口唇ヘルペス（herpes labialis）とは、痛みを伴う小さな水ぶくれや潰瘍を口の周りに認めるウイルス感染症の一つです。
多くの人が経験するこの症状は、単純ヘルペスウイルス（HSV）によって引き起こされ、一度感染すると体内に潜伏し、ストレスなど免疫の低下によって再発します。
この記事では、口唇ヘルペスの原因、症状、そして日常生活での対処法について詳しく解説していきましょう。
この記事の執筆者
小林 智子（こばやし ともこ）
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長
2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。
こばとも皮膚科関連医療機関
口唇ヘルペスの原因
口唇ヘルペス（herpes labialis、oral herpes）は海外では「cold sore」とも呼ばれる単純ヘルペスウイルスによって引き起こされる皮膚感染症です。
単純ヘルペスウイルスには1型（HSV-1型）と2型（HSV-2型）の2種類があります。このうち、口唇ヘルペスの原因となるのはHSV-1型です。
- HSV-1型：汚染された唾液や分泌物など、口と口の直接接触によって感染するウイルスのタイプです。小児のうちに感染すると言われており、口唇ヘルペスの原因だけではなく、性器ヘルペスの原因にもなります。
- HSV-2型：主に性感染が感染経路と言われているタイプです。以前は性器ヘルペスをきたすウイルスと考えられていましたが、最近ではHSV-1による性器ヘルペスの報告も増えています。
HSV-1およびHSV-2は、感染した皮膚粘膜でウイルスの複製を開始し、神経の軸を伝わって神経節で潜伏し、通常不活性化状態で持続感染。
まれに、乳幼児や免疫が低下している方は、初期感染時に症状を認めることもあります。
一度感染したウイルスは、神経節で潜伏していますがストレスや風邪などをきっかけに活性化され、口唇などに小水疱の皮膚症状が。
中でも口唇ヘルペスは成人で最も頻度が高く、およそ3割の成人で発症します。
口唇ヘルペスの症状
口唇ヘルペスの症状と一般的な経過
口唇ヘルペスの特徴的な症状と一般的な経過
| 段階 | 主な症状 |
|---|---|
| 初期 | かゆみやピリピリ感、灼熱感といった違和感を前駆症状として認めることが多い |
| 水疱形成期 | 前駆症状の1〜2日後に小さな水ぶくれや浮腫性の紅斑（赤み）を形成 |
| 潰瘍形成期 | 水ぶくれの破裂による潰瘍を認める |
| 治癒過程 | 1週間程度でかさぶたが自然に剥がれ落ちる |
症状に関する補足
口唇ヘルペスの症状には個人差がありますが、以下の点に注意してください。
- 症状の進行度や重症度には個人差が。特に初発感染の場合、顕著に症状を認めることが多い一方、回帰感染の中には、症状がほとんど気づかれないケースも。
- 水ぶくれや潰瘍ができた際には、その部分に触れない。
- 通常と異なる症状や予想外の反応が見られる時は、速やかに医師の診察を受ける。
口唇ヘルペスの検査・チェック方法
次に口唇ヘルペスの検査やご自身によるチェック方法について、解説します。
口唇ヘルペスの診断
口唇ヘルペスの診断は、主に以下のステップで行われます。
- 症状の観察: 患者さんの症状を確認し、口唇に特有の水疱や赤みが見られるかどうかを観察。
- 医歴の聴き取り: 患者さんの過去の医歴や、現在の症状が発生するまでの経過を問診。
- ウイルス検査: 必要に応じて水疱からヘルペスウイルスの検査を行うことも。
検査方法の詳細
口唇ヘルペス診断の際に行われる検査方法
| 検査方法 | 説明 | 特徴 |
|---|---|---|
| PCR検査 | 水疱の内容物を分析し、ヘルペスウイルスのDNAを検出 | 高精度で特定のウイルスを検出できるが時間を要する |
| Tzanckテスト | 水疱の底から採取した細胞を染色し、顕微鏡で観察 | シンプルで迅速ですが、ヘルペスウイルスの種類は特定できない |
| 抗体検査 | 血液検査により、ヘルペスウイルスに対する抗体の有無を確認 | 比較的短時間でHSVの型まで判定できる |
| 抗原検出キット(デルマクイック) | 水疱部を擦過して専用のキットを用いてヘルペス感染の有無を確認 | 簡便に行える試験で、偽陰性も比較的少ない |
口唇ヘルペスのチェックポイント
患者さんがご自身で注意すべきチェックポイント
- 水疱や赤みの前のかゆみやピリピリした違和感
- 比較的急速に認める赤みや水疱
- ストレスなど免疫低下の原因となる環境
これらの項目が該当する場合は口唇ヘルペスの可能性がありますので、早めに皮膚科を受診してください。
口唇ヘルペスの治療方法と治療薬
口唇ヘルペスの一般的な治療方法
口唇ヘルペスの治療は、主に抗ウイルス薬の使用が一般的です。
ごく軽度な場合は、抗ウイルス薬の外用薬のみで経過観察となることもありますが、通常は抗ウイルス薬の内服がすすめられます。
外用薬
| 商品名 | 成分 | 使用方法 |
|---|---|---|
| アラセナ-A軟膏3%、アラセナ-Aクリーム3% | ビタラビン | 適量を1日3〜4回塗布 |
| ゾビラックス軟膏5% | アシクロビル | 適量を1日3〜4回塗布 |
内服薬
| 商品名 | 成分 | 使用方法 |
|---|---|---|
| ゾビラックス | アシクロビル | 1回1錠(200mg)を1日5回×5日間 |
| バルトレックス | バラシクロビル | 1回1錠(500mg)を1日2回×5日間 |
| ファムビル | ファムシクロビル | 1回1錠(250mg)を1日3回×5日間 |
再発を繰り返す場合
再発を繰り返す場合には、あらかじめ抗ウイルス薬を処方することができます。
PIT療法（Patient Initiated Therapyの略）と言い、再発に備えてあらかじめ抗ウイルス薬を処方し、症状出現時にすぐに薬をご自身の判断で服用。
早めに投薬することで、症状を短期間で抑えることができます（通常抗ウイルス薬は症状を認めたときしか処方できません）。
PIT療法が適応となる薬には、
- ファムシクロビル（ファムビル）
- アメナメビル（アメナリーフ、再発性以外の単純疱疹への適応はなし）
の2種類があります。
再発性の単純疱疹（口唇ヘルペスや陰部ヘルペス）の患者さんで、再発の初期症状を判断できることが条件です。
ファムシクロビルでは同じ症状の再発頻度が年に3回以上あることも適応の判断基準の一つとなります（アメナメビルは回数による制限はなし）。
使用方法
- ファムシクロビル（ファムビル）：1回4錠（1000mg）を2回投与
- アメナメビル（アメナリーフ）：1回6錠（1200mg）を食後に単回投与
アメナメビルは単回投与で済むため服用は比較的簡単です。必ず食後に服用してください。
口唇ヘルペスの治療期間
口唇ヘルペスの一般的な治療期間
口唇ヘルペスの治療期間は、症状の重さや治療の有無によって異なる場合も。
薬の服用なしでも、通常1〜2週間程度で自然に治癒することが多いですが、症状の初期段階で治療介入をすることで治療期間を短縮できます。
通常再発性の口唇ヘルペスでは、早めの投薬で1週間以内に症状の改善を認めることが多いです。
治療期間に影響を与えるその他の要因
- 初期感染: 初めての感染の場合、症状が重く出ることがあり、治療期間が長引く傾向に。
- 個人の免疫状態: 免疫力が低下している場合、治療期間が長引く可能性。
- 抗がん治療や免疫抑制剤などの使用: 同じく免疫が低下している状態となり、治療期間が長引くことが。
患者さんが覚えておくべきポイント
治療期間中に患者さんが覚えておくべきポイント
- 症状が改善しても、医師の指示に従って薬を飲み切ることが大切。
- 症状が予想よりも早く改善しなかったり悪化する場合は、迅速に医師に相談。
- 長期的に治療を行っている時は、定期的に医師の診察を受け、治療計画の見直しを行うことが大切。
薬の副作用や治療のデメリット
口唇ヘルペスの治療で用いられる薬にはいくつかの副作用やデメリットがあります。
口唇ヘルペス治療薬の副作用
口唇ヘルペス治療薬の主な副作用
| 治療薬 | 主な副作用 |
|---|---|
| 外用薬 | |
| ビタラビン（アラセナ-A軟膏3%、アラセナ-Aクリーム3%） | 接触皮膚炎様症状、刺激感、皮膚掻痒感 |
| アシクロビル（ゾビラックス軟膏5%） | 刺激感、接触皮膚炎、掻痒感 |
| 内服薬 | |
| アシクロビル（ゾビラックス） | 胃腸障害、貧血、発熱、発疹 |
| バラシクロビル（バルトレックス） | 胃腸障害、頭痛、腎障害 |
| ファムシクロビル（ファムビル） | 胃腸障害、めまい、ふらつき、黄疸、動悸 |
| アメナメビル（アメナリーフ） | 胃腸障害、発疹、動悸 |
これらの副作用は一般的に軽度で、治療の中断はまれですが、症状が重いときは医師に相談してください。
口唇ヘルペス治療のデメリット
口唇ヘルペスの治療におけるデメリット
- 治療の長期化: 再発性の口唇ヘルペスの場合、長期にわたっての治療が必要となることが。
- 治療費の負担: 定期的な薬剤購入や医師の診察が必要であり、費用が負担になることも。
保険適用について
口唇ヘルペスの治療は保険が適用されます。
治療に用いられる薬の費用
| 治療薬 | 薬価 | 参考 |
|---|---|---|
| 外用薬 | ||
| ビタラビン（アラセナ-A軟膏3%、アラセナ-Aクリーム3%） | 172.8円/g | 2g：345.6円5g：864円10g：1728円（クリームは2gと5gのみ） |
| アシクロビル（ゾビラックス軟膏5%） | 157.1円/g | 5g：785.5円 |
| 内服薬 | ||
| アシクロビル（ゾビラックス錠200） | 31.9円/錠 | |
| バラシクロビル（バルトレックス500mg） | 215.5円/錠 | |
| ファムシクロビル（ファムビル250mg） | 290.4円/錠 | |
| アメナメビル（アメナリーフ200mg） | 1215.3円/錠 |
保険の適応を受けるためには専門医による診察や診断が必要で、この他、初診料あるいは再診料、処置料などがかかります。
詳しくはお問い合わせください。
参考文献
Gopinath D, Koe KH, Maharajan MK, Panda S. A Comprehensive Overview of Epidemiology, Pathogenesis and the Management of Herpes Labialis. Viruses. 2023 Jan 13;15(1):225.
Lotufo MA, Horliana AC, Santana T, de Queiroz AC, Gomes AO, Motta LJ, Ferrari RA, dos Santos Fernandes KP, Bussadori SK. Efficacy of photodynamic therapy on the treatment of herpes labialis: A systematic review. Photodiagnosis and photodynamic therapy. 2020 Mar 1;29:101536.
Ahluwalia J, Han A, Kusari A, Eichenfield LF. Recurrent herpes labialis in the pediatric population: Prevalence, therapeutic studies, and associated complications. Pediatric dermatology. 2019 Nov;36(6):808-14.
Pittet LF, Moore CL, McDonald E, Barry S, Bonten M, Campbell J, Croda J, Dalcolmo M, Davidson A, Douglas MW, Gardiner K. Bacillus Calmette-Guérin vaccination for protection against recurrent herpes labialis: a nested randomised controlled trial. EClinicalMedicine. 2023 Oct 1;64.
Ramalho KM, Cunha SR, Gonçalves F, Escudeiro GS, Steiner-Oliveira C, Horliana AC, de Paula Eduardo C. Photodynamic therapy and Acyclovir in the treatment of recurrent herpes labialis: A controlled randomized clinical trial. Photodiagnosis and photodynamic therapy. 2021 Mar 1;33:102093.
La Selva A, Negreiros RM, Bezerra DT, Rosa EP, Pavesi VC, Navarro RS, Bello-Silva MS, Ramalho KM, Aranha AC, Braz-Silva PH, Fernandes KP. Treatment of herpes labialis by photodynamic therapy: study protocol clinical trial (SPIRIT compliant). Medicine. 2020 Mar;99(12).
Kazsoki A, Palcsó B, Alpár A, Snoeck R, Andrei G, Zelkó R. Formulation of acyclovir (core)-dexpanthenol (sheath) nanofibrous patches for the treatment of herpes labialis. International journal of pharmaceutics. 2022 Jan 5;611:121354.
Ajmal M. Effectiveness of photodynamic therapy as an adjunct to topical antiviral therapy in the treatment of herpes labialis: A randomized controlled clinical trial. Photodiagnosis and Photodynamic Therapy. 2021 Jun 1;34:102302.
Zanella PA, Onuchic LF, Watanabe EH, Azevedo LH, Aranha AC, Ramalho KM, Eduardo CD. Photobiomodulation for preventive therapy of recurrent herpes labialis: A 2-year in vivo randomized controlled study. Photobiomodulation, Photomedicine, and Laser Surgery. 2022 Oct 1;40(10):682-90.
Barros AW, Sales PH, Silva PG, Gomes AC, Carvalho AA, Leão JC. Is low-level laser therapy effective in the treatment of herpes labialis? Systematic review and meta-analysis. Lasers in Medical Science. 2022 Dec;37(9):3393-402.
Ajmal M. Effectiveness of photodynamic therapy as an adjunct to topical antiviral therapy in the treatment of herpes labialis: A randomized controlled clinical trial. Photodiagnosis and Photodynamic Therapy. 2021 Jun 1;34:102302.