まつ毛美容液として注目を集める「ルミガン」。元々は緑内障治療薬として開発された医療用医薬品ですが、まつ毛の成長促進効果が発見され、美容目的での使用が広がっています。
しかし、医師の処方箋が必要な医薬品であるため、使用する前にはその安全性についての正しい理解が必要です。
本記事では、ルミガンの効果についてだけではなく、危険性や副作用についても詳しく解説しました。
ルミガンを処方してもらう方法についても紹介していますので、ルミガンに興味がある方はぜひ参考にしてください。
この記事の執筆者
小林 智子(こばやし ともこ)
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長
2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。
こばとも皮膚科関連医療機関
ルミガンの効果 – まつ毛が長くなる・太くなるメカニズム
ルミガン(一般名:ビマトプロスト)は、もともと緑内障の治療薬として開発された医薬品でしたが、使用した患者のまつ毛が際立って成長するという副作用が発見されました。
その後の研究により、有効成分である「ビマトプロスト」のまつ毛育毛効果が科学的に証明され、2008年にはFDA(米国食品医薬品局)に睫毛貧毛症治療薬として正式に承認されています。
まつ毛が長くなるしくみ
まつ毛には髪の毛と同様に毛周期(毛の生え変わり)があり、毛が成長する期間や衰えていく期間があります。
- 毛根が活発に活動して毛が継続的に伸び続ける「成長期」
- 成長が止まり毛根が縮小していく「退行期」
- 毛根の活動が停止して古い毛が抜け落ちる準備を行う「休止期」
ルミガンの有効成分であるビマトプロストは、この毛周期において「成長期」を延長させる効果があることが分かっています。
つまり、まつ毛が成長できる期間を延ばすことで、まつ毛の健康的な成長を促進する仕組みです。
まつ毛を太く濃くするメカニズム
ルミガンには、まつ毛を長くする効果だけでなく、太く濃くする作用も確認されています。
これは、ルミガンに含まれる成分「ビマトプロスト」が、まつ毛の根元にある “毛乳頭” を拡大する働きを持つと考えられているためです。
また、メラニンを作る際に働く酵素「チロシナーゼ」を刺激する働きがあるため、メラニン生成が促進されて毛が濃くなるのではないかとも考えられています。
◎毛乳頭とは:毛根の根元に存在する組織。髪の毛の成長の司令塔のような存在で、毛周期をコントロールする役割を担っています。
眉毛への使用は適応外使用
ルミガンの育毛効果は眉毛に対しても期待できることが分かっていますが、使用に際しては注意が必要です。
本来はまつ毛の成長を目的とした医薬品であるため、眉毛への使用を検討する場合は必ず医師に相談し、自己判断での使用は避けるようにしましょう。
まつ毛美容液の選び方を動画(YouTube)でも解説!
ルミガンの塗り方
ルミガンの塗り方の手順
- コンタクトレンズをしている場合は外しておきます。
- メイク落としと洗顔を済ませ、目の周りを清潔な状態にします。
- 専用のブラシ(あるいは細ブラシ)を使い、薬剤を生え際に少量塗布します。
- 薬剤を塗ったあとは数分間乾かします。
- 十分に乾いたあとは化粧品を使用しても問題ありません。
ルミガンを塗る際の注意点
- 1日1回就寝前に塗るのが一般的ですが、使用方法は指示に従ってください。
- 薬剤が目に入ってしまうと刺激になってしまう可能性があるため、少量ずつ塗布し目に入らないよう気を付けましょう。
- 下まつ毛に塗ることはできません。下まつ毛に塗ると、涙袋の周辺に色素沈着をおこしてしまう可能性があります。
また、ルミガンは毛包の無い部分に塗っても意味がありません。元あるまつ毛を長く太くする効果があるもので、まつ毛そのものを作り出すことはできません。新たなまつ毛が生えてくるわけではない点には注意が必要です。
ルミガンを処方してもらうには?どこで買えるの?
ルミガンは医師の診断と処方に基づいてのみ使用できる医療用医薬品であるため、ドラッグストアや小売店などでは購入できません。
使用を希望する場合は、医療機関での受診が必要となります。
ルミガンを購入できるネット通販はどうなの?
インターネット上には、医師の処方箋なしでルミガンを購入できるサイトを見かけることがあります(例:個人輸入)。
しかし、このような個人輸入では、まず品質面での懸念が大きな問題です。
個人輸入の場合は製品の真贋が不明確であり、適切な温度管理がなされているという保証もありません。有効期限や製造日についても、その信頼性は極めて低いと言わざるを得ません。
また、医療機関を介さない購入の場合、副作用が発生した際に対処ができません。誤った使用方法につながる可能性があるほか、他の医薬品との相互作用についても確認できません。
さらに法的な面でも注意が必要です。個人輸入による医薬品の購入は、医薬品医療機器等法(旧薬事法)に抵触する可能性があります。
安全面や効果面を考慮し、ルミガンを使ってみたい場合は必ず病院で処方してもらうようにしましょう。
やめると元に戻る?ルミガンの効果の持続性について
ルミガンによるまつ毛の育成効果は、継続的な使用によって維持される一時的なものです。この医薬品は毛周期に働きかけることで効果を発揮するため、使用を中止するとその作用も徐々に失われていきます。
使用中止後はどうなる?
使用中止後、まつ毛は段階的に元の状態へと戻っていきます。これは、ビマトプロストによって延長されていた毛の成長期が、自然な周期に戻るためです。
新しく生えてくるまつ毛が通常の成長期間で成長するようになり、薬剤使用時のような長さや太さには至らなくなります。
もとに戻るまでの期間は?
元の状態に戻るまでの期間には個人差があり、通常は2〜4ヶ月程度かかります。これは、まつ毛の自然な生え変わりのサイクルに沿って変化が起こるためです。
急激な変化ではなく、徐々に元の状態に戻っていきます。
危険性や副作用・リスク
ルミガンの主な副作用は、色素沈着と眼瞼溝深化(目の上のくぼみ)の2つですが、その他にもいくつかの副作用が報告されています。
ルミガンは、マウスでの実験において早産のリスクが報告されているため、妊娠中の方は使用することができません。また、過去に過敏症の既往歴を持つ方は医師にその旨を報告するようにしてください。
※過敏症とは:花粉、食べ物、薬など通常は反応が起こらない程度の刺激に反応して一定の症状があらわれる疾患。症状には、皮膚のかゆみ、じんま疹、呼吸困難、消化器症状などがあります。
色素沈着
ルミガンにはメラニンの生成を促進する作用があるため、薬剤が皮膚に付着すると、まぶたや涙袋に黒ずみが起こるなど色素沈着を起こしてしまう可能性があります。
色素沈着を起こしてしまったとしても、使用を中止すれば数週間ほどで元に戻る場合がほとんどです。
色素沈着を起こさないためには、上まぶたに薬剤がつかないようにする、まつ毛の根元にのみ薬剤を塗布する、薬剤をつけすぎないなどに気を付けてください。
くぼみ(眼瞼溝深化)
眼瞼溝深化とは、まぶたが痩せるような、くぼみができてしまう現象です。
通常は体重の変化や加齢によって現れるものですが、ルミガンの副作用としても出現する場合があります。これは、ルミガンに含まれる成分に脂肪細胞を減少させる働きがあるためです。
眼瞼溝深化を予防するためには、指示通りにルミガンを使用するほか、定期的な医師のチェックを受けるなどがあります。
かゆみ、痛み、虹彩の色の変化など
薬剤への刺激症状としてかゆみや痛みがあわられるケースがあります。また、非常に稀なケースですが、虹彩の色が変化する副作用も報告されています。
ルミガンを使用してかゆみや痛み、虹彩の変化が生じた場合は、速やかに使用を中止し、医師に相談するようにしましょう。
もし、毛が思ったよりも伸びすぎたと感じた場合は、使用を中止すると元の状態に戻ります。
医薬品のビマトプロストと化粧品のまつ毛美容液の違い
ドラッグストアや小売店で購入できる化粧品のまつ毛美容液には、「ビマトプロストと似た構造の成分が配合されている化粧品」と「保湿やビタミンC類などが配合されている化粧品」の2種類があります。
いずれも医薬品のビマトプロストの効果には遠く及びませんが、まつ毛にハリやコシをあたえたり、抜け毛を防いだりといった効果が期待できるものもあります。
ビマトプロストと似た構造の成分が配合されれている化粧品
化粧品のまつげ美容液の中にもまつげがぐんぐん伸びたというような口コミのある製品がいくつか見受けられますが、こういった製品にはビマトプロストと似た構造の成分が配合されている場合が多いです。
ビマトプロストとはプロスタグランジアナログの一種であり、同じプロスタグランジアナログ系の成分の中には、ビマトプロストと同じような効果が得られる可能性のあるものが複数存在します。
(例:〇〇プロスタ、〇〇プロステなどと表記しているもの。)
しかし、あくまでも似た成分であるため明確な有効性が証明されているわけではありません。
また、色素沈着や眼瞼溝深化などビマトプロストと同じような副作用が起こる可能性も考えられます。たとえば、まぶたの色素沈着や、目のまわりのくぼみが深くなる眼瞼溝深化などの症状が報告されています。
医療用医薬品であるルミガンの場合、このような副作用が発生しても、処方した医師に相談することができます。一方、市販の化粧品として購入したまつ毛美容液では、副作用への対処が自己責任となってしまう可能性が高くなります。
手軽に入手できる市販品は魅力的に映るかもしれませんが、まつ毛の育成効果を確実に得たい場合や安全性を重視する場合は、医師による処方を受けるようにしてください。
保湿やビタミンC類が配合されている化粧品
プロスタグランジアナログ系の成分が入っていないまつ毛美容液としては、保湿やペプチド、ビタミンCなどの有効成分が配合されている化粧品があげられます。
直接的な育毛効果を期待するものではなく、まつ毛を紫外線や乾燥から守ったり、受けたダメージをケアしたりする目的で使用するものとなります。
まとめ
ルミガンに含まれるビマトプロストには、毛の成長期を伸ばす作用があるため、まつ毛を長く太くする効果が期待できます。
ビマトプロストのまつ毛の育毛効果は公的に有効性が証明されており、アメリカのFDAでは睫毛貧毛症治療薬として承認されています。
ただし、色素沈着や眼瞼溝深化といった副作用がある点には注意が必要です。
ルミガンは医師の診断と処方に基づいてのみ使用できる医療用医薬品であるため、使用したい場合には皮膚科や眼科への受診が必要です。
ネットでの個人輸入や通販でルミガンを購入することもできますが、薬剤の品質が十分に保たれているかが不透明なほか、万が一トラブルが起ってしまった際のフォローが受けられないなどデメリットが多く考えられます。
安全面と効果面を考慮すると、病院での処方を推奨します。ルミガンに興味がある方は、ぜひお気軽にご相談ください。
ルミガン(まつ毛美容液)についてよくある質問
参考文献
ルミガン点眼液0.03%:千寿製薬株式会社 https://www.senju.co.jp/medical/news/__icsFiles/afieldfile/2010/01/26/iyakuhingaido.pdf
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