紅皮症(erythroderma)とは、体表面積の90%以上に及ぶ広範囲の発赤と落屑を特徴とする重症の皮膚疾患です。
アトピー性皮膚炎や乾癬などの既存の皮膚疾患の悪化、薬剤反応、そしてまれに、悪性腫瘍に関連して発症することもあります。
紅皮症は単なる皮膚の問題だけでなく、体温調節機能の障害や水分損失など、全身に影響を及ぼす可能性がある深刻な状態です。
この記事の執筆者
小林 智子(こばやし ともこ)
日本皮膚科学会認定皮膚科専門医・医学博士
こばとも皮膚科院長
2010年に日本医科大学卒業後、名古屋大学医学部皮膚科入局。同大学大学院博士課程修了後、アメリカノースウェスタン大学にて、ポストマスターフェローとして臨床研究に従事。帰国後、同志社大学生命医科学部アンチエイジングリサーチセンターにて、糖化と肌について研究を行う。専門は一般皮膚科、アレルギー、抗加齢、美容皮膚科。雑誌を中心にメディアにも多数出演。著書に『皮膚科医が実践している 極上肌のつくり方』(彩図社)など。
こばとも皮膚科関連医療機関
紅皮症の病型
紅皮症は4つの主要な病型に分類され、各病型は発症メカニズムや背景因子が異なります。
先行皮膚疾患型
先行皮膚疾患型は、既存の皮膚疾患が悪化して紅皮症に進展したケースです。
この型では、乾癬や湿疹などの慢性皮膚疾患が元になっています。
代表的な先行皮膚疾患 | 特徴 |
乾癬 | 鱗屑を伴う紅斑が全身に拡大 |
アトピー性皮膚炎 | 掻痒感が強く、湿潤傾向 |
接触皮膚炎 | 原因物質の特定が重要 |
薬疹型
薬疹型は、医薬品の副作用として発症する紅皮症で、抗生物質や抗てんかん薬など、さまざまな薬剤が原因となる可能性があります。
服用歴の詳細な聞き取りと、被疑薬の特定が診断のポイントで、薬剤の中止や変更が必要となることが多いです。
悪性腫瘍随伴型
悪性腫瘍随伴型は、内臓悪性腫瘍に伴って発症する紅皮症で、特に血液系悪性腫瘍との関連が強く、リンパ腫やリンパ性白血病などが代表例です。
全身状態の評価や画像検査、血液検査などを通じて、基礎疾患の特定を行います。
悪性腫瘍随伴型で注意すべき症状
- リンパ節腫脹
- 発熱
- 体重減少
- 全身倦怠感
特発型
特発型は、明確な原因が特定できない紅皮症で、他の3つの病型が除外された後に診断されることが多いです。
詳細な病歴を調べたり各種検査を行っても原因が不明な場合、この型に分類され、長期的な経過観察が必要となるケースが少なくありません。
病型 | 診断のポイント | 注意点 |
先行皮膚疾患型 | 既往歴の確認 | 元の皮膚疾患の特定 |
薬疹型 | 服薬歴の聴取 | 被疑薬の中止・変更 |
悪性腫瘍随伴型 | 全身検索 | 基礎疾患の治療 |
特発型 | 他型の除外 | 長期フォローアップ |
紅皮症の症状
紅皮症は、全身の皮膚に広範囲な発赤と落屑を引き起こす皮膚疾患で、症状は病型によって異なります。
先行皮膚疾患型の症状
先行皮膚疾患型の紅皮症では、既存の皮膚疾患が悪化して全身に広がります。
特徴的な症状
- 全身的な皮膚の発赤と腫脹
- 激しい痒みと灼熱感
- 皮膚の乾燥と落屑(鱗屑)
- 皮膚の肥厚化(苔癬化)
これらの症状は、元となる皮膚疾患の特徴を反映しつつ、より広範囲かつ重症化した形で現れることが多いです。
薬疹型の症状
薬疹型の紅皮症は、医薬品に対する過敏反応によって引き起こされます。
症状 | 特徴 |
発疹 | 全身性、対称性 |
発熱 | 高熱を伴うことが多い |
浮腫 | 顔面や四肢に顕著 |
リンパ節腫脹 | 全身性に見られる |
薬疹型では、症状が急激に現れ、重症化するケースがあります。
悪性腫瘍随伴型の症状
悪性腫瘍に関連して発症する紅皮症は、特徴的な症状を示すことがあります。
- 全身性の紅斑と落屑
- 慢性的な経過をたどることが多い
- 皮膚の浸潤性変化
- 原発腫瘍に関連する特異的な皮膚症状(例:パジェット病様変化)
この型の紅皮症では、皮膚症状に加えて、原発腫瘍に関連する全身症状が現れる場合もあります。
特発型の症状
特発型の紅皮症は、明確な原因が特定できない場合に診断されます。
症状 | 詳細 |
紅斑 | 全身性、境界不明瞭 |
落屑 | 細かい鱗屑から大型の鱗屑までさまざま |
痒み | 中等度から重度 |
全身症状 | 倦怠感、体重減少など |
特発型の紅皮症では、症状の進行が緩やかなこともありますが、長期間持続すると、皮膚バリア機能の低下による合併症のリスクが高まります。
紅皮症の全身への影響
紅皮症は皮膚症状だけでなく、進行によって伴う全身症状が生じることがあります。
- 体温調節機能の低下
- 水分・電解質バランスの乱れ
- タンパク質喪失による栄養障害
- 二次感染のリスク増大
紅皮症の原因
紅皮症は複雑な疾患で、既存の皮膚疾患の悪化から全身性疾患まで、さまざまな要因が紅皮症の発症に関与しています。
皮膚疾患の悪化
既存の皮膚疾患が全身に拡大し、紅皮症へと進展することがあり、患者さんの病歴や症状の経過を詳細に把握することが診断の鍵です。
代表的な原因となる皮膚疾患
皮膚疾患 | 特徴 |
乾癬 | 鱗屑を伴う紅斑が拡大 |
アトピー性皮膚炎 | 強い掻痒感と湿潤傾向 |
接触皮膚炎 | 原因物質との接触が契機 |
扁平苔癬 | 紫紅色の平坦な丘疹 |
薬剤性要因
医薬品の副作用として紅皮症が発症することがあり、抗生物質、抗てんかん薬、造影剤などが原因です。
紅皮症を引き起こす可能性のある主な薬剤
- ペニシリン系抗生物質
- カルバマゼピン
- アロプリノール
- 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)
- 造影剤
悪性腫瘍との関連
内臓悪性腫瘍に伴って紅皮症が発症することがあり、特に血液系悪性腫瘍との関連が強いです。
悪性腫瘍 | 特徴 |
リンパ腫 | リンパ節腫脹を伴うことが多い |
白血病 | 血液検査で異常値が見られる |
肺癌 | 呼吸器症状を伴うことがある |
胃癌 | 消化器症状が先行することも |
免疫系の異常
自己免疫疾患や免疫系の異常が紅皮症の原因となることがあります。
全身性エリテマトーデスや皮膚筋炎などの膠原病が背景にあったり、免疫系の異常による紅皮症では、皮膚以外の臓器にも症状が現れるケースなども報告されています。
環境要因と生活習慣
環境要因や生活習慣も紅皮症の発症や悪化に関与する可能性があります。
極端な温度変化や湿度、ストレス、アルコール摂取などが引き金になることがありますが、単独で紅皮症を引き起こすというよりも、他の原因と複合的に作用することが多いです。
紅皮症の検査・チェック方法
紅皮症の正確な診断には、詳細な病歴聴取と綿密な身体診察、さらに複数の検査を行います。
病歴聴取と身体診察
紅皮症の診断は、詳細な病歴の聞き取りから始まり、以下の点に特に注意が必要です。
- 症状の発症時期と進行
- 既往歴(特に皮膚疾患)
- 服用中の薬剤
- アレルギー歴
- 家族歴
身体診察では、皮疹の分布や性状、随伴症状、また、リンパ節腫脹の有無も確認します。
皮膚生検
皮膚生検は、紅皮症の診断においてとても重要になります。
評価項目 | 確認内容 |
表皮の変化 | 角化異常、海綿状態 |
真皮の状態 | 血管拡張、炎症細胞浸潤 |
特殊所見 | 腫瘍細胞、薬疹特有の変化 |
生検結果は、原因疾患の特定や他の皮膚疾患との鑑別に有用です。
血液検査
血液検査は、全身状態の評価と原因疾患を見つけるのに不可欠です。
主な検査項目
- 完血球計算(CBC)
- 肝機能・腎機能検査
- 電解質バランス
- 炎症マーカー(CRP、ESR)
- 免疫グロブリン値
- 特定の自己抗体
検査結果は、紅皮症の重症度評価や合併症の早期発見にも役立ちます。
画像診断
画像診断は、特に悪性腫瘍随伴型の紅皮症が疑われる際に必要です。
主な検査方法
検査方法 | 主な目的 |
胸部X線 | 肺病変の確認 |
CT検査 | 内臓腫瘍の検索 |
PET-CT | 全身の腫瘍検索 |
これらの検査により、潜在的な悪性腫瘍の早期発見が可能となります。
パッチテストとプリックテスト
薬疹型紅皮症が疑われる場合、アレルギー反応の評価が大切です。
主な検査方法
- パッチテスト:遅延型アレルギー反応の評価
- プリックテスト:即時型アレルギー反応の確認
フォローアップ検査
紅皮症の経過観察には、定期的なフォローアップ検査が必要です。
主な項目
- 皮膚症状の変化
- 体重変動
- 血液検査(栄養状態、炎症マーカーなど)
- 合併症の有無
継続的な評価により、治療効果の判定や新たな問題の早期発見ができます。
紅皮症の治療方法と治療薬について
紅皮症の治療は、症状の緩和と原因の特定・除去を並行して行うことが重要で、患者さんの全身状態を考慮しつつ、皮膚症状の改善と基礎疾患の管理を組み合わせた総合的なアプローチを行います。
全身管理と支持療法
紅皮症患者さんの全身状態を安定させることが第一で、体温調節障害や水分・電解質バランスの乱れに対処するため、環境調整や輸液療法、また、二次感染を予防するための措置も講じられます。
支持療法の内容 | 目的 |
輸液療法 | 水分・電解質バランスの是正 |
環境温度調整 | 体温維持の援助 |
栄養サポート | 全身状態の改善 |
感染予防措置 | 合併症リスクの低減 |
局所療法
皮膚症状の直接的な改善を目指す局所療法は、紅皮症治療の基本です。
ステロイド外用薬や保湿剤の使用が中心となり、患部の状態や原因疾患によって選択されます。
主な局所療法
- ステロイド外用薬(強さや剤形を症状に応じて選択)
- タクロリムス軟膏(免疫抑制外用薬)
- 保湿剤(皮膚バリア機能の回復を促進)
- 抗生物質含有軟膏(二次感染予防や治療)
全身療法
重症例や局所療法で改善が見られない場合、全身療法が選択されます。
ステロイド内服薬や免疫抑制薬が用いられることが多く、慎重な経過観察が不可欠です。
全身療法薬 | 特徴 |
プレドニゾロン | 即効性があるが長期使用に注意 |
シクロスポリン | 免疫抑制作用で炎症を抑制 |
メトトレキサート | 代謝拮抗薬として作用 |
レチノイド | 角化異常の改善に効果 |
原因疾患に対する治療
紅皮症の原因となっている基礎疾患の管理は、長期的な症状改善に重要で、薬疹が原因の場合は被疑薬の中止、悪性腫瘍随伴型では腫瘍治療が優先されます。
生物学的製剤
従来の治療に抵抗性を示す症例では、生物学的製剤の使用が考慮されることがあり、特に乾癬性紅皮症などでは、TNF-α阻害薬やIL-17阻害薬が効果を発揮します。
ただし、高額な治療費や感染リスクの増大など、デメリットもあるため、慎重な判断が必要です。
紅皮症の治療期間と予後
紅皮症の治療期間と予後は、多くの症例で長期的な管理が必要で、患者さんの生活の質に大きな影響を与えます。
治療期間の個別性
紅皮症の治療期間は、原因疾患や症状の重症度によって異なります。
治療期間の目安
原因疾患 | 平均治療期間 |
薬疹型 | 2週間〜3ヶ月 |
アトピー性皮膚炎 | 1ヶ月〜6ヶ月 |
乾癬 | 3ヶ月〜1年 |
悪性腫瘍随伴型 | 原疾患の治療に依存 |
急性期の管理と予後
急性期の紅皮症管理は、症状の安定化と合併症予防に焦点を当て、この時期の対応が、長期的な予後に影響を与えます。
主な注意点
- 水分・電解質バランスの維持
- 体温管理
- 二次感染の予防
- 栄養状態の改善
慢性期の管理と生活の質
慢性期に入った紅皮症患者さんでは、長期的な皮膚ケアと定期的な経過観察が不可欠です。
この時期の主な目標
- 症状の再燃防止
- 皮膚機能の回復
- 日常生活の支援
慢性期の管理が行われることで、患者さんの生活の質を大幅に改善できる可能性があります。
予後に影響を与える要因
紅皮症の予後は、さまざまな要因によって左右されます。
主な影響因子
要因 | 予後への影響 |
原因疾患 | 大きい |
発症年齢 | 中程度 |
合併症の有無 | 大きい |
治療への反応性 | 大きい |
長期フォローアップの重要性
紅皮症患者さんの多くは長期的なフォローアップを必要とし、定期的な経過観察により、いくつかの利点があります。
- 再燃の早期発見
- 合併症の予防
- 治療効果の評価
- 新たな問題への迅速な対応
長期のフォローアップは、患者さんの生活の質を維持・向上させるうえで大切です。
薬の副作用や治療のデメリットについて
紅皮症の治療に用いられる薬剤には副作用やデメリットが伴うことがあります。効果的な治療を行いつつ、リスクを最小限に抑えることが大切です。
ステロイド薬の副作用
ステロイド薬は紅皮症治療の中心ですが、長期使用には注意が必要です。
副作用 | 症状・影響 |
骨粗鬆症 | 骨折リスクの増加 |
糖尿病 | 血糖値の上昇 |
消化性潰瘍 | 胃腸障害の発生 |
副腎抑制 | ホルモンバランスの乱れ |
外用ステロイド薬でも、長期連用により皮膚萎縮や毛細血管拡張などが生じる可能性があります。
免疫抑制薬のリスク
シクロスポリンなどの免疫抑制薬は、感染症のリスクを高めることがあり、また、腎機能障害や高血圧などの副作用にも注意が必要です。
免疫抑制薬使用時の注意点
- 定期的な血液検査による腎機能のモニタリング
- 血圧測定の実施
- 感染症予防の徹底
- 他の薬剤との相互作用の確認
生物学的製剤の懸念事項
生物学的製剤は効果が高い反面、高額な医療費がデメリットです。
また、長期的な安全性データが限られているため、未知の副作用の可能性も考慮する必要があります。
製剤 | 主な懸念事項 |
TNF-α阻害薬 | 結核再活性化のリスク |
IL-17阻害薬 | 炎症性腸疾患の悪化 |
IL-23阻害薬 | 感染症リスクの上昇 |
保険適用と治療費
以下に記載している治療費(医療費)は目安であり、実際の費用は症状や治療内容、保険適用否により大幅に上回ることがございます。当院では料金に関する以下説明の不備や相違について、一切の責任を負いかねますので、予めご了承ください。
保険適用の有無
紅皮症は、症状の重症度から医療保険の適用対象となるケースが多い疾患です。ただし、保険適用の範囲は治療内容によって異なります。
入院治療や外来での継続的な治療は、通常保険適用となる一方で、一部の新しい治療法や薬剤については、保険適用外となる可能性もあります。
入院治療にかかる費用
重症の紅皮症患者さんは、入院治療が必要となる場合があります。
項目 | 概算費用(3割負担の場合) |
入院基本料 | 1日あたり3,000円〜5,000円 |
検査費用 | 10,000円〜30,000円 |
投薬・処置費 | 5,000円〜20,000円/日 |
これらの費用は患者さんの状態や入院期間によって変動します。
外来治療の費用
外来での紅皮症治療は、症状のコントロールや経過観察が中心となります。
一般的な外来治療にかかる費用
- 初診料:2,800円〜5,000円
- 再診料:700円〜1,500円
- 処方薬:1,000円〜10,000円(薬の種類による)
- 外用薬:500円〜3,000円
これらの費用は、保険適用されるものが多いですが、一部自己負担となる場合もあります。
特殊治療と薬剤の費用
紅皮症の治療には、時に特殊な治療法や新薬が用いられることがありますが、保険適用外のものもあり、その場合は全額自己負担となります。
治療法 | 概算費用(全額自己負担の場合) |
光線療法 | 1回あたり5,000円〜10,000円 |
生物学的製剤 | 1回あたり10万円〜30万円 |
特殊治療は、症状や原因疾患によって適用が判断されます。保険適用の可否については、担当医師と十分に相談してください。
以上
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