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移植片対宿主病(GVHD)

移植片対宿主病(GVHD)

移植片対宿主病(GVHD)(graft-versus-host disease)とは、造血幹細胞移植後に発症する重要な合併症の一つです。

この疾患は、ドナーから移植された免疫細胞が、レシピエント(患者)の体を異物と認識して攻撃することで起こります。

GVHDは主に皮膚、肝臓、消化管に症状が現れ、特に皮膚では紅斑(赤い発疹)が特徴的です。

この記事の執筆者

小林 智子(日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士)

小林 智子(こばやし ともこ)

日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長

2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。

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こばとも皮膚科関連医療機関

医療法人社団豊正会大垣中央病院

目次

移植片対宿主病(GVHD)の病型

移植片対宿主病(GVHD)は、急性GVHD、慢性GVHD、遅発性急性GVHD、オーバーラップ症候群の4つの主要な病型に分類されます。

急性GVHD

急性GVHDは、造血幹細胞移植後100日以内に発症する病型で、主に皮膚、肝臓、消化管が標的臓器となります。

急性GVHDの重症度

グレード重症度
I軽症
II中等症
III重症
IV最重症

慢性GVHD

慢性GVHDは、通常、造血幹細胞移植後100日以降に発症する病型で、多臓器に影響を及ぼし、自己免疫疾患に類似した症状を呈することがあります。

慢性GVHDの重症度分類

重症度特徴
軽症1-2臓器の軽度の症状
中等症3臓器以上の軽度の症状または1臓器の中等度の症状
重症1臓器以上の重度の症状

遅発性急性GVHD

遅発性急性GVHDは、造血幹細胞移植後100日以降に発症する急性GVHDの特徴を持つ病型で、免疫抑制剤の減量や中止後に発症することがあります。

遅発性急性GVHDの特徴

  • 急性GVHDの臨床像を呈する
  • 慢性GVHDの特徴を伴わない
  • 発症時期が遅い(100日以降)

オーバーラップ症候群

オーバーラップ症候群は、急性GVHDと慢性GVHDの特徴を併せ持つ病型で、診断や治療方針の決定が難しいことがあります。

オーバーラップ症候群の特徴

急性GVHDの特徴慢性GVHDの特徴
皮疹硬化性変化
下痢乾燥症候群
肝機能障害筋膜炎

移植片対宿主病(GVHD)の症状

移植片対宿主病(GVHD)は、皮膚、消化器、肝臓を中心に多彩な症状が現れます。

急性GVHDの症状

急性GVHDは通常、造血幹細胞移植後100日以内に発症します。

  1. 皮膚症状:
    • 掌や足底の痛みを伴う発赤
    • 全身の斑点状や斑状の紅斑
    • 重症例では水疱形成や表皮剥離
  2. 消化器症状:
    • 食欲不振
    • 悪心・嘔吐
    • 水様性下痢(重症例では血性下痢)
  3. 肝臓症状:
    • 黄疸
    • 肝機能検査値の上昇(ALT、AST、ビリルビン)
重症度皮膚症状消化器症状肝臓症状
軽度発疹面積25%未満下痢500ml/日未満ビリルビン2-3mg/dL
中等度発疹面積25-50%下痢500-1000ml/日ビリルビン3-6mg/dL
重度発疹面積50%以上下痢1000ml/日以上ビリルビン6mg/dL以上

慢性GVHDの症状

慢性GVHDは通常、移植後100日以降に発症し、多臓器に渡る症状を呈します。

  • 皮膚:硬化、色素沈着、脱色素斑、爪の変形
  • 口腔:口腔乾燥、粘膜潰瘍、扁平苔癬様変化
  • 眼:ドライアイ、結膜炎
  • 肺:閉塞性細気管支炎、肺線維症
  • 筋骨格系:筋膜炎、関節拘縮
  • 生殖器:性器粘膜の癒着、潰瘍形成

遅発性急性GVHDの症状

遅発性急性GVHDは、移植後100日以降に急性GVHDの症状が現れます。

  • 皮膚症状が主体
  • 消化器症状や肝臓症状は比較的軽度
  • 慢性GVHDへの移行リスクが高い

オーバーラップ症候群の症状

オーバーラップ症候群は、急性GVHDと慢性GVHDの特徴を併せ持つ病型です。

急性GVHD症状慢性GVHD症状
紅斑皮膚硬化
水様性下痢口腔乾燥
黄疸ドライアイ

この病型では、症状の管理が複雑になることがあり、専門的な対応が必要です。

移植片対宿主病(GVHD)の原因

移植片対宿主病(GVHD)は、ドナーの免疫細胞が患者さんの組織を異物として認識し攻撃することで発症し、この複雑な免疫反応は、遺伝的な不一致、前処置の影響、微小環境の変化など、多様な要因が関与しています。

遺伝的要因

GVHDの主要な原因の一つは、ドナーと患者さんの間の遺伝的な不一致で、特に重要なのは、HLA(ヒト白血球抗原)の違いです。

HLAの一致度とGVHDリスクの関係

HLA一致度GVHDリスク
完全一致低い
部分一致中程度
不一致高い

前処置の影響

移植前の前処置(化学療法や放射線療法)も、GVHDの発症に関与していて、前処置は患者さんの組織に損傷を与え、炎症反応を引き起こします。

これにより、ドナーのT細胞が活性化されやすい環境が形成されるのです。

前処置の種類とGVHDリスクの関係

前処置の種類GVHDリスク
骨髄破壊的前処置高い
強度減弱前処置中程度
非骨髄破壊的前処置比較的低い

免疫細胞の相互作用

GVHDの発症過程では、さまざまな免疫細胞が複雑に相互作用します。

主な役割を果たす免疫細胞

  • T細胞(ドナー由来):患者の組織を攻撃
  • 抗原提示細胞:T細胞を活性化
  • ナチュラルキラー細胞:炎症反応を増強
  • B細胞:自己抗体の産生に関与

サイトカインの影響

GVHDの発症と進行には、さまざまなサイトカインが関与し、免疫反応を調節し、組織損傷を引き起こします。

GVHDに関与する主なサイトカインと役割

  1. TNF-α:炎症反応の誘導
  2. IL-1:T細胞の活性化
  3. IL-6:B細胞の活性化
  4. IFN-γ:組織損傷の増強

微小環境の変化

移植後の患者さんの体内では、さまざまな微小環境の変化が起こり、GVHDの発症を促進します。

微小環境の変化

  • 腸内細菌叢の変化
  • 組織の低酸素状態
  • 活性酸素種の増加
  • 細胞外マトリックスの変化

移植片対宿主病(GVHD)の検査・チェック方法

移植片対宿主病(GVHD)の検査とチェック方法は、臨床症状の評価、血液検査、画像診断、組織生検など多岐にわたります。

臨床症状の評価

GVHDの検査は、まず詳細な問診と身体診察から始まります。

  1. 皮膚症状:
    • 発疹の範囲と程度
    • 皮膚の硬化や色素沈着の有無
    • 爪の変形や脱落
  2. 消化器症状:
    • 下痢の頻度と量
    • 腹痛や食欲不振の程度
    • 嘔吐の有無
  3. 肝臓症状:
    • 黄疸の程度
    • 肝臓の腫大や圧痛
  4. その他の症状:
    • 口腔内の乾燥や潰瘍
    • 眼の乾燥感や痛み
    • 呼吸困難や咳嗽

これらの症状を総合的に評価し、GVHDの可能性や重症度を判断します。

血液検査

血液検査はGVHDの活動性や臓器障害の程度を評価するうえで重要です。

主な検査項目

検査項目評価内容
肝機能検査(ALT, AST, ALP, γ-GTP)肝臓のダメージ
ビリルビン黄疸の程度
血算(白血球、赤血球、血小板)骨髄機能、炎症の程度
CRP全身の炎症反応
電解質水分バランス

これらの検査結果を経時的に追跡することで、GVHDの進行や改善を客観的に評価できます。

画像診断

画像診断は、GVHDによる臓器障害の評価に役立ちます。

主な検査方法

  • 胸部X線検査:肺GVHDの評価
  • CT検査:肺、肝臓、消化管のより詳細な評価
  • 超音波検査:肝臓や腸管の状態評価
  • MRI:中枢神経系GVHDの評価

検査は、症状や血液検査結果に応じて選択的に実施されます。

組織生検

組織生検は、GVHDの確定診断や重症度評価に不可欠な検査です。

主な生検部位と評価内容

生検部位評価内容
皮膚表皮基底層の液状変性、リンパ球浸潤
消化管陰窩アポトーシス、粘膜萎縮
肝臓胆管障害、小葉中心性壊死
口腔粘膜扁平苔癬様変化、粘膜萎縮

生検結果は、GVHDの確定診断だけでなく、他の疾患との鑑別にも重要です。

特殊検査

GVHDの評価には、特殊検査が実施されることもあります。

  • 呼吸機能検査:肺GVHDの評価
  • シルマー試験:眼のGVHDの評価
  • 唾液分泌量検査:口腔GVHDの評価
  • 皮膚硬化度測定:皮膚GVHDの客観的評価

これらの検査は、特定の臓器のGVHD評価に有用です。

移植片対宿主病(GVHD)の治療方法と治療薬について

移植片対宿主病(GVHD)の治療は、免疫抑制療法を中心とした多面的なアプローチが必要です。

急性GVHDと慢性GVHDでは治療戦略が異なり、患者さんの状態や病型に応じて個別化された治療が行われ、また、新しい治療薬の開発により、治療の選択肢が拡大しています。

急性GVHDの治療

急性GVHDの一次治療は、通常高用量のステロイド療法から開始され、ステロイド抵抗性の場合は、二次治療としてさまざまな薬剤が使用されます。

急性GVHDの治療薬と特徴

薬剤作用機序主な使用段階
メチルプレドニゾロン広範な免疫抑制一次治療
ミコフェノール酸モフェチルT細胞増殖抑制二次治療
シクロスポリンカルシニューリン阻害一次/二次治療
タクロリムスカルシニューリン阻害一次/二次治療

慢性GVHDの治療

慢性GVHDの治療は長期にわたることが多く、ステロイドを中心とした免疫抑制療法が基本です。

慢性GVHDの主な治療薬

  • プレドニゾン
  • シクロスポリン
  • タクロリムス
  • シロリムス
  • イブルチニブ

局所療法

GVHDの症状が特定の部位に限局している場合、局所療法が有効なことがあります。

皮膚GVHDに対して行われる局所療法

局所療法適応特徴
ステロイド軟膏軽度から中等度の皮膚GVHD全身性の副作用が少ない
タクロリムス軟膏ステロイド抵抗性の皮膚GVHD長期使用が可能
光線療法広範囲の皮膚GVHD免疫調節作用がある

新しい治療薬

GVHDの治療薬開発が活発に行われ、新しい作用機序を持つ薬剤が登場しており、従来の治療に抵抗性のGVHDに対しても効果が期待されています。

主な新規治療薬と特徴

  1. ルキソリチニブ:JAK1/2阻害薬
  2. ベドリズマブ:α4β7インテグリン阻害薬
  3. アバタセプト:T細胞活性化抑制薬
  4. エクリズマブ:補体C5阻害薬

支持療法

GVHDの治療では、薬物療法だけでなく、支持療法も大切です。

支持療法

  • 感染予防
  • 栄養サポート
  • 理学療法
  • 心理的サポート

GVHDの治療は複雑で長期にわたることが多いため、患者さんの状態を総合的に評価し、個別化された治療アプローチを行います。

移植片対宿主病(GVHD)に治療期間と予後

急性GVHDは比較的短期間で改善することがありますが、慢性GVHDは長期的な管理が必要です。

急性GVHDの治療期間と予後

急性GVHDの治療期間は通常、数週間から数ヶ月程度です。

重症度平均治療期間予後
Grade I-II2-4週間良好
Grade III1-3ヶ月やや不良
Grade IV3-6ヶ月以上不良

Grade I-IIの場合、治療により80-90%の患者さんで症状の改善が見られる一方、Grade III-IVの重症例では、予後が不良となることがあり、長期的な合併症のリスクも高くなります。

慢性GVHDの治療期間と予後

慢性GVHDの治療期間は、多くの場合1年以上に及び、時には数年に渡ることもあります。

治療期間と予後に影響を与える要因

  • 症状の範囲と重症度
  • 臓器障害の程度
  • 免疫抑制療法への反応性
  • 合併症の有無

慢性GVHDの予後は、以下のような分類で評価されることがあります。

予後分類特徴
良好2年以内に免疫抑制療法を中止可能
中等度2-5年の治療を要する
不良5年以上の継続的な治療が必要

予後に影響を与える因子

GVHDの予後には、さまざまな因子が影響を与えます。

  • 年齢(若年者の方が予後良好)
  • 移植の種類(血縁者間移植の方が予後良好)
  • HLAの一致度(完全一致の方が予後良好)
  • 発症時期(遅発性の方が予後良好)
  • 初期治療への反応性
  • 合併症の有無

これらの因子を総合的に評価することで、個々の患者さんの予後をより正確に予測し、治療方針を立てられます。

長期的な経過観察と生活の質

GVHDの治療後も、長期的な経過観察が必要です。

注意が必要な点

  • 定期的な外来受診(最初の1-2年は月1回程度、その後徐々に間隔を空ける)
  • 免疫抑制剤の減量スケジュール
  • 二次がんのスクリーニング
  • 感染症予防
  • 骨粗鬆症や心血管疾患などの晩期合併症の管理

再発リスクと長期予後

GVHDの再発リスクは、初回発症後2~3年間が最も高くなります。

再発のリスク因子

  • 初回治療への不完全な反応
  • 免疫抑制剤の急速な減量
  • 感染症の併発

長期予後については、5年生存率が次のように報告されています。

  • 急性GVHD:Grade I-II:70-80%、Grade III-IV:30-50%
  • 慢性GVHD:軽症~中等症:60-70%、重症:30-50%

薬の副作用や治療のデメリットについて

移植片対宿主病(GVHD)の治療は、患者さんの生命を救う一方で、さまざまな副作用やデメリットを伴います。

ステロイド療法の副作用

GVHDの主要な治療薬であるステロイドは、多くの副作用を引き起こす可能性があります。

長期使用によって生じる問題

副作用影響
骨粗鬆症骨折リスクの増加
糖尿病血糖コントロールの悪化
高血圧心血管疾患リスクの上昇
消化性潰瘍胃腸出血のリスク

カルシニューリン阻害薬の副作用

シクロスポリンやタクロリムスなどのカルシニューリン阻害薬も、重要な副作用を引き起こす可能性があります。

主な副作用

  1. 腎機能障害
  2. 高血圧
  3. 神経毒性(振戦、頭痛など)
  4. 電解質異常

免疫抑制による感染リスク

GVHDの治療で使用される免疫抑制剤は、感染症のリスクを高めます。

特に注意が必要な感染症

感染症リスク因子
サイトメガロウイルス感染症T細胞機能低下
アスペルギルス症好中球減少
ニューモシスチス肺炎T細胞機能低下
帯状疱疹細胞性免疫低下

二次がんのリスク

GVHD治療に伴う長期的な免疫抑制状態は、二次がんの発症リスクを高める可能性があります。

リスクが上昇するがん

  • 皮膚がん
  • リンパ腫
  • 口腔がん
  • 肺がん

薬剤耐性と治療の限界

長期の治療により、薬剤耐性が発生すると、治療の選択肢が限られ、効果が得られにくくなる可能性があります。

保険適用と治療費

お読みください

以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。

公的医療保険の適用

GVHDの治療は、通常、公的医療保険の適用対象です。

保険適用の範囲

  • 外来診療
  • 入院治療
  • 薬剤費
  • 検査費用
  • 処置費用

ただし、一部の新薬や特殊な治療法については、保険適用外となる場合もあります。

一般的な治療費の内訳

GVHDの治療費は、症状の程度や必要な治療法によって大きく異なります。

項目概算費用(保険適用後の自己負担額)
初診料3,000円~5,000円
再診料1,000円~2,000円
血液検査2,000円~5,000円
画像診断(CT等)5,000円~10,000円
薬剤費(免疫抑制剤等)月額10,000円~50,000円
入院費(1日あたり)10,000円~30,000円

長期的な治療費の見通し

GVHDの治療は長期に及ぶことが多いため、いくつかの点に注意が必要です。

  • 定期的な通院費用の計画
  • 薬剤費の継続的な負担
  • 合併症対策の費用
  • リハビリテーション費用

以上

参考文献

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