ウイルス薬では、以下のような副作用に注意が必要です。

1. 消化器症状：悪心、嘔吐、下痢
2. 中枢神経系症状：頭痛、めまい
3. 腎機能障害
4. 肝機能障害

抗ウイルス薬	副作用
アシクロビル	腎機能障害、消化器症状
バラシクロビル	頭痛、悪心

副作用は多くの場合一過性で、薬剤の中止や用量調整により改善します。

局所療法のデメリット

局所療法として用いられる抗ウイルス軟膏や抗菌薬には、デメリットがあります。

• 皮膚刺激や接触皮膚炎
• 耐性菌の出現リスク
• 広範囲の病変に対する適用の困難さ

局所療法	デメリット
抗ウイルス軟膏	皮膚刺激、効果の限局性
抗菌薬軟膏	耐性菌リスク、二次感染予防効果の限界

支持療法に伴うリスク

支持療法として用いられる輸液や栄養管理にも、リスクが伴います。

• 輸液による電解質異常
• 過剰な輸液による循環器系への負荷
• 経静脈栄養に伴うカテーテル関連感染症

保険適用と治療費

保険適用の範囲

保険適用される項目

• 診察料
• 血液検査や画像診断などの各種検査費用
• 抗ウイルス薬などの薬剤費
• 入院費用
• 処置料

治療費の目安

Kaposi水疱様発疹症の治療費は、外来治療と入院治療で差が生じます。

治療形態	期間	概算総額（3割負担の場合）
外来治療	1〜2週間	2〜5万円
入院治療	1週間	10〜15万円
入院治療	2週間	20〜30万円

以上

参考文献

Ferrari B, Taliercio V, Luna P, Abad ME, Larralde M. Kaposi’s varicelliform eruption: A case series. Indian Dermatology Online Journal. 2015 Nov 1;6(6):399-402.

Kramer SC, Thomas CJ, Tyler WB, Elston DM. Kaposi’s varicelliform eruption: a case report and review of the literature. CUTIS-NEW YORK-. 2004 Feb 1;73(2):115-22.

Shenoy MM, Suchitra U. Kaposi’s varicelliform eruption. Indian Journal of Dermatology, Venereology and Leprology. 2007 Jan 1;73:65.

Vora RV, Pilani AP, Jivani NB, Kota RK. Kaposi varicelliform eruption. Indian Dermatology Online Journal. 2015 Sep 1;6(5):364-6.

LYNCH FW, STEVES RJ. Kaposi’s varicelliform eruption. Archives of Dermatology and Syphilology. 1947 Mar 1;55(3):327-36.

Blattner RJ, Heys FM, Harrison ML. Etiology of kaposi’s varicelliform eruption. The Journal of Pediatrics. 1945 Sep 1;27(3):207-15.

Lane CW, Herold WC. CIII. KAPOSI’S VARICELLIFORM ERUPTION: REPORT OF FIVE CASES. Archives of Dermatology and Syphilology. 1944 Dec 1;50(6):396-404.

Saraswat A, Ratho RK, Kumar B. Two unusual cases of Kaposi’s varicelliform eruption. Acta dermato-venereologica. 2002 Mar 1;82(2):138-9.

Nath AK, Sori T, Thappa DM. A case series of Kaposi′ s varicelliform eruption in dermatology in-patients in a tertiary care centre. Indian Journal of Dermatology. 2011 Jan 1;56(1):110-5.

Vogt KA, Lohse CM, El-Azhary RA, Gibson LE, Lehman JS. Kaposi varicelliform eruption in patients with Darier disease: a 20-year retrospective study. Journal of the American Academy of Dermatology. 2015 Mar 1;72(3):481-4.